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第21話 『一歩と疑念』

「よし、ウォーミングアップはこれぐらいで終わりか」

「はい、わざわざ付き合ってくれてありがとうございました、兄上」

「「「「ありがとうございました!」」」」

「そんなにお礼を言われる事じゃないって、俺も妹分たちの戦いは楽しみにしているからな」


 一年生校内戦当日の朝、会場である円形闘技場の近くで、開会式が始まるまで時間があったので、私たちは兄上と共に体を動かしていた。

 一人一人、相手をしてもらったのでそれぞれが自分の動きの確認になったと思う。

 ただ、一年生の女子生徒たちが兄上に熱い視線を送っていたわね。

 兄上も気が付いていたけれど、敢えて無視していた。それについては私たちだけを見てくれているという事で、ちょっとした優越感。


「楽しみっすねー、早く皆と戦いたいっす」

「もしかすると、いきなり対戦という事もあるかもしれないね」

「そうっすねー、薫流(くゆる)。でも、うちらの目標を考えると初っ端からは当たりたくないっすねー」

「目標って何かあるのか、望海」


 そう言えば、あの時兄上はいなかったから知らないわよね。


「葵の提案で、うちら全員で上位を総取りしようって話っす」

「へえ、面白い事を考えるなー、葵」

「私たちの実力ならできると思いましたので、それぐらいやってこそ兄上の妹分ですから」

「そうか。なら、頑張れよー。お前らの活躍、楽しみにしているからな」


 兄上が見せる笑みには、私たちに期待しているという思いを強く感じる。私たちが兄上と並ぶ可能性を信じているからだろう。

 兄上に対等な女として見てもらうためにも、私はこの校内戦でトップを狙わないとね。

 私が恋愛対象だと思わせるには、ある程度の強さを見せる必要があると思う。

 この時期はまだまだ私たちを後輩としか見ていないからね。


「じゃあ、そろそろ時間だからいこー、皆。お兄ちゃん、応援していてくださいねー」

「お兄様、私の活躍も見ていてくださいね!」

「ああ、朱莉も桃花も頑張れよ!」


 兄上に見送られて、私たちは円形闘技場のアーチ状の入口に入っていく。

 アーチの中は短いトンネルのようなもので、それを抜けると控室がある廊下へと出る。

 中は外のコロッセオのような外観とは違い、近代的な内装だ。これが昔からあるものではない事が良く分かるわね。


「それにしても見事に直ったよね。お兄様と如月先輩の戦いでかなりの被害だったんでしょ?」

「そうみたいだね。話によると急ピッチで修復を始めて、昨日までに直したみたい。話によるとすごい技術者を呼んだって聞いてるよ」

「へえ、そうなんだ」


 崩壊とまではいかないまでも、半壊に至っていた闘技場を一週間で修復するのだから、相当な強行軍だったと思う。

 でも、一流の技術者って必要だったのかな? それは学校側が決める事だから関係ないか、それに急いで修復するにはそういう技術が必要なのかもしれないものね。

 

 廊下を進み、闘技場に足を踏み入れる。すでに闘技場には開会式に出るため、多くの生徒が集まっていた。

 だから、私たちが姿を見せると一斉に視線が向けられた。ぎらぎらと敵愾心(てきがいしん)を燃やしているものもあれば、ねっとりと舐めるようなものやにらみつけるような妬ましい視線もある。

 いつも以上の激しい強い視線に、私たちの足は一瞬止まる。


「皆、行くわよ。私たちの目的のためにね」

「うん、葵ちゃん! 私たちの力を皆に知らしめよう!」

「そうだね、ここで尻込みしても仕方ないよね」

「うんうん、その通りっすね。全速前進っす!」

「全速で前進しちゃダメでしょー。でも、そういう気持ちは大事だよね」


 そして、私たちは一歩前へと踏み出した。



***



「残念だったね、葵」

「仕方ないわ、薫流。こればっかりは運としか言いようがないもの」


 体を伸ばしながら残念がっている薫流。

 開会式が終わり、校内戦が始まろうとしている。

 残念ながら私たちの目的は完全な形で達成される事はなくなった。


 総勢100名――一年生だからか、学年の全員が参加している――で行われる校内戦は、トーナメント形式だ。私たちが上位を総取りするためには、ベスト4に私たちのうち四人が入っている必要がある。

 しかし、公開されたトーナメント表では、私と薫流がベスト8――つまり、準々決勝で当たる事になっている。

 そして、朱莉と桃花は四回戦で当たる事になり、望海は私か薫流のどちらかと準決勝で戦う事になっている。

 結果、ワンツーフィニッシュしか狙えないという事になるのよね。

 ちなみに彩矢と真矢の二人は勝ち進めば、準々決勝で姉妹対決ね。


 前の世界とは明らかに違うトーナメント表ね。だから、必ず皆が勝ち上がってくるという保証はないわ。

 ただ、実力だけを言うならば、前回の世界よりも上だと思うわ。

 その理由は言うまでもなく、兄上と鍛錬する期間が長かった事や私という存在(イレギュラー)がいたからね。


「そう言えば、知ってる? 『半神隠し』の新たな情報」

「新たな情報?」

「そうだよ。一年生程ではないけど、上級生の先輩方の中にも『半神隠し』に遭った人がいるらしい」

「そうなの……何というか、事件性があるのか怪しいものよね」


 『半神隠し』と言っても、一日で戻ってきている。意識の変化があると言っても、些細なきっかけで人の気持ちは変わるもの。

 放っておいても良い気がするわね。今は校内戦に集中したい所だから。


「私も同じように思っているけど、少し引っ掛かる部分もなくはないよ」

「引っ掛かる部分?」

「うん。まずは頻度かな。私たちは入学したばかりの一年生だから、それなりに必死にやっていると思うの。ここ最近は全体的に弛緩した空気になっているものの、『半神隠し』の噂は四月の中頃以降からあったから」

「つまり、一日でも学校を休む可能性は低いって事?」


 私もそうだったけれど、初めの頃は新しい生活に胸を躍らせていたのは、嘘ではない。

 それにエレメンタル・アカデミーの授業自体はそこまで厳しいものではないと思う。自分を基準にしているから、他の人がどう思っているかは分からないわね。


「そういう事。『半神隠し』に遭った生徒はそれなりにいるから、少し変に感じるね。もう一つは一日の間に何をやっていたか」

「あ……」

「気が付いたよね。戻ってきたという事は、目的を果たした可能性が考えられる」


 『半神隠し』に遭った生徒は戻ってきた後は、普通に生活を送っていると聞く。

第一、私たちのクラスにも何人かいるから、その様子も知っている。

 だから、問題となるのはそれなりの人数が、一日音信不通になって何をしていたか。

 一日で終わるような事……何があるかしら?


「意識の変化……というのがあったわね、あれが何か関係しているのかしら」

「どうだろう。断言はできないけど、可能性はあるかもしれないよね」

「でも、誰が何の目的でやっているのかな」


 私たちの知らない所で何かが起きているのだろうか。そう思う反面、考え過ぎなのではないか、という思いもある。

 この校内戦が終わった後に起こるはずの襲撃事件は未然に防げたはずだから、大丈夫なはずよ。


「余計な事だったかな?」

「いいえ、大丈夫よ。薫流も気になるから私に話したのでしょう?」

「うん、作為的なものを感じずにはいられなかったから」


 薫流が頷きながら言った言葉に親しみを感じる。


「薫流、やっと私の事を信用してくれるようになったわね」

「やっぱり気付いていたよね、ごめん。でも、私の事もよく気に掛けてくれるし、兄さんへの想いも知ったからね」

「いいのよ。こうして薫流が私の事を友達だと思ってくれれば」

「うん、葵も皆も大切な友達だよ。たった一ヵ月だけどね」


 お互いの顔を見合って、ふふふ、と笑い合う。

 さて、校内戦の開始ね。今の私はすこぶる気分がいいわ!


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