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【コミカライズ原作】伝説の悪役令嬢らしいので本編には出ないことにしました~執着も溺愛も婚約破棄も全部お断りします!~  作者: イトカワジンカイ
第5章 国外追放編

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幕間:アリシア視点②

宝石商がいくつかの宝石を差し出してくる。

提示されるルビーやサファイアといったカラフルな宝石のジュエリーはすべて素敵なものに見えた。


「ねえエリオット様、これなんてどうでしょうか?」

「うん。赤い色が綺麗だね」

「でもちょっと私には派手かしら。……あ。これなんてどうです? 殿下の瞳の色に似ているわ」

「私の瞳はこんな色なのかな?」

「ええ。エリオット様の瞳は空色で素敵です」


エリオットのキラキラ光る淡い若葉色の髪に映える透き通った青い瞳は魅力的だ。


アリシアがその瞳を覗き込むようにして微笑めば、エリオットはくすっと笑いながらテーブルに置かれていた髪飾りを取った。

そしてそっとアリシアの髪に挿した。


「素敵と言えばアリシア殿の癖のない真っすぐな髪の方が素敵だ。ほら、この金の髪飾りがよく似合う」


アリシアは髪に挿された髪飾りにそっと触れる。

細かい金細工に真珠がメインに飾られ、その間にルビーが散りばめられている代物だ。

今度は先ほどとは逆にエリオットがアリシアの顔を覗き込む。


「ほら、貴女の清楚な雰囲気にぴったりだ」


唇が触れるほどの距離でアリシアも思わずドキリと鼓動が高鳴った。

挨拶程度でもいい。


自分の唇に口づけてくれないかという期待を込めてそっと目を閉じるアリシアに、エリオットの影が顔にかかる。

そして僅かな衣擦れが起こり、その時が来ると思った。


「エリオット殿下。そろそろ会議の時間です」


突然入ってきた無粋な声にその甘い雰囲気が消え去ってしまう。


慌てたようにエリオットがアリシアから身を離し、居住まいをただした。


アリシアが目を開けた時にはエリオットは王太子としての凛とした表情に戻っていた。


「アイザックか。分かった。そろそろ行く。……アリシア殿。申し訳ないが私は仕事に戻る」

「エリオット様……行ってしまうの?」


エリオットの裾を少しだけ引っ張ってアリシアは涙目で訴えた。


そんなアリシアを宥めるようにエリオットはアリシアの手を握り直してぎゅっと握り、それをエリオットの頬に当てた。


すりっと名残惜しそうにアリシアの手に頬ずりする。


「ずっと一緒に居たいが、仕事だ。許してくれ」

「仕方ないですね。じゃあここにある宝石を全部買ってくださったら許します」


少しむくれたように言うとエリオットはくすりと笑った後に、握っていた手を離しすと代わりにアリシアをぎゅっと抱きしめた。


「聖女の仰せのままに」


エリオットの腕の中でそれを聞いてアリシアは満足そうに頷いたのだった。

そんな二人を見ていたアイザックは再び冷たく声を掛けてきた。


「聖女アリシア殿。先ほど神殿より使いがあり聖水を授ける儀式の準備が整ったとのことです」


その声を聞いて、アリシアは再び苛立ちを覚え、エリオットの腕に収まったまま小さく歯ぎしりをした。

この男は悉く自分の邪魔をする。


本当に目障りな男だ。

さっさと消えろと怒鳴りたい衝動に駆られる。


自分に骨抜きになっているエリオットだから、アリシアが頼めば即刻城から追い出してくれるかもしれない。


だがまだ時期ではないとカテリナに釘を刺されていたことを思い出して、思いとどまった。


「ではアリシア殿。聖水の件、よろしく頼むよ」

「はい!」


部屋から出ていくエリオットを見送るとアリシアは宝石商に全ての商品を買い上げると告げ、自分も神殿へと向かうことにした。


神殿へ行くための馬車に揺られながら、ほっと一息ついた。


城の中では完璧な聖女を演じなくてはならない。ささやかな楽しみと言えばメイドを叱責して憂さ晴らしをするくらいだ。


(私に盾突く人間なんていなくなればいいのよ。私は聖女で主人公なのだから)


自分に異を唱える者、自分に不満を漏らす者。その全てを排除するための力も地位も富も自分は今手に入れている。

聖水を生み出す唯一無二の存在である聖女。


そんな神に近い自分に対して害をなすものには罰を下す必要がある。


(あとはエリオット様と婚約して王太子妃になれば全てが手に入るわ)


アリシアは先ほどエリオットに飾ってもらった髪飾りに触れ想像する。


純白のドレスを身に纏い、この髪飾りをつけてバージンロードを歩く姿を。

人々は真実の愛で結ばれた聖女と王太子の結婚を祝い、民衆が撒いたフラワーシャワーが風によって青い空へと舞い上がる。

そんな中をエリオットと微笑みながら進む。

目を閉じればありありとその様子が想像できた。


ガタリと馬車が止まり、アリシアは現実に戻される。そしていつものように馬車を降り、礼拝堂へと足を進めた。


石作りの暗い部屋には蝋燭がいくつも灯され、その炎の揺らめきにアリシアの影もまた揺らめいた。

その影がもう一つの影に重なる。


「うーうーうー」


影の一つが呻いた。

それは先ほど聖水を欲しがっていたメイドだった。


猿ぐつわを噛まされ、両手両足を縛られたメイドは、この異常な状況から何とか逃げようともがいていたが、動けずにいる。さながら芋虫のようだ。


「みじめな姿ね」


メイドの様子を見てアリシアは薄く笑った。


「喜びなさい、あなたは選ばれたのよ。その身を捧げられることに感謝するといいわ。良かったわね。貴方のお父様はこれで救われるのよ」


メイドはこれから何が起こるかは分からないようだったが、アリシアの言葉に目を見張り泣きながら何かを叫んでいる。


だがそれは言葉になっていない。


地面に這いつくばって涙を浮かべながらこちらを見上げる人間の姿を見るたびにアリシアの気持ちは高揚する。

アリシアは鼻歌を歌いながらメイドの周りに魔法陣を書き始めた。


「これでいいかしらね」


アリシアは魔法陣を書き終えるとアリシアはそこから一歩下がり、そして祈りのポーズを取った。


(私の神よ。力を貸してちょうだい)


アリシアは祈る。

全ての人間を救う力を。


そして願う。

全ての人間を殺す力を。


目を閉じたアリシアにも分かるくらいに魔法陣から強烈な光が発せられる。


同時に、ひと際大きな女の声無き声が響いた。

やがて圧倒的な静寂が部屋に訪れた。


アリシアがゆっくりと目を開けば、魔法陣はまだうっすらと赤く光っている。


先ほどまでメイドがいた場所にはその姿がなく、代わりに二つの石が燦然たる輝きを放って落ちていた。

一つは白。もう一つは透明だった。


アリシアは二つの石をゆっくりと摘まみ上げ、品定めをするように角度を変えてそれを見た。


「やっぱり人ひとりじゃこの程度の大きさの魔石しか作れないわね。まぁ安心するといいわ。私は優しいからこれでお父様の奇病を癒してあげるから」


既に存在しなくなったメイドに語り掛けるようにそう呟いてアリシアはクスリと笑った。


「聖水はできたか」


いつ部屋に入ってきたのか分からなかったがカテリナがアリシアの背後から声を掛けてきた。


その手には小ぶりの水瓶があり、アリシアはカテリナの言葉には答えずに、その水瓶に透明の石を投げ入れる。


すると石はしゅわしゅわと音を立てながら跡形もなく水に溶けていった。


薄暗い室内でありながらその水は少しだけ光を帯びているように見える。

さながら聖なるものであると主張しているかのようであった。


「ふ……汚い下賤な命もこうすれば綺麗に見えるものね。あー、それにしてもせいせいしたわ」


水瓶を見ながら愉快そうにアリシアは笑う。


「あの女、私より悪役令嬢の方がエリオット様に相応しいって言ったのよ!腹が立って仕方ないわ!」

「それでメイドを使ったのか?」


「そうよ。私のことを悪く言うあいつらが悪いのよ。自業自得よ。私に逆らうやつらは一人残らず魔石にしたいくらいよ」


「あまり無茶をするな。そなたは少し強引なところがある」

「でも、魔石を作る必要があるのはお互い様でしょ?」


先ほどエリオットにしたように、アリシアは自分より頭一つ高い位置にあるカテリナの顔を覗き込んで無邪気に微笑む。


蝋燭の明かりに照らされたその微笑みは天使のようでもあり、また無邪気だからこそ残酷な悪魔のようでもあった。


グロイ内容で申し訳ありません。

この5章は割とシリアスパートになるので、ラブコメっぽい感じではなくなるのは申し訳ないです。話の核心が色々出てくるので、もう少々お付き合いいただけたら嬉しいです


次話からまたイリア視点です。


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