アンフェア
見ず知らずの女性から会いたかったと言われた時、男性はなんて答えるべきなのだろう。
オレも会いたかったとでも言えばいいのか。
いやいや、流石にそれはおかしいだろ。
確かにオレもオンナに会いたかったけど。
「少し……話をしよう」
オンナは言う。その頭上には『クイーン』の文字がある。
周囲のオンナも確認すると驚くことにほぼ全員『ナイト』、『ポーン』が一人も居ない。『クイーン』の左右には『ビショップ』と『ルーク』までいるのに。
「貴様の事を最初に聞いた時、私は耳を疑った。なにせ、巡回中の『ポーン』の下着だけが盗まれた、と報告を受けたからな」
そう言えばそんな些細な事もあった。
ちょうどトレーニング施設を作る前、最後にマミコと会った直前だったか。
ちょっとした実験気分で、隠れながらオンナに近づきインベントリにアクセス出来るか試してた。
確か、なんか謎アイテムを所持してたっけ。
「その時、見間違いの可能性があるが、小さな人間を見た、と報告を受けた」
げっ……
見られてたのか。
攻撃されなかったからセーフだと思ってた。
ってか、その前に欲望に対して素直になりすぎ、つい『ポーン』の装備を全て奪い全裸にした時とか、普通に気づかれて殺されたからな。
下着だけなら許されたと勘違いしてた。
「半信半疑だった私は、念のためその人間を殺せるように巡回ルートを変更した」
はぁ……ご苦労様です。
「だが、該当する人間を殺した報告は一向に上がってこなかった」
たぶん、殺せてますよ。
なんなら、割りと殺しまくられましたし。
「そこで昼間だけではなく夜間の警戒も引き上げた。それなのに、殺すことが出来なかった」
いやいや、めちゃめちゃ殺されましたが?
「その時、私は貴様に興味が湧いた。なにがなんでも殺したい、と」
それは興味ではなく殺意かと。
「そして昨日、私はこの目を疑った。信じられないことに仲間である『ポーン』が貴様と共に行動してる姿を見せつけられた」
まあ、『イヴニング』はオレの相棒ですし。
「これが嫉妬という気持ちなのだろう。私はすぐにでも貴様をあの世へ送りたくて仕方なかった」
なに、その死神的価値観。
オレの知ってる嫉妬って……あ、似たようなものだった。
「貴様の進行方向を予測し部隊を派遣し、これで終わりだと思っていた。だが、部隊は取り逃がしたと報告してきた」
それはたぶん、『イヴニング』が凄いのと、運が良かっただけだと。
「そこで私は逆に罠を張ることにした。貴様の目的地周辺を全て塞ぐように手配した訳だ。今日の朝は貴様の死亡報告が届き、素晴らしい朝を迎えてるはずだった」
朝から他人の死亡報告を受けたいって、感性が違いすぎる。
それラブレターとかじゃないぞ。
「だが、私の仕掛けた罠は見事に破られた訳だ。簡単に抜け出せるほど、杜撰な包囲だった、と」
いーや?
むしろ、どう足掻いても抜け道が見つかりませんでしたが。
「気づいてると思うが、ここに『ポーン』は一人も居ない。貴様がどうやってそこにいる『ポーン』を意のままにしてるのか分からないが、ここでその方法は使えまい」
ああ、それで『ポーン』が居ないのか。
ぶっちゃけこの場にいてもテイム出来ないけど。
「貴様には答えてもらう。なぜ、貴様はまだ生きてる?」
なるほど……
お前は本気でオレを殺そうとしてたんだな。真剣に、真面目に、オレと向き合ってくれてた訳だ。
それなのに、オレときたら……
バカだよな。
オレには殺された記憶しかないが、オンナのお前からすればオレはただの一度も殺されたことが無いって認識になる。
そんな事すら気にしてなかった。
死ぬ度にロードしてるんだから当然なんだけど。
オンナからすればオレは理不尽の塊だよな。
だからさ、ここで殺されるとこの会話も全て無かったことになるし。
そして、オレは必ずこの包囲を避けて帰る訳だ。お前が色々と考えてここで罠を仕掛けてるだろうに。もう、知ってるから。
そりゃ、萎えるよな。
そんな奴を相手にするのなんか。
どう考えても、アンフェアだし。
オンナ、お前は凄いよ。
間違いなく、お前が神か悪魔を創造した。
このオレにロードという脅威の能力を付与したのだから。
そして、この脅威がオンナたちへの救いになるってことを望んだ。
どんなオンナの『特殊能力』すら意に介さないプレイヤーだけの力。
どれだけオンナがレベル上げしても決して手に入れることの出来ない力。
それこそ、この世界でただ一つの力。
あらゆる事象を無に帰す力。
そして、未来を変える力。
なによりも、これこそ不公平な力だ。
PvP鯖で一人だけそんな事をする奴がいたら、オレなら許せない。
例えそれが、オンナの願いだとしても。
その正義を掲げ、言い訳出来るとしても。
オレは『イヴニング』から降りた。すると、待ってたとばかりに『イヴニング』は武器を構えた。
その銃口は明確に『クイーン』を狙ってる。
やれやれ、仕事熱心な事だ。
オレはその射線を塞ぐように『イヴニング』の前に出る。もっとも、こんな小さな身体じゃ射線を塞ぐことなど出来ないのは分かってる。
それでも、きっとこの思いは伝わると信じたい。
たかがゲームに感情移入しすぎ。
オレもそう思う。
でもな、ゲームだろうが勉強だろうが運動だろうが仕事だろうが食事だろうが睡眠だろうが恋愛だろうが趣味だろうが、全ての人にそれは言える。
いつだって、それは『たかが』だし。
いつだって、それは『されど』なんだ。
なぜなら人は、水と食べ物だけで幸せになれないのだから。
オレは、『クイーン』に向かって一歩ずつ進む。
「止まれ!」
『ルーク』がいう。
「殺しますよ?」
『ビショップ』がいう。
「答えろ」
『クイーン』がいう。
あなたは殺されました
ごめんな、『クイーン』。
これがオレの答えだ。
さてと、オレのテストプレイはここまでにしよう。
この先どんな未来が待ってるか分からない。
その結果、どんなエンディングを迎えるかも。
きっと色々なイベントがあるだろう。
例えば『リフリーダム』が持ってた大量の『白い有機結晶』は、人類にはまだホワイト中毒患者が大勢いることの示唆かもしれない。
だからこそ、彼ら『リフリーダム』は人類から必要悪として存在してた可能性もある。
例えば、人類の計画もそうだ。
以前、巡回中の『ポーン』のインベントリにアクセスしたとき、とあるアイテムを持ってた。それは『イヴニング』がチカの秘密基地で寝てる時には持ってなかった物。たぶん、そこにヒントがあるのかもしれない。
例えば『テイム薬』
『白い有機結晶』を素材に使うって意味は、そのままオンナが生まれた意味に繋がる気がしてる。
ま、ストーリーなんか無視して進めてきたし。今さらなんだが。
どうせ他にも沢山回収してないイベントなんてあるだろう。
ただ、それでも言えることはある。
リアルで全ての人々が分かり合うことは、それこそ現実的ではない。
なぜなら、技術が更に進歩してたった1秒で人と人が分かり合える道具が発明されたとして、かつ人生100年が当たり前になって、さらに睡眠すら一度もしなくなって、おまけに母親から生まれた瞬間に自意識を確立するようになったとしても、人が一生の内で分かり合える人数は31億5360万人なのだ。
これが事実であり現実。
それが意味するのは、国が違うとか、言語が違うとか、思想が違うとか、宗教が違うとか、そんなモノとは関係なく不可能ってことだ。
それでも、ゲームなら違うのだろう。
だからこそ、人はゲームに夢を見る。
そんな夢の中にいられる時間を、夢中っていうんだ。
そして、オレは夢から覚めてしまった。
そういうことか……。
ふぅ……。
少し落ち着こう。
とりあえず、オレとしてはもう一度エロい気持ちを取り戻すまで、この世界とはサヨナラだ。
じゃあな。『イヴニング』
バイバイ。
ゲームを終了しますか?
オレは『はい』を押した。




