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【コミカライズ原作】伝説の悪役令嬢らしいので本編には出ないことにしました~執着も溺愛も婚約破棄も全部お断りします!~  作者: イトカワジンカイ
第3章 トロンテル魔石編ーまたの名をエリオット追撃編ー

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事業計画

河原を歩き、ほどなくして山道に出た。


先ほどまではリオを意識しっぱなしだったはずのイリアであったが、今は頭の中は先ほどのヒスイの件でいっぱいだった。


(まずは魔法通信機が使える街まで行って、……確かここに来る途中に商会の支部があったからそこから出金してもらって……あ、人足は集められるかしら……経営計画も立てないと……)


云々と考えていると、不意にリオに声を掛けられた。


「イリア楽しそうだね。さっき言っていた〝いいこと〟について?」

「そうなの。実はね、このヒスイを使って事業を起こそうと思うの」

「事業?」


「えぇ、さっきの場所のもっと上流に行けば、更に大きなヒスイの岩石があると思うのよね。新潟の糸魚川でも同じような例があるし」


「ニイガタ? イトイガワ?」


「あ、うん……昔の事例で同じようなものがあるのよ。だからもっと探せばヒスイの一大産地になると思うのよ」


それを聞いてリオは少し思案してなるほどと納得した。


「ヒスイをトロンテルの新たな産業にしようということだね。それだと農作物に左右されないで収入も入ってくるだろうし、村の雇用にも繋がる……」


「そうなの! そうすればドニエ男爵への借金も返せるし、村としても自立できると思うの」


一を言っただけなのに理解してくれたリオにイリアはさらに砕顔した。


「どうかしら?」

「そうだね……案としてはいいと思うな。あとは……設備費用とか、初期投資とかが必要かもな」

「それなら当てがあるのよ。とは言うものの、まだ地質調査も必要だとは思うけど」


「当て? イリアが?」

「ええ。アイ・アンド・ティー商会って知っているかしら?」

「もちろんだよ、国一番の宝飾会社だよね?」


「うん。ちょっと商会に伝手があって、そこなら柔軟に対処してくれると思うのよ」

「そう……もし、そこがダメなら僕にも当てはあるから言ってくれても大丈夫だよ」

「リオが!?」


前回のスタットの一件でも思ったが、リオは結構顔が広そうだ。


やはり有名貴族の家柄なのか……


そもそもリオの家名も聞いていない。まぁそれを言ったらアイザックやミレーヌもだが。


こちらが聞かないから言ってこないだけだろうし、平民にいちいち名乗る必要もないだろう。


イリア自身も王都までの付き合いだと思っているので深く聞いては来なかったが……


「やっぱりリオは謎の人物だわ」

「ん? 何?」

「何でもないわ。とにかく屋敷に行ったら事業計画を立てるわ」

「イリアはそんなこともするの? トリステン家はそんな教育もするんだ」

「うーん、これは私が独学で覚えたのよ。身を立てるには色々と知識が必要だから」


事業計画とは若干異なるが、前世で新規の研究をプレゼンするには必要だったのでおおよその内容は掴めていた。


あとはこの世界の細かい会計知識や法律知識を取り入れればそんなに難しいことではない。


「ますますイリアに興味が湧いたよ。凄いね」

「……あ、ありがとう」


純粋に褒められて思わず照れていると、その時前方から馬の蹄の音が鳴り、同時に自分たちを呼ぶ声が聞こえた。

見れば馬上には黒い影がある。カインだ。


「おーい! イリア!」

「カイン!」

「探したぜ。本当、どこ行ってたんだよ……」

「ごめんなさい。色々あって……。あ、ミレーヌとブランシェは?」

「大丈夫だ。昨日のうちに保護できた。ドニエ男爵からの追手も今のところない」

「そう……よかったぁ」


カインの言葉を聞いて、イリアはほっと息をついた。

ミレーヌたちのことがずっと気になっていたからだ。


「カイン、迎えに来てくれてありがとう!」

「おう……でさぁ、どうでもいいけどなんでお前ら手繋いでんの?」

「え?」


カインの視線がイリアの右手に止まっている。

不思議に思ってその視線を辿ると、イリアはがっちりとリオの手を握って歩いていることに気づいた。


「きゃあああああ」

「チッ」


リオが小さく舌打ちをしたような気もするが、イリアの耳には届いていなかった。


それよりもここまで手を繋ぎながら歩いてきたという事実に、穴があったら入りたいほど恥ずかしかった。


「ち、違うの!! えっと……色々事情があって! あ、そ、それよりブランシェに伝えたいことがあるの!」


カインに不審な目で見られたものの、イリアは「ははは」と誤魔化し、ブランシェの待つ屋敷まで急ぐことにした。

屋敷に入ると、半泣きのブランシェが出迎えた。


「イリア様ぁぁぁ! 申し訳ありません! 本当にご迷惑ばかりおかけして!!」

「ブランシェ様も無事で良かったです!」


イリアを抱きしめながらおいおいと泣くブランシェを宥めると、イリアはそっと彼女から身を離した。

そしてリオに話したことをブランシェに提案した。


「ただの石、ですわよね。これに価値があるんですの?」


ヒスイの原石を見たブランシェはそう言って不思議そうな顔をした。


アイザックやミレーヌも同様で、イリアの言っている意味がいまいち理解できないという感じである。


「普通ならそう見えますよね。うーん……。そうだわ。この石の本来の美しさをご覧になれば私の言葉を理解していただけるかと」


そう言ってイリアはヒスイの原石に魔力を込めた。

ヒスイは希少性もさることながらとても固い鉱物で、研磨し、宝石にする技術が非常に難しい。


だが、この岩石の本来の姿を知っているし、ダイヤモンド研磨で美しく磨かれることも理解しているイリアには脳内でその研磨の工程を思い浮かべるだけで、ヒスイを研磨した状態まで持っていける。


イリアが岩石に力を込めると、眩い光がその手から漏れ出た。


風がイリアの周りを円陣にふわりと動き、部屋一面にはきらきらと輝きが放たれた。


それが落ち着いた段階でイリアがそっと手を開くと、その白い手には緑の美しい宝石が現れた。


「まぁ……凄い。今まで見たことのない宝石ですわ。青緑で……とても不思議な色」


「これがヒスイです。これをアイ・アンド・ティー商会に買い取ってもらえるように手配します。今から紹介状を書くので、魔法通信機のある一番近い街までそれを持って行ってもらえますか?」


「はい! 分かりましたわ!」


そこからイリアの行動は迅速だった。

イリアは自分のサイン入りの紹介状を書き、魔法通信機で商会に融資を行うように指示した。


もちろんイリア自身が商会の社長であることは皆知らないので融資が簡単に受けられたことにブランシェも驚いた様子であった。


イリア自身は長くこの村に留まることはできないため、事業計画を徹夜で仕上げ、資金面や運用方法、採掘方法等細かく指示書も書き上げた。


一通りの指示書が出来た時には窓から朝日が差していて、イリアの寝不足の目を直撃する。


「爽やかだけど眩しい……目に染みる……」


ちゅんちゅんという鳥の鳴き声を聞きつつ、一つ伸びをして、大きな欠伸をした。

イリアはベッドに戻ろうかとも思ったが、下の階からいい香りがする。


その時コンコンと部屋のドアをノックする音が聞こえ、イリアは返事をしながらドアを開けた。


「イリア、起きてたか? ……あぁ徹夜か」

「うん、書類一通り作らなきゃだったから。王都に急がなくちゃならないし……」

「そうか。ま、朝食作ったから食わねーか? ダメなら紅茶だけでも持ってくるけどさ」

「ううん、私も食堂に行くわ」

「だいぶくたびれてるみてーだな」

「久しぶりに徹夜したかも……」

「用意してくるから、座って待ってろ」

「うん、ありがとう」


ふらふらになりながら食堂に行こうと廊下を歩いているとすでに食事を済ませたらしいリオ達がイリアと入れ違いに出ていこうとしていた。


「おはよう、イリア。お疲れのようだね」

「おはよう……。どこかに行くの?」


リオに続く形でアイザックとミレーヌも一緒に居る。


「うん。ちょっと、野暮用を片づけに行ってくる」

「そう。昨日のこともあるし、ドニエ男爵には気を付けてね」

「ありがとう。イリア……」

「ん?」


リオはイリアの元につかつかと歩み寄ってきた。

そして視線をイリアに合わせる。青く宝石のように煌めく瞳がぐっと迫る。


息がかかるほどの距離で顔を覗き込まれ、イリアは一歩後ずさった。


(キス……される!?)


足に触れたリオの唇の感触を思い出し、羞恥心に顔を俯かせてしまった。

顔が火照っている感じがする。

ふわりと目元をそっとリオが撫でたので、イリアは拍子を突かれて思わず顔を上げた。


「隈出てる」

「く……くま……。そうね。ちょっと徹夜しちゃったから」


(そうよね。こんなところでキスなんてされないわよね)


昨日告白まがいのことをされて少し自意識過剰なのかもしれない。


逆に疲れたて隈が酷いことになっている顔を見せてしまい、リオの好意も冷めてしまうのではないかとさえ思う。


(あれ? それ、なんか悲しいかも……)


リオの好意が無くなっても別に問題はないはずなのに、若干の寂しさが心に去来して、イリアは自分でもその感情に驚いてしまった。


「あまり無理しないで。今日はゆっくりするといいよ。明日出発するつもりだから」

「あ、うん。分かった。行ってらっしゃい」

「行ってくるね」


そう言ってマントを翻して立ち去って行くリオをなんとなく目で追ってしまう。


この感情は何なのだろうか。


イリアは訳が分からず首を傾げたものの、食堂から漂ってくる焼き立てパンの香ばしい匂いに釣られるようにその場を後にした。


次話はエリオット視点です。


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