究極の選択
リオ、ぐいぐいモード全開
(マジかぁ…)
朝になりイリアは呆然としていた。
熱烈な告白の後、リオに膝枕されなることになり、眠れない夜を過ごす…はずだったのに気づいたらリオの膝の上でぐーすか寝ていたのだ。
(いくら何でも…私…神経図太すぎじゃない?)
「リオ…すみません…すっかり寝入ってしまいました…。リオは寝れた?」
「ん?大丈夫。僕も休んだし。イリアの寝顔見れたから疲れも吹き飛んだよ!」
「あ…うん…それならいいの…」
寝顔をずっと見られてた可能性を考えると、いたたまれなくもなる。
乙女としての恥じらいがない自分が情けない。
(過ぎたことだし…頭切り替えましょ…)
羞恥心を頭の隅に押しやって、イリアは現状を確認することにした。
「リオ、ここはどこかしら?帰り道、分かる?」
「そうだね。アイザックを待たせていた近くの崖で落ちて、下流に流されたけど、ドニエ男爵の屋敷からの位置関係を考えると結構村は近いと思う。それにアイザックが探していると思うから村にもそんなにかからないで着くかもしれない」
「分かったわ。じゃあ、行きましょう!」
村からドニエ男爵の屋敷の位置と馬車に乗っていた時間を考えると確かに一時間もかからないで着くだろう。
幸いにしてイリア自身はフィールドワークで足を鍛えている。
昨日の疲れはあるものの、問題ない。
そう思って立ち上がったイリアだったが、右足に電撃痛が走り、その場でしゃがんでしまった。
「っ!」
(そういえば怪我してたんだったわ…)
夜のうちにリオが応急処置として布を巻いて手当をしてくれたため、出血は治まっているものの、痛みは残っている。
ずきずきと脈に合わせて痛みが強くなる。
「これじゃ歩けないね…じゃあ、こうするしかないか」
「!?」
リオの声が頭上から降ったと思うと同時に、イリアは足元を掬われ、ふわりとした浮遊感を覚えた。
(…ってお姫様抱っこじゃない!?)
「重いから!!リオ、降ろして!」
「全然重くないよ。鍛えているし…むしろ軽すぎて心配なくらいだよ」
(絶対それ嘘よ!)
普通の女性に比べたらフィールドワークのせいで筋肉はあるのだ。
いくらリオが騎士で鍛えているからと言ってずっとこの恰好で歩くのは体力的にも無理があるのでは…
なによりとてつもなく恥ずかしい!
山道は…百歩譲って我慢しよう。
でも迎えにきたアイザックにこの姿を見られるのも恥ずかしいし、下手をすればこの恰好の中、村を歩くことになるかもしれない。
村の往来をお姫様抱っこで堂々と歩く勇気はない。
「えっと!リオ、やっぱり色々無理があるわ!休み休み歩けば多分歩ける!ううん歩くから降ろして!」
「うーん、実はね、僕は一応…回復魔法を使えるんだよ」
「え!?」
リオが魔法を使えることを知ってイリアは驚いた。
「あぁ、僕の場合はイリアとは違って魔力量も多いわけじゃないし…凄い回復力のある魔法を使えるわけじゃないんだよ」
「そうなの?でも凄いわ」
「それでイリアの傷を治すこともできるよ」
「本当!?お願いしてもいいかしら?」
「もちろんだよ。ただちょっと特殊な治し方なんだけど…」
そう言ってリオはイリアを手近な石に座らせるとイリアの前に跪き、そっとイリアの足を持ち上げると顔を寄せた。
「え?リオ!?ちょ、ちょっと!!何?何をしようとしてるの?!」
「だから回復魔法だよ。特殊な治し方って言っただろう?僕の場合は口づけすることで治るんだよ」
「いやいやいや…それって私の足に口づけるという意味よね?」
「うん!」
満面の笑顔でリオは言うがどう考えてもそこは嫌がるところではないか?
(足だよ!足に口づけって…リオの感覚おかしいの?普通嫌がるところじゃないの?)
「む、無理よ!!恥ずかしすぎる!!それにリオだって嫌でしょ?足よ?足に口づけるのよ!?」
「僕は全然気にしないけど…。うーん、そうは言ってもイリアは歩けないし。ならイリアが選んでよ。僕に抱きかかえられて村まで戻るか、回復魔法を受けるかの二択」
「え?」
究極の選択だ。
どちらも猛烈に恥ずかしい。
悩むイリアにリオが助言をしてくれた。
「あぁでも回復魔法は一瞬だからちょっと我慢すればいいと思うよ。僕としてはずっと抱きしめて歩けるからのそっちでも全然いいけど」
確かにお姫様抱っこは羞恥プレイだけど、確かに回復魔法なら一瞬で終わる…
「回復魔法で…お願いします」
「うん、了解!」
満面の笑みを浮かべるリオになんとなく嵌められたような気もするが、ここは腹を括ってリオの口づけを受けるしかないだろう。
「じゃあ!お願いします!!」
イリアはドーンと前に足を出した。
(こうなれば自棄よ!!もうなるようになれ!)
「では…姫君。おみ足、失礼します」
リオは恭しくイリアの足を自分の膝に乗せ、そっと傷口に口づけた。
リオの柔らかい唇の感触を足に感じ、イリアはドキドキと共にざわりという感覚がした。
それは決して嫌なものではなく、ただ今まで感じたことのないふわふわした感覚でもあった。
やがてリオが口づけたところの傷がみるみる塞がっていき、跡形もなく消え去った。
「どう?足は痛む?」
「ううん…平気。あ…ありがとう…ございます…」
顔を下げたいけどリオの顔は見上げて礼は言いたい。結果上目づかいになりながら礼を言うと、リオの顔に朱が入ったように見えた。
そして口元を覆いつつ顔をそむけてしまった。
(やっぱり…足に口づけなんて…したくなかったわよね)
顔を背けるくらいだ。
よっぽど嫌だったのだろう。
イリアは申し訳なさを感じてリオの顔を見てもう一度お礼を言った。
「嫌なことさせてリオ…ごめんなさい。でもありがとう」
「嫌なこと…じゃないけど。傷が治って良かった。じゃあ、お手をどうぞ」
「そこまでしなくても歩けるわ」
「でも足元が良いとは言えないし、その靴だと歩きにくいだろ?」
大小さまざまな石が転がっており、確かにお世辞にも歩きやすいとは言えない。
イリアはなんとか歩きやすい道がないかと周りを見回した時だった。緑色のきれいない石が目についた。
こぶし大のそれは一見すると川によって滑らかに摩耗された石に過ぎない。
だがこれは明らかにただの石ではない。
「これ…ヒスイだわ…」
「あ!イリア!」
イリアはバランスを取りながら川の上流の方に歩き始めた。
すると少し歩けば川の中央に大きな岩がゴロゴロと存在しているのを見て近づいた。
「やっぱり…ここにはヒスイがある!」
「ヒスイ?」
「えぇ。非常に珍しい鉱物で、ニホン…えっと異国のほうでは宝飾品にも使われているの。希少価値が高い鉱物なのよ」
「そうなんだ」
「ふふふ!いいことを思いついたわ!早くブランシェの屋敷に帰りましょ!」
イリアは先ほどの恥じらいも忘れ、リオの手を取り半ば引っ張るようにトロンテルの村へと急いで戻った。
今回のエピソードは糸魚川をベースに。
日本でも翡翠は取れるわけで…新潟の糸魚川が有名かと思います。
糸魚川河口の海岸ではヒスイの原石が拾えるとか言いますが、まぁ、そう簡単には見つからないようですね。
緑っぽい岩石を見つけて「翡翠だ!!」と思っても実はそれにそっくりの通称きつね石がほとんどです。
私も糸魚川駅には行ったことはあるのですが、観光はせず素通りしてしまったのでいつか行ってみたい場所です
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