第二十一話
読んで頂きありがとうごさいます。
斗真は僅かな仮眠を終えて馬車から出ると、他の馬車からも同様に、救世主達が出てくるところであった。
すると、練兵場からキースが顔を出しこちらを確認すると、少し早足で近づいてきた。
「おうっ!?又しても時間前に集まっておられるとは流石ですな!折角ですので、少し早いですが練兵場に入りましょうか。皆様にはそれぞれ使用する武器を選んで貰いたいのです。午後からは、皆様が選んだ武器を扱う訓練をするので、しっかりとご自身に合った武器を選んで頂きたいっ!」
キースの話した内容にある者は不安そうに、またある者は嬉しそうに頷いた。
練兵場へと戻った救世主達の目の前には、テーブルの上に乗った複数の武器が並べてあった。
(訓練用なのに木刀とかじゃないのか!?全部本物じゃねぇかっ!)
斗真が心の中で驚きを示した通り、その場にある武器は全て、刃引きがされてはいるものの、それ以外は完全に本物といえる物ばかりであった。
救世主達は、そんな武器の数々を物珍しそうに手にとっては眺めたり、その重さに驚いたり、少し離れて振り回したりしていた。
何時までも呆けている訳にはいかない斗真も武器を見に行くと、目当ての武器が見当たらず、他の救世主達が持っていないかと、周囲に視線を巡らせるも見当たらなかった。
斗真は、さっさとキースに質問する事にした。
「あのっ!刀って無いんですか?」
「かたな?あっあぁ、確か剣聖殿が使われていた聖剣の事でしたか。流石に我等も聖剣までは用意出来ませんよ。ハハハハハッ」
(うぅわっ!この反応、これ絶対刀無いわ。聖剣としてしか認識してねぇんだもん。マジかぁ~無いのかぁ~。楽しみにしてたのになぁ)
斗真の質問に、何気に幾人かの救世主は期待したような視線をキースに送っていたのだが、その返答を聞いて斗真と同様に露骨に肩を落とした様であった。
そんな救世主達の空気を察したのか、キースはやたらと明るい声色で斗真達に別の武器を勧めた。
「あれ程の聖剣こそ有りませんが、近しい形の剣ならば、幾つか用意していますよ」
キースの声に釣られるように、視線を動かした救世主達の前にあったのは、確かに曲剣と呼ばれる物ではあった。しかし、そのどれもが刀と比較すると幅広で肉厚なのだ。
そもそもこの世界には、刀のように細身の刀剣は一部を除いて存在しないのだ。
その一部とは、所謂レイピアなどの刺突に特化した剣であり、その他には、現在入手が非常に困難で貴重な鉱石を使った儀礼用の剣くらいしか存在していないのだ。
この世界の人々にとって、剣に限らず刃を持つ武器の多くは、大きく重い傾向があり、ダンジョンに入る都合上極端な大きさまではいかないものの、地球の刀剣と比較するとその大きさや重さの違いは明らかであった。
その理由としては、やはりレベルの存在であろう。
地球人にとって大きく重たいせいで扱い難い武器であろうとも、異世界人にとってのそれは、レベルを上げれば解決する程度の問題であり、結果としてより重要視されるのは、モンスター相手の連戦に耐えうる強度と、戦いの中で刃が潰れてしまっても、モンスターを叩き潰せるだけの重さという事になっていた。
勿論練兵場に用意された武器の数々は、レベル0の救世主達に合わせて初心者向けの武器を揃えていたのだが、それにしても初めて武器を触る救世主達にとっては、バカに出来ない重さを有していた。
斗真は、いくつかの曲剣を触っては戻しを繰り返しながら、ようやく一つの剣を手に持ち、軽く振ってみた。
それは、所謂シミターと呼ばれる物に近い剣であった。
斗真は、軽く振って得た感触を気に入ったのか、テーブルから少し離れた位置に移動すると、真剣に素振りを始めた。
(当たり前だけど、木刀とは重さも重心も何もかもが違うな。それでもコレだな!他の剣よりは俺に合ってる気がする。そもそも俺って木刀しか振った事が無いからなぁ。一度でも真剣を振った事があれば、この剣と比較出来るのになぁ。いや、この場合比較出来ない方が良いのか?どの道この世界に刀は無いんだもんな。うんうん、そうだな。きっとそうだっ!本物の刀を知らなくて良かった!振った事が無くて良かった!触った事すら無くて良かった!)
斗真は二日振りの素振りに、心の中では妙なテンションになっていた。
それ故に、斗真の素振りを他の救世主達が驚きの表情で見ている事に気付かなかった。
特に、樹と乙女の瞳には強烈な光が宿っており、それぞれが斗真に対して何らかの強い感情を抱いている事が見て取れた。
一通り素振りを終えて満足した斗真は、訓練の相棒となる剣を選び終えたので、テーブルから少し離れた位置に留まったまま、手に持った剣を眺めていた。
残った救世主達は、斗真の姿を一旦記憶の隅に追いやると、自身の相棒となる武器選びに戻っていった。
結局、キースの助言を受けつつも救世主達全員が武器を選び終えるまで、それなりの時間が掛かってしまっていた。
どうやら剣以外を選んだのは、聖子と賢治と大地の三人だけであったようだ。
聖子と賢治は杖と盾を選び、大地は鉄のガントレットのような籠手を両手に嵌めていた。
剣を選んだ残りの六人も、手に持っている剣の大きさや形は様々で、勇人はブロードソードを、斗真と乙女はシミターを、樹は短剣を両手に持ち二刀流とし、優美と信二はキースの強い勧めも有って、ロングソードと盾を選んでいた。
「よし!全員選べましたな。それでは次にこちらを着用して下さい」
キースはそう言うと、周囲にいた騎士団員達に視線を送った。すると、その視線受けた騎士団員達は救世主達の前まで行くと、それぞれが手に持っていた大きな木製の箱を救世主達に差し出した。
「これは……鎧ですか!」
「はい。皆様の体格に合うように見繕っておきました。多少大きくても調整出来るので、気にせずに着てみて下さい」
キースが言い終わるや否や、救世主達の前に来ていた騎士団員達が、鎧の着用の手伝いをし始めた。
余りに自然な動きであった為、誰も何も言えないままに鎧を着用する事になった。
(思ったほど重たくないな……いや着たばかりだからか。これで動くとなると、直ぐに疲れるんだろうな)
キースが救世主達に用意していたのは、所謂革鎧であった。金属が殆ど使われていないとはいえ両腕に両足、胴体部分とその重さは5キロを優に越え、剣帯に各々の武器を取り付けると総重量は10キロに迫る程の代物であった。
救世主達が鎧を着終わるのを待っていたキースは、全員の武器と鎧の着用を確認すると声を上げた。
「それでは今から、昼食を挟んで冷えてしまった体を温め直す為に、武器を持ち鎧を着たまま練兵場を一周します。必ず選んだ武器も持つように!それでは、始めっ!」
キースは救世主達に一方的に伝えると、そのまま体を翻して走り始めた。
(またマラソン……確かに装備の重さに慣れないといけないけどまたマラソン……まぁ走るけどねっ!)
「えっ!?またマラソン!?」
「チッ!またかよっ!しかもこんなクソ重てぇもん着てマラソンとかふざけてんのかっ!」
「賢者が鎧を着てマラソン?どこまで愚かなんでしょうか異世界人は」
「はぁ、ほら行くぞ聖子、優美」
「えっ!?ちょっと待ってよメーちゃん!走るからっ」
「わっ私も行きますよっ。待ってくださぁい!」
「あっ!ほら大地、樹、俺達も行くぞっ!」
「またそれかよっ!分かったよ!走るよっ、走ればいいんだろっ!樹行くぞっ!」
「うっうん。二刀流なんて選ばなかったらよかった」
「はぁ、こういうのは脳筋だけにやらせれば良い事でしょうに。何故僕がこんな……はぁ」
「取り敢えず皆行ったし、僕達も走った方が良いんじゃないかな?」
「分かってますよ上野君。君も早く行った方が良いですよ」
「僕はまた、川上君と一緒に走るよ」
「そうですか。まぁそれなら共に参りましょうか」
「うん。行こう」
救世主達は、各々が無理矢理納得するとキースを追って走り出した。キースの走る速度は今朝の時と同じであったが、初めて武器や鎧を着たまま走る救世主達にとっては、非常に速くまたその距離も朝よりもずっと長く感じられた。
今朝のマラソンよりも二倍近くの時間を掛けて、救世主達は練兵場の一周を走り終わった。
多くの救世主達が荒く息を吐くかそのまま地面に座り込む中で、何人かの救世主は、朝と対して変わらない様子をみせていた。
「ハァハァ、勇人、お前なんか随分楽そうだな?」
「えっ、それはそうだろ。朝と走った距離が変わらないんだから。っていうか大地も樹も疲れすぎだろ。昼飯の食い過ぎか?」
「走った距離は同じでも、持ってるもんが全然違うだろうがっ!」
「はぁ?あっ!そうか、俺のパッシブスキルのおかげか」
「あぁ?勇人のパッシブスキルって何だったっけ?」
「覚えてねぇのかよ!【装備重量無効】だよ。これのおかげで俺、剣も鎧も服を着てるのと変わらない感じしかしないみたいなんだよ」
「人のスキルなんていちいち覚えてねぇよ!つか、何だよそのスキル!ズルすぎだろ!」
「俺に言われても知らねぇよ。ていうか確か他にも居ただろ?このスキル持ってる奴」
勇人の言葉に救世主達が視線を巡らせると、明らかに疲れ方が他の救世主達とは違う面々がいた。
「うん。私も持ってるよ。大空君のとはちょっと違うけど。私のは【鎧重量無効】だよ。鎧の重さは感じないけど、武器の重さはしっかり感じるみたい」
「ぼっ僕も、田村さんと同じスキルだよっ!武器は重いままだよっ」
「そっかぁ。ユミちゃん聖騎士だもんね。鎧が重いと大変だもんね」
「まぁそうだな。良かったじゃないか優美。良いスキルを持てたようで安心だ」
「あっありがとう。二人とも。えへへ、このスキルはラッキーだったよ」
(えっ!?じゃあこの三人って、ガチガチの全身金属鎧でも服着てるのと変わらない重さしか感じないって事?……いいなぁ~。もう金属鎧着て全速力タックルするだけでモンスター殺せんじゃねぇの?知らんけど)
救世主達の話が一段落するのを見計らっていたキースは、直ぐ様次の訓練の内容を告げた。
「よしっ!全員体は温まった様ですな。それでは、ここからは又、それぞれに専属の指導員をお付けするので、その者の指示に従って下さい。では、始めっ!」
キースの出した号令に合わせて、又しても騎士達がそれぞれ救世主達の下へ行き、練兵場の各地に散らばっていった。
斗真の前に現れたのは斗真よりも背が高く、横幅も大きな騎士であった。
「斗真様でありますな。私は迷宮騎士団団員のマイクと申します。これからの五日間宜しくお願いします」
「初めまして。地井斗真です。こちらこそ宜しくお願いします。それと俺の方が教わる立場なので、どうか様付けは勘弁して下さい」
「そうですか……それでは訓練の間のみ斗真君と呼ばせて貰います。それでは我々も移動しましょう。此方へどうぞ」
斗真はマイクと自己紹介を済ませると、練兵場の壁際に移動した。
「では、まずは鎧を着けたまま素振りを行って貰います。先程見ておりましたが、斗真君は何やら剣術の経験がある様子でしたので、先にそれを見せて貰えますか?」
「はい。それでは始めます」
斗真は、マイクから少し離れると素振りを始めた。
(走ってた時も思ったけど、やっぱり鎧は邪魔だな。なるべく動きの邪魔にならないように作られてはいるんだろうけど……でもこれにも慣れないとな。防具無しでモンスターと戦うなんて考えたくも無いもんなぁ)
斗真は初めは慣れない鎧を気にしてか、ぎこちない動きとなっていたのだが、素振りの回数が百を越えたあたりから、鎧を気にする事無く、集中して素振りを行う事が出来るようになっていた。
斗真の素振りを見ていたマイクは戸惑っていた。
斗真の動きは、明らかに自分達騎士のものとは違う動きで、叩き斬る事よりも斬り裂く事に重きを置いている様な動きは、斗真の持つ剣の力を果たしてどれだけ発揮させる事が出来るのか不明であったからだ。
本来であれば矯正すべきなのだろう。しかしマイクは、斗真の余りにも自然な剣の素振りに、今の型を壊してまで一から騎士の剣を教える事に躊躇いがあった。
これはマイクの認識に、斗真達が救世主である、という事情も強く働いていた。
マイクからすると、剣の特性に合っているとは言い難い動きであっても、救世主なのだから何かしら意味の有る動きなのではないか、と考えてしまっていたからであった。
一心不乱に素振りを続ける斗真と、眉間にしわを寄せ考え込みながら斗真を見守るマイクは、どれ位の時を過ごしたのか、斗真の素振りが千回を優に越えた頃、ようやくマイクは斗真に声を掛けた。
「よしっ!素振りやめっ!斗真君、一度水分補給をしよう」
「はい。ありがとうございます」
気がつけば汗塗れとなっていた斗真は、マイクの言葉に感謝を述べると、用意されていた水を一気に飲み干した。
そんな斗真の様子を横目に見ながら、お代わりの水を斗真に渡したマイクは、次の訓練内容を告げた。
「斗真君。体が冷えない程度に休憩をとったら、このまま私と模擬戦をしよう」
本来であれば一日の最後に行われる筈であった騎士との模擬戦に、斗真は早くも挑む事になった。
せめて斗真が追放されるまでは、一日一話を貫きたいと思います。




