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最後の大賢者  作者: 春香秋灯
本編
15/24

王弟殿下

 実に自分を厳しく律しる姿に、僕はなつかしさを覚えた。王弟殿下は、ライオネル様と似たような生き方をしていた。

 ライオネル様は、帝国のために生きる人だ。女、好きではないのに、帝国に必要だから、と子作りだってする。帝国をよくしようとしていた。

 王弟殿下は、王国のために生きる人だ。女性は、まあ、不幸なことに受け入れられなくなったが、その前までは、きちんと受け入れようとしていた。戦争も、王国民に被害が出来るのは良くない、と思って、したがらない。王国第一の人だ。


 戦場に連れて行かれた。王弟殿下は、実に心が広く、僕の妖精を全て返すだけでなく、なんと、王弟殿下に憑いている妖精を使役する許可をくれた。普通はしない。

 それというのも、王弟殿下は、妖精と意思疎通が出来ないからだ。

 一方通行なので、妖精は勝手に王弟殿下の願いを叶えようと動く。その力は、人外だ。

 ところが、王弟殿下は、潜在能力も高いことから、妖精の力を使うことがなかった。妖精憑きだとわかる前から、そうだったようだ。妖精に願うのではなく、自分自身で切り開く。そのお陰で、王国は平和だったのだろう。

 こんな化け物と始終一緒か、と僕は絶望したが、馴れてしまえば、楽しかった。

 王弟殿下は、本当に戦争反対なので、公国側とは停戦一辺倒である。なのに、公国側が戦争したい、と難癖をつけてくる。ついでに、玩具も持ってきてくれるので、僕はそれらを見て楽しんだ。

 王国の北の砦での防戦は五年だった。王弟殿下も酷い人で、元王国民の面会をわざわざ受け入れては、家族に会わせない、家族を公国に渡さない、の一辺倒である。

 元王国民が公国へ去っていく姿を見て、思う。


 戦争を起こさせようとしているな。


 元王国民は、戦争を起こす火種だ。これからせっせと、戦争賛成派を煽るだろう。最初は、戦争反対派が多かったものも、涙を流して家族がー、なんてやられては、酷い国だ、とか妙な正義感を燃え上がらせる人も増える。

 結果、いつかは戦争が起こる。

 そういう種まきをせっせと行う王弟殿下を横で見て、僕は黙っていた。沈黙は大事だ。





 とらんしーばーを夜中に使っていると、なんと、王弟殿下が応対してきた。

「王弟殿下、ちょっと、僕の部屋に来てください」

 さすがにとらんしーばーでは離せない内容だったので、呼んだ。

「何何、アラン。俺になんの告白かな?」

「鋭いですね、気づかれましたか」

「いや、冗談だから」

「まあまあ、内容はそういうのではありませんから。ほら、酒を飲んで」

「アラン、飲まないじゃん」

「僕は魔法使いとして、常に臨戦態勢でいないといけませんからね」

 僕はそこらへんで汲んだ飲み水である。

 普通なら、集団部屋なのに、僕は魔法使いということで、個室をいただけた。僕の隣りの部屋は、王弟殿下である。

「王弟殿下に謝らないといけないことがありまして」

「とらんじーばー壊したことか? あれは、いいんだよ。アランにあげたんだから」

「あなたの父上の死因です。あれは、僕があえてやりました」

 言わなくていいのだけど、あえて、言った。それは、王弟殿下の人となりを試したかったからだ。

 僕は、一年後には、あの国王が死ぬことは知っていた。そうなることもわかっていて、あえて、そうした。

 コップに入った酒を一気に飲み干す王弟殿下。

「そうか。どうして死んだ?」

「あなたの妖精を無理矢理、あの国王に憑けたからです。妖精の力に、あの国王は耐えきれませんでした」

「知ってるか。父上の死にざま、壮絶だったらしいぞ。侍女が侍従が見ている前で、ぼん、とはじけたそうだ。あまりに壮絶な死に方だったから、見たやつらは気がふれたとか。死に方が悪かったから、病死にするしかなかったんだと」

「そういう死に方をしましたか。怖いですね」

「仕方ない。言われたんだろ。俺の妖精憑きを封じろ、と。だったら、それでいい。人の手に余る力をどうにかしようとするんだ。何かの代償があって当然だ。良かったな、父上一人の命で」

 実の父親が死んだ、というのに、王弟殿下は軽かった。他人事だった。

 いや、これが王妃や兄だったら、怒り狂っていたかもしれない。父親には、全く、愛情がないのだ。

「何か悪いこと考えてるだろう。そんな感じ、ずっとしてた。あんまり、背負いこみすぎるなよ。大変だったら、俺の妖精、好きに使っていいから」

「そんなこと言ってはいけませんよ」

「だって俺、使いこなせないし。王族ってのはね、人を使ってなんぼなんだよ。お前は、俺に使われるしかないんだよ」

 僕の罪は、あっさり、許された。それどころか、この男は、僕に妖精の力をかすという。

 アランリールとは、器が違いすぎるな。

「有難く、使わせてもらいます。あ、そうだ、ちょっと手伝ってもらいたいことがあります」

「え、脱ぐの?」

「そういうことはしませんよ。僕の背中を見てください」

 僕は、あの呪わしい焼き印を王弟殿下に見せる。

「これって、あれか、噂の筆頭魔法使いが施されるっていう、あれ!」

「ご存知でしたか。それです。これが、僕を皇族に逆らえなくしています」

「これは、随分と古い古語を使ってるね。リーシャの血筋に尽くす、みたいなことが書いてある」

「読めるのですか!?」

「古語とかいっても、法則が決まっているから、それにあてはめて、あとはこう、文字を予想? みたいな。ちょっと書き写す」

 適当な紙に王弟殿下が書き写した。うまいな。

 背中なので、僕はこれまで、それがどんなものか知らなかった。書き写されたそれは、確かに、古語だった。僕には読めないな。読める奴に託そう。

「アランって、意外と鍛えてるよね。毎日、修練してるし」

「魔法使いも最後は肉弾戦ですから」

「じゃあ、俺がみてやるよ。アランは筋がいいから、鍛えたい」

「お願いします」

 その日から、地獄のような特訓が続いた。お陰で、暗器まで使えるようになった。





 北の砦での防戦は終わり、停戦協定となったが、まだ、王国に戻ることが出来なかった。一年は様子見、と言って様子見していたら、自爆テロなんかやりやがった。命大事に、とかしないのかね。

 そういうわけで、大丈夫になるまで、北の砦に待機することとなった。

 北の砦で見つかった聖域の研究もすることとなった。なんと、王弟殿下は、幻の女を見たという。王国側にもあるのか。

 ついでなので、暇だし、地図なんか作って、王国と帝国の聖域の位置を教え合った。ダメなんだけどね、これ。

「俺も王族しか読めない本とかで見ただけなんだけど、もともと、聖域って一つの国に一個となってたんだって。それを俺のご先祖が、他の国を吸収して、今みたいになった、て書いてあった」

「ということは、帝国は元は十個の小国からなっていた、ということになりますね」

「そうそう。最初は、たぶん、狭い範囲だったから、一つの聖域で全てをこなしていたけど、それが、五つの聖域で行うこととなったからか、それぞれ、役割がわかてたようなんだよ。わかっているのは、中央都市は、中心部として、各地の地力をあげる働きがある、と言われている。山と海は、それぞれの実りとかに直結しているみたいだ。謎はなのは、王都と最果て。この二つは、どういう役割なのか、未だにわかっていない」

「帝国のものとかわりませんね。帝国は広いので、最果てが三つもありますが、役割がはっきりしていません。王都は一つですけどね」

「というわけで、公国と帝国の聖域の地図を見比べてみよう」

 王弟殿下は、何かわかったようだ。聖域にそれぞれ石を置く。

「たぶん、これ、陣鳥合戦の結果だ。最初は王都から攻撃していく、そこから、中央都市、そして、最果てだ。王都を通過されても、補給出来る中央都市がある。その中央都市を抜ければ、最果てで終了だ」

「なるほどね。帝国は、王都から中央都市、そして、最果てと公国を攻略していったのか」

「ただ、聖域をどう乗っ取るのかがわからない。あと、この聖域の役割だ」

 僕がアグリという女の幻を見た聖域をさす。

「この聖域だけ、位置がおかしい。どっちにも入るようになっているし、法則性がない」

「その聖域は、僕が幻の女を見たところですよ。たぶん、皇族の、妖精憑きでないと見れないのでしょう」

「ということは、北の砦の聖域は、王族の妖精憑きしか見れない?」

「たぶんです。今のところは」

「で、そ幻の女、いたの?」

「いますよ。王国に連れてこられる前、僕の子どもを妊娠していました」

「え、それって、ごめん」

「いいんですよ。好きで妊娠させたわけではありませんから。必要だっただけです」

「あまり、俺も人のことを言えないが、アランも、自分大事にしろよ」

 遥かに年下の子に、言われてしまった。でも、それは悪くない。久しぶりに、ライオネル様を思い出した。

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