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【完結】伝説の悪役令嬢らしいので本編には出ないことにしました~執着も溺愛も婚約破棄も全部お断りします!~  作者: イトカワジンカイ
最終章 逆襲編

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王様との交渉

イリアは一つ呼吸をして緊張を和らげ、平常心を保とうと試みていた。


前世、国際学会で英語のプレゼンをしたときくらい緊張していた。


というのも今回のプレゼン相手はランディック王なのだ。

そしてイリアがガイザールを手中に治めるためにはレヴァインの協力が不可欠だ。


「お前、こう言う交渉は慣れっこだろ?」

「場数は踏んでるけど、緊張はするわよ」

「まぁお前は本番に強いし。上手くいくと思うぜ」

「うん…頑張る」

「それに俺が側にいる。フォローもするし一緒に交渉もする。だから大丈夫だ」


カインはそう笑ってイリアの頭をくしゃりと撫でた。その屈託のない笑みを見て、イリアの緊張が解れた。

自分にはカインがいるのだ。心配することなどない。


「うん、ありがとう!…じゃあ行きますか!」


イリアはふんと気合いを入れるとレヴァイン王の執務室のドアをノックした。


「イリアです」

「ああ、入っていーよ」

「失礼します」


中からくぐもったレヴァインの声がして入室を許可されたイリアとカインは執務室に入った。

レヴァイン王は執務机に向かって仕事をしていたようで、イリアが入室しても暫く書類に目をやったままサインをしていた。


三枚目の書類にサインを終えた後、ようやくこちらを見て、いつものような柔和笑みと高いテンションでイリアをソファに座らせた。


「カインもイリアちゃんも、待たせちゃってごめんね」

「いいえ、ご多忙の中お時間を頂戴しましてありがとうございます」

「ぜーんぜん、気にしないで!カインのお願いだしね。で、用件はなにかな?結婚式の相談?だよね?だよね?えっと、この辺に結婚情報誌があったような」


そう言いながら執務机の引き出しをゴソゴソし始めたレヴァインに、イリアは慌ててそれを制した。


(結婚情報誌ってことはゼクシィみたいな奴かしら?へー、この世界にもそんなのがあるのね。…って違う!)


「あ、レヴァイン陛下。今日の用件はそれではなくてですね。ご相談と言いますか…ご協力いただきたいことがありまして」

「ん?結婚の話じゃないの?深刻な顔してなになに?」

「実は…ガイザールを乗っ取ろうと思うのです。それでレヴァイン陛下にご協力をいただけらないかと」

「は?ガイザールを乗っ取る?」


訳が分からないというようにレヴァインはイリアの言葉を反芻する。

それに対しイリアは説明を続けた。


「はい。ガイザールの惨状は先日聞きました。このままこれを放置することはできません。一応腐っても私の故郷になりますし」

「うんうん」

「なので乗っ取ることにしたんです?」


「えっと…君は国相手に喧嘩を吹っ掛ける気かい?簡単に言うけど何をしようとしているか意味わかってるのかな?」


「もちろんです。あぁ、無策なのかという意味でのお言葉であれば、ちゃんと策を講じています。そこでなのですがレヴァイン陛下、助力をお願いすることは可能でしょうか?」


今度こそレヴァインは絶句した。

意味が分からないという表情を浮かべ、なんとかイリアの言葉を理解しようと頭をフル回転させているようだ。

まるで先日イリアがカインの正体を知った時のようだ。

そして気を取り直したようにレヴァインは一つ咳払いをしてイリアを見据えた。


「イリアちゃんは、君が国を乗っ取るためにランディックにガイザールを侵略しろというのかい?それはいくらイリアちゃんの頼みでも無理だ。私は国王だ。この国を守るべき存在だ。なのに私情で兵を動かすことなどできないよ」


イリアが我儘でレヴァインに全面的に動く様に言っていると感じているようで、レヴァインは「期待に沿えなくて残念だよ」とでもいう表情を浮かべた。


だが、その双眸の奥には「歓迎して迎えた女がこんな頭の悪い女で残念だ」という感情も見ることができた。


「もし、ランディック王国の益になる条件を提示すればご協力いただけるでしょうか?」


「ははは!そうだなぁ。本当に益があるのであれば検討の余地はあるかもしれないね。だが失礼だけど一介の女の子にそれを提示することは難しいんじゃないかな?」


「ではまずこれを。このお金を兵をお借りする軍事費としてランディックに差し上げます」


イリアはいくつかの書面をレヴァインの前に差し出した。

それを訝し気にレヴァインは取ると、中身を見て疑問を呈した。


「軍事費…って、これ我が国の軍事費一年の国家予算と同等!?いや…冗談でしょ?」


イリアはその言葉に首を振った。

それはイリアが十二年貯めに貯めた総資産だ。


「私はアイ・アンド・ティー商会の創設者にして代表取締役をしています。陛下はアイ・アンド・ティー商会をご存じでしょうか?」


「もちろんだよ。宝飾業界ではトップの売り上げを誇る一流企業だ。貴族でも顧客は多いし、我が国でも大抵の貴金属宝飾品類はそこから買っている。でも、いや…その代表がイリアちゃんだって?」


にわかに信じられないというレヴァインがカインを見るが、カインは当然知っているので頷きながらレヴァインに答えた。


「嘘じゃねーよ。俺もたまに商談手伝ってたしよ」

「はぁ…そうか」

「で、続きなのですが、私が持っている会社はこれだけではないです」


そう言うとイリアは様々な会社名を上げた。

温泉地の一大レジャー施設、交通機関、土木工事会社に建築会社、通信会社、石炭鉱山や果てはダイアモンド鉱山の所持まで。

十二年間、断罪回避のためにイリアの持てる全ての知識を使って築き上げた結果だ。


(だから結局断罪されたときはショックだったわよね…でも、まぁ使えるんだから無駄じゃなかったかしら)


などと思っていると、さすがにこの話はカインも知らなかったらしく、レヴァインと一緒に乾いた笑いを浮かべていた。


「いやぁ事業してるなぁとは思ってたがアイ・アンド・ティー商会だけじゃなくてこんだけ手を広げてたのか?」

「まあね」

「国家予算…ねぇ」


最初は小馬鹿にしていたレヴァインも、今度は為政者の顔になっている。

今はイリアの書類をすべて眺めながら何やら熟考していた。


「ガイザールへの攻撃はランディックの全兵力を使って行うわけではないので、お貸しいただきたいのは1分隊。出来たら各騎士団の中での精鋭と言われる方をお貸しいただけると嬉しいです。それと攻撃と言っても陽動だけなので死者は出さないとお約束します」


「一分隊?それでいいのか?」

「はい」


イリアは次の手に出た。

某通販番組よろしくお得情報の追撃を行う。

前世で深夜での分析結果待ちの時、だてに通販番組を見て時間を潰していたわけではない。


「さらに!今なら新商品の技術もお付けしちゃいます!」


イリアはそう言ってテーブルの前にどんどんどんと商品を置いた。

そして油まみれになった食器をまず手に取った。


「これを見てください」

「すごい油汚れだね」

「はい、これをですね…」


イリアはテーブルの洗面器に水魔法で温水を注ぐと、小瓶から一滴たらし、食器を付けた。


「そうすると、ほら!油汚れがすっきり落ちるんです!」

「おお!」

「これは合成洗剤というものです。油汚れもすっきり落ちます。あとはですね…これとか」


「これは袋かな?なんかすごく軽いくてぺらぺらだね」

「ビニール袋という奴です。壊れにくく破れやすい!水を入れてもほら漏れない!」

「おおお!」


「これを繊維状にして…こんな布も作れちゃいます!水をはじいて汚れにくい。しかも軽いと来てます」

「おおおお!」


その他アスファルトやプラスチックの食器やスプーン、ペットボトル等の製品を紹介した。


「本当はあまり紹介はしたくはないのですが…」


今までイリアが出した石油製品も魅力的だろうとは思うが、多分これが一番効くだろう。

そう思って一つの武器を提示した。


「火炎放射器という道具です。これは生活に使える道具でもあり武器にもなりうる危険なものです」


石油を使った武器としては近世かなりナパーム弾のようなかなり殺傷力の高いものも存在する。

だがイリアとしてはそれを使うのは天然資源の利用としては許せるものではなかった。

ただ兵を借りるためには軍事面での支援も必要だろう。


ということで考えたのが火炎放射器である。

東ローマ帝国では「ギリシアの火」と呼ばれて恐れられていた兵器でもある。


「これを用いればおそらく多くの国を凌駕するほどの軍事力になるとは思います。ただ、レヴァイン陛下は何よりも平和とこの国を愛する方ですから決して乱用しないと信じています」


「それは君がガイザールを手中に収めても侵略する意図はないということだね」


イリアはこくりと頷いた。


「そもそもこれらの品々はランディックにある死の森にある『原油』という資源がないとできないものです」


死の森で偶然見つけた油田。

それをイリアは思い出し、サンプリングしてきた原油からこれらの品々を生み出したのだ。


「こちらの品を作るための手法をお伝えします。これの見返りとしてランディックの兵を貸してはいただけないでしょうか?」

「もしこのクーデターが失敗したらイリアちゃんは逆賊だよ?」


「覚悟の上です。それに…私はガイザールでは悪役令嬢だそうです。悪役は悪役らしく振舞うだけですよ」


レヴァイン王はイリアを真剣な眼差しで見据える。

そこにはテンションの高い楽しいカインの兄ではなくランディック王国国王としての表情が見て取れた。


イリアも自分の覚悟を示すように、静かにレヴァインを見つめる。

少しの間があって、レヴァインは表情を緩めた。


「確かにガイザールがこちらに仕掛けてきたら厄介だよね。きな臭い動きもあるし少々脅してもいいかもしれないな」

「では!」

「でもねー、これだけじゃやっぱり条件が足りないかなぁ」


レヴァインが条件を飲んでくれる気配を感じて喜んだのも束の間、更なる要求をされることになりイリアは内心焦った。

これ以上イリアが出せるものなどなかったからだ。


ごくりと唾を飲み緊張した面持ちでイリアはレヴァインに尋ねた。


「条件とは…なんでしょうか?」

「ふふふ…私をお義兄ちゃんと呼んでおくれ!」

「…え?」

「それが条件ですか?」

「うん」

「いや、でも陛下をそう呼ぶなんて不敬です」

「〝お義兄ちゃん〟」

「えっと…」

「お義兄ちゃんって呼んでくれなきゃ協力しない」


ぷいっとそっぽを向くレヴァインの態度にイリアは戸惑い、カインを見る。


「呼ばねーと話進まねーんじゃないか?」

「えっと…じゃあお義兄ちゃん、協力してくださいませんか?」


イリアが恐る恐るそう言うと、ぷいと向こうを向いていたレヴァインが満面の笑みでこちらを振り向いた。


「仕方ないなぁ!可愛い未来のお嫁さんのために一肌脱いじゃおう!」


こうしてイリアは無事にランディック王国の協力を得ることができた。


(よし、あとはざまぁよ!ふふふ…見てなさい!エリオット、アリシア、カテリナ!首根っこ洗って待ってなさい!)


「で、具体的にはどうするのかな?」

「はい。私が考えてるのは…」


レヴァインの問いかけにイリアは自分のプランを説明した。

それを真剣に聞いていたレヴァインはイリアの話を聞き終えると、いたずらっ子のようなチャーミングな笑みを浮かべて言った。


「なるほど。そうだな…実は近々聖女アリシアとエリオット王太子の婚約披露宴が行われるらしいよ。だからさ、そこを狙って計画を実行しようー!」

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