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【完結】伝説の悪役令嬢らしいので本編には出ないことにしました~執着も溺愛も婚約破棄も全部お断りします!~  作者: イトカワジンカイ
第5章 国外追放編

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拾った青年

イリア達はラフデンの街を出ると…喧嘩を始めた。


「せっかくだから夫婦樹見て行こうよ!」

「はぁ~なんでだよ!」

「だって夫婦樹ってあのメタセコイヤだよ!生きた化石だよ!」


夫婦樹を見に行きたいイリアVSそこをスルーしたいカインとの間で言い争いが勃発しているのだ。


言い争いというよりはじゃれ合いに近いかもしれないが、二股の辻で街道であるの右を進もうとするカインに対し、夫婦樹を見るために左の道を行こうとして、お互い引っ張り合いになっている。


(メタセコイヤ…まさかこの世界にもあるなんて!!)


薊の世界にもメタセコイヤはあった。

新生代第三紀層に繁殖していた植物であったが化石でしか発見されたので一度絶滅したと思われていた。

そのため中国で自生しているのが発見された時に「生きた化石」と呼ばれるようになったのだ。


この世界で自生しているのを聞いたことがなかったイリアとしてはやはり一度は見ておきたいのだ。


「夫婦が見るものだろ!?俺達は…その…そういう関係じゃないし…」


「夫婦じゃなきゃ見ちゃダメなんていう決まりはないでしょ!ねーねー行こうよー!カインの好きなオムライス作ってあげるから!なんならカツサンドも作ってあげるから!」


「カツサンドはお前が食べたいだけだろ!!…ったく仕方ねーな」

「やったぁ!!!」


最終的にカインはそう言って折れてくれた。

心を躍らせながら、イリアは軽い足取りで左の小道を進んでいった。


小道は街道とは違い地面は雑草で覆われているが、踏み固められてしまっているのかペタリと地面に葉をつけている。

だが、場所によっては黄色い小さな花が咲き、風に吹かれてさらりと揺れていた。


「あ…風が…」


イリアは花を揺らす風に若干の湿り気があるのを感じた。

空を見上げると、両脇に聳え立つように生えている杉の木の間は青いままである。

一見雲一つない晴天のようにも感じられるがイリアは雨が降ると確信し、先を急ぐことにした。


少し小走りに歩くイリアの少し後ろをカインが悠然と歩く。

夫婦樹に本当に興味が無いようで少し面倒そうだ。時折あくびを噛み殺している様子でもあった。


「カイン!あれ夫婦樹じゃない?」


しばらく山の道を歩いていくと、二つの大木が連理の賢木れんりのさかきのように寄り添いながら一本の大木に見える。

普通メタセコイヤは杉の木のように真っすぐに成長していくので、このように曲がったり絡むように成長するのは非常に珍しい。


「わ、わ!!なんで?どうしてこんなふうに絡まってるの!?うわーなんか滾る!」


イリアは興奮のあまり駆け足で夫婦樹の元へと行こうとしたのだが、突然何かに足を取られて思い切り転んだ。


「うわ!?」


ずざざと砂が擦れる音をを立てながらイリアは顔から地面にダイブしてしまう。

幸い傷はひどくはないが顎あたりがひりひりと痛む。


「イリア!?大丈夫か?」

「痛ーい!なんかに引っ掛かったみたい…って!?」


後ろを見て、イリアが足を引っかけた正体が分かり思わず息を呑んだ。

そして弾けるようにそれに駆け寄った。


「大丈夫ですか?」

「どうした…?人?なんでこんなところに倒れてるんだよ!」

「分からないけど!しっかりしてください!」

「う…」


それは男だった。

うつ伏せに倒れているのをイリアは慌てて抱き起こすと、男は僅かに顔を顰めてうめいた。だが目は開くことはなかった。


癖のあるアプリコット色の髪が蒼白になった頬に影を落としている。顔にはたくさんの擦り傷があり、血が滲んでいるものもあった。


そして何よりイリアが触れた部分に滑りとした感触があり、恐る恐るイリアは手の平を見た。


「血が!」

「盗賊か?誰かに襲われたのか?」

「分からないけど!手当しないと」


そう言えばラフデンの街で傷薬を調達しておいたのだ。


「カイン!薬!」

「ああ!」


カインも慌てて荷物から薬と包帯を取り出した。

その時ポツリとイリアの頬に水滴がついた。


「雨だ」

「このタイミングで降らなくても!」

「とにかくこのままにはしておけないな」


雨はポツリという雨粒から徐々にその量を増やしていく。

カインは周囲を見渡して何かを見つけると、イリアから青年を奪うように引き剥がし、背負って走り出した。


「イリア、あそこに小屋がある!行くぞ!」

「うん!」


青年をおぶって走るカインの後をイリアも慌てて続く。

男の傍らにはショルダーバッグと、そこから落ちたと見られるいくつかの紙が散乱していたので、イリアは素早くそれを集めると急いでカインの後を追った。


小屋に辿り着いた時には、外は本降りになっており、イリアもカインも若干濡れてしまっている。


「ふぅーなんとか着いたな」

「もう少し小屋に着くのが遅かったらずぶ濡れだったわね」


イリアはいつものように意識を集中させ、風魔法を使った。

カインと自身にその温風を纏わせると、あっという間に濡れた髪は乾き、ほかほかの体になった。


「これは…刀傷か?…うん、そんなに深い傷じゃないから傷薬塗れば大丈夫だろうな」


カインはそう言いながら手早く包帯を巻いた。

小屋は猟師小屋のようで中には簡易的な木製ベッドと、毛布があったのでイリアはそれを青年に掛けた。


室内を見回してみれば薪ストーブもあり、少しだけ燃えかけた薪もある。

それに向かってイリアがパチリと指を鳴らせば、それに応えるかのように赤く揺らめく炎が薪を燃やし始めた。


「うん、これならすぐに部屋もあったかくなりそうね」

「だな」

「この人起きた時にお腹空いてるかも知らないし、スープでも作っておこうかしらね」

「そうしておくか。俺たちも昼飯食ってねーしな。えーっと干し肉買っておいたよな。あれ使うか」


カインはそう言うとバンの中からいくつかの食材を使ってスープを作ろうと立ち上がった。


イリアはカインと交代する形で青年の近くに座り看病することにした。


暖炉の火のお陰で小屋の中もずいぶんと暖かくなってきた。青年の顔色もうっすらと赤みが差してきたのだが、まだ眠ったままである。

少し息が荒くなってきたので青年の額に手をやると熱い。


「熱が出てきちゃったみたいね。えっと…失礼しますね」


意識のない男に一応断り、タオルでその汗を拭ってあげる。形の良い額からハラリと前髪が流れ落ちる。


青年が掛けていた眼鏡を外す時、改めて顔をみればあちらこちらに擦り傷が見られた。

襲われた時に逃げようとしてついたものか。


服装から察するに深い桔梗色の布地に白いラインが入ったガウンは魔法ギルドの人間が着るものだと記憶している。

ということは彼も魔法を使えるのかもしれない。


「ほら、スープできたぞ」


いつの間にかカインがスープを持ってきてくれた。

裏技を使ってふっくらに温めたパンと合わせてベッド脇の小さなテーブルに置く。


「それにしても…傷は浅いけど結構バッサリいってたしな。盗賊にしては荷物に手がつけられてないのは不自然だな」

「確かにそうね」


カインの指摘にイリアも首を傾げた。


イリアの視界に拾ってきた青年の鞄がある。

麻布でできた肩掛けのカバンと周りに散らばったいくつかの紙。


他にも荷物を持っていたのかもしれないがこの鞄が無造作に投げ出されていたことに違和感はあった。


「あ、荷物といえば投げっぱなしだった!」


小屋に駆け込み青年の介抱で頭がいっぱいだったため、彼の鞄をその辺の床に放置してしまっていたのだ。


少し重みのある生成りのカバンを左肩にかけ、右手で乱雑に置いた紙を拾う。


「わ!!」


左に偏った重心でバランスを崩してしまい、尻餅をついてしまった。

イリアが拾った紙がひらひらと舞って、再び床に散らばった。


(うう…鈍臭すぎる…)


自分のドジさが悲しい。


イリアは気を取り直して紙を一枚一枚拾い上げていくのだが、見ようとしている訳ではないが内容が目に入ってくる。


(これ…魔法の研究かしら。やっぱり魔法ギルドの人なのね)


詳細を見るつもりはないのだがざっと目についた限りでは治癒力の魔法やそれを引き出す魔道具の研究といったところだ。


イリアは治癒魔法は使えないが治癒魔法が使えたら色々便利であると常々感じていた。


(もしかして治癒魔法について聞けるかも。あ!もしや土魔法の使い手だったらレアな鉱物の産地とか知ってる?!)


久しぶりに有意義な魔道具談義が出来るかもしれない。

あわよくば地質談義も出来るかもとイリアのテンションは上がる。


だが、その紙の一つにイリアの視線が止まった。

不思議な魔法陣。

それにイリアは妙な既視感があった。


(この魔法陣…見覚えが…ある?)


ただどこで見たのか記憶が定かではない。

文書の紙を片手にイリアは暫くそれを見つめていた。


顎に手を添えてイリアが記憶を辿っているとカインの大きな声にはっと意識が現実に戻される。


「イリア、目を覚ましたぜ!」

「本当?!」


イリアがベッドの横から青年の顔を見る。

まだその瞳は虚ろで、イリア達の存在は目に入っていないようである。


「大丈夫ですか?」


イリアが声をかけると、青年は初めてイリアの存在に気付いたのか、僅かに顔を動かして目線を合わせた。

そして掠れた声で返事をしてくれた。


「ここは…?」

「夫婦樹の近くの小屋です。怪我をして倒れてたのを見つけて」

「キミ達が助けてくれたのか」

「はい」


イリアが答えると青年は顔を再び天井に向け、目を閉じてポツリと呟いた。


「ボクは死ねなかったんだね」


どういう意味なのか。

青年の意外な言葉にイリアは聞き返そうとした。


だが、青年は再び眠りについてしまい、イリア達はそれ以上の話を聞くことはできなかった。


5章も中盤です!

ブクマ、星評価励みになってます。引き続きお付き合いいただけると嬉しいです!

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