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第八十七話

読んで頂きありがとうございます。

 

 一通りの手入れを終えた斗真は、道具を仕舞い両手を綺麗に洗い流すと、食事の準備を始めた。


「さてさて、これが本日2食目だから、今は夜って考えても良いのかな?まぁ、夕方かも知れないけど。流石に昼過ぎって事は無いよなぁ」


 取り出した皿に次々と保存食を盛り付けながら、斗真は取り留めもない事を呟く。


「うん。何度見てもいい感じだな。頂きます」


 斗真は、残りの保存食を仕舞うと食事に取り掛かる。

 周囲のゴーレム達は、素振りをしたり地図を作るシフの手元を覗き込んだりと、自由に過ごしていた。

 一人黙々と食事を続ける斗真にとっても、まとめ買いした保存食は、十分なボリュームを有していた。

 しっかりと噛み締めて、一口一口味わって食べ終えた斗真は、皿を洗い終わるとゴーレム達がお待ちかねの作業を始める。


「ごちそうさまっと。そんじゃあ合成を始めるか」


 斗真の呟きを聞き取ったゴーレム達は、全員が斗真を取り囲む様に移動すると、期待も露わにその時を待つ。


「おっおう。相変わらずだなお前達。まぁまずはメイからだけどな」


 ――ババッ――


「先に数えるからちょっと待てっ」


 直ぐ様魔核を突き付けてきたメイを抑えた斗真は、リュックから魔石を取り出し数え始める。

 6階層は、スケルトンもホブゴブリンも三体ずつ出現していたので、斗真のリュックには相応の魔石が詰め込まれていた。


「それじゃあ階段に並べるから、落ちない様に頼む」


 ――ダダダッ――


 斗真の指示を受けたメイを除いたゴーレム達は、直ぐ様三段程下に降りると、前回同様両手を広げて壁となった。


(ふむ。合成の時は予めこう言っておけば良さそうだな)


 壁となったゴーレム達を尻目に、そんな事を考えながら魔石を無造作に置いていくと、側に残ったメイが綺麗に並べ直していく。


(141個か。いい感じだな。メイに50個必要だから残りは91個か。次はシフだったよな)


 魔石を数え終えた斗真は、直ぐ様合成作業へと移る。


「まずはメイからやるぞ。【合成】」


 待ってましたとばかりに魔核を突き出したメイは、次々に魔石を合成されると、終わる前から両手を上げて喜びを爆発させていた。


「コレでレベルアップだ【合成】【鑑定】」


【ステータス】

 クラス:メイジゴーレム

 ランク:下級・カッパー

 レベル:7(0/128)

 スキル:回復魔法 2(2/3) 短杖術 2(2/3)


「よしっ!これで全員レベル7だな」


 ――ゴンッゴンッゴン――


 レベルアップに喜び飛び跳ねるメイを尻目に、斗真は次のゴーレムに声を掛ける。


「それじゃあシフ、こっちへ来てくれ」


 ――ダダダッ――


 指名を受けたシフは直ぐ様斗真の側まで来ると、胸を突き出す様に体を反らせた。


「今回はレベルアップには届かないけど、8階層迄には確実に上がるからな。そんじゃあ【合成】」


 ――コクコク――


 羨ましげな雰囲気を醸し出す、他のゴーレム達に見守られながら、シフは魔石の合成を胸を張ったまま受ける。

 そうして最後の魔石を合成されたシフは、レベルアップこそしなかったものの、その喜び方はメイのそれと遜色のないものであった。


「これでシフは後37個でレベル8か。その先は256個だろうなぁ。はぁ、まずは全員レベル8からだな」


 斗真は、先を見据えるとうんざりしてしまうので、目先の事だけを考える様に自身に言い聞かせると、階段下から斗真の側に集結しだしたゴーレム達を見据えながら、新たな恒例行事を行うべく準備を始める。


「装備品の手入れもしたし、食事も済ませたし、魔石の合成も終わらせた。他に遣るべき事は無いよな。よしっ!なら始めるか!」

 

 一際強く気合いを入れ直した斗真は、取り出したマントを被り階段に横たわると、ゴーレム達に指示を出す。


「メイ、これから感覚共有を使うから、後ろから俺の左耳を塞いでくれ」


 ――コクコク――


「あと多分体調が悪くなると思うから、メイの回復魔法で効きそうなやつがあったら使ってくれ」


 ――コクコク――


「それじゃあ、ソルジは俺の正面に来てくれ。他のゴーレム達は俺の護衛を頼む」


 ――スタッ!!!――


 斗真の指示受けたゴーレム達は、それぞれが役割を全うすべく動き出す。

 斗真が寝転んでいる階段の一段下にソルジが、そして斗真の左耳を塞ぐべく階段の一段上にメイが、そしてその周囲、階段の上から順にハンタ、シャン、シフの並びで護衛に就いた。

 斗真は左手で自身の鼻を摘まみ、配置に付いたゴーレム達の姿を確認し終えると、正面のソルジに対してスキルを発動させる。


「それじゃあ、みんな頼むな。【感覚共有】」


 斗真はスキルを発動させた瞬間、素早く目を瞑り右手で右耳を塞ぐと、襲い来る不快感に備えるべく万全の滑稽さで臨む。


(ウヴゥゥッ!……はぁ、はぁ。……やっぱり、かなりマシになってるな)


 斗真の視界には階段に寝そべる、ふざけてんのかと問いたくなる様な自身の姿が映っているのみであった。

 更に聴覚も、自身の呼吸音や周囲を空気が流れる音や、護衛に勤しむゴーレム達から僅かに聞こえる、コツコツといった足音が鼓膜に響くものの、その不快感は先の二度とは比較にならない程、小さなものでしかなかった。

 しかも臭覚などは、しっかりと鼻を摘まんでいるせいか、取り立てて刺激を受ける事も無く、殆ど違和感を感じる事が無い状態である。

 それに加え味覚は、鼻を詰まんで口呼吸をしているせいか、自身の口内の感覚が強く感じられるのみで、ソルジの感覚と混ざる事も無く、その結果として、違和感も不快感も殆ど感じられなかった。

 そして触覚は、左耳をメイが右耳を自身で塞いでいるせいか、これまで漠然とした感覚しか伝わってこなかったのが、自身とメイの手によって加えられる刺激を認識する事で、ソルジの触覚との差を如実に感じる様になった。


 恐らくは五感を共有しているのであろうソルジとしての触覚は、敏感ながらもどこまでも簡素な様で、全身に空気が触れているだけの僅かな圧迫感を感じる以外は、特に刺激を受ける事は無かった。

 それと比較して斗真の触覚は、両耳と鼻に自身とメイの手が触れている事で、その部位に掛かる圧迫感と熱を伴った刺激は、ソルジが感じている刺激とは明確な違いを生み出しており、その違いをはっきりと認識する事で、両者の触覚を明確に区別した上で、混乱する事無く認識する事が出来ていた。


 斗真はこの様にして、ともすれば強制的に常人の倍の五感の処理を押し付けられそうに成りながらも、何とか冷静さを保ったまま感覚共有を続けて、自身の五感を拡張強化していた。

 そうして先の二回と比べれば、随分と長い時間感覚共有を行っていた斗真は、徐にスキルを解除すると、ゴーレム達に護衛の指示を出した後、五感を休める為に意識を深い眠りへと落としていった。


「う、うぅん。……あぁ、そうか。あの後寝たんだった」


 誰に起こされるでもなく自然と目を覚ました斗真は、のそのそと動き出すと、一通りの準備を整えた後で、7階層の地図の複写を始めたシフ以外のゴーレム達に、周囲を護衛されたまま階段でストレッチを始めた。


「幅があるとはいってもやり難いなぁ。まぁどうしようもないんだけどさ」


 ぶつぶつと文句を呟きながらストレッチを続ける斗真は、7階層への出発を前に諸々の確認を行う。


「ふぅ、体調はそれ程悪くないな。やっぱり感覚共有を使う時は、自分の五感をある程度制限した方が良いんだろうな。次からもそうしよ」


 斗真は前回までの感覚共有後の様に、体に纏わりつく様な不快感を感じない事から、あの姿の間抜けさを差し引いても尚、余りあるだけの有効性を認め、継続して行っていく事に決めた。


「後は……そうだ。【ステータス】……おっ、レベルが22に上がってる!やっぱりダンジョンはレベルが上がり易いんだな。でもスキルとかには変化なしか。それにしても幸先が良いな。これで2レベル分は身体能力も上がってるだろうし、どんどん下の階層を目指せるな」


 斗真は、レベルアップという目に見えた成果を得られた事で、ダンジョン探索に更なるやる気を漲らせた。

 そして滾る心をそのままに、ストレッチ後に軽く素振りを行ってから、複写を終えたシフから地図を受け取った事で、7階層へと向かう為の準備の全てを終えた。


「よしっ!それじゃあ行くか。皆も護衛御苦労!今から7階層へ向かうけど準備は良いか?」


 ――スタッ!!!!!――


「それじゃあ出発っ!」


 こうして斗真達一行は、意気揚々と7階層の攻略に向けて足を進める。


「ハァァァァッ!」


「カタカタカタ」


 7階層の探索を始めた斗真達の前に立ち塞がるのは、6階層と同様のスケルトンとホブゴブリンである。

 しかし今の斗真達にとって、そのどちらが相手であっても既に勝ち方を見い出している為、繰り広げられる戦闘は鎧袖一触その物となっていた。

 後は合間合間にお手洗いや水分補給、武器の簡易清掃を行うのみで、7階層を歩む速度は、6階層の探索時よりも上がる結果となっていた。


「ふぅ。やっぱり2レベルも上がると違いが分かるもんだなぁ。スケルトンの動きが遅すぎて逆に戦い難かったわ」


 斗真は、向かってくる三体のスケルトンの内、一体はシャンに倒される為、他のゴーレム達を置き去りに残る二体に斬り込んだのだが。

 レベルアップと更なる五感の強化を経た斗真には、スケルトンの動作の一つ一つが止まっているも同然となっており、腹部に弱点がある関係上、スケルトンが武器を振り上げるまで剣を振るう事が出来ずにいたのだ。

 勿論今の斗真なら、スケルトンを頭の天辺から股下に掛けて両断する事も出来るのだが。


「そうは言っても、剣を振り上げてさえくれれば一突きで終わる相手に、剣の無駄な消耗は控えたいからな」


 今回の探索に向けて大量の保存食を買い込んだ事からも、斗真は出来る限り下の階層へと進むつもりの様である。

 そしてその為には、剣の無意味な消耗は避けるべきであり、又避けざるを得ない事でもあった。

 斗真は、その事を念頭に置きながら、出来る限り強引な立ち合いは避ける様に意識しつつ、7階層の探索を続ける。


 それからも予定調和のような戦闘を繰り広げながら、7階層も後半へと差し掛かった時、一つの変化が訪れる。


 ――ダッダッダ――


「グギャァァアアッ!」


「ん?あぁホブゴブリンだな。何体だ?」


 ――コンコンコンコン――


「っ!四体なのか?」


 ――コクリ――


 これまでは三体出現であったホブゴブリンが、遂に四体となって斗真達一行の前に現れた。


「四体か。……これまでの戦い方だと一体余るな。ソイツの動き次第で、最悪ゴーレム達が半壊しかねないか」


 コレまで通りの三体出現ならば、斗真が二体のホブゴブリンを屠り、残る一体はゴーレム達が抑えるか、自力で倒すかして対応出来ていたのだが、相手が四体ともなると、ゴーレム達にも二体のホブゴブリンが向かってしまう可能性があり、その場合ゴーレム達が凌ぎきれるかどうかで、その後の戦況が大きく左右される事は必定である。


「今まで通りやるか?……それとも」


「グギャァァアアッ!」


 どうやら斗真に熟考するだけの時間は与えられない様で、斧を振り上げ目を血走らせた四体のホブゴブリンとの戦端が開かれる事となる。


「チッ!やるしかねぇか!覚悟を決めろよ!」


 ――スタッ!!!!!――


 斗真は、自身の視界にホブゴブリンが現れると、ゴーレム達に一声掛けた後、先陣を切る様に駆け出す。


「グギャァァアアッ!」


「ハァァァァッ!」


 雄叫びをあげる先頭のホブゴブリンを相手に、斗真はこれまで通り急加速からの突きを繰り出し一体目の心臓を穿つ。


「グギィィ……」


「グギャァァアアッ!」


 そして、膝から崩れ落ちる一体目のホブゴブリンの直ぐ後ろから、斧を振り下ろしてきた二体目のホブゴブリンに対して、素早く剣を引き抜き、動きを止めないままにその脇を駆け抜けると。


「ハァッ!」


 すれ違いざまに剣を横薙に振るい、その胴体を深々と斬り裂く。


「グギィッ!?」


 それでも一体目とは違い、二体目のホブゴブリンにはトドメを差し切れぬまま、しかし斗真は己の五感が捉える戦況を信じて更に駆ける。


「「グギャァァアアッ!」」


 そう。斗真が感じた戦況とは、四体のホブゴブリン全てが、斗真一人に標的を定めているという物である。しかし己の感覚を信じて駆け抜けた事で、追撃を放つ二体の間合いの外に逃れる事に成功した斗真は。


「上等だオラァッ!」


 双方からぶつけられる殺気に当てられたのか、一際大きな蛮声をあげると、迫る二体を迎え撃たんと間合いを計る。次の瞬間。


 ――スッ!!――


「「グギャァッ!?」」


 ホブゴブリン達に、眼中に無いとばかりに蚊帳の外に置かれていたゴーレム達が、無警戒に背中を見せた二体のホブゴブリンの頭部に、魔法と矢をお見舞いした。

 突然の奇襲となった攻撃を、まともに受けてしまったホブゴブリン達を尻目に、ゴーレム達の動きさえも把握していた斗真は直ぐ様駆け出すと、頭から矢を生やしたホブゴブリンに斬り掛かる。


「ハァァァァッ!」


 頭部に矢を受けた痛みからか、斧を滅茶苦茶に振り回す三体目のホブゴブリンの動きを、しかし完全に見切った斗真は、斧が横薙に振るわれた瞬間、確殺となる刺突を繰り出し心臓を穿つ。


「グッ、ギィィ」


 口から湧き出る様に零れ落ちる、大量の青い血に押し出されるかの如く、小さく呟かれた断末魔を背に、斗真はシャンの火球を受けたホブゴブリンに素早く向き合うと。


「グゥゥッ!」


 火球の炸裂により脳を揺らされでもしたのか、ホブゴブリンはフラフラと覚束無い足取りのまま、何とか斧を構えているだけという状態にあった。


「やたらとシャンの魔法を警戒していたのはこういう事なのか?まぁ、今の内にさっさと終わらせるか」


 その場から動く気配のない否、動く事が出来そうにないホブゴブリンを前に、斗真は油断無く向き直ると、一気に間合いを詰める。


「グギャァァアアッ!」


 眼前に迫る斗真を捉えたホブゴブリンは、乾坤一擲とばかりに斧を唐竹に振り下ろして迎え撃つ。

 だがその軌跡を寸分違わず見切った斗真は、端から見ると酷く簡単そうに受け流し、ホブゴブリンの全身全霊を地面へと導く。


「グギャアッ!?……ギィッ」


 その結果、斗真の眼前で頭を垂れる様な体勢となってしまったホブゴブリンは、残る力を振り絞り何とか視線のみを上げると、憎悪に染まる両目で斗真を呪わんと射抜くものの。


「死ね」


 その昏い眼光を真正面から受け止めた上で、踏み躙る様な言葉を放つ斗真によって、僅かな動揺も与える事は出来ぬまま、断頭の憂き目と相成った。

 そのまま前のめりに倒れる首なしの亡骸を前に、斗真は二体目のホブゴブリンにトドメを刺そうと振り返ると。


 ――ブンッ!ブゥンッ!――


「グギャッ……グッ、ギャ」


 胴体を深く斬り裂かれたせいで、その動きに精彩を欠くホブゴブリンに対して、挟み撃ちを仕掛けたソルジとシフが、難無くトドメ刺しているところであった。


 こうして時間にして一分足らずといった戦闘は幕を下ろした。四体のホブゴブリンという初めての状況を、無傷で難なく切り抜けた斗真達は、更なる自信と新たな立ち回りを脳内に浮かべながら、光に変わり生み出されたドロップアイテムを拾い集める。


 斗真は、ホブゴブリンを相手に完勝を収めたゴーレム達の、どことなく自慢げな様子に苦笑を漏らすと、更なるダンジョン探索へと足を進めた。



是非ともまた、お越しください。

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