第四十九話
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斗真は、パーラに差し出された組合章を受け取ると、自身の手の中でじっくりとその外観を眺めた。
(コレって石か?こんな小さい組合章を作る為にわざわざ加工したのか?ってかコレ凄い壊れ易そうな感じだけど、ダンジョンに持って行っても大丈夫なのかな?表の模様とか簡単に削れて消えそうだし)
斗真の手の中に有る組合章は、掌に収まる程度の大きさで、斗真が感じた通り石を材料に作られていた。そして組合章の正面に描かれている紋様はダンジョン組合を示すもので、この紋様が無ければ形の整った只の石にしか見えない程度の物であった。
組合章を受け取ったまま動かなくなった斗真を見て、パーラは小さく苦笑を浮かべると、斗真に組合の規則について話し始めた。
「チートーマ君。その組合章だけど無くしたり壊したりしたら、再発行に銀貨10枚が必要になるから気を付けてね。それとランクアップする時は、新しい組合章との交換になるから、紛失した後にその事を隠していたら、ランクアップ出来なくなっちゃうかも知れないから、無くした時は正直に白状してね」
「銀貨10枚ですか……ってランクアップですかっ?それってどんな制度何ですか?」
斗真は組合章の取り扱いよりも、ランクアップという男心を擽る制度に興味津々となっていた。
「全く男の子はもう、まぁいいわ。ランクアップと言うのはね、この都市のダンジョン組合に所属している組合員の実力を、分かり易く他者に示す為の物なの。この国では組合員が攻略しているダンジョンの5階層毎に、10段階の組合章を渡しているのよ。これはこの国の初代王様が、王都のダンジョンの50階層まで攻略した事から付けられた基準よ。因みに登録したてのチートーマ君は、最下級ランクのストーンよ。これはダンジョンの1階層から5階層迄の組合員に渡されている物ね」
「じゃあ俺がダンジョンの6階層に到達したら、新しい組合章を貰えるって事ですか?」
「えぇそうよ。ストーンランクの次はブロンズランクよ。チートーマ君のレベルか本当に10なら、一緒にダンジョンに潜る仲間を見付けて、パーティーを組む事さえ出来れば、それ程難しい事では無い筈よ」
「仲間かぁ……」
斗真は、パーラから助言に僅かな戸惑いを見せた。
それはボッチ気質の斗真からすると、命懸けとなるダンジョン攻略に、わざわざ良く知りもしない人間と潜るなど、逆に足枷にしか成らないのではないか、と思ってしまったからである。
「チートーマ君。これは色々な組合員を見てきた私からのアドバイス何だけど、もし誰かとパーティーを組んでダンジョン攻略をするのなら、その時はパーティーメンバーには、ちゃんとしたジョブを伝えるのよ。今は未だ一人みたいだから良いのかも知れないけど、何時までも子供みたいに、自分は特別なジョブなんだって遊びからは卒業した方が良いわよ。これからダンジョンに潜るなら、本当に命懸けに成るんだからね」
「あっあぁ、はい。心配してくれてありがとうございます」
斗真は、パーラの革袋を押し売りしていた時とは別人の様な、心の底からの親切な助言を受けて、素直に感謝の言葉を返しつつも、ダンジョン攻略には一人で挑む事に決めた。
(だって俺、本当にゴーレムマスターなんだもん。どうしようもないぞコレ。仮に仲間に成る奴に嘘のジョブを伝えても、本来そのジョブの奴が使える筈のスキルを、俺が使えなかったりでもしたら、その瞬間終わりだろ。しかも命懸けのダンジョン攻略に、嘘吐いて周りを巻き込んだ、何て思われたら洒落にならんしな。だったら最初から一人で挑んだ方が気が楽だし、わざわざ吐かなくても良い嘘を、無理して吐く必要も無くなる訳だしな)
斗真は、ダンジョン攻略における方針を決めると、パーラにこの都市のダンジョンについて話を聞いた。
「えっとパーラさん。ダンジョン攻略のパーティーについては、良く考えてみます。それでこの都市にある、三つのダンジョンについて聞きたいんですけど」
「はぁ、まぁいきなりこんな事を言われてもそうよね。分かったわ。先ずは私が一通り話してあげるから、分からない事が有ったら質問してちょうだい」
パーラは、斗真がパーティーを結成する為の助言を全く求める事無く、直ぐ様ダンジョンの話を持ち出した事で、自身の助言が余り斗真に響かなかったものと考えていた。
そしてそれも仕方が無い事かと割り切ると、この都市にある三つのダンジョンにおける、基本的な情報について斗真に話した。
「この都市にあるダンジョンにはね、それぞれ名前が付けられているのよ。都市の西側にある二つのダンジョンの内の、一つが資材迷宮でもう一つが食材迷宮と呼ばれているわ」
パーラの説明によると、資材迷宮は30階層迄が固定されていて、その殆どの階層で木材や石材などになる、アイテムをドロップするモンスターが出現する事から、人気の高い迷宮の一つであるそうだった。
食材迷宮は、資材迷宮同様30階層迄が固定されていて、その殆どの階層で、食用肉や毛皮などをドロップするモンスターが出現する事から、此方も人気の高い迷宮であるのだそうだ。
「この二つのダンジョンは、毎日多くの組合員が潜っているから、人気の階層や浅い階層なんかでは、もうモンスターの取り合い状態よ」
「成る程。じゃあもう一つのダンジョンはどんな感じ何ですか?」
斗真は、二つのダンジョン内が人でごった返す光景を幻視すると、取り敢えずその二つのダンジョンは、攻略する候補から外したいと思い、最後のダンジョンに望みを託した。
「最後のダンジョンは、この都市の東側にあるんだけど、そこは通称求道迷宮と呼ばれている不人気ダンジョンでね。西側にある二つのダンジョンに比べて、ドロップするアイテムが余りお金にならないのよ。だから求道迷宮に潜るのはレベルを上げたい人が殆どで、それもチートーマ君みたいに組合に登録したばかりで、レベルやランクが低い子供達ぐらいなのよね。後は二つのダンジョンでモンスターの取り合いに疲れたり、負けてしまったりした人達が、少しでも稼ぐ為に取り敢えず潜るといったぐらいかしら」
「ほう!それはそれは……ってそんな状態でスタンビートが起こったりしないんですか?」
「えぇ。それは当然誰もが危惧する事よね。だからこそ、この都市を治めておられる代官様は、定期的にこの都市の領軍を求道迷宮に送り込んで、モンスターの間引きを行っているのよ。それに王都からも定期的に、迷宮騎士団の人達が間引きに来てくれるのよ。そのおかげでこの都市は、三つもダンジョンを抱えていながらも、スタンビート知らずの安全都市として栄えているのよ」
パーラの説明からは、自身が暮らす都市に対する強い愛情や誇りが感じられた。思えば彼女はこの都市の事を迷宮都市や安全都市などと呼ぶ事はあっても、只の一度も辺境都市とは言わなかったのだ。
この事に気付く事が出来た斗真は、頭の中から辺境都市という言葉自体を消し去った。
(口が裂けても言っちゃいけない言葉だな。マジで注意しないとな)
「えっとパーラさん。ダンジョンの事は良く分かりました。色々と参考にさせてもらいます。それでダンジョンで手に入れたアイテムは、此処に持ってくれば買い取って貰えるという事ですか?」
斗真は、既に自身が潜るべきダンジョンを定めた事で、今度はドロップアイテムの扱いについて質問した。
「ふふっ違うわよ。此処は飽くまでも新人の登録や、ダンジョン以外の依頼を受け付けるのが主な業務なのよ。ドロップアイテムの買い取りは、ダンジョンがある地区にそれぞれ組合の支店があるから、其方で受け付けているわ。ダンジョンから近い場所にあるからとても便利なのよ」
「そうなんですか。因みにダンジョン以外の依頼ってどんな物が有るんですか?」
「そうねぇ。大体は他の都市へ向かう商隊なんかの護衛依頼だったり、都市内での簡単なお使い程度の雑用だったりといった物ばかりね。稀に都市外で発見されたモンスターや、盗賊の討伐依頼が来る位かしら」
「都市外にはモンスターは少ないんですか?」
「ん~少ないというより、都市外のモンスターや盗賊なんかは、領軍が演習代わりに討伐するから、その手の依頼は余り一般には回ってこないのよ。それでも領軍の兵士がダンジョンの間引きをしている時には、稀にだけど討伐依頼が来たりする位かしらね」
「成る程。余り俺には関係無さそうですね」
「ふふっ。そうだと良いわね。でもねチートーマ君。もしダンジョンで稼ぐ事が出来なかったら、迷わず此処の依頼を受けるのよ。雑用が殆どだから報酬は安いしランクも上がらないけど、それでも命の危険だけは殆ど無いんだからね」
「……はい。その時はパーラさんの助言に従います」
斗真は、パーラからの憂いを帯びた視線を受けて、今度は真剣に考えると、その様に返答した。
斗真はそれからもパーラから、一通りのダンジョン組合関係の話を聞き終えると、その場を後にした。
「それじゃあパーラさん。今日は色々とありがとうございました」
「良いのよ。これが私の仕事だから。チートーマ君も分からない事が出来たりしたら、遠慮無く聞きにおいでね」
斗真は、ダンジョン組合から外へと出ると、既に空は完全に茜色へとその姿を変えており、斗真が屋敷に戻るまでに残された時間の短さを如実に示していた。
(やべぇな、暗い中であの鍵地獄はごめんだぞ。後今日の内に済ませといた方が良い事って何があったっけ?)
斗真が、頭の中でこの後にやるべき事を考えながら宛も無く歩いていると、何処からか聞き覚えのある声で話し掛けられた。
「おっおいっそこのアンタっ。アンタだよアンタっ。黒髪の旦那っ。……えっ!?マジで聞こえてないの?おっおいって!」
「……はぁ、一体何の用なんだ?突然逃げ出した少年」
斗真は、声を掛けて来たダンジョン組合迄案内をしてくれた子供に、厄介事の匂いを感じていた為、敢えて無視していたのだが、いきなり足に抱きつく様に迫られた為、無視し続ける事も出来ずに、やむなくその子供と向き合う事になった。
「っな!少年って……いやっ!そんな事はどうでもいいんだ!かねっ!案内したんだから金出してよ!」
二人の遣り取りに、というよりも子供の剣幕に厄介事の匂いを感じたのか、周囲にいた者達は一様に二人から距離を取り、足早にその場から遠ざかって行った。
「……はぁ、分かったよ。それで幾ら何だ?」
「えっ!?くれるのか!?じゃっじゃあ鉄貨……いやっ!銅貨だっ!銅貨……一まっ……二枚だ!」
「ああ銅貨二枚だな」
「えっ!?ホントにっ!?」
斗真は、目の前で行われた露骨なまでの価格の吊り上げに、怒りよりも先に呆れの感情が立ってしまい、その金額がそれ程高くない事もあって、さっさと子供の望む額を渡して別れてしまおう等と、まるで女癖の悪いチャラ男の様な思考で話を進めた。
(はぁ銅貨二枚か、銀貨を何処かで崩さないとな。両替の手数料って幾ら何だろう?……はぁパーラさんに聞いておくべきだったよなぁ)
斗真は、銀貨を崩す為の両替屋を探そうとするも、両替屋など日本ですら見掛けた事が無い為、宛も無く視線を周囲に撒き散らす事しか出来なかった。
そんな斗真の視線が、一つの屋台を捉えた。
(そうか!別に両替屋なんか探さなくても、買い物をしてそのお釣りから銅貨二枚を渡せばいいんだ!)
斗真は、そんな簡単な事にようやく思い至ると、その足を見つけた屋台へと向けて進み出した。
「おっおい!何処に行くんだ?未だ銅貨二枚貰って無いぞっ。あっアレなら銅貨一枚でも貰えたら……っておい!聞けよっ!」
突然歩き出した斗真に驚いた子供は、斗真の様子に何を思ったか急に値下げを始めようとするも、斗真が振り向きもせずに歩き続けている事に気が付くと、急いでその背中を追い始めた。
「いらっしゃい!……ん?お前さんは新顔だな?どうだい。ウチの自慢の串焼き買っていくかい?」
「どうも。これは何の串焼き何ですか?」
「おん?何だい、坊ちゃんは良いトコの子かい?こいつぁマッドマウスの串焼きよ!安くてデカくて不味くはない!懐の寒い庶民の味方といやぁコイツで決まりよっ!どうだい坊ちゃん、今なら特別価格で串焼き二本で銅貨三枚で良いぜぃ」
「えっと、じゃあコレで串焼き二本下さい」
「ヘイ毎度っ。そんじゃあ串焼き二本にお釣りの銅貨七枚だ。気に入ったら又来てくれよなっ」
斗真は、二本の串焼きと銅貨七枚を受け取ると、取り敢えず銅貨を素早く革袋に入れ直してから、串焼きを片手にその場を離れた。
そして斗真の後ろを、串焼きに目を奪われたまま、何も話さなくなった子供が付いて行った。
斗真は、屋台から少し離れた人通りが少ない場所で歩みを止めると、後ろを振り返り今となっては、銅貨よりも串焼きにゾッコンとなっている子供に向き直った。
「ほら少年。良かったら一本食べないか?」
「えっ良いの!?」
「あぁ。折角なんだ一本ずつ食べよう」
「うそっ、こんな事って……うぅ、アンタがそこまで言うなら貰ってやるよぉうぅぅぅうまぁぁい」
斗真から串焼きを渡された子供は、受け取った次の瞬間には串焼きに齧り付いており、その口からは嗚咽にも似た歓声が上がっていた。
斗真は、そんな子供の様子を注意深く見つめて、その表情や言葉に嘘が含まれていないと判断すると、自身も買ったばかりの串焼きに齧り付いた。
斗真は、この世界に召喚されて初めて食べる庶民の味に、僅かばかりの期待を寄せて頬張った。
是非またお越しください。




