第六十七話
読んで頂きありがとうごさいます。
「ん?おぉっ!生きていたかチートーマッ!」
「ホントだぁ!スッゴく汗臭いけどぉ、アンデッドでも無さそうだね!安心したよぉ!」
「えぇ、お陰様で。それと期限を過ぎたのに荷物を預かって貰っていたみたいで、ありがとうございます。臭くてスイマセン」
斗真達が宿に到着する頃、二人の騒がしさを聞きつけていたのか、宿屋の主人であるオーヴァと、その娘のニーナが宿の外まで出迎えに来ていた。
「ハッハァ!気にする事は無いさ!探索の後は人類皆汗臭いものだっ。ニーナだって探索後はいつも汗臭いだろ?」
「お父さんっ!お客さんの前で何て事を言うのよぉっ!看板娘の私に変なイメージが付いて困るのは、この宿なんだからねっ!」
「ハッハァ!そいつは確かに困るなぁ。どれ君達よ、ダンジョン帰りのニーナが汗臭いのは、ここだけの話にしておこうじゃないか」
「だからっ!私に汗臭いイメージを付けないでって言ってるのぉ!」
「ハッハァ!こいつは一本取られたみたいだなっ!」
(いや、別に取られてないだろ。っていうか、ニーナもダンジョンに潜ってるんだな。……あぁ、だからあんなに握力が強かったのか。肩を掴まれた時、滅茶苦茶痛かったもんなぁ。という事はニーナは俺よりレベルが高いって事なのかな?)
斗真は、宿屋親子のやり取りを後目に、ダンジョン潜りが明かされたニーナの実力を推し量っていた。
(鑑定してみるか?……いや、好意で荷物を預かってくれた人達相手に、覗き見みたいな真似をするのもなぁ。……止めておこう。どうしても知りたくなったら、直接聞くなり鑑定の許可を貰うなりした方が良いだろうな)
バレなければ良いと思える程、斗真の内心は腐ってはいない様である。
「そういやぁ、チートーマが帰ってきたと言う事は、お前さん達はまたこの宿に泊まるという事なのかい?」
「え?……そうですね。取り敢えずまた宜しくお願いします」
斗真はオーヴァからの質問を受けてチラリと空を仰ぐと、空一面に煌めく数多の星々を前に、今から屋敷に帰るなどと酔狂な真似をする気は欠片も起きず、このまま宿屋への宿泊を決めた。
「そいつぁ良かった!お前さんの荷物は、まだ部屋に置いてあるから、そのまま同じ部屋を使うといい。勿論、部屋の清掃は完璧に済ませているから、埃一つ落ちちゃいないぜっ!」
「ちょっと、お父さん!部屋の掃除をしたのは私なんだからねっ!私のセリフを取らないでよね!」
「ハッハァ!コイツは又しても一本取られちまったぜ!それじゃあ俺は食事の用意をしてくるから、ここからはお前が案内してやれよっ」
「もっちろん!完璧に案内するわぁっ。お父さんは、美味しい食事の用意をお願いね~」
宿屋親子は、斗真から宿泊の意志を確認すると、それぞれが素早く斗真達を受け入れるべく動き始めた。
「それじゃあお二人さん。早速部屋へと案内しちゃうわねぇ。覚えてるとは思うけど、これも私の仕事だから気にせず付いてきてねぇ。それじゃあ出発~」
「えっ?えっ、お二人さんってあたしもなの?……ねぇいいのチートーマっ?断るなら今だよっ?」
「あぁ、別に構わないから。クレナも気にせず泊まるといい」
「ほっ、ホントにいいの?銀貨5枚もするんだよ?」
「色々と世話になったみたいだからな。それぐらい気にせず受け取ってくれ」
「う、うん。ありがとうチートーマっ!」
斗真はクレナを納得させると、二人連れ立って宿の中へと足を踏み入れた。
「はぁ~い。それじゃあまずチートーマ君はぁ、滞納状態になっている一日分の宿代銀貨5枚を払ってねぇ」
「えっ?あっあぁ。分かった。今財布を取り出すから、ちょっと待ってくれ」
宿に一歩足を踏み入れた瞬間、ニーナに宿代を請求された斗真は僅かに戸惑うも、直ぐに自身が置かれている現状を思い出すと、リュックを下ろしてモンスター素材に埋もれた中から、財布を取り出そうと苦心していた。
「あららぁ~、随分と大量にドロップアイテムを集めたみたいねぇ。分かったわ。宿代は後で纏めて貰うから、先に部屋に案内しちゃいましょう」
ニーナは、斗真が下ろしたリュックの中身を覗き見て、大量の素材を確認した事で代金の支払いを後回しにしてくれた。
「スイマセン。食事の時に纏めて払うんで」
「はいは~い。それじゃあ二人とも一泊で良いのかしら?」
「そうだなぁ。取り敢えずはそれで」
「分かったわ。それじゃあ銀貨15枚を用意しておいてねぇ」
「あぁ。必ず」
ニーナは台帳への記帳を済ませると、二人をそれぞれの部屋へと案内した。
「それじゃあ、お湯を持ってくるからぁ、湯浴みは食事までに済ませておいてねぇ」
「あぁ。そうだ、タオルと追加で石鹸を買いたいんだけど、いいか?」
「勿論よぉ~。タオルは一枚銅貨3枚よ。何枚欲しいのかしら?」
両目を硬貨に変えたニーナの問い掛けに、斗真は思わずクレナに視線を送ると。
「あっ、あたしはちゃんと前のを持ってるから、要らないからなっ!」
「あぁ、じゃあ取り敢えず1枚だけ宜しく」
「分かったわ。それじゃあお湯と一緒に持ってくるわね。それと石鹸はダンジョンからの帰還祝いとして、今回だけサービスしてあげるわねぇ」
ニーナはそう言うと、斗真達に背を向けてそのまま一階へと駆け下りていった。
「あ、あのっ、チートーマ。宿ありがとうね」
「ん?あぁ。どういたしまして」
斗真は、クレナからの感謝に答えると、そのまま自身の部屋へと入っていった。
クレナは、又しても斗真の背中に向けて頭を下げ続けていた。
「さてと、まずは財布を取り出さないと」
斗真は部屋に入るなりリュックを床に下ろして、パンパンに膨れ上がったその中に手を突っ込んで漁ると、何とか財布を発掘する事に成功した。
「はぁ、次の探索の後は絶対に先に組合に行って換金を済ませておこう。ふぅ、今の内に銀貨20枚出しとくか」
斗真は、モンスター素材で満杯のリュックを忌々しげに見つめながら料金の用意を終えると、ニーナがお湯を運んでくる前にリュックをクローゼットに直してから、着替えを取り出した。
着替えを一旦ベッドに置いた斗真は、身に着けていた装備品も纏めて外すと、真剣と収納袋以外をクローゼットにしまい込んだ。
「チートーマ君。お湯を持ってきたから開けるよぉ?」
「あぁ、どうぞ」
斗真の返答を確認したニーナは、前回同様一人で扉を開けると、大きな樽を軽々と抱えたまま僅かも足取りを乱す事無く、浴室へと運んでいった。
(前回は驚いたけど、ニーナもダンジョンでレベルを上げているのなら、これも納得の光景だな)
「あっ、そうだぁ。前に泊まった時のチートーマ君の洗濯物だけど、全部洗い終わってるから後で持ってくるねぇ」
「あぁ、そう言えば。じゃあベッドの上にでも置いといてくれればいいから」
「はぁい。じゃあクレナちゃんの所にお湯を持って行った後に、置いておくねぇ。それと、今回は洗濯どうしますか?」
「今回もお願いするよ。洗濯代って幾らだっけ?」
「そうだねぇ。クレナちゃんの分も含めて銅貨7枚で良いよぉ」
「……はぁ。じゃあそれで」
「はぁい。毎度ありがとうごさいますぅ。じゃあ宿泊費とタオル代と洗濯代込みで、丁度銀貨16枚ですねぇ。忘れずに用意しておいてねぇ」
「それならもう取り出したから、今の内に支払っておくよ。コレで」
斗真は、リュックの中から苦労して取り出した銀貨の殆どを、ニーナへと手渡した。
「はぁい。銀貨16枚丁度頂ましたぁ。チートーマ君ったら用意が良いねぇ。それじゃあ、後で洗濯物を届けに来るから部屋には勝手に入らして貰うねぇ」
「あぁ、はい。宜しく」
斗真は、ニーナに言われてから、前回洗濯に出していた衣類の事を思い出していた。
そして今回も追加料金を支払って洗濯を頼むと、一気に心許なくなった手持ちを気にしつつ、ニーナが部屋から出るのを見届けてから、直ぐ様体を洗うべく愚痴を零しながら浴室へと向かった。
(はぁ、またリュックから銀貨を取り出さないと。って言うかもっと余裕を持って出しておけば良かったんだよなぁ。はぁ、……おっ、石鹸の量が前回より多い気がする。……って事は相当臭うんだろうなぁ俺)
斗真には自覚がないのだが、ダンジョンで散々にゴブリンやコボルトを殺し回った結果、大量のモンスターの体臭と血液と臓物の臭いに、臭覚は碌にその機能を果たさなくなっており、自身の放つ汗臭い体臭や、浴びてしまった返り血が時間経過と共に放つ悪臭などを、それ程強く感じていなかったのだ。
しかしこの程度の臭いなど、組合員相手に商売をしている宿屋親子には慣れっこであったのだが、斗真にとっては、他人から面と向かって汗臭いと言われる経験など皆無であった為、予想以上に心に刺さる結果となっていた。
(はぁ、飯前にしっかりと洗わないと)
斗真は体の隅々を、いつも以上に丁寧に洗い、何度も自身で匂いを嗅いでは、悪臭が消え去るまで体を擦り続けた。
斗真が湯浴みを終えて着替え終わり浴室を出ると、既にベッドには洗濯物が返却されており、更に床には斗真の新しい汚れ物を入れる為の籠が置かれていた。
(いつの間に……。まぁ俺が湯浴みをしている間なんだろうけど。それにしても全然気が付かなかったなぁ。これもニーナがダンジョンで鍛えているからなのかなぁ)
斗真は、ニーナの握力や今回の様な気配の消し方などが、彼女のダンジョン探索における成果なのかと少し興味を抱いた。
(俺もこれから探索を続けていけば、目に見えた成果が得られるのかな?……って言うか俺、自分のステータス全然確認してなかったな。今の内に確認しておくか)
ダンジョン内ではドロップアイテムの鑑定や、ゴーレム達のステータスにばかり気を取られていた為、自身のステータスの事を完全に忘れてしまっていた事を此処に来てようやく自覚した。
(よしっ!【ステータス】!うおっ!マジかっ!)
斗真は、ベッドに寝転びながら自身のステータスを確認すると。
〔ステータス〕
名前:地井・斗真
種族:人間
性別:男
レベル:20
ジョブ:ゴーレムマスター
ジョブスキル:クリエイトゴーレム 合成 修復
パッシブスキル:異世界言語 感覚共有
アクティブスキル:生活魔法 鑑定
(うぉぉぉぉっ!レベルが20まで上がってんじゃん!しかもジョブスキルが増えてるっ!)
斗真は、自身のステータスの大きな変化に、思わず叫び出しそうになるも、何とか溢れ出す興奮を心の中だけに押し留める事に成功した。
「新しいジョブスキルは修復かぁ。どう考えてもゴーレムに使う感じだよなぁ。よし。【修復】!どうだ?」
斗真は早速収納袋と化したハンタに、新たに覚えたジョブスキルを使用してみたのだが。
――…………――
収納袋ハンタからは、何の反応も返って来なかった。
「ハンタ、今何か感じなかったか?」
――フルフル――
斗真は、念の為に再度ハンタに確認するも、ハンタからは芳しい反応は返ってこなかった。
「まぁ、アレかなぁ。ボロボロになったソルジ位じゃないと効果が無いのかもなぁ。修復って名前のスキルだもんなぁ。壊れてないと修復も何もないもんなぁ」
結局新たなジョブスキルは目に見えた形で効果を及ぼさなかったものの、斗真は大凡の効果を予測すると、発動しなかった事に納得を示した。
「まぁ、次の探索の時にゴーレム達がボロボロになる様なら、使ってみれば良いだけだしな。それにしてもあのゴーレム達がボロボロに成る程の戦闘かぁ。絶対ヤバイよな。……でもまぁ、それも俺達が強くなる為には必要な経験になる筈だよな」
斗真は、ゴーレム達に修復を使う為の状況を想像し、思い浮かべた激戦に僅かに身を震わせるも、直ぐ様それも己の糧とする覚悟を決めた。
「それにしても、たった一回の探索でレベルが倍になるのか。流石にチョロ過ぎないかコレ?こうなると次の探索からは、どんどん下の階層に行かないと、ステータス任せの荒い戦い方が身に付いてしまいそうだな。でもそれだと乙女さんには絶対届かないだろうから、次の探索では技術を磨けるようなモンスターが出てくる階層まで進まないとな」
斗真は、自身が二日近くもダンジョン探索を続け、その間ひたすらモンスターを殺し続けた事実を棚に上げて、ダンジョン探索におけるレベルアップの早さに危機感を抱いていた。
「そう言えば、ジョブスキルは発動したけど、感覚共有は発動してたのかな?少なくとも誰かと感覚を共有してる感じはしないんだけど。う~ん、まぁ一応【感覚共有】」
斗真は、取り敢えずといった様子で、収納袋ハンタに感覚共有を使用してみるも。
「……ダメかぁ~。ジョブスキルも使える様になったし、イケるかもと思ったんだけどなぁ。って言うか後はお前だけなんだよ発動しないスキルはさぁ。ホントいつになったら使える様になんのお前?」
斗真は、うんともすんとも言わない自身のスキルに問い掛けるも、返答など返ってくる筈も無かった。
「チートーマ君~!ご飯ですよぉ~!」
斗真が問題児スキルに頭を悩ませていると、部屋の外からニーナが斗真を呼ぶ声が聞こえてきた。
「あぁ、分かった。今から行くよ。……よしっ!悩むのは飯を食べてからでも遅くは無いよな。この宿のご飯は美味しかったし、しっかり味わって食べないと勿体無いからな」
斗真は悩みを一旦棚上げにすると、二日振りの温かい食事に期待を抱きながら部屋から階下へ降りていった。
今の斗真にとって、二日で500を超えるモンスターを殺した事実よりも、練兵場で行っていた模擬戦の方が、印象深い出来事となっていた。
この事から斗真が望む戦闘とは、圧倒的な量よりも濃密な質を求めているという事である。
この世界の人々が、日々の安全と豊かな生活を求めて、命懸けで探索をしているダンジョンという名の魔窟で、効率的な狩りでは無く上質な戦闘を求め始めた斗真は、まさしく求道迷宮の申し子であると言えた。
是非ともまた、お越しください。




