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第八十八話

読んで頂きありがとうございます。

 

 四体のホブゴブリンとの戦闘を経た斗真達の立ち回りは、より安定感と討伐速度を増したまま、7階層を所狭しと蹂躙して回っていた。

 今の斗真達にとって、その性質を理解した四体のスケルトンは、まさしくのろまな木偶の坊と化しており、出会って三秒即突き殺しといった退屈極まりない戦闘となっていた。


 そして四体のホブゴブリンに対しては。


「「「「グギャァァアアッ!」」」」


「それじゃあ、コレまで通り頼んだぞ!」


 ――スタッ!!!!!――


 一斉に駆け出すホブゴブリン達を前に、斗真はゴーレム達に一声掛けると一人突出する。


 ――スッ!!――


 そんな斗真の背を追い越す様に、ハンタの矢とシャンの火球が放たれ、それぞれが別のホブゴブリンへと向かっていく。


「「グギャァァアアッ!」」


 標的となった二体のホブゴブリンは、その場に足を止めると各々の目前に迫った必殺に対して、咆哮を上げながら斧を振り払い、難無く退けて見せた。

 自らの武威を示した事で、全力のドヤ顔浮かべながら斗真達を見下ろす二体のホブゴブリンを尻目に、標的と成らなかった二体のホブゴブリンは動きを止めておらず、その結果密集していた四体の集団が、二体ずつに分断されていた。


「ハァァァァッ!」


 其処に斗真が斬り込んでいく。

 斗真は、最初に接敵する二体のホブゴブリンの脇を、急加速を用いて胴体を薙払いながら駆け抜けると、一切動きは止めないまま、トドメはゴーレム達に任せて、後方でドヤ顔を決める残りの二体に斬り掛かる。


「「グッ!?グギャァァアアッ!」」


 ドヤ顔から驚愕へとその表情を変えたホブゴブリンは、慌てたように斗真を迎え撃とうとするが、速度を緩めぬまま間合いを詰める斗真は、近い方のホブゴブリンの袈裟切りを体捌きのみで回避すると。


「オラァッ!」


「グギィィィィ!」


 すれ違いざまに脇腹を斬り裂き、悲鳴を上げるホブゴブリンをそのままに、動きを止めないどころか更なる加速を加えて駆ける。


「グギャッ!?」


 最後に残ったホブゴブリンは、目の前で更に加速した斗真の動きに付いていけず、斧を振り上げたまま驚愕の表情を浮かべるのみで、がら空きとなった胴体に致命の一撃を受ける。


「ハァッ!」


 心臓に向けて最短距離を突き進む剣の切っ先は、寸分違わぬ軌道を貫いた後、ホブゴブリンの胸を大きく穿った。


「グッ、ギィィ……」


 斗真は、仰向けに倒れるホブゴブリンから素早く剣を引き抜くと、未だ致死には至っていない生き残りにトドメを刺すべく、一切の油断無く戦闘を継続する。


(モンスターが全員死なないとドロップアイテムに変わらないってのは、生死の判断を誤って油断せずに済むから助かるな)


 斬り裂かれた脇腹を押さえながらも、未だ戦意を衰えさせる事無く斧を構えるホブゴブリンを前に、斗真はダンジョンのルールとも言うべき現象に対して、感謝の思考を漏らすだけの余裕を持てるまでに成長していた。

 そして、万全の状態であっても斗真に傷一つ負わせる事が出来ないホブゴブリンが、重傷を負ったままで出来る事など、精々が僅かな手間を掛けさせる事位であった。


 そうして二体のホブゴブリンの処理を終えた斗真がゴーレム達に視線を向けると、手負いとなった二体のホブゴブリンを相手に、ソルジとシフがそれぞれ正面で注意を引きながら、後方から放たれる火球や矢を利用して、徐々に追い詰めているようであった。


 ホブゴブリン達は、やはり何より火球に警戒しているようで、シャンが火球を放つ度に視線を巡らせては、即座に防御体勢をとっていた。

 その為、放たれる火球はその悉くが防がれてしまうものの、その隙に剣や槍で滅多刺しにされてしまい、結果的に更なる流血を強いられる事となっていた。

 しかしそれを避けようと、目の前のゴーレムに執心していると、後方から容赦なく放たれる火球と矢をくらい、致命的な隙を晒す事となるようだ。


 つまり、ホブゴブリンに打てる手は残されていなかった。


 最初に斗真に腹を斬り裂かれた時点で、ホブゴブリンにはゴーレム達を打ち砕くだけの力は残されておらず、後はただ死ぬまでの時間が、早いか遅いか程度の違いを生み出すより他は無かったのだ。


 何とか斗真に介入される前に、ホブゴブリンにトドメを刺したゴーレム達は、各々が武器を掲げて勝利の余韻に浸っていた。


「ほらっさっさと行くぞ」


 ――スタッ!!!!!ダッダッダ――


 斗真は、そんなゴーレム達を横目に見ながら魔石のみを集めると、ソルジとシフに修復を掛けたのみで、後は休む間もなく探索を続ける。

 先行するシフの背を追うように動き出した斗真達一行は、泰然とした歩みで7階層の蹂躙を再開した。


 それからも斗真達は、幾度も戦闘を繰り広げ、その時々に小休憩を挟みつつ、7階層の踏破を果たした。

 8階層へと続く階段に腰を下ろした斗真は、直ぐ様装備品の手入れに取り掛かり、ゴーレム達も素振りをしたり、斗真の手元を覗き込んだり、地図を作るシフに絡んだりと自由に時間を潰していた。


 斗真は、未だ慣れていないながらも、手早く装備品の手入れを終えると、さっさと食事を済ませて魔石の集計を始めた。

 今回合成が確定しているシフ以外のゴーレム達が、前回同様のフォーメーションで待ち構える中、その露骨なまでの期待に応えるだけの量が有るのかは不明だが、階段に並べられていく数多の魔石を前に、両手を広げるゴーレム達は俄かに熱気を帯び始めていく。


「176、177、178っと。うぅぅん面倒くせぇ!でも終わったぁ。……はぁ、そんじゃあシフ始めるぞ」


 魔石の集計を終えた斗真は、一度大きく伸びをすると、早速シフを呼び寄せ合成を始める。


 ――ダッ!――


「おぉおう落ち着け落ち着け。まぁコレでシフはレベルアップ確定だもんな。【合成】」


 そうして91個もの魔石を合成されたシフは、レベルアップを示す様に一際眩く輝くと、これまでと変わらぬ姿を斗真達に見せ付けた。


 ――スタッ――


「……見た目に変化は無しか。まぁそれは仕方無い。大切なのは見た目じゃ無いしな。【鑑定】」


【ステータス】

 クラス:シーフゴーレム

 ランク:下級・ストーン

 レベル:8(0/256)

 スキル:槍術 3(3/3) 地図作製 3(3/3) 空間把握 3(3/3)


「おおっ?おおっ!遂にっ、遂にスキルが上がったぞぉ!」


 ――ゴンッゴンッゴンッ――


 喜び飛び跳ねるシフを尻目に、斗真は遂に変化を見せたステータスを更にじっくりと眺める。


「そうかぁ、レベル4の次はレベル8でスキルが上がるんだな。と言う事はレベル10でランクも上がるのかな?えっと、次はやっぱり256個なのかぁ。ならレベル10には512個必要なんだろうなぁ。先が長いなぁ。それにスキルも上限が3のままか。って事はこれ以上シフのスキルは伸びないのか?まぁ、レベルを上げれば数値は変わらなくても、実力自体は伸びるみたいだから、それ程気にしなくても良いのかな?……まぁスキル3の実力次第ではあるんだろうけど。でもこれで、俄然魔石集めにやる気が出て来たな!」


 一通りシフのステータスに目を通した斗真は、ようやくゴーレムのスキルレベルの上昇を確認した事で、更なるやる気を滾らせながら、残りの魔石の合成に取り掛かる。


「じゃあ次はソルジっ。お前の番だ」


 ――ダダダッ――


 ソルジは階段を一目散に駆け上がると、差し出した盾に次々と魔石が合成されていく様子を、熱心に見つめていた。


(ちっかいなオイ。まぁ気持ちは分からなくは無いけどな)


 端から見ると、階段に座る男性にメンチを切るヤンキーの様な構図となっていたのだが、ソルジの気持ちも分かる為、斗真は黙々と作業を続けた。その姿がよりヤンキーに絡まれてる感を強調している事に、斗真は気付かなかった。


「おっし。これで最後っと。【合成】」


 ――ゴンッゴンッゴン――


「ソルジは後41個か。8階層次第だけど、このペースなら次は二体同時にレベルアップさせられそうだな。確か10階層が階層主の部屋だから、其処に到達するまでには、ゴーレム達全員のレベルを上げておきたいな」


 階層主の居る10階層まで、後8階層と9階層を残すのみであるが、斗真は何とかその2階層を踏破する前に、全てのゴーレム達のレベルを8にする事を目標とした。


「ゴーレム達はこれで良いとして、次は自分の番だな。【ステータス】おぉっ!またレベルが2つも上がってるぞ!もうレベル24か。この速さなら30なんて直ぐだろうな。そうなれば俺もマイクさん並みの力を手に入れてるって事だよなぁ」


 魔石の合成を終わらせた斗真は、自身のステータスを確認し、レベルの上昇を確認すると、更にその先を見据えて、探索におけるモチベーションを高めていた。


「それにしても連続で2レベルアップは、マジで幸先が良すぎるな。んじゃあこの勢いのまま感覚共有をやるか。はぁ」


 モチベーションを上げたばかりとは言え、苦しむ事が分かり切っている訓練を前に、流石の斗真も溜め息を漏らさざるを得なかった。

 それから斗真は、前回と同様の指示をゴーレム達に出すと、自身もまた前回と同様に準備を整えて階段に寝転がる。


「…………しゃあないっ!これも強くなる為だ!やるぞっ!【感覚共有】」


 気合いと諦観が混ざり合った思いを吐露した斗真は、またしても気絶に近い眠りに落ちるまで、スキルを使い習熟に勤しんだ。


 そして斗真が眠りに落ちる寸前、護衛の指示を受けたゴーレム達は、各々が斗真を囲む様に配置に付くと、周囲に対する警戒を開始した。

 しかし、一体だけスキルレベルが3に至ったシフへの興味は隠せない様で、頻りに素振りを見せるようにと迫ったりもしていた。

 そんなゴーレム達の反応に対して、鼻高々といった振る舞いを見せるシフも、流石に護衛の傍らではっちゃける事は出来ないのか、ただ単に焦らしているだけなのかは定かではないが、一度も素振りどころか、力の片鱗さえ見せる事は無かった。


 この様なゴーレム達の無言のやり取りは、斗真の目が覚める直前まで続く事となった。


「ふぅ。やっぱり身体への負担は軽くなってるな」


 眠りから覚めた斗真は、固まった体をストレッチを行い丁寧に解しながら、そう呟いた。

 更にストレッチを続けながら、鋭敏となった五感の精度も把握しようとしていると。


「…………何か、臭くね?」


 これまで気付かなかった事が信じられない程の刺激臭が、己の体から発せられている事に気付いてしまう。


「えっ?マジか!くっせえ!……これはさっさと着替えよう」


 一度気づいてしまうと、もうどうしようも無い程鼻につく体臭に、ストレッチも早々に切り上げて、その場で服を脱いでいく。


「そういえば、此処に来る迄に一回も体を洗って無かったか。それなりに汗もかいただろうし、返り血だって付いていただろうから、そら臭うわな。装備品の手入れに手一杯で、其処まで気が回らなかったもんなぁ」


 誰にともなく言い訳を並べ立てた斗真は、階段の一番上まで上がると、服と体を洗う為の準備を始める。


「上手くいくと良いんだけどなぁ。まずは【ディグ】」


 不安も露わな斗真が唱えたのは、生活魔法である。しかもそれを複数回唱えて、目の前に生まれ続ける穴を、どんどんと広げていく。


「よしよし、何とかいけそうか?お次は【ウォーター】」


 更にその大きな穴に生活魔法で水を貯めていくと、斗真の目の前には、1メートル四方の水溜まりが出来上がっていた。


「よっし完成。本当なら此処に加熱石を入れたいんだけど、それを落とすモンスターが出て来ないんだよなぁ。まぁ無い物ねだりをしても仕方無いか。それに穴が消える前にさっさと済まそう」


 斗真は目の前の水溜まりを使って、まずは体を洗い始めた。屋敷から持ち出した石鹸をタオルでしっかり泡立ててから体を拭い、一通り全身を水で流し終えると、減った分の水を追加してから、着ていた服をこれまた石鹸を使い、もみ洗いしていく。


「まぁこんなもんかな。それじゃあ最後に【ブリーズ】」


 そうして全裸のまま洗濯も終えると、生活魔法を用いて先に体を乾かした後、レベルアップにより強化された身体能力を使い切って絞り上げた、タオルや洋服なども乾かしていく。


「…………流石に服なんかは生乾きだな。まぁもう少し時間を掛ければいけるかも知れないけど、これ以上時間を掛けるのもなぁ」


 しっかりと体から水気を飛ばした後に着替えた斗真は、そこそこの時間を脱水作業に費やしても尚、生乾き状態から脱しない洗濯物を前に、遂には諦めの胸中となっていた。


「……ダンジョン内だから生乾きぐらい仕方無いよな。着替えられただけでも十分だしなっ!よっしゃあ洗濯は此処までっ!」


 斗真は、迷いを断ち切るように宣言すると、素早く生乾きの洗濯物を畳んで、取り出した石鹸などと併せて収納袋の中に仕舞い込んだ。


「さてと、それじゃあ8階層に向かうか。お前達も準備は良いか?」


 ――スタッ!!!!!――


「よし。それじゃあ8階層でもモンスターを殺しまくって、魔石をかき集めるぞっ!」


 ――スタッ!!!!!――


 日本の高校生とは思えない程、野蛮な言葉でゴーレム達の士気を上げた斗真は、自身が相当アレスティアに染まっている事に気付かないまま、言葉通りの結果を求めて8階層に向かい階段を下り始めた。



是非ともまた、お越しください。

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