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第二十四話

読んで頂きありがとうごさいます。

 

 斗真は、レベルアップを経てまたもや顔を出してきた慢心に、しっかりと蓋を閉めると、先程の事など無かったかの様な態度で、マイクに向かって剣を構えた。


 マイクは斗真の意図を見抜くと、僅かに頬を緩めて素早く構えた。


(でもこうなると、いよいよ何も出来ないぞ。盾による受け止め、受け流し、盾弾き、体当たり、そして繰り出される突き。何コレ?どうしろって?打ち込んだ瞬間に負け確って……いやっ負け確なのは覚悟した筈だろ!くそっ!そうだ!負けるのは前提で挑むんだ!無駄な欲は捨てろっ!おしっ!ここからだっ!)


 斗真はひたすら自身を鼓舞すると、一気に駆け出してマイクに挑んでいった。


 その様子を離れた場所から御剣乙女が真剣な表情で見つめていた。


 斗真は、最初の一振りを全力で振るう事のみ決めていた。その上で、マイクから放たれる突きに対応する為に多種多様な剣さばきで攻め込んでいった。


「ハァッ!」


「……フッ!」


 斗真は最初の一刀に突きを放つと、マイクはそれを盾で受け流して追撃の突きを放った。

 斗真はマイクの突きを、足を止めずに駆け抜けて間合いから逃れると、直ぐ様反転し横薙の一撃を放った。


「オラァ!」


「フンッ!」


 マイクはしっかりと盾で受け止めると、突きではなく袈裟斬りを放った。


「フンッ!」


「くっ!」


 斗真は何とか自らの剣で迎え撃つも、剣から全身に伝わる余りの衝撃に、両足を踏ん張り耐える他無く、その場に縫いつけられてしまった。


 そしてその隙を見逃す者はおらず。


「フゥンッ!」


 マイクは盾を大きく振りかぶると、足を止められ動く事が出来ない斗真を盾で強打した。


「ぐぅっ!」


 斗真は迫り来る盾からの衝撃に敢えて抗わずに、吹き飛ばされるままに地面を転がりマイクから距離を取った。


「うっ、ぐぅっ、はぁはぁ……ゥゥウォォアッ!」


 5メートル以上ぶっ飛ばされた斗真は、直ぐ様起き上がり息を整えると、蛮声を上げながらマイクに向かって駆け出した。


「ッねやオラァ!」


「フンッ!」


 斗真は下からの斬り上げを繰り出し、それもマイクの盾に受け止められると、直ぐ様上段に構え直してマイクから放たれた突きを迎撃するように、一気に振り下ろした。


「……フッ!」


 マイクは斗真渾身の振り下ろしの一刀に対して、突きの途中で強引に手首を返すと、斗真の袈裟斬りの軌道に合わせるように、剣を振り上げて迎え撃った。


「なっ!?くっくそっ!」


「フンッ!」


 有利な体勢で打ち込んだ筈の斗真の剣を、マイクは片手の斬り上げで完全に相殺してみせた。

 マイクは長々と鍔迫り合いをする事無く、又しても盾で斗真を殴りつけて吹き飛ばした。


 又しても吹き飛ばされた斗真は、それでも最初の頃に比べると、マイクと打ち合える回数が徐々にではあるが増し始めていた。

 しかし、マイクにかすり傷一つ与える事が出来ずに、何度も吹き飛ばされるという結果が変わる事は無かった。


 それでも斗真はマイクと打ち合える回数が増える度に、顔に獰猛な笑みを浮かべながら何度もマイクに立ち向かっていった。


「よしっ!今日の訓練はここまでっ!集合っ!」


 気付けば時間も随分経っていたようで、キースの号令に従って集まる頃には、斗真は表情すら分からない程、全身泥だらけの状態になっていた。


「うむ。全員有意義な訓練を行えたようで何よりです。それでは、明日も今日と同じ様に訓練を行いますので、しっかりと体を休めて下さい。今日お渡しした装備品は皆様にお預けしますので、明日からは朝から着用の上でお集まりください。整備に関しては、メイドに任せておけば問題はありませんので、安心してください。それでは連絡事項は以上となります。解散っ!」


 キースは、一息に言い切ると解散を告げた。

 救世主達は、皆一様に疲れた表情を浮かべており、各々が馬車へと向かう足取りも、随分と重たいものとなっていた。


 斗真は、他の救世主達が馬車に乗り城へと戻っていくのを横目に見ながら、全身に付いた泥を出来るだけ落とそうと、生活魔法を使って綺麗にしていた。


 斗真は、ある程度泥を落とした所で馬車に乗り込むと、そこには意外な人物が乗り込んでいた。


「やあ、やっと終わったのか。勝手に待たせて貰っていたよ。少し私と話をしてくれないか?地井斗真君」


 そこにいたのは、御剣乙女であった。


「あぁ、えっと、俺は構わないけど。俺も御剣さんに聞きたい事とかあったし」


「そうか。ならお互い丁度良かったみたいだな」


「おっおぅ。それより一人なのか?何時もの二人はどうしたんだ?」


「あの二人なら先に戻って貰ったよ。これからする話を聞かせて良いか分からなかったからね」


(えっ?一体何の話をするつもりなんだ?)


 乙女の返答に、僅かに怪訝そうな表情を浮かべた斗真に気付いた乙女は、少し表情を固くすると要件を告げた。


「君の過去について少し知りたくてね」


 斗真は乙女の向かい側に座ると、乙女の告げた言葉に更に表情を怪訝そうにするも、了承の意志を伝えた。


 動き始めた馬車の中で、二人の密談が始まろうとしていた。


「別に構わないけど、急にどうしたんだ?」


「うん。そうだな。うん。私は余り口が上手くないから単刀直入に聞くが、地井君。君がお祖父さんから武術の指導を受けていたというのは、本当の事なのか?」


「ああ。八歳の頃から受けていたけど、それが?」


「っ!……そうか。事実だったのか。そうだろうな君の動きを見ていれば、素人かどうかは誰の目にも明らかだったからな」


 乙女はそう言うなり、俯き黙り込んでしまった。


(えっ?何?それだけ?それだけで何でこんなに暗くなってんの?凄い気まずいんだけど?これ俺の馬車だよね?何で俺の馬車で俺がこんな思いしないといけないの?俺が悪いの?聞かれた事に答えただけで?ってか何か言ってよ!これじゃあ俺も質問し辛いじゃん!まぁするけど)


 斗真は一頻り心の中で喚くと、俯き黙ったままの乙女に質問を投げかけた。


「俺も御剣さんに聞きたい事があるんだけど、御剣さんも剣術の経験あるよね?どこで習ってんの?」


 斗真の質問に、乙女は驚いたような表情を浮かべたまま勢い良く顔をあげた。


「えっ、何?どしたの?」


「いっいや、地井君は知らないのか?私の事とか、家の事とか」


「ん?御剣乙女さんだろ。それ以上の事はよく知らないけど。えっ?特に交流とか無かったよな?」


「そっそうだな!確かにその通りだ!ハハッ気にしないでくれ。そうだ私の剣術だったな!実は私の実家が古くから続く武術道場なんだ。だから私も幼い頃から武術を、特に剣術を習っていたんだよ」


「あぁなるほど。だからあれほど美しかったのか」


「うっ美しかった!?」


「あぁ。聖剣を抜き放った時の動作とか、それこそさっきまでの模擬戦での動きとか。動きの一つ一つ、剣の一振り一振りが俺とは違って美しかった」


「あっああ、なるほどっ。そういう事か!……いやぁそう言われると照れるな!でもありがとう。私としても鍛え上げた剣術の腕が褒められるのは凄く嬉しいよ」


「あれは、御剣さん家の剣術って事か」


「そうだな。私の家は一心武天流という流派なんだ。剣術に限らずあらゆる武術を学べると言うのが家の道場の謳い文句なんだ。ただまぁこのご時世だ、門下生など殆ど居ないけどね」


「そうなんだ。でもそうか。流派か」


「そういえば地井君の家の流派は、どういったものなんだ?」


「えっ?家は特に無かったな。ジジイから聞かされた事も無かったし」


「えっ?流派が無いのか?道場を開いていたんだよね?」


「ん?あぁ、家は特殊でさ」


 斗真は、乙女との間に認識の齟齬が有る事に気付き、自身のこれまでの鍛錬について語った。


「それはまた……何というか大変だったんだな」


「まぁ、初めは大変だったかな。だけど今となっては良い思い出かな。剣術もこれからの日々に、何だかんだ役に立ちそうだしな」


 沈痛そうな表情で労るような言葉を斗真に贈る乙女に、斗真は決して不幸では無かったという事を、最後は冗談混じりに伝えた。


「フフッ、確かにな。私も今、人生で一番家族に感謝しているよ」


 乙女は冗談めかしてそう言うと、表情を改めて斗真と向き合った。


「地井君、君は学校で流れている噂については知っているのか?」


「ん?知ってるけど、それが?」


 乙女はかなりの覚悟を決めて、思い切って聞いてみた踏み込んだ質問に、あっさりとした答えが返ってきた事で、目と口を大きく開けて驚きを全力で表現していた。


「ンブッ!ぅヴン!どうしたんだ?いきなり変な顔して」


 斗真は、乙女の表情に思わず吹き出してしまったのを誤魔化す様に、なんとか質問を繋げた。

 斗真のそんな様子に乙女は余計に腹が立ったようで、声の音量を一気に上げると斗真を問い詰めた。


「どうしたんだ?じゃないっ!君は学校でどんな噂が流れているのか知った上で、なぜ何も言わなかったんだ!」


「なぜも何も、あの手の噂は小学生の時から流れていたからなぁ。正直今更というか、興味ないっていうか。そんな感じかな?」


「小学生の時からだって!その口振りだと、中学生の時もか!?何故誤解を解かないんだ!君のお祖父様の名誉まで傷付けられているんだぞ!」


「ジジイの名誉って言っても、そもそもそのジジイが周りの評判とか気にしなかったし、誤解を受けやすい振る舞いをしてたのもジジイだし、まぁ自業自得じゃね?」


 斗真の余りにも他人事の様な物言いに、乙女は一瞬言い知れぬ悪寒を感じた。


「……君は、あの様な根も葉もない噂を流されて、本当に腹が立たないのか?」


「う~ん、多分小学生の時はムカついたと思うけど、今はもう慣れたって感じかな。特に実害がある訳じゃないし」


「実害がないって?君は、今のクラスに親しくしている者は居るのか?」


「特には居ないけど、それが?」


「実害が出ているじゃないかっ!皆あの噂を信じて君と距離をとっているんたぞっ!」


「あぁ、なるほど。ん~でもそれって噂のせいだけじゃなくて、俺自身にも問題はあるから、何ともいえないかな」


「君自身の問題?それは私が聞いてもいいものなのか?」


「あぁ。別に大したことじゃ無いからな。単純に、俺自身も積極的に友達を作ろうとはしてこなかったんだよ。ジジイが生きていた頃は鍛錬に忙しかったし、ジジイが死んだ後は一人暮らしに慣れるまで色々と大変だったからな。他人に関わってる余裕なんて無かったんだよ」


 斗真の事実だけを淡々と話す様子を見つめていた乙女は、斗真が強がりなどではなく、真実、あの噂に対して興味を持っていないのであろうという事を実感した。


「じゃあこれからは……」


 乙女が続けて何かを言おうとした時、馬車が動きを止めた事によって、城へと到着した事を二人に伝えた。


「おっ、城に着いたみたいだな。ってか御剣さん今何か言いかけなかった?」


「んっ!?うん、そうだな。地井君、良ければ明日も今日のように話をされて貰っても良いかな?」


「あぁ、構わないよ」


「そうかっ!それじゃあ続きはまた明日!ではなっ!」


「おっおぅ。はぁ、御剣さんやっぱ体力に余裕があったんだなぁ」


 乙女は斗真の承諾の言葉を聞くと、別れの挨拶を告げるや否や、乙女の帰りを待っていたのであろうメイドを引き連れて、物凄く足早に城へと入っていった。

 その様子を見ていた斗真は、あれほどの模擬戦をしておきながら、未だに十分な体力を残す乙女の姿に、感嘆のため息を漏らしていた。


「お帰りなさいませ、斗真様」


「ん?あっあぁ。ただいま、リリー」


 斗真が、乙女の後ろ姿に尊敬の眼差しを送っていると、斗真の帰りを待っていたリリーに声をかけられた。

 反射的に返事を返した斗真は、ようやく視線を乙女から外すと、リリーと並んで自室へと向かって歩き出した。


「夕食までまだ時間が御座いますが、いかが致しますか?」


「とりあえず、汗と泥を流したいから、風呂を溜めて貰っても良いかな?」


「はい。勿論です。それでは此方へどうぞ」


 自室へと戻った斗真は、リリーと連れ立って小部屋へと入ると、リリーが浴槽に水を溜めている間に、斗真は鎧と上着を脱ぐと、自身の体に目を通した。


(あれだけぶっ飛ばされたのに、意外と傷は少ないな)


 斗真が感じた通り、斗真の上半身には幾つかの擦り傷と小さな痣があるくらいで、剣で打たれた腹部にも大して大きな傷は見受けられなかった。


「そういえば装備の整備は、メイドに任せればいいって聞いたんだけど、それってリリーの事で良いんだよな?」


「はい。私達救世主様専属のメイドは、装備品の簡単な整備でしたら、完璧に請け負えるように訓練を積んでおりますので、どうぞお任せください」


「へぇ、メイドって凄いな。それじゃあこの剣と鎧の整備をよろしく」


「はい。承りました。明日までに必ず整備しておきますのでご安心ください」


 リリーは、斗真に自信を滲ませながら伝えると、浴槽から離れて棚へと向かい、加熱石と石鹸を取り出して戻ってきた。


「それでは、此方に着替えとタオルを置いておきますので、ごゆっくり御寛ぎ下さい」


 リリーが小部屋から出て行くのを確認した斗真は、浴槽には近付かずに棚へと向かうと、中から便器を取り出し、深い溜め息を吐きながらそれに座った。


(慣れるんだ!仕方ないんだ!コレしかないんだ!皆一緒なんだ!)


 斗真は、今この瞬間のみ、他の救世主達と心から分かり合えるような気持ちになっていた。



ブックマークと評価ポイントありがとうごさいます。頑張ります。

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