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第四十八話

読んで頂きありがとうごさいます。

 

 斗真が敷地の外へと歩き出してから凡そ30分、ようやく斗真の視界に住宅らしき建物が現れた。


(あの屋敷が盗賊に襲われなかったのって、単純に遠いからじゃねぇのかッ!?つうかあんな所に屋敷があるって、この都市の人間は知ってんのかよ!?ざっけんなよッ!もう夕暮れ時じゃねぇかッ!)


 斗真が空を見上げると、僅かにではあるが空には茜色が見え隠れし始めていた。

 斗真は少し早足で歩き出すと、とにかく人気の無い現在地から離れようと道沿いに進んだ。


 それから更に10分程歩いて、ようやくこの都市の異世界人とすれ違える場所まで来た斗真は、既に達成感に満たされ始めていた。


(はぁ、何かもう帰って良い気がするな。もう十分だろ。めっちゃ歩いて疲れたし。今なら日が落ちきる前に屋敷の鍵も空けられるだろうし…………いやまぁ行くけど)


 斗真は今すぐ引き返したい欲求に捕らわれかけたのだが、今から帰ってまた屋敷の鍵と格闘しなければ成らない事に考えが及ぶと、僅かに悩んだ末に前進する事を選んだ。


 それから斗真が道なりに歩いていると、ようやくこの都市の生活圏へと辿り着いた。

 どうやらこの都市の建物は、石造りと木造が殆どの様であった。

 多くの建物が木造の中、より大きくて外側から見ても、何処と無く重要そうな建物が石造りの様で有った。

 斗真は、そんな都市の様子を興味深げに見回していると、ふと重要な事を思い出した。


(あっ、そう言えばダンジョン組合って何処にあるんだろ?……はぁ、何でトマトムジジイに聞かなかったんだ俺。あぁどうしよう。取り敢えず誰かに聞くしか無いか)


 斗真は、辺りを見回して話しかけ易そうな人を探してみるものの、その全てが初見の外国人という時点で、誰に話しかけても難易度は同じではないかと思い直した。


 取り敢えず眼があった人にでも話し掛けようと、街中で他人に絡む不良の様な思考を基に、周囲に視線をガンガン飛ばし始めた斗真に、声変わり前の様な高い声で何者かが話し掛けた。


「おいおい、そこの黒髪のアンタ!何か探し物か?それとも人捜しか?それなら俺に任せてみないか?今なら安くしとくぜっ!」


 斗真が声の主を探して視線を下に向けると、そこには薄汚れた服に身を包んだガリガリの子供が、ボサボサで伸びきった髪の毛から見える、真ん丸な瞳だけをギンギンに滾らせた状態で、斗真からの返答を待っていた。


「あぁ。ダンジョン組合を探していたんだけど知ってるか?」


「ッ!あぁ!勿論さ!直ぐに案内するよ!付いて来なッ!」


 斗真の返答を聞いた子供は直ぐ様背を向けると、案内料の提示もせずにダンジョン組合に向かって歩き出し、斗真を案内し始めた。


(コレって付いて行っても大丈夫なのか?……まぁ他に宛も無いし別にいいっか)


 斗真は僅かに逡巡したものの、結局は誰に聞いても同じだろうと考えて、子供の背中を追う事にした。

 斗真を案内する子供は少し興奮気味の様子で、何度も振り返って斗真の姿を確認しては、その度に周囲の屋台へと視線を向けて、ぐふぐふと押し殺した様な笑い声を上げていた。


(……買ってくれって事なのかな?いやでも頼まれた訳でも無いしなぁ。それに何かずっと笑ってるし、違うのかな?……外国の子って変わってるし、よく分からねぇな)


 斗真は、子供の後ろ姿を見ながらその思考を読もうとするも、外国どころか異世界の子供の考えなど分かる筈も無く、それどころか日本の子供の考えも分からない斗真には、他人の思考を読む事自体が端からムリゲーでしか無かった。


 そんな子供と斗真の二人組は、周囲の視線をそこそこ集めながらも、無事ダンジョン組合へと到着した。

 斗真の目の前に現れたダンジョン組合は、二階建ての木造建築で、その広さは斗真の住み始めた屋敷の半分程であった。


「ほっホラッ!此処がダンジョン組合さっ。どうだい役に立っただろ!だからお金!報酬を寄越しなよ!」


 斗真をダンジョン組合に案内し終えた子供は、満面の笑みを浮かべると、そう大声で言い放った。


「あぁ。それでいくら「何してんだい!こんな所で!」なっ何だ?」


 斗真が子供の見事なえびす顔にドン引きしながらも、案内料を払おうとしたところ、ダンジョン組合から年嵩の女性が大声を上げながら二人の前に現れた。


「何って今この子に案内料を……って何処に行くんだ!?」


 斗真が一歩前に出て女性に説明しようとした瞬間、さっきまで満面の笑みを浮かべていた子供は慌てて踵を返すと、そのまま人混みに紛れる様に走り去って行った。


「あぁ……以外と足が速いなあの子供」


 斗真が走り去る子供の背中を見失うと、同じく子供の背中に視線を向けていた女性が、改めて斗真に視線を向けると自己紹介を始めた。


「突然驚かせて済まないね。私はダンジョン組合の受付嬢をやってるパーラってもんだよ。ところアンタはこんな時間に何しに此処へ?」


「あぁ、どうも初めまして。俺は登録に来ました。えっと地井斗真って言います。宜しくお願いします」


「アラっ?珍しい名前ね。それにちゃんと挨拶も出来るのね。分かったわ。登録に来たのなら付いてらっしゃい。私が案内してあげるわ」


 パーラは突然口調を変えると、踵を返して建物に入っていった。

 斗真は、慌ててその後を追う様にしてダンジョン組合へと足を踏み入れた。


 ダンジョン組合の中はスッキリとした印象で、入って直ぐの左手側に複数の受付が有り、右手側には待合い用の椅子が並べてあった。

 一階から見える限りにおいては、二階の間取りも同様なのではと斗真には思えた。

 斗真の視界に映るのはこういった光景ばかりで、斗真以外の利用者は特に見当たらず、おそらく仕切りで区切られた先には、組合の職員が過ごす空間が有るのだろうと、斗真は当たりを付けた。


「さぁ此方へどうぞ。ちゃっちゃと登録しちゃうから早く早く」


「はっはい」


 受け付けに座ったパーラに急かされた斗真は、組合内から視線を切ると直ぐ様パーラの元へと向かった。


「それじゃあ先ず、組合への登録料の銀貨一枚を払ってね」


 どうやらダンジョン組合には登録料があり、その値段は銀貨一枚であった様だ。


「あっ、えっと今金貨しか無いんですけど大丈夫ですか?」


「はい大丈夫でえっ?金貨?今金貨って?」


「えっと、はい。では此方でお願いします」


 斗真は、パーラの明らかな困惑を意図的に無視して、何かを言われる前にパーラに金貨を押し付けた。


「あっホントに金貨。ッ!てあなたっ!本当に今コレしか無いんでしょうね!」


「本当ですよ。何なら見ますか俺の財布?」


「ぐっ………………分かったわ。お釣りを持ってくるからちょっと待ってなさい」


 パーラは何故か悔しげな表情を浮かべると、斗真の財布の中身を確認する事無く、金貨を握りしめて仕切りの奥へと消えていった。


(まぁうん。分かるよ。お釣りの用意面倒くさいよな。銀貨99枚だもんな…………うんゴメンナサイ)


 斗真の考えは、当たらずとも遠からずといった所であった。

 実際にパーラが何を悔しがっていたかというと、端的に言うと両替料に纏わる事情である。


 日本では未だ高校生であった斗真には、余り想像し難い事では有るのだが、この世界においては金銭の両替には費用が掛かるのだ。

 更にこの世界の人々は、その社会的な階級とそれに伴う生活水準ごとに、使用するお金の種類がほぼ固定されていた。

 それこそ先程斗真が差し出した金貨などは、普段使いには額が大き過ぎて、一般庶民では一生の中でも殆ど使う事が無い様な硬貨であった。

 それこそ此処に来る迄に、斗真が眼にしてきた屋台などで金貨を使おうものなら、どの店もお釣りを用意する事が出来無いが故に、商品を売ってはくれないだろうし、場合によっては店ごと買い取るしか無くなる様な有り様であった。

 それではこの様な場合にどうするのかというと、先で示した通り両替屋に行き手数料を払って、小さな額の硬貨へと交換してもらうのだ。


 では何故先程パーラが悔しげな表情を浮かべたかというと、ダンジョン組合の規則に『登録料の最初の一回のみ金貨での支払いを許す』という文言が存在するからであった。

 本来ならダンジョン組合でも手数料を取って両替をするところ、今回の斗真の場合はその規則に則って、無料での両替を引き受けなければならなくなったのだ。

 それが他の誰かならばともかく、自分自身がタダ働きをさせられるとあっては、ダンジョン組合の顔でもある受付嬢が、その顔を著しく歪めたとしても、誰もが責め難い事であった。但し決して責められない訳でも無いのだが。


「ハイハイお待たせしましたぁ。此方がお釣りの銀貨99枚になりまぁす。お確かめ下さぁい」


「はっはい。ありがとうございます。お疲れ様です」


 露骨なまでに自身の疲労感を前面に押し出しながらお釣りを用意したパーラは、四角いお盆の上に銀貨を10枚ずつ重ねて並べていた。


 斗真は、目視でその数を確認すると、銀貨を受け取ろうとしてある事に気が付いた


(あっ、こんな量の硬貨俺の財布に入らないぞ。どうしようコレ)


 斗真が財布代わりに使っているのは、アレキサンダー王が金貨10枚を入れる為に用意した革袋で、その大きさはどう大きく見積もっても、硬貨が20枚も入れば上々といった物であった。


 銀貨の山を前に動きを止めた斗真に、何時の間にか目を爛々と輝かせたパーラが、二枚の革袋を手に持ったまま斗真に話し掛けた。


「お困りの様子の其処のアナタ!貴方だけに今だけ特別っ!特別価格で此方の革袋をお売り致しますよっ!今ならこの丈夫で柔らかな革袋一枚が何とっ!銀貨五枚!銀貨五枚ピッタシでお売り致します!どうですか?今だけ!今だけの特別価格ですよっ!チートーマさんっ!」


(あっ、押し売りには明確に拒絶を示さないと。って誰がチートーマだっ!……まぁ俺の名前って同じ日本人でも呼び辛いらしいから、仕方無いのかなぁ。っていうかいきなり押し売りかよ。……でもどのみち銀貨を入れる為の袋は必要だから、一つは買っておくべきなのかもなぁ)


 斗真は、いきなり始まったパーラの押し売りに、反射的に拒否を示そうとするも、実際に現在斗真が必要としている物である上に、よくよく考えれば特に大きな損も無さそうだったので、大きな方の革袋だけ購入する事にした。


「じゃあその大きな革袋の方を下さい。銀貨五枚ですね。どうぞ」


 斗真は、銀貨の山から五枚だけ取ると、そのままパーラへと手渡した。するとそれを受け取ったパーラはニヤリと笑みを浮かべると、買ったばかりの革袋に銀貨を入れ始めた斗真に対して、少し前のめりになりながら押し売りを続けた。


「チートーマ様。本当に其方の革袋だけで宜しいのですか?」


「えっ?はい。この通り全部入っているので。しかも未だ余裕が有りそうですし。良い買い物でした。ありがとうございます」


 さっさとこの話を終わらそうとする斗真を、しかしパーラは逃がさぬとばかりに、更にその身を乗り出して熱弁を振るった。


「チートーマ様。これからお買い物を為さる度に、その様な大きなお財布を取り出す御積もりですか?それは些か不用心が過ぎるかと思います。その様な姿を衆目に晒すなど、襲ってくれと自ら主張している様なもので御座いますよ。悪い事は申しません。どうか此方の革袋も購入為さって下さい。そして銀貨を小分けにして、お買い物を為さる際に使用する為の、専用のお財布としてお使い下さい。これは私の親切心から申し上げているのです。どうか誤解無き様お願い致します。飽くまでもチートーマ様の身を案じる私の親切心なのです」


(うぅ~ん、確かに何か買う度にコレを取り出すのは不味いかなぁ。……でもなぁ、あの小さな革袋に銀貨五枚の価値って有るのかぁ?……まぁ良いか。金額はともかく、持っていた方が良いのは間違い無さそうだし。未だ金貨にも余裕は有るんだし、今の内に買っとくか)


 斗真は、パーラの助言の内容に一定の理解を示すと、立て続けの散財に僅かに躊躇したものの、逆に予算に余裕のある今の内に買っておく事に決めた。


「じゃあコレで」


「はいっ!ありがとうございます!それでは書類を用意してきますね」


(はぁ……あっ、そういえば海外では値引き交渉が基本って何かで言ってたような……イヤ無理か。あの人からは値引き所か、買うのを拒否するのも難しそうだ)


 斗真が、買い取った革袋に銀貨を小分けにしている間に、パーラは書類の用意を終えると、満面の笑みを浮かべてスキップをしながら、斗真の前の受付まで戻ってきた。


「それじゃあ先ずはこの書類に記入をお願いね。文字が書けないなら代筆してあげるから遠慮無く言ってね」


「あぁ、多分書けますから大丈夫です」


 斗真は、戻ってきたパーラの様子に、仄かに芽生えた苛立ちを何とか押さえ込むと、パーラが差し出した書類に視線を落とした。

 斗真はパーラの提案に一瞬迷ったものの、この世界の文字が読めるのなら、当然書けもするだろうという穴だらけの理論のみを頼りに、差し出された書類を受け取った。

 そこに記されていたのは、名前と年齢にレベルとジョブを書く欄が有るだけの、極めて簡素な書類であった。


(これだけなのか。スキルを書く必要は無いんだな。それにしても日本の履歴書とは大違いだなぁ。まぁどっちが良いのかは分かんないけどさ)


 斗真は、渡された書類にコレ又渡された鉛筆の様な物で、それぞれの項目に記入していった。


(おっしゃぁ!やっぱり書けたぁ!俺の勝ちぃ~)


 斗真は、自身が思い浮かべた内容を書類に書こうとすると、何故か漢字ではなく異世界の文字になる不思議現象を前に、少しテンションが上がっていた。


 斗真は書類に記入し終えると、名残惜しげに自身が書いた異世界文字を見直した後、パーラへと書類を鉛筆ごと手渡した。


「はい。しっかり記入されている様ですね。まぁ、これが本当の事ならですけどね。……ああ別に書き直す必要は有りませんよ。変なプロフィールを書いても、損をするのは本人だけですからね」


 パーラは、斗真から渡された書類に素早く目を通すと、少し苦笑を浮かべた後で、仕方無さそうに斗真に言った。


(ん?本当の事しか書いて無いんだけど……まぁいっか登録出来るんなら。そもそも証明の仕様も無いしな。はぁ)


 斗真は、間違い無く自身のジョブのゴーレムマスターが疑われたのだろうと確信していたが、同時に自身が、真実ゴーレムマスターであると証明する手立てが無い事も理解していた。


 斗真が僅かにやるせない気持ちを抱えていると、パーラが受付の中で何やら作業をしている事に気付いた時には、パーラの手には小さなバッジの様な物が握られていた。


「お待たせしました。此方がチートーマ君の組合章になります」

 


これからもお読み頂けたら幸いです。

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