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N. E. O. S  作者: オルトマン
CODE:N.E.O.S
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見えざる手

 NEO LILITHが世界の空へ飛び出して約数時間後、それは最初に現れた上位種と言われている。市民の救助に駆け付けたRASの軍が初めてそれと接敵した。その体の形態からそれほどの脅威を感じなかったが、それから10mほど離れていた複数の部隊員が突如として、見えない何かに引き裂かれたように四肢や体の一部を吹き飛ばされ、それの脅威度は一気に高まった。


 それはその部隊を壊滅させた後、さらに、他の部隊を意図的に探すように行動していき、対峙した部隊はなす術なく蹂躙された。これと接敵し、生存した者は数名いたが、その者たち曰く、仲間の体が引き裂かれようとした時、彼らの体を複数の透明な手が覆っていたと。凄惨な光景を体験した彼らの多くはPTSDを発症しており、多くの者はそれに懐疑的ではあるものの、それが何かしらの超常的な力を保持していることを表していた。


 それが実際に何であるのかは推測するしかなく、疑うところはあったものの生存者の証言をもとに“見えざる手(インビジブル・ハンズ)”と命名した。


「わざわざ陽動作戦なんて取らなくても、遠距離から撃ち込めばいいだけじゃないの?」

 通信技術室でローズがリカルドに向ってそうこぼす。彼女たちは他のRAS衛星、そして、各国のRAS研究所本部への連絡の確保を行っていた。


「より確実にするためだ。もし、何かの拍子に察知された場合、何の成果も得られないまま終わってしまう。それに、その効果の是非も確認する必要がある。リスクは大きいが、これについてはやむを得ない。」

 リカルドは機器を調整しながらローズの質問に答える。彼女は肩をすくめた後、グングニールの衛星画像を映し出す。それは現在、セブンスたちが任務に赴いている場所であり、画像には彼らがすでに接敵している様子が映し出されていた。


『リカルド、ローズ。彼らが上位種“見えざる手”と対峙した。今からそちらに向かう。万が一の場合に備え、グングニールで奴を補足しろ。』

 エクスシスの声が室内に響く。彼は万が一の状況を踏まえ、グングニールの攻撃システム起動のために今から向かおうとしていた。


「オーケー…。」

 ローズはグングニールのロックオンシステムを起動する。


「神の槍……これが起動されないことを願うわ。」



 現地ではセブンスたちが“見えざる手”と対峙し、既に戦闘に移っていた。彼らはそれの保持する能力を考慮し、常に建物の残骸等の障害物を盾にしながら攻撃を行っていた。


「情報は正しかったようだ…奴は不可視の攻撃を繰り出してくる!」

 上位種から何かしらの攻撃が放たれた気配は見えないが、確かに地面や建物の残骸等が不可視の何かに抉られ、吹き飛ばされていった。それは彼らを追いつめるように、確実に、辺りを薙ぎ払っていく。


「見えない攻撃なんて卑怯じゃない!」

 エリーはそうぼやきつつも、壁に隠れながら上位種に向って発砲する。それに合わせて、ルナが後方から攻撃を仕掛ける。しかし、彼女たちが放った弾丸は不可視の何かに阻まれ、

それに届くことはなかった。


「クッソ!」

「…やっぱり、防御にも使えるのね…!どうすれば。」

 上位種の不可視の攻撃が彼女たちの方へと伸びる。


「!?」

 その攻撃が繰り出される一瞬だけ、伸びてくる手のような輪郭が見えた。それを目にした二人は咄嗟にその場を離れ、別の残骸へと身を隠す。一瞬にして先ほど彼女たちが盾にしていた残骸は、吹き飛ばされてバラバラに砕け散った。


「一瞬だけ…あれがあいつの…!」

 エリーがそう呟いた時、セブンスから二人に無線が入る。


『予想はしていたが、やはり…あれは攻守ともに使える能力のようだ。前方の攻撃ならまだしも、後方の攻撃も防いだとなると、常時、防御を張っている可能性が高い。』

 それに対してエリーが答える。


「じゃあ、どうすんのよ…!これじゃあ、ウイルス弾を撃ち込むことなんてできない!」

『簡単なことだ。奴の防御を強制的に一方向に集中させるように仕向ければいいだけだ。…ルナ、私とエリーで奴の気を引く。だから、君の全力を奴にぶつけてくれ。』

 彼は続けてジェイドたちにも連絡を入れる。


『聞こえるか?』

「うん、バッチリ。」

『奴は常時、全方向にシールドと同等の何かを張っている。そのため、いくら奴が隙を見せたところで、ウイルス弾が届くことはない。』

「…どうするの?」

『これから奴に強烈な一撃…ルナの電撃を与える。奴はそれを防ぐために、力を一点に集中させるはず…その隙に、確実に撃ち込んでくれ。』

「了解。」

 彼女は照準を上位種に合わせ直し、深呼吸をする。


「セブンスからか?」

 フィフスが様子を窺いに来ていた。


「…うん。もうすぐ、私の出番。」

「成功を祈ってるぜ。外の見張りに戻る…とりあえず、今のところは異常はなさそうだ。」

 彼は手をひらひらと振って階段を下っていく。


「…すこし、不安……。」

 そうこぼすジェイドの声は微かに震えていた。それに気づいたアンバーは彼女の頬に手を当て優しく微笑む。


「安心して、ジェイド。私もついているから、ね?」

「アンバー…ありがとう。」

 彼女は安心したようにアンバーに微笑み返す。


「くらえええええええ!!!」

 エリーは高速移動をしつつ、上位種の気を引くためそれに向って銃を撃つ。放たれた銃弾は予想通りにすべて上位種の体に届く前に、見えない何かに阻まれる。


「分かっているけど…!ムカつくわね!」

 若干いらだつ彼女だったが、背筋を走る嫌な寒気を感じ、咄嗟に高速移動でその場を離れる。彼女がそこを離れた瞬間、轟音が鳴り響くと共に地面が爆発するように抉られる。


「あっっっぶねえ!!!」

「エリー、常に動き回るんだ!!」

 セブンスがエリーにそう叫ぶ。彼も上位種に発砲しながら、その注意を自分たちへと向かわせる。彼らの軌跡を追うように、轟音と共に地面が抉られ、瓦礫はへしゃげられる。上位種の注意は完全に二人に向けられ、ルナの存在は忘れ去られているようだった。上位種はまるで目の前を飛ぶうっとおしい羽虫を叩き潰そうとするように、その力を振るっていく。


 目に見えないその力は、どこから飛んでくるのか全く予想が出来ず、二人はほぼ勘に頼りながらの運頼みで避けるしかなかった。彼らが必死の覚悟で回避に徹している間に、ルナは瓦礫の影から姿を出し、上位種へと右手を向ける。ルナが力を込めた時、それを感じ取ったのか、上位種が彼女の方へと振り向く。彼女から放たれる異様な気配を感じたのか、上位種はすぐさま彼女の方へと標的を移す。見えない力が地面を抉りながら、彼女の方へと向かっていくのが見える。しかし、それが届く前にルナから強烈な電撃が放たれる。


「これで…どうだあああ!!!」

 青い電撃は空気を切り裂きながら、一瞬にして、上位種の方へと到達する。予想通りではあったが、それは不可視の力でその電撃を防ぐために力を集中させていた。


「おおおおおおおお!!!!」

 ルナは絶えず強烈な電撃を放ち続ける。その絶大な威力の攻撃を防ぐため、上位種が全力を注いだためか、不可視の力が可視化され、無数の手のようなものがその前でルナの電撃を防いでいる様子がはっきりと確認された。その様子を離れた高所で確認したアンバーがジェイドに合図を出す。


「ジェイド!」

 ジェイドが上位種に向けウイルス弾を放つ。放たれたそれは上位種に気づかれることなく後部に命中し、ウイルスがその体内へと送りこまれていく。全てのウイルスが注入されたと同時にルナの電撃攻撃が止む。そして、上位種の行動も制止する。


「やったか…?」

 セブンスがそう呟くや否や、何かが地面が抉りながらルナの方へと猛スピードで向かっていく。


「!?」

 それが衝突する寸前で、彼女は咄嗟に回避する。


「結局、ダメってこと!?」

 焦るエリーは頭を抱えてそう叫ぶ。


「いや、まだだ…!効果が出るのに時間がかかっているだけかもしれん…しばらく様子を見るぞ!ジェイド、アンバー!援護を頼む!」

 セブンスはジェイドとアンバーに無線を入れる。


『了解…!』

 ジェイドがスコープを覗き込んだ瞬間、ルナを脅威と捉えた上位種が力を集中したのだろうか、可視化された手が彼女へと幾重にも迫るのが見えた。ジェイドはすぐさま上位種へと2、3発の銃弾を放つ。


「着弾確認。」

 命中した弾丸は上位種の組織を大きく抉り、赤色の体液が噴き上がる。次の攻撃に備えてジェイドが構え直したその時、彼女たちの方へと巨大な瓦礫の塊が猛スピードで飛んでくる。


「な…!?」

「ジェイド、アンバー!!!」

 セブンスがそう叫んだ直後に、瓦礫の塊は二人が潜んでいる高台へと直撃し、爆音が鳴り響く。


「嘘…だろ…。」

 呆然と立ち尽くす彼を待つことはなく、上位種は再び彼らを標的に捉える。エリーは一瞬、見えない手が可視化した時、それはルナの方へと伸びていく様に見えた。一方のルナはそれに気づいているような素振りを見せておらず、その攻撃が届くまで一瞬の猶予もない状況であった。


(マズい…!!)

 彼女は高速移動でルナの下へと駆ける。


「エリーさん…?」

 彼女がエリーの姿を確認した瞬間、見えざる手の攻撃が直撃する。


「ぎゃああああああ!!!!」

 エリーの左腕と左足が血をまき散らしながら、空高くへと舞い上がる。ルナはエリーが間一髪のところで彼女を突き飛ばしたため事なきを得た。


「エリーさん!!?」

 白い手の幻影が再び彼女らに迫る。


「エリー、ルナ…!!マズい!!」

 セブンスが注意を引き付けようと銃を発砲するも、その攻撃は止まることはなく、そのまま、彼女たちに向って高エネルギーの塊である上位種の破壊的な手が振り下ろされる。


「くそおおおお!!!」

 間に合わないとは分かっていたが、彼は駆け出していた。上位種の攻撃が彼女らに直撃する寸前、異変が起きる。上位種の口にあたる部分がパカッと開き、不気味な叫び声が響き渡る。それは苦しんでいるような雄叫びであった。


「まさか…ウイルスが効いて…?」

 上位種がふらつくと今まで見えなかった不可視の手がすべて露になり、8対の半透明な手が胸部にあたる場所から生えているのが確認できる。上位種は体勢を崩し、地に膝をつく。

これを絶好の好機ととらえたセブンスはルナに向かって叫ぶ。


「ルナ!!畳みかけるぞ!!」

 彼は腕を変形させ、鋭く巨大な鉤爪を生やす。ルナは彼の呼びかけに応えようとするが、自分をかばい、手足を切断されたエリーの事を放っておくことが出来なかった。


「で、でも…エリーさんが!!」

「そいつを倒さないと、エリーを救えないことは分かっているだろ!!ルナ、やるぞ!!」

 彼のその言葉を理解した彼女は落ち着きを取り戻し、上位種へと右手を構え、力を手中させる。彼女の右腕に電流が流れるのに合わせ、セブンスは一気に上位種に詰め寄る。そして、その鋭い鉤爪でそれの胸部を大きく切り裂く。


「ここだ、ルナ!!」

 鮮やかな赤色の体液を吹き出すそこに向って、ルナは一気に電流を放つ。放たれた電流は暴力的に上位種の組織を焼き焦がし、ズタズタに破壊する。その電流が上位種の体を貫いた後、それは低い雄叫びをあげ、こと切れたように地面へと倒れこむ。


「ついに…やったのか…。」

 地面へと倒れ、ピクリとも動かなくなったそれを見てセブンスは小さくこぼす。しかし、その余韻もルナの叫び声にかき消される。


「セブンスさん!!エリーさんを早く!!」

 彼はエリーの下へと駆けよる。彼女は痛みのショックで気絶していたが、既に切断された手足の切断面は塞がっており、出血も止まっていた。


(杞憂だったか…彼女もLILITH遺伝子を持つ存在。驚異的な再生能力は健在ということだったな。)

「…傷口は塞がっているが、失血量は見過ごせない。深刻な状況ではない…と思いたいが、すぐに搬送しないとな。」

「よかった…!」

 吹き飛ばされた手足は遠くに飛ばされたのか、瓦礫の隙間に落ちてしまったのか、辺りを見渡しても見当たらず、諦める他ないようだった。その最中、フィフスから無線が入る。


『やったんだな…!…だが…』

「……二人は?」

『すまねえ…。探しに向っているところだが…。』

「そうか……帰還準備に入れ。今の戦闘で他のリリンたちがここに向ってくる可能性が高い。」

 それを聞いたルナは彼に反発する。


「ちょっと待ってください!!あの子たちを…ジェイドとアンバーを置いていくんですか!?」

「……仕方のない…ことだ。彼女たちを探している間に、他の上位種が来たらどうするつもりだ?」

「でも…!!」

 そう食いかかる彼女を諭そうと彼が口を開こうとした時、無線からフィフスのかなり焦燥した大声が響く。


『セブンス!!セブンス!!奴が立ち上がって…!!!』

「!?」

 二人が振り返ると先ほど地に伏し、絶命していたかと思っていた上位種が起き上がっていた。そして、それは白い手をまさに、二人に向けて振り下ろそうとしていた。


「嘘…?」

「クソッ…!!」


 地を震わす轟音とともに鮮血が宙を舞った。


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