0603 優しい笑顔
「この人の作品何が良いんだ?」
「とってもいいんだよ」
俺はそう言って壁にかけられた絵を見て首をひねる。
腕に赤子を抱いて微笑みを浮かべる女性の絵。
良い絵だとは思うが思ったよりも絵が上手くない。
絵の線がガタガタで全体のバランスがあまり良くない。
独特な風味は感じるが収集家であるこの人の目に止まる作品には思えなかった。
「何が良いんだ?」
「それを書いたのは僕の友人なんだよ」
「…身内贔屓ってことか?」
「そう言われても仕方ないがそれだけじゃないんだな。
個人的に凄い好いているんだよ」
理由が分からず首を傾げた。
***
―――と、そんな話をしていた収集家の叔父は一月後に死んだ。
彼の遺書に従いアイテムをうっぱらっている間に、あの作品が出てきた。
不格好な女性が優しい笑みを浮かべ赤子を抱いている。
気にはなるが多分高値もつかないだろう。
額縁の裏を確認しようと裏返した瞬間、体が震えた。
絵の裏にはもう一枚絵があった。
恐らくあの女性の視点。抱えられていた赤子が目をギンギンに開き苦しんでいる。
泣く。ではなく苦しみ。
やや青みがかった顔。よくよく見てみれば体に巻かれた白い布が顔面を押しつぶし、赤子を締め上げているようにも見える。
額縁の端、無造作に張られた紙にはタイトルらしき文字列
憎しみ
母の笑顔、子の苦しみ、タイトルが憎しみ。
とんだホラーによくよく絵を見返せばしっかりと上手いホラーな油彩。
表面はわざと汚くかいて母の歪んだ愛情を表現し、苦しめられる子供を強調する。と言う感じだろうか…
収集家の彼がとても好きそうな絵。
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どうせ売るか廃棄するだけのものだ。
高値はつかないだろうし貰ってしまおうか。




