14 転生
14 転生
舞台裏を聞くつもりはないが、ざっくりと後30年だと聞いた。
あいつの100年税金前払いでの、非課税経済発展計画の期限がそれだそうだ。
利益として享受すれば良いのに、欲を掻いて接収しようとして逆にやられる事が目に見えている。
それがシナリオとしての流れなら抗う気にもなれんが、本来はどうだったんだろう。
世界を二分しての全面戦争なんて、そんなシナリオもあったのかなと思ったりもしている。
実際、上の事情など知らなければ、そうなる可能性も低くはなかった。
だからこその迷宮都市建築なんだし。
地下に潜って発展をやり、油断を突いてひっくり返す。
そういうレジスタンス的行動も視野に入れての計画も、舞台裏を見ちまうとすっかり萎えちまったと。
どのみち、滅びなければ成功と言われるのが世界らしいし、オレのほうのシナリオは放棄で良いよな。
だからあの迷宮都市は、地上の街々が滅びた後、遺跡として発掘されれば良いと思っている。
この先、どれぐらいこの世界が保つのかは知らんが、500年もすれば知る者とて無い遺跡になるだろう。
それにしても、意外と多いんだよな、世界に散りばめられた上の存在ってのが。
あいつもそのひとつの存在っぽい。
今から行く場所で、神と呼ばれている存在なんだけどさ・・
「やあ、久しぶり、クァロ」
「おお、また来たのか、サツキ」
「いやな、ちょっと礼を言いたくてな」
「どのような事かの」
「スキルコピーによる、内面分離の切欠のお礼さ」
「おぬし、それは」
《ありがとな・・まさか、このような・・在りし日に求めたる想いは?・・そ、それは・・成程、確かにこの反応で分かるな・・おぬし・・後の仲間になる予定だ。よろしく頼むよ、先輩・・そうなのじゃな・・切欠は必然と思ってる。気に病む事は無い・・ありがたいの》
それにしても、この世界群は既に末期じゃねぇか。
その延命措置が魂の移動、それをシナリオにしたのは誰か知らんが、乗せられている相良も哀れなものだ。
恐らくそのバックのキツネというのも看板だろう。
いわゆる表層にでもなるのかも知れん。
そういう役割を与えられ、その気になって世界を保とうとするか。
必要とあらば我が身を削って人形を作り出し、それに委ねるってのも平気でやらねばならんのか。
オレにはまだ無理な境地だな。
分かたれたイツキが愛おしいし。
まあいいや、そういうのは慌てて至っても仕方が無い。
なるようにしかならんと開き直り、今は技能を磨くとするか。
クァロの次は飛竜の長。
こいつも恐らく・・
「もう少しだぞ」
「おお、久しいの」
「人はその約定をもう少しで破るだろう」
「やはりそうなるかの」
「30年と思えばいい」
「なれば若き者達を移住させねばの」
「年寄り連中は乱獲されるか」
「未来へ遺せればそれで構わぬよ」
「こいつが紅の魔石だ」
「おお・・このような姿になって」
しかしな、魔石の中で寝ているのはどういう訳かな。
まるで蘇生しろとでも言いたげなんだがよ。
まあいい、やってやるか、くくくっ。
【ネクストライフ】
「おぬし、それは一体」
「ほら、生まれ変わりだ」
「おお、紅よ・・」
「3年で記憶は戻るはずだ。そうしたら次世代の者達を導かせれば良いだろ」
「成程の、紅なれば心配は要らぬな」
「で、クロは?」
「あやつは遠征じゃな」
「対立を演出してたんだな」
「うっ、おぬし、とぼけて・・」
「ふふん、紅のせいで飛竜が自由にならなかったってのが最初の話だよな」
「参ったのぅ」
「つまり、東の国が約定を破るのも、後の乱獲も織り込み済みって事だ」
「それは・・」
「在りし日に求めたる想いは何だっけ」
「後の仲間かの」
「よろしくな、先輩」
「そうなるのじゃな」
「本来は竜の友となりて、後々暴れるシナリオでもあったのかねぇ」
「ワシからは何も言えぬよ」
「そうだよな、まだオレは世界内存在だ。抜けねぇと言えねぇのは当然だ」
「ほんにそうなるのじゃな」
「その時まで、消滅すんなよな」
「ありがたいの」
☆
まだ縛られた存在か。
それも仕方が無いな。
お、閃いた。
《お前、今日からクロウだ・・なんか苦労しそうな名前だね・・寒いぞ・・くすくす、ごめんね・・かつて使っていた名前だ・・うん、闇烏のクロウだね、大事にするよ・・ああ、それで良い・・けどさ、そうなるとあるじの愛称どうするの・・オレか、オレは、どうすっかな・・クロウはあるじの大事な名前なのに・・オレはキルトだ・・え、それって何か意味があるの?・・意味はこれから作られる。なんてな、昔使ってた名前さ、ネトゲとかでよ・・あ、そう言えば。でも、そんなので良いの?・・問題ないさ・・だったら良いけど》
ネイス・カーティク・フェン・コルドバイド・スリエン・・さて、どれにしようかな。
ネイスはパス、カーティク?・・座りが悪いな。カーティス、うん、これだ。
よし、キルト=カーティス・・よし、これからオレはこいつでいこう。
☆
オレは双方の世界を飛び回り、交易に修練にとこなしていく。
ハモンは向こうとの兼ね合いで、留学生の世話とかをしているらしい。
相良の魔法を解析し、地域調整で似たような事をやれるようになった。
しかしあれをマナだけでやるとか凄まじいと思う。
恐らく億の単位のマナを使うと思われ、最近また増えたオレのマナの量とか遥かに凌駕しているんだなと思ってしまう。
あいつにまだまだ及ばないオレだが、そんなオレでも領地内探査で魔物確認後、即座に弓で射殺すぐらいの事はやれるようになってきた。
しかし人間ってのは本当にどんな危険にも慣れるようで、魔物を見つけても逃げないようになった。
遠巻きにして身構え、オレが射殺したら集まって素材の奪い合いが始まるんだ。
それはもう当たり前に・・確かに当初は周囲を見渡し、誰かが来るのを待っていた。
しかし、オレはもう素材も魔石もどうでも良いので放置していたんだが、それから射殺した魔物の素材の奪い合いになった。
でもな、あんまり当然のように横取りされるってのも、楽しい訳じゃないんだぜ。
前に一度、弱い矢で軽い気絶を狙ってやれば、倒れた魔物に群がって、目覚めた魔物に食われてた、くくく・・
でもそれすら学習するようで、倒れた魔物の心臓を突いてから解体するようになったんだ。
横取りの次は横殴りになった瞬間だな。
そんなある日、ハモンから第二ステージに移行したと連絡が入った。
いよいよ、向こうが動く時が来たようだ。
領は跡継ぎに委ねられ、あいつは引退しても跡継ぎに色々教えているようでもあった。
そして爺さんと親父、それにあいつにも進退を伺う事になる。
爺さん達の寿命は長いはずだが、15才に戻るスキルに何か欠陥でもあるのか・・
揃って寿命が怪しくなっていた。
「いよいよ、お別れだね」
「うむ、長く生きたな」
「サツキ、お前はこれからも生きるんだな」
「同じになりたいなら努力すればいいよ」
「詳細は聞いたが、中々に難しそうだな」
「じゃあ、やるよ」
「記憶付きの転生か・・接触無しか、仕方あるまいな」
「楽しかったよ、2人とも」
「あやつにはワシから言い含めておこうの」
「ちゃんと言うんだよ、秘術だと」
「分かっておる」
領の未来は知らないが、一応は守ってやろう。
それでも過剰にはしないから、あんまり依存は困るぞ。
気が向いたら・・それぐらいだろうな、恐らくは。
そして世界が賑やかになる少し前、3人共揃って転生した。
☆
既にイツキに身体を与えて地下に潜り込ませてある。
向こうで相良に誘致され、ちゃっかりと地下の住人になったのだ。
イツキの精神体なので、どう探査されても一般人に毛が生えたぐらい。
なので彼は何も疑う事なく、地下へと誘致したようだ。
オレはそんなイツキを時々訪ね、心の裡で休ませている。
生まれたばかりの変則は弱いから時々そうしないと、とハモンに言われたからだ。
オレもそうすると心が落ち着くので、この時間は大切にしている。
統率者の統率って変な職務だけど、揺れない心が受けたようだ。
どのみち、身体の中に居るうちは何もしないんだしな。
やるなら抜けてそこらでお食事をするぐらいだろうし。
あれをするとイツキも強くなるようだけど、精神体は無視しろと伝えてある。
それもハモンに言われた事だ。
本当にあいつには世話になっている。
どれだけの熟練なのか、知れば知る程に遠さを感じる。
だが、別に焦りはしない。
永久なる時間に焦りなど、全く意味の無いものだからだ。
そのうち何とかなるだろう・・これが一番良いらしいし。
飛竜の長から連絡が入り、約定が遂に破られたらしい。
用意は周到にされていて、若い子達の避難は終わっているとか。
なので乱獲対策は適当に暴れ、ストレス発散みたいにするらしい。
そう言えば、竜の谷のほうも変化があり、彼が派手に狩りをしたとか。
将来的な事を考え、地下に竜の帝国を築いておいて良かったな。
あいつはそれも流れと言っていたが、残れるなら残ったほうが良いだろう。
本当に色々とあちこちに配されているのだなあと、横から見ているとよく分かる。
こうやって世界は運営されているのだと、世界内存在でありながらそれを眺めている。
もっとも、ただ眺めているだけじゃないけどな。
身は仕舞って精神体で世界を眺め、歪を発見したら修復もしている。
これが俯瞰と呼ばれる者の仕事らしいし、そういうのもハモンから教わったからだ。
3つの力についても理解が及び、それらが混ざって混合って力になっているのも理解した。
相良は必要に応じて混ぜるらしいが、確かに少ないほうが滑らかにはなるだろう。
しかし、どうせなら全て滑らかにすればそんな必要も無い訳であり・・
オレは全て混ぜて滑らかにする努力をしているところだ。
どちらが良いかなんてどうでも良い事。
自分で良いと思うように修練すればいい。
そんなのただの自己満足なんだろうし、先に進めば方法なんてどうでも良いものだ。
それと、理解したから分かる事だけど、相良は恐らく全ては混ぜられない。
あれだけマナだけ多くなっていれば、他の力との釣り合いが取れないだろうから。
オレは3つを混ぜても、力が大きくならないように抑え付けている。
微かな・・淡い・・記憶とも呼べないような・・だけど、圧縮という・・それが真理だと・・
恐らく表層として分かたれた時、元の存在から受け継いだ記憶の欠片だと思われる。
濃い精神体こそが真理だと、淡い淡い記憶の欠片が囁くのだ。
魂と同じ濃度など、どうやれば良いのか分からない。
だけどそう囁く存在がある以上、遥かな未来には必ず到達してやろうと思っている。
さあ、また心の裡に抱いてやろうな・・
☆
死したる存在を掠め取り、また世界を傍観する旅に出る。
世界の歪を修正し、そして存在達を眺めている。
本当にもう、抜けちまったような感覚になっているんだよな。
身体とかもうボックスに入れたままで、何年出してないんだろう。
そんなのもうどうでも良いような感覚になっていて、たまにイツキの使っている身体に潜り込むぐらいだ。
そしてイツキを心で抱いてやり、あいつは幼子のようにオレの裡で眠るのだ。
その時が一番穏やかな気分になれる時・・
そんなある日の事、西の国の歪取りの最中に爺さんの波を感じた。
転生しても波はそこまで変わらなかったようだけど、貴族の次男坊のようだ。
周囲の評判は天才とか何とか・・
まあ、強くてニューゲームの恩恵も多々あるとは思うが・・
もう交わらない運命だとは思うけど、頑張って生きるんだよ。
親父とあいつの波は感じないけど、近くじゃないと分からないから、何処かで生きているんだろうな。
《ちょっと良いか・・どうしたハモン・・お前そっちで何している・・うん?俯瞰の仕事とかやってるよ・・それならこっちでやってくれ・・了解》
LPで転移すれば僅か10ポイント・・
しかし、何だこれは。歪だらけじゃねぇかよ。
早速にも世界歪取り行脚の始まりだ。
あっちもこっちも大きな歪は修正してあるようだけど、仮修正で止めてある。
多分、手が足りないんだろうが、もっと早く言えよな。
ああ、こりゃ浮遊素子が足りないんだ。
だから余計に・・
仕方が無い、LPで修正しよう。
ふむ、これなら順調にやれるな。
集めて来るのも少ないから大変なんだろうが、身の裡のパワーを使えば楽々だ。
こういう点は世界内存在の特権が有効だな。
ハモンじゃうっかり存在とか食えないし、クククッ・・
《お前、それはずるいぞ・・くくく、特権だぜ・・はぁぁ、参ったな・・余分に放出するからそれ使えよ・・悪いな》
魂を1つ・・LP1だな・・出して粉砕して浮遊素子にして、それを使って修正する。
もうこうなると魂もただの消耗品だな。
多めに粉砕してやると、ハモンがそれを集めて持っていく。
並んで修正をやるとハモンも楽なようで、見る見るうちに修正が進んでいく。
《こっちの俯瞰、何してんのさ・・それがな、あの2存在で交互にやっててな・・世界は2つ、なのに管理も俯瞰も1人ずつか・・ああ、それで手が足りないんだ・・やれやれだな。つまり、今向こうで戦争関連の調整をやってんだな・・そう言う事だ・・おっし、新技を食らえ。投げた、粉砕、誘導、おしっ・・お前、また器用な事を・・遠隔粉砕はちょいと難易度が高いな・・日々進化してないか?・・ただ単純に歪修正とか飽きるだろ。だから色々やってるぜ・・大したもんだな・・けど、まだまだやれない事がある・・今の目標か・・遥か先の目標さ・・それってどんなのだ・・圧縮さ・・な、んだと・・精神体の圧縮、理想は魂と同じ濃度・・お前、もしかして・・ふふん、オレの親を知ってるな・・親か、そういう感覚か、成程な・・まあいいや、オレの親がどんな奴かは知らんが、オレにそういう記憶の欠片をくれた存在だ・・それでそんな派手な素地か、ある意味納得だぜ・・後々が楽しみだな。親に会える日がそのうち来るかも知れんが、そん時までにはやりたいもんだぜ・・そいつは本当に、マジで遠いぞ・・ああ、何億年掛かってでも到達してみせるさ・・はぁぁ、オレ、負けているかもな・・クククッ》
散々修正しまくり何とか世界の安定度も回復し、オレは久しぶりに身の裡に入る。
「いやぁ、何年振りかな」
「お前、向こうでずっと抜けてたのか」
「特権だから消耗無し」
「やれやれ」
「まあ、時々は変則を抱いていたけどな」
「時々は帰ってやれよ」
「分かってるさ、オレの大事な相棒なんだしよ」
「世界内存在のうちに変則とかよ、初の快挙に等しいぐらいだぞ」
「そいつは親の恩恵だろ。オレの努力とかほんの一欠けらに過ぎないさ」
「いやその成熟も並じゃないぞ」
「上げ底だからだよ。オレは元々の素地という惑星の上に立つ、1人の存在に過ぎないさ。いつか将来、その惑星を内包して始めてスタートに立つようなもの。今はまだマイナスだ」
「もうあんまり言うな。オレの自信が消えるからよ」
「ハモンは遥か先を行く大先輩だからな、オレみたいなひよっ子とは比べ物にならんだろ」
「うぐぐ、てめぇ、わざと言ってないか」
「頼むからそんな大きな存在が、オレ如きと張り合うなよ」
「やっぱりそうなんだな、この野郎」
「くくく」
「てめぇ、もう許さねぇ」
「お、久しぶりにか、良いぞ」
「う・・いや、そんなつもりじゃ・・おい、どっちがその気だよ。この野郎」
☆
久しぶりに人の行為を体験するが、どうにも味気無さは仕方が無いのか。
確かに快感ではあるけれど、それはあくまでも身体が感じるだけの事。
心の充足には至らぬ、単なる本能のなせる業に過ぎないと実感するな。
「困った」
「何がだ」
「身体の快感じゃ味気無いと思うようになった」
「お前、向こうで手当たり次第食ってないだろうな」
「手当たり次第じゃないぞ。ちゃんと自制はしてたからよ」
「おかしいと思ったんだ。お前のその精神体、やけに量が増えているってよ」
「うむ、くそ、抑え付けても、広がり、やがって、この、野郎」
「相当、食いやがったな」
「そうでも、ねぇよ」
「やれやれ、昇ったらそんな事はやれなくなるんだぞ」
「禁断症状が出るかな、くくく」
「オレは知らんぞ」
「ふーんだ、なら目の前で食ってやろ」
「うぐぐ・・」
「いやな、全身吸収の修練やっててな」
「お前、浮遊素子の吸収か、それは」
「ああ、砕いて吸収ってよ」
「またハイレベルな事を。しかし、そいつは有効だな」
「禁止事項になっても浮遊素子なら構わないんだろ」
「程度によりけりだが、多少は構わんさ」
「あんな濃厚なのに慣れたら大変だからな、浮遊素子で慣れておこうかと思ってよ」
「やれやれ、心配する事は無かったか」
「いやな、その浮遊素子の吸収より味気無いと言うかさ、心が充足しないと言うか」
「既に本能すら抜けてんのかよ、とんでもねぇな」
「本能があったら身から抜けて数年間とかやれねぇだろ」
「そういやそうだったな。しっかしよぅ、お前、相当に先に進んでるぞ」
「言えば言う程に未熟を感じるな。そうやって磨いてくれているのが分かるだけにな」
「オレも磨いてくれ」
「うわ、凄ぇな、そんなに先に行ってんのにまだそんな事が言えるのか」
「うぐぐ、くそぅ、こいつ」
どうにも磨き合いと言うか、そういうのが上のコミュニケーションと言おうか。
至ったと思う心が退化の始まりって事なんだな。
だから殊更にそうやって言うんだろう。
まあ、心配する事は無いさ。
関連じゃオレが最下位なんだしよ。
周囲はオレ以上なのは間違いないんだし、マイペースで頑張るだけさ。
「さて、ちょいと向こうで寝てくるぞ」
「ああ、当分は問題無いぞ」
「あんなに歪が溜まるまで放置すんなよな」
「ああ、次はもっと早く呼ぶからな」
「うし、ではまた・・」
(やれやれ、冗談抜きにこりゃ、オレもうかうかしてられんな)




