あの日の言葉
見直してはいるが、ガバが目立ってきたかもしれませんねぇ・・・
「スコールじいちゃんと一緒に…貴方もここを去るの?」
「すまない…義父の判断だ。次期長官として、RASの全てを運用するために、ここに留まり続けるのは良くないとのことだ。…義父も友人と言えども、あの狂人にここを任せるのは結構不安なようだ。暫くの間、君を冷凍保存することにした。」
「そう…。」
「心底、申し訳ないと思っている。」
「いいよ。仕方のないことだし…でも、約束は忘れないでよね?」
「…ああ。」
目を覚ましたシャハラはゆっくりと起き上がり、だらりと椅子に腰掛ける。彼女は先ほどの夢の余韻に浸っていた。
「-約束したのに…。やっぱり…守ってくれなかったね。」
目を閉じて苦笑いする彼女の耳に足音が響いてくる。彼女のいる隔離室にエクスシスとローズが訪れてきた。それに気づいた彼女は強化樹脂ガラス越しに立つ二人に向って作り笑いを向ける。
「あら、こんばんは。何か用かしら?」
「3日後、我々はギルバード・スペンサーの抹殺を決行する。」
「え…?」
開口一番の彼のセリフにシャハラは一瞬、言葉を失う。彼は椅子に座り、話を続ける。
「それに関して、君に聞きたいことがある。」
「…何よ?」
「以前、君から預かったメモリーチップを解析した。…そこには、スコールランド前長官のLILITH、君とシャヘナトラに関する研究結果……そして、ギルバード・スペンサーに関する調査記録だった。」
「…そう、それで?」
彼女は首を傾げながらそう答える。
「ギルバードは、奴は君のその病を治療するためにその担当となった。合っているかな?」
「ええ…。スコールおじいちゃんが最初は診てくれていたけど…他の仕事で手いっぱいになって。」
「そうすると…君は奴とほとんど毎日会っていた。そうだろう?」
「そうだけど、何?…何を言いたいの?回りくどいのはやめて、本題に入ってくれない?」
彼女は不機嫌そうな顔をして、強い口調でそう答える。
「分かった。先に言ったギルバード・スペンサーに関する調査記録だが、これはスコールランドが秘密裏に奴のことを調査していたようだ。しかし、これは今までのLILITHとギルバードの細胞、遺伝子情報等から彼が推測を立てただけに過ぎない情報だ。」
「それによると、ギルバード…奴の体の構造は我々人類、並びにこの地球上に存在する脊椎動物とは大きく異なる。…もはや、別の生物種と言ってもいいだろう。奴には核と呼ばれる莫大なエネルギーを生産する器官が存在し、それがホモ・エクセルサスの最重要器官であり、唯一の弱点でもある、と。」
彼は目をつむって首を横に振る。
「……前長官のスコールランドの調査結果と言え、正直…信じられない。」
「だから、貴女に確認しに来たってわけよ。」
ローズが口をはさむ。
「シャハラ、貴女はギルバードと親しい間柄だったはずよ。」
「…!」
「スコールランドは君のその病の研究、治療を奴に移したはず。そして、君は奴と長い時間、共に過ごした。無理を言っていることは分かっているが、これを確証づける何かを…。」
彼女は俯き沈黙している。
「シャハラ…?」
「そうね…確かにあの人とは長い間過ごしたわ。でも、ごめんなさいね。まだ、記憶が曖昧なの。もし……貴方の欲しい答えが私の記憶にあったら…まあ、あればだけどね?」
シャハラは作り笑いをして、話を切り上げさせようとする。それを察したのか、エクスシスは小さくため息をついてローズに目で合図する。彼女はそれを見て、肩をすくめた後、部屋を出ていく。
「ギルバード抹殺を実行する前には、思い出してほしい。」
そう言って彼は席を立ち部屋を後にする。彼らが部屋を出たのを確認したシャハラはベッドの上で体育座りをして、顔をうずめる。先ほどの夢の余韻のせいか、瞳を閉じればギルバードの顔が思い浮かぶ。
(私は、知っている。でも…いいの?)
そうこう考えこんでいる内に、彼女は睡魔に襲われ深い眠りにつく。
「君の治療の担当になった。ジェスター・ハウローだ…よろしく、シャハラ。」
強化ガラスの向こうで若き日のギルバードがシャハラにそう言う。彼はどこか彼女を直視するのをためらっているように見える。
「貴方が…スコールおじいちゃんが言っていた息子さんね?」
「スコールランドは義父だ…残念ながら、血のつながりはない。」
「ということは養子ってこと?…それなのにスペンサーじゃないなんて変ね?」
「……それよりも、君に一つ聞きたいことがあるんだが?」
彼は露骨に話を逸らす。
「なあに?」
彼女はクスクスと小さく笑いながら答える。自身に明らかな原因があるのを分かりつつも、それをわざとらしく返す彼女に彼は面白くないような表情を浮かべる。
「……なぜ、その…シースルーな服を着ているんだ?」
「あら、いいじゃない?目の保養になるでしょ、可憐な少女のこの姿は?」
「どうでもいい。」
からかうように答える彼女に、彼は呆れた表情で素っ気なく返す。その反応を見た彼女はからかい甲斐がないと判断したのか、肩をすくめて理由を説明する。
「フフ…体の検査で毎回毎回、服を脱ぐのがだるいのよ。だ・か・ら、スコールおじいちゃんに頼んでこの服を買ってもらったってこと。この服なら、すぐに異常が分かるでしょ?」
「何をしているんだ、義父さんは…。」
彼は額を押さえてそうこぼす。
「おじいちゃんはめちゃくちゃ渋っていたけどね~。施設暮らしなのに服も自由にできないの!?って涙ながらに訴えたら、頭を押さえながらOKしたわ。嘘泣きだけど。」
小悪魔的な笑顔を浮かべながら、彼女は無邪気に話す。
「小賢しい奴だな君は…。だが、そう言うのは嫌いではない。」
「…!」
彼が見せた優しい笑顔に不意を突かれた彼女は、一瞬固まる。
「しかしながら、決められたルートとはいえ、その姿で施設を回るのは良くない。変な気を起こす奴が……いや、いたところで君には近づけないか。」
彼は途中で彼女が致死的なウイルスを産生していることを思い出す。
「まーね。やらしい目で見ている人はいるけど。」
「そうかい。だったら普通の服を着たらどうだ?」
興味なさげに答える彼に若干彼女はイラつき、子供心ながらに彼を困らせてやりたくなった。
「普通の服なんか着ても、どうせ、誰も私を…私を普通の女の子として、見てくれないんだし…。」
悲しげな雰囲気を装う彼女に、彼は苦笑いする。そんな彼の様子を見ながら彼女は続ける。
「仕方ないよね。私は化け物だから…。」
「君は化け物じゃない。」
彼はそう強く言う。
「え…?」
「シャハラ、君は人間だ。そう悲観することはない。私が必ず、治してやる。」
「…!!」
まっすぐ彼女の目を見てそう答える彼を直視することが出来ず、目を逸らす。しかし、その綺麗すぎる発言が気に入らなかったのか、自分ながらにひねくれた回答をする。
「フッフフフ…!何を言っているの?私も…貴方も化け物なのにね?」
「…!」
「やっぱり、化け物同士気が合うのかしら?」
意地の悪い発言をする彼女から彼は目を逸らす。暫くの沈黙の後、彼が口を開く。
「…いつから気付いていた?」
「貴方を一目見た時、同類だってわかったのよ。」
「フッ…フフフ。」
彼は小さく笑う。
「何がおかしいの?」
「同類か…残念ながら、君と私はあまりに違う。」
「?」
眉をひそめる彼女を尻目に、彼は部屋に自分達以外に誰もいないことを確認する。
「シャハラ…君はXのウイルスに感染し、その体を変異させられた人間だ。君の母親であるシャヘナトラも同様に。」
「X?……あー…もしかして、LILITHのこと?」
その名を聞いた彼は目を丸くする。
「どこから……そうか、義父さんからか。あまり、気安くこういうことは口にしないでほしいものだが。」
彼は首を横に振りながらため息をつく。
「他言無用だっておじいちゃんは言ってた。」
「既に他言しているじゃないか。」
「息子のあなたには別にいいでしょ?あ、血は繋がっていないから養子だったわね?」
わざとらしく無邪気に答える彼女だったが、もう慣れたのか、彼は特段顔色を変えることはなかった。
「さて…話は逸れたが、君らはただの感染者であって生物学上は人間、ホモ・サピエンスと何ら変わりはない。少し…奇妙な羽が生えているだけだ。」
「致死性のウイルスを放出するけどね。」
「フッ…そうだったな。」
「というか…何?それじゃあ、貴方は人間じゃないってことを言いたいわけ?その、えーっと…ホモ・サピエンスじゃなくて、別の生物と?」
彼は虚空を見つめ口を開く。
「ああ…そうだ。私はLILITHと人類の間に産まれた…新たな種だ。」
「………はぁ!?」
突然の暴露に彼女は素で驚く。
「君らの体の変異は、我が母であるLILITHが引き起こしたこと。…その件で責任を感じ、君らの治療に全力で当たるのは自然な流れだろう、シャハラ?」
「え?…うん?は、え…!?そ、それは、うん…どうも、ありがとう?」
未だに混乱している彼女はまともな回答が出来なかった。それを察していたのか、彼は落ち着くまで彼女の様子を眺めていた。
暫くして、シャハラは落ち着き、調子を取り戻す。あの時は心底驚いた彼女であったが、今は彼の発言に強い疑念を抱いていた。
「さっきの話、マジなの?」
「ああ、大マジさ。」
飄々とそう答える彼にさらに疑念が募る。
「あれでしょ?仕返しに私を騙しているんでしょ?この意地悪!」
「さっきも言っただろう?大マジだ。」
「嘘!ぜーったい、嘘!スコールおじいちゃんは言ってたよ!証拠がなければ、それは嘘だって!」
それを聞いた彼は腕を組み、顎に手を当て納得したように頷く。
「ふむ…それもそうだな。……シャハラ?」
「何よ?」
「さっきも言ったが…私は君を本気で治してやりたいと思っている。あの言葉に嘘偽りはないと誓おう。だが、そのために、君には色々と苦労を掛けることも十分にある。」
彼は背を向けながら続ける。
「君は治療対象でもあり研究対象だ…。投与する薬によっては重篤な副作用を起こすこともありうるし、サンプルを入手するために君の体にメスを入れることもある。それに、一番重要なことは…確実な保証がないということだ。」
彼は振り返り、彼女に語り掛ける。
「シャハラ…君は私を信じてくれるか?私を信じて、その体を、命を預けてくれるか?」
彼女はそれを鼻で笑い、口を開く。
「信じるも何もないでしょ?」
「そうだな。…だから、私も君を信じようと思う。」
「…へ?」
彼の袖から黒い触手が伸びる。それを見た彼女は驚嘆の声を上げ、大きく尻餅をつく。
「き、きゃああああああ!!!?」
「私の正体を知るのはこれで二人目だな。」
「ひ…う、嘘…!!」
当然の反応だったが、彼の表情は少し悲しげだった。
「義父さんからは…正体を明かすのを固く禁じられている。」
「………!」
暫く呆気にとられていた彼女だったが、態勢を整えようと少し強気に出ようとする。
「…す…す、少しびっくり…したわ。ほ、ほほ…本当だったのね…。」
彼は再び背を向ける。
「義父さんには黙っているが…私の体には核という器官がある。」
「…コア?」
「人間にとっての脳、あるいは心臓にあたる器官だ。これは普段は縮小していて目立つことはないが、力を…本来の姿を出せば、それは活性化する。」
「…どうして、そんな…そんなことを話してるの!?わ、私が他言しないとでも思っているの!?普段は他の研究員にだって会って…!」
「君の命を預かるんだ。これでフェア、ということだ。それに…」
「?…それに?」
「私も一目見た時、思っていた。」
「君はそんな人間じゃない。信じているよ、シャハラ。」
「……」
シャハラは目を覚ます。無機質な天井を見つめたまま、彼女は小さく呟く。
「ふふ…生意気な笑顔…。信じている…か。」
彼女は上体を起こして、暫し余韻に浸る。
「……ジェスター…。私は…。」
目を閉じて彼女はあの日の事を思い出す。それは初めての出会いから、数年経った時、別れが近い時だった。近頃からか、彼は浮かない顔をしていた。
「でもさ…そんな力がったら、世界征服とかできるんじゃない?」
「その予定は今のところないね。」
「ほんと~に?」
「そうだな。人間である父さんは、私を拾い育ててくれた。だから、義父さんに…人間には恩返しがしたいんだ。姿は隠さなければならないが、人間との共存はできると信じている。」
「ふ~ん…でも、考えが変わったら?」
「ん?」
「もし、それが無理だと思うようになったら…貴方はどうするの、ジェスター?」
「…そうだな。君が思っている以上の事態になるだろうな。」
「……ごめん。」
「その時…君はどちら側につく?」
「え?」
「私側につくか、それとも。」
「それは……うー…。」
「意地の悪い質問だったな。すまない、シャハラ。」
「……。」
「………。」
「もし、その時は…。」
―その時は決して来ないが―
「ジェスター…今なんて?」
「シャハラ、君は人間だ。…だから、人間側につきなさい。」




