13線~記憶のプイスト(公園)~ 《燻るインフフレイム》
「そう、これがあなたを本気にさせられない理由なのね」
自分の至らなさが悲しみとしてこみ上げたが、何とか涙は押しとどめられた瑠美だった。
「だとしたら、慌ててここに来た俺はただのピエロだったか?」
今日初めての笑顔を見せる佐藤だった。
「じゃあ私はまだあなたに......」
言葉を詰まらせ黙る瑠美。
「利用されるの?だね......ああ、その通りさ」
「......」
俯く瑠美に、
「だが、君の想いもかなえたいのも本当だ」
「うん、少しだけ......ほんのちょっとだけ期待する」
わざと笑う瑠美に心打たれる佐藤。
(俺も自分のために君を——汚いやつさ)
「だが今日は1人で乗り越えて欲しい。それほど大きなことさ、そしたらまた連絡をくれ」
「うん、ありがとう」
「瑠美が酔いつぶれられるだけの金は置いていく、安心してつぶれてくれ。なんなら泊まってってもな」
そんな笑い顔を残す佐藤に、またしても舌を出す瑠美だった。
「やっと瑠美って呼んでくれたら帰っちゃって......ホント」
氷に佐藤を思い浮かべ、一気に飲み干すのだった。
店を出た佐藤は電話を掛けた。
「こんな時間に電話してくるとはまさか?」
「夜分すみません会長、そのまさかです」
「しかし......」
「あなたの会社の人が亡くなったんです。我々を脅すためだけにね」
「そうだが」
「次はウチのものをヤッてくるでしょうね。そうなれば俺はアンタを逆恨みするかもしれない」
「待ってくれそんな......」
もし真樹夫でもヤられたら——
「あの数田さんにはまだ小学生の子供もいた。父のいない子供の悲しみが、苦しみが——分かりますか」
「君に任せよう。私は自分を匿い過ぎたようだ。あの遺族にも十分な補償を約束しよう」
「ありがとうございます。どうせ今日のアイツは紗代子さんのとこにも帰らずマンションに籠ってるでしょうからね?」
「これで失礼するぞ。この件が終わったら顔を出してくれ紗代子と依子君の話でも」
「分かりました会長。次期会長にもいい顔しとかないとね?」
「コラ、ワシはまだ死なんぞ?」
笑い声の中に電話は切られた。
佐藤の前に現れる一台の車。
乗り込む佐藤はまたスマホを手にするのだった。
「今度はなんだ、まさかこんなに早くにか?」
「さすがっすね、今度は俺が直接」
「じゃあ木曽田会長の許可も?」
「はい、ばっちりっすよ」
「これで紗代ちゃんも依子も......」
電話の向こうで涙ぐむ奥永。
「はいこれも奥永さんのおかげですよ」
「ほ~、高根は俺より千田推しだったんだってなぁ?」
「いや~俺は......」
「ははは、で?いつヤったんだ」
「これからっすよ」
「は!?......なら頼みがある」
「いいんすか、警察のお偉いさんが仇討ちなんて?」
「高根こそ話が早いな」
「じゃ、縛って置いときますんで、鍵は後ほど」
「わかった、木曽じーにも遊びに来いて言われたろ?」
「ええ、そん時は呼びますからね?じゃ」
「ああ」
縛り上げられた崎口を見下ろし、
「本当は——お前だけはこの手で殺したかったが」
と、拳を握って見せる佐藤だった。
カギをかけ去ろうとした時、
「何で来たんだ、酔いつぶれろと」
気づかず歩き続ける瑠美を担ぎ車に急ぐのだった。
「真樹夫は今日は休むか?」
「なんでです?」
「昨日相当落ち込んでいたらしいじゃないか?」
「え、ああ......」
「マキさんと仲良かったけ?」
「ああ、気になってたんすけど、誰っすかそれ?」
「数田さんだよ?あの人養子でなとっさに出ちまったと」
「そういうことか?」
「で、休みたいだろ?舞も何かやって欲しいことがあるって言ってたしな」
「それは旦那さんが日曜大工とかで......」
「はははじゃっ、行こっか」
会社に着く2人、他には空いた席は2つだった。
1つは数田係長の席、
「珍しいなぁ前山はまだか?」
「ホントですね?」
気になりだす三澄。
「あ、誰か......佳苗、お茶を入れてくれないか?」
北山が大げさに足を組む。
「ええ!?私でいいんですか?」
「なんで?まさか口実にお茶くみしなくてよくなったと?」
「ああ、佳苗まさか先輩の私にやれと?」
「いえ、私でよければ......」
と、みなを見回す佳苗、疑いは晴れても心の傷は大きかったようだ。
「よし頼んだ、三澄にはやらせんなよー」
「あっこの!?」
「このとはなんだ?」
そんな時電話が鳴った。
「ああ、俺が出る」
早すぎる北山に視線がロックされる真樹夫。
「はい......おお、前山どうした、そうか分かった気をつけろよ」
「何ですって?」
噂好きが玉に瑕の三澄が間髪入れず聞く。
「あー、仮病で休むってさ」
真顔の北山が答える。
「はぁ?」
大きく口を開ける三澄。
「人の病気は言えんだろ。それに聞いたらマネするだろ?」
北山の機転で瑠美の欠席を不審に思うものは誰もいなかった。
真樹夫をおいては——
「ここは?」
「起きたか......俺のとっておきさ」
納得がいかず部屋中を見回す瑠美。
「ホントさぁ、ココのことは嫁にも言ってないんだ」
「ふーんこの間の運転手?」
まだ見まわしながら言う瑠美の、片手間感覚の推理の鋭さに一瞬戸惑う佐藤。
「それよりあの人をどうしたの?」
黙って背を向けるその佐藤の背中に、これまでにない冷酷さを感じた。
「そう?私も殺すのね——用済みなんでしょ」
床に座り込み潤んだ瞳で壁の絵を......木々に囲まれる池の絵を呆然と眺めた。
「俺は瑠美を傷つけない」
「あの人を殺しておいて?」
「ああ、それも君を守るためだ」
そう——
頭に直接入り込んだかのような声が答えを望んでいないことを、理解する佐藤だった。
数田が死んでから3日が経った。
(また瑠美さんは来ていない)
北山への警戒で瑠美の名を出さないように努める真樹夫。
「主任コーヒーはいかがですか?」
と、デスクにカップを置く佳苗。
「佳苗ちゃーん真樹夫だけひいきかい?」
下手なつくり笑顔を見せられさすがに笑う真樹夫と佳苗。
「ちょっと真樹夫はともかく佳苗まで何で笑うの?」
ややふくれる三澄。
「だって演技下手過ぎるから佳苗ちゃんだって笑うよね?」
佳苗をかばうというより、三澄をディスって楽しむ真樹夫。
「だって佳苗が協力してくれっていうから」
何も言えずトレーで顔を隠す佳苗。
「あっゴメン佳苗つい」
「絶対わざとだよなぁお前の場合」
横槍を入れる北山の言葉に、舌を出す三澄。
「しかし俺にはないのか?」
他の人の分もないことを確認する北山だった。
「あぁーこれは特別真樹夫のだけなんで課長には私が特製のものを」
社員たちの冷やかしに埋め尽くされるオフィス。
耐え切れず逃げ出す真樹夫と佳苗。




