旅する話
まず、ひとつ報告を。
今回から毎日投稿ではなく、二日に一回投稿する形とします。(気が向いたらストックと相談しながら二回投稿するかもしれません)
何卒、よろしくお願いします。
「とりあえず、見つからずにたどり着くのが最優先だ。万が一にもこの近くに刺客がいるとまずい。顔を見られないように静かに乗り込んでくれ」
「……それ、本部から竜車かっさらってきた人が言うの?」
「……その事は言わないでください……」
正論過ぎて耳が痛い。なぜ、ミレイユは俺にばかり容赦ないことを言ってくるのだ。
「……よし、忘れ物なし。問題ないな?」
「「大丈夫よ(です)」」
「よし、いくぞ!」
鞭で竜車に繋がっている小竜を叩き、出発する。1泊2日の旅の始まりだ。
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「暇だな……」
警戒してるにも関わらず、まったく敵の気配がない。
竜車は既に国境を越え、目的地の都市まで残り3.4キロほどのところまで来ている。順調すぎて怖いくらいだ。
「そうだ。暇出しなんかゲームでもするか?」
現在、竜車の操作はミレイユが行っている。一人でやるには距離が長く、辛いために二時間ごとに交代で行うことにしたのだ。
「どんなゲームですか?」
「んー……。これなんかどうだ?」
そう言って、大きめの巾着袋の中からガサゴソと何か取り出す。
出てきたのは木製のボードゲームだ。
「バトルオブタワーっていうゲーム。それぞれ役割のある駒を動かして、相手陣地の塔へと先に到達した方の勝ち。"アダンタラン"だとわりとメジャーなボードゲームだよ」
「へえ~。面白そうですね。やってみたいです!」
「じゃあ準備してと……」
駒の数は全部で40。そのすべての駒を初期位置においていく。
「よし、スタートだ。ティアからでいいぞ」
「そうですか?じゃあ、はい」
「ふむ。じゃあ、俺はこれを」
相手の駒をとり、自分の駒をとられ……と続き、初戦が終了した。
「ぜんぜんうまくできませんでした……」
ティアの駒はすべて俺が取り、目的である塔が丸裸になった状態で1戦目は終了した。
「ルクス、少しは手加減しなさいよ」
「いや~。つい本気になっちゃったよ」
そんな風に満面の笑みで「てへぺろ」と舌をだす。
その様子を見てティアが大いに悔しがる。
それでこそ、可愛くもない「てへぺろ」をやった甲斐があるというものだ。
「というか、この2つの駒だけ強すぎませんか!?」
「あーそれな。なんか昔話にある悪魔と神をモデルにしてるらしいぞ」
「あの有名な話ね。確かに形とかそれぽっいわよね」
ここで少し、俺たちの話している昔話について簡単に説明しよう。
題名は「悪魔と神の戦い」。
内容は名前の通りものだ。
……昔々、悪いことばかりをする悪魔がいました。
その悪魔は悪いことをしすぎたばかりに体が悪のモクモクでおおわれてしまいました。
悪魔は「これをやれば絶対に悪いことになるぞ」とすごい予想力を使って、色々と考えました。
悪魔は大事なルールを変えてしまったり、世の中の人びとを病気や怪我にさせて苦しませたり、ペットの犬や蛇をけしかけて怖がらせたりしました。
そして、悪魔がついに神の家を破壊するという大罪を犯しました。
そこで神が怒り、悪魔を殺しました。
そうして、悪魔はいなくなり、人びとは大喜びしました。
……こんな感じの話だ。よくある勧善懲悪の物語である。
「あの話ってぶっちゃけ、小さい子にする話じゃないよな」
「ほんとにそう思うわ。私なんてママからあの話聞いた夜、トイレに行けなくなったもの」
「ほーん」
「……なによ。その意味深なうなづきは」
「気の強そうなミレイユもママって言うんだなって……いって!」
ミレイユに背中をバッシーン!と思いきり、叩かれる。
「そういうところだっ……いっ!」
「いいでしょ!まったく!」
顔を赤くしながらミレイユが叩き続けてくる。
そんな様子を見て、ティアが「あはは」と楽しそうに笑った。
……涙目になりながら、俺は仕切り直しとばかりに手を叩く。
「じゃあ……もう1戦!お願いします!」
ティアがすぐにリベンジマッチを要求してくる。
案外、負けず嫌いなようだ。
「……へいへい」
そうして、その後も2戦、3戦、4戦と何回かゲームを俺たちは重ねていった。
……そして、三時間後。
「やった!また勝ちました!」
「すごいじゃない!ティア!」
大喜びするティアの声とミレイユの賞賛する声が竜車内に響いていた。
「おかしい……ティア、本当にこのゲーム初めてか?」
「はい!初めてです!」
「えー……」
俺は1、2戦で勝利した後から1回もティアに勝てていない。
「おっかしいなぁ……。俺、ボードゲーム好きだから得意だと思ってたんだけどなぁ」
好きこそ物の上手なれ。
今回限りはこれが当てはまらないらしい。
かなり長い期間ボードゲームをプレイしてきたにも関わらず、初見そこそこのティアにボコボコにされているのだから。
「よし、もう1勝負……!」
「ダメよ。夜ご飯にしましょ」
俺が再戦を申し込もうとするもミレイユに阻止されてしまった。
見れば、竜車は既に予約していたレストランへと着いている。
「結構豪華なレストランですね……!」
ティアが目を輝かせる。
最近はティアも自分の感情を押し隠すことが少なくなり、表情がよく変わるようになった。そんなティアを俺とミレイユは暖かい目で見ている。
「じゃあ、入るか?」
「はい!」
いくつか席があるうちの窓際の席に案内され、「ごゆっくりどうぞ」とメニュー表を渡される。
「なに食べよっかな」
「私はこれね、小竜のミニロールキャベツ入りスープ」
「じゃあ、わたしは旬の魚たっぷり定食をいただきます」
「俺は……」
そうやって、「どうしたものか、うーん……」と悩んでいると、
「ご注文はお決まりですか?」
ウェイトレスさんがオーダーを取りに来ていた。ミレイユとティアはそれぞれ料理を注文してしまう。
結局、俺は……
「おすすめのやつ、なんかください!」
お店の人に任せる、というなんとも無責任な注文をしたのであった。
…………。
……。
「想像以上にうまいな……」
俺が食べることとなったのはこんがりと焼かれた鶏肉にピリ辛のタレを塗った肉料理だ。
カリっとした表面に、噛むとジュワ~と染みだす油がタレと絡んで絶妙なおいしさである。
「んー!暖まる~!」
「おいしいです!」
ミレイユとティアの二人も満足そうに次から次へと料理を口へ運んでいく。
「次はこれを頼んで……」
次の注文内容をメニュー表を見ながら考える。
すると、いきなり別の席の男が声を荒げ始めた。
「おい!店員!」
突然と大声に店内中が静まり返る。
「この店はどなんだぁ!?魔人が入ってもいい店なのかぁ!?」
「はい……当店は"魔差別"に対して、絶対反対の立場をとっておりますので……」
現在、この、では"魔差別撤廃"を掲げ、売買の禁止や就業上での不当な区別の禁止をしている。
しかし、いまだにそれは根強く残っていて、このような不届き者も少なからずいるのが実態だ。
「ああ!?劣人とおんなじとこで飯なんか食えるかよ!」
男はとなりのテーブルに座っている女性に向かって、指を指しながら騒ぎ立てる。
尖った耳にすらりとした容姿に見間違えるはずもない。代表的な魔人である、エルフの血族である。
ちなみに余談だが、魔人はあだ名として劣人とも呼ばれる。純血の人ではないことを揶揄する不快な呼び方だ。
「ちょっと、俺行ってきていいか?」
男に対してムカつき、思わず立ち上がってしまう。
そして、そのまま男のところに向かおうとする。
しかし、
「……少し待ってください。なんだか、あの男の人に関わると悪いことになるように思います」
それを意外なことにティアが制した。
「……悪いことって?」
「それはわかりません……」
理由は不明ながらもどうにもあまり乗り気でないティア。
彼女自身、魔人であるのだから男の発言に相当腹立たしく思っているはず。それでいてそんなことを言うのだ。
俺はなんだか釈然としないながらも「……わかった」と言って、座り直した。
「けっ!こんな店二度と来ねえからな!」
そう捨て台詞を吐いて、店を出ていく男。
「……すいません。私もお会計お願いします……」
しばらくするとエルフの女性まで席を立ち、会計を済ませ、店から出ていってしまった。
「エルフの人、かわいそうね……」
散々、罵られた女性に同情の声をあげるミレイユ。
「そうだな……。やっぱり、男にガツンと言った方がよかったんじゃないか?あの女の人の気持ちもそうすれば少しは晴れただろうし」
そう言われるもティアは首を振った。
「あの女の人もそうです……関わるべきでない感じがしました……」
「どういうこと?」
「わたしにも理由は不明です……」
結局、ティア本人にすら、その訳がわからないらしい。
困惑しながらも3人は食事を済ませ、外に出た。
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「クソッ!失敗したな!」
暗い裏路地。
先ほど、散々がなりたてていた男が悔しそうに地団駄を踏む。
「あの中にはいなかったんじゃないの?その情報が信頼できないわ」
男と話しているのは詰られていたエルフの女性。
よくわからない展開だ。
「でもあれ、ボスからの伝えられた情報だぜ?誤情報ってことはさすがに……」
「……まあいいわ。次の行動は?」
「素直にやつらが家に帰ってくるのを待てってのがボスからの指示で来てる」
「オーケー。じゃ、さっさとそうしましょ」
なにやら計画を進めているらしき密談をしている二人。
「それにしても、"魔差別を目の前で見せつけて、あいつがキレて、俺に突っかかってきたところをお前が後ろからズドン"っていうさっきのやつ。作戦として結構よかったと思ったのにな」
「そもそもあのレストランに来てないのならなんの意味もなく騒いだだけね」
「まったく。"靄のルクス"って呼ばれてただけあって、めんどくせえな」
ティアの危惧は当たっており、彼らは刺客。ルクスをあぶり出し、殺すためにあのレストランで一芝居打っていたのだ。
実際、ティアの制止がなければ、ルクスは間違いなく乗せられていただろう。魔差別に対してそれだけ怒りを抱いているのだ。
「じゃ、行くぞ」
「待って……【チェンジング】解除」
女性の耳がエルフのそれから人間のものに変わる。変装によってごまかしていただけで、彼女もヒトだったのだ。
「よし、行きましょ」
そう言って、ルクスたちが昨日まで使っていた家に向かっていく。
しかし、もうその家にルクスたちはいない。
……ひとまず、危機は脱したルクスたちだった。
読んでいただき、ありがとうございます!
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作者のモチベーションアップに繋がるので是非!