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第二十五話

読んで頂きありがとうごさいます。

 

 斗真はあらゆる用を足し終えると、小部屋から出てリリーに後の事を頼んだ。

 リリーの表情からは、特別嫌悪感の様なものは見受けられなかったが、斗真は一人居心地の悪い思いを抱いていた。

 ベッドに寝転がった斗真は、現実逃避も兼ねて今日の事を思い返し始めた。


(そういえば、最終的にレベルってどこまで上がったんだろ?あの後も結構模擬戦したから、期待できそうだよな!夕食前に確認しとこ。【ステータス】)


 斗真は僅かに否、大いに期待に胸を膨らませながら自身のステータスを確認した。


(うおっ!?レベル5まで上がってんじゃん!一日で5も上がるのかよ。確か5日間でレベル10まで上げるんだよな?という事は、後4日間で残りの5を上げるのか。かなり上がり難くなるんだな)


 斗真は、暫くの間レベルアップに思いを巡らせていると、思い出したかの様にジョブスキルの発動に挑戦した。


(あっ!そうだっ。【クリエイトゴーレム】!【クリエイトゴーレム】!【クリエイトゴーレム】!……ダメか、いや明日またエリックさんが色んな素材を持ってきてくれるらしいから、その時また試そう)


 斗真が、沸き上がる落胆を押し流して気持ちを切り替えていると、リリーが声を掛けてきた。


「斗真様、夕食の用意が整った様です。今から食堂へ参りますが宜しいでしょうか?」


「あぁ、勿論。直ぐに行こう」


 斗真は、ベッドから起き上がり身嗜みを整えてから部屋を後にした。


 食堂に辿り着いた斗真が中に入ると、昨夜と同様既にアレキサンダー王は席に着いており、その正面に座る勇人や聖子と会話を楽しんでいた。

 斗真の到着に気付いた乙女と目礼を交わしていると、アレキサンダー王が斗真に声をかけた。


「おお、よう来た斗真。早よう座るが良い。夕食までは、今暫く待っていてくれ」


「遅れてすいません。失礼します」


「何、構わぬよ。それにまだ全員揃ってはおらぬでな、今暫く会話を楽しみながら待とうではないか」


 アレキサンダー王は、斗真の謝意に鷹揚に頷くと、再び救世主達と会話を始めた。

 アレキサンダー王の言葉どおりに、未だに賢治と大地が到着していない様で、それ故にテーブルの上にも夕食はまだ配膳されていなかった。


「えっ!?じゃあこの世界には、エルフとか居ないんですか!?」


「うぅむ。少なくとも儂は、その様な者達の存在を聞いた事は無いのう」


(モンスターがいるのに人間しかいないのか。じゃあ何でステータスに種族なんて項目がわざわざあるんだ?無くてもよくね?どうせ皆人間じゃん)


 どうやら今日のアレキサンダー王達は、日本の事では無くこの世界の事について話していたようだ。

 勇人達が驚いたように、どうやらこの世界には地球と同様に人間族しか居ないようであった。


 日本で割と一般的に知られている幻想種族の中でも、エルフのみを挙げた勇人の意図が何処にあるのかはさて置いて、アレキサンダー王の返答には、この場にいる救世主達全員が驚いていた。


 アレキサンダー王の話では、少なくともこの国において、その様な幻想種族の話は、過去の文献などにも載ってはいないのだそうだ。


 落胆を覗かせる救世主達をよそに、アレキサンダー王は話を変えるために、少し早いが元々今夜するつもりだった質問をした。


「そういえば、そなた達は今日一日訓練をやってみて如何であったかの?何か新たに掴めた事等はあったかのぅ?」


 アレキサンダー王の問い掛けに含まれる意図に気付いた救世主達は、それにしっかりと乗っかると話し始めた。


「そうですね。俺は戦闘訓練を受けるのは初めてだったけど、結構楽しかったですね。レベルも3まで上がりましたし」


「ほぅ。一日でレベルを3も上げたのか。順調そうで何よりじゃな。聖女様は如何であったかの?」


「……はい。私もレベルが3上がっておりました。盾を構えて防御に専念していただけですので、少し驚きました」


「ほぅほぅ。聖女様は、ダンジョンにおいても後衛となるじゃろうから、今からしっかりと盾の使い方を学ぶのは良い事であろうな。うむ」


 アレキサンダー王は、この様な形で食堂にいる救世主達に今日の訓練内容やその成果について話を聞いていた。

 そして驚いた事に、レベルが5まで上がっていたのは斗真と乙女のみで、後は全員がレベル3であったのだ。

 他の救世主達が斗真と乙女に驚愕の視線を送る中、アレキサンダー王は、両者のレベルアップの違いについて予想を交えて話し始めた。


「うむ。そなた達が持つジョブの違いからくるものなのか、単純に訓練の度合いによる違いなのかは、現状でははっきりとは分からぬが、それにしても素晴らしい事じゃ。僅か一日でレベルを5も上げてしまうとは、これは何とも頼もしい事じゃのう。うん?おぉ大地殿に賢治殿、これで皆揃ったようじゃな。では、夕食にするとしよう」


 アレキサンダー王は一息に言い切ると、それに合わせて給仕達が一斉に大量の食べ物をテーブルへと配膳し始めた。

 遅れてきた二人が席に着く頃には、既に全てのメニューが配膳し終えており、そのままの流れで夕食は始まりを告げた。


「おい大地、それに川上君も流石に遅すぎるぞ」


「わりぃわりぃ。ちょっと野暮用が盛り上がりすぎてな」


「ブッ!大地っ!お前は毎度毎度いい加減にしろよっ!」


「何だよ、俺にだけ言うなよな。そこのガリ勉も同じだろうが」


「君と一緒にしないで下さい。僕は少し疲れたので仮眠をとっていただけです」


「ハッ!ガリ勉は大変だな。あの程度でヘタるなんてよっ」


「おい大地やめろっ!疲れているのは皆一緒だろ!川上君だけを見下すような言い方は良くないぞっ!」


「悪かった悪かったよ。そんな怒るなよ勇人。これからはガリ勉にも優しくしてやるからよっ」


「うぅむ。そなた達が疲れておる中、わざわざ食堂まで来て貰うのは儂としても忍びないのじゃが、これもそなた達の事をよく知る為であり、加えてそなた達に我等の事をよく知って貰う為でもあるのじゃ。大変心苦しいのじゃが、どうか付き合っては貰えぬであろうか」


 アレキサンダー王の心底申し訳無さそうな問い掛けに、勇人は慌てたように返答した。


「勿論ですよ陛下っ。俺達もこの世界の事をもっとよく知りたいですし、それにここでの食事はとても美味いですからっ」


「そうか。勇人殿にそう言って貰えると我等も嬉しく思うぞ」


 何とか食堂内の空気を明るく持ち直した一同は、先程のやり取りを忘れるように会話に花を咲かせた。

 度々大地が賢治を挑発するような言動を取るも、賢治は本当に疲れていた様で、特に反応を返す様な事も無く、それにより結果的に夕食会は、和やかな空気のまま終わりを告げた。


(今日も魚は出なかったなぁ。まぁどうしても食べたい訳じゃないから良いんだけど。それにしても俺と御剣さんだけがレベル5か。間違いなく訓練の差だろうな。俺達の中で差が出るとしたらそれぐらいだもんな。よしっ、明日からの模擬戦も気合い入れてやるか!上手く行けば最終日迄にかなりレベルアップする事が出来そうだもんな)


 斗真はさっさと部屋に戻ると、歯を磨き翌朝の起床時間をリリーに伝えて、ベッドでゴロゴロしている内に眠りについた。


「斗真様。おはようございます。起床時刻になりました。起きて下さい」


「うぅ~ん?……あぁ~、おはようリリー」


 斗真はリリーの声に目を覚ますと、もう昨日の様に取り乱す事は無かった。斗真は異世界生活三日目にして、心から現状を受け入れる事が出来たのであろう。


(体に疲れは……残ってないな。やっぱ早寝早起きが一番だな)


 斗真は、昨日の訓練がまるで夢であったかのように、体に疲れが全く残っていなかった。

 それどころか、これ迄に経験した事が無い程に調子が良さそうですらあった。


 斗真は、リリーによって既に用意されていた桶等を使って、顔を洗い口を濯ぐと、テーブルに並べられている朝食に口を付けた。


「頂きます。うんっ!美味いなぁコレ」


 斗真は、思わずといったように感想を漏らすと、一気に最後まで食べてしまった。


 朝食は昨日と同様のバゲットサンドであったのだが、中には極太のソーセージが新鮮でクソ苦い野菜類と共に挟まっていた。その食感から日本で食べていたソーセージよりも、皮が分厚く感じるぐらいで、味自体はバゲットサンドの全体に掛けられていたソースと相まって、非常に濃厚な物となっていたのだが、朝から食べるには少々重た過ぎるソーセージの油とソースの味を、苦味が強い野菜類が上手く中和していて、最後の一口まで手を止める事無く食べ進められる一品であった。


 斗真は、昨日と同様に残っていたホットミルクを一気飲みすると、歯を磨くべくリリーの方に振り向いた。


「斗真様、此方をお使い下さい」


「ああ。ありがとうリリー」


 当然の様に用意されていた房楊枝と、歯磨き用の軟膏を受け取った斗真は、ふと、気になった事をリリーに問い掛けた。


「そういえばこの房楊枝って、換え時とかってあるのか?」


「はい。厳密な日数としてではありませんが、我々は十日に一度新しい物に変える様にしております。ですが、非常に気になさる方などは、毎回使用する度に新しい物をお遣いになる場合もございます。当然斗真様のお使いになられる房楊枝も、毎回新しい物を用意致しております」


「そうなんだ。でも勿体なくないか?毎日捨てちゃうのは」


「えっと、この様に使用頻度の少ないものは再利用されるので、斗真様がお気になさる事は有りません」


「そっそうなんだ。再利用……まぁ分かった。その辺の事はリリーに任せるよ」


「はい。勿論お任せ下さい」


 斗真は、おそらく不必要であろう知識を頭から追いやると、手早く歯磨きを済ませて訓練用の服に着替えると、リリーに剣と鎧の場所を聞いた。


「リリー、鎧を着けたいんだけど整備は大丈夫か?」


「はい。勿論です。今お持ちしますので少々お待ち下さい」


「あっ……まぁいっか」


 斗真が自分で取りに行くと言う前に、リリーは足早に小部屋に向かって身を翻していた。


 小部屋に入ったかと思うと直ぐに出てきたリリーの腕には、鎧一式とその上に剣が綺麗な状態となって重ねられており、リリーはそれを抱える様にして運んでいた。


「斗真様、此方をご確認下さい」


「ああ、凄いな。昨日の泥が全く残ってない。あれを落とすのは大変だっただろうに。ありがとうリリー。本当に助かるよ」


「お褒めに与り光栄です」


 斗真は、一通り剣と鎧の状態を確認すると、その綺麗さにリリーに対する感謝の念を新たにすると、手早く着用して軽く室内で体を動かした。


「バッチリだな。よっし、まだ早いとは思うけどもう行こうかな」


「はい。馬車なら既に用意されておりますので、問題なく出発して頂けると存じます」


「そうか。じゃあ特にやる事も無いし行ってくるわ」


「はい。お見送りいたします」


 斗真は、最後に小部屋に寄って用を足すと、馬車に向かってリリーと歩き出した。


「それじゃあ、行ってきます」


「はい。行ってらっしゃいませ。斗真様のお帰りをお待ちしております」


 斗真は一人馬車に乗り込むと、揺れる馬車から外を眺めて、今日こそはジョブスキルを発動させるぞと気合い新たにしていた。


 馬車が練兵場へと到着すると、斗真は顔だけを外に出して他の救世主達の存在の有無を確認した。斗真は誰も来ていない様であれば、馬車の中で横にでもなっていようと考えていたのだが。


「ああ。やはり今日も早いようだな。おはよう地井君」


 そんな斗真の思惑を打ち砕く様に声を掛けてきたのは、乙女であった。


「おはよう、御剣さん。そういえば昨日も一番乗りだったっけ?」


「そうだな。別に狙っているわけでも無いんだけど自然とな。昔から早起きは得意なんだ」


「あぁ、それは何となく分かるな。もしかしたら鍛錬あるあるみたいなものかもなぁ」


 斗真が馬車から降りて乙女と会話していると、乙女の後ろから聖子と優美が顔を出していた。


「ホントに仲良くなったんだねぇ。えっと、天宮聖子です。今更だけどよろしくね地井君」


「あっあのっ、私も、田村優美です。えっと、よろしくね」


「あぁ、うん。確かに今更だよな。地井斗真です。御剣さんとは、昨日からお互いに共通点みたいなのがあって、話をさせて貰ってる。えっと、これからもよろしく?」


「なんで疑問系なんだ。まあ分からなくはないけど、それより二人ともどうしたんだ?」


「特に理由は無いんだけど、メーちゃんが男子と話してるのって珍しいから。なんとなく?」


「わっ私もなんとなくです」


「なんだそれは?まあいい。地井君急に悪いな。でもこれからもこんな感じだろうから、慣れてくれると助かるよ」


「まぁ俺もなんとなく理解したよ。俺からもよろしく」


「もぉ~二人してなによそれぇ。あれれぇ?もしかして私達お邪魔でしたかぁ?」


「その口調はもの凄くウザイな。でもまぁそれも聖子らしさか」


「ちょっとそれどういう意味よっ。ウザイのが私らしさってっ!」


「ハハハッごめんごめん。つい口がな」


「滑ったって言うのっ!それって心の中では思ってたって事じゃないっ。もぉ~」


「フフフッ!」


「あっ、ユミちゃんまで笑ってっ!もぉ~っ」


 斗真が異世界生活三日目に迎えた朝は、予想もしていなかった賑やかさの中で過ぎていく事になった。



夜にはもう一話投稿します。

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