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第16話 『噂と銀髪の教師』

「ね、葵。最近、一年生の中で噂になっている事、知ってる?」


 二年生の校内戦を明日に控えた放課後。

 私と桃花は二人、食堂のテラス席で寛いでいた。

 二人きり、というのはとても珍しい事ではあるけれど、こういうのもたまには悪くないと思う。

 一対一の方が相手の事を知る事ができるからね。


 ちなみに、兄上は薫流と共に校内戦の準備をしている。どうして薫流だけなのか、と思わないでもないけれど、あの人への対策だと思えば納得できるわ。


 それよりも今は桃花が言っている噂ね。

 私はそういう類の話は全く興味がなくて、たとえ聞こえていたとしても通り抜けてしまうのよね。

 加えて、私は堅物だと思われているのか、そういう話題を振ってくる人は桃花たち以外にはいないわね。


「いいえ、知らないわ。わざわざ言うって事はかなり広まっているって事?」

「そうだよー。と言っても、一年生の中限定かな? でも、一年生の間じゃ、この話題で持ちきりなんだから。それに私たちも無関係じゃないっぽいし」

「そうなの。それでどういう噂なの?」


 私たちの知らない所で、変な噂を立てられるのは正直気持ちの良いものではないわね。

 でも、桃花の顔からそういった雰囲気が感じられない。

 もし、私たちが噂の対象であれば、このような気楽な感じではないでしょうし、流石に私の耳にも入ってるはずよ。


 桃花がストローに口を付けてジュースで喉を潤した。

 彼女って、ほんと可愛らしいのよね。ジュースを飲んでるだけで、絵になるから。


「……えっとね。最近、というか一週間と少し前からかな、一年生の生徒が『神隠し』に遭ってるって噂が流れ始めたんだ」

「え?」


 それってかなり重大事件じゃない? でも、噂だから事実じゃないって事よね?

 それにしても『神隠し』か……本当にあったら怖いわね。


「普通なら眉唾物(まゆつばもの)なんだけどねー。ちょっと興味があって、色々と話を聞いてみるとさ、『神隠し』に遭う人たちがね……」


 そこで初めて桃花が顔を曇らせた。つまり、私たちと無関係ではない部分って事でしょうね。

 そこまで深刻な感じはしないけれど、何が出てくるのかしら。


『……………………』


 その時、ノイズのようなものが私たちの耳に入る。


「これ、校内放送?」

「そうみたいだねー。何か緊急連絡でもあるのかな?」


 校内放送と言えば、誰かを呼び出したり、連絡事項を生徒に伝えるために使う。この校内放送は前者か後者か。


『えー、生徒を呼び出します。朝日奈葵、雨宮朱莉、立花薫流(くゆる)青海波(せいがいは)望海、九条桃花の五名は職員室に来るように』


 前者且つ私たちへの呼び出しだったようね。


「桃花、心当たりはある?」

「そうだね……何となく見当はつくよ? でも、とりあえず職員室に行ってみようよ」

「そうね。皆も呼び出されている事だし」


 私たち五人が呼ばれる理由、私には見当がつかない。ただ、作為的なものを感じてしまうわね。

 とりあえず、職員室に行けば分かる事かな。



***



「失礼します」


 職員室の扉を叩き、中へと入室する。私に続いて桃花も同じように入ってきた。

 先生方が私たちを一瞥(いちべつ)する。周りを見渡すと、ツインテールの赤い髪が目に入った。


「葵ちゃん、こっちだよー」


 私と桃花は朱莉が手を振っている所へ移動する。そこにはすでに薫流と望海の二人もいた。

 そして、彼女たちが囲んでいる所に女性が座っている。

 私たちと同じく、黒ローブを纏い、とんがり帽子を頭の上に乗せている。髪は銀色で大きめに編み込んだ二つ結びを前に垂らしていた。

 この人は桂川(かつらがわ)吹雪先生。吹雪先生、と慕われる、エレメンタル・アカデミーの教師であり、そのOGでもある。


「これで全員揃ったね。今日来てもらったのは、最近噂になっている『神隠し』についてよ」

「それって、一週間以上前から噂になっているあれっすか? それとうちらが何か関係あるんすか?」


 望海は噂自体は知っているみたいだけれど、桃花みたいに私たちに何か関係があるって事は知らないようね。

 かく言う私も知らないから望海と同じね。


「そうね。そこも話さなければいけないわね。もしかすると、中には知っている人もいるかもしれないけど……」


 そこで頷いたのは、朱莉、薫流、桃花の三人。三人は知っているという事ね。

 先程は聞きそびれた内容。何が私たちに関係あると言うのかしら。


「最初に、『神隠し』は存在しているの。ただ、ここでポイントとなるのは、一日経てばその人が戻ってきているという事」

「それは……行方不明になっていないという事ですか?」

「その通り。『神隠し』ならぬ、『半神隠し』とでも言おうかな。だから、大きな問題になっておらず、噂という形で出回っているんだ。うちの学校は自由がモットーの校風だからね、一日いないぐらいでは騒ぎにはならない訳ね」


 自由な校風。

 その通りだと思う。寮に門限は設定されていないし、就寝時間というものもない。

 あるとすれば、他生徒に迷惑を掛けてはいけないという暗黙のルールぐらいだろうか。


「それで結局、それがうちらとどう繋がるっすか? 言っとくっすけど、うちらは『神隠し』なんてやってないっすよ」


 望海が先手を打つかのようにきっぱりと告げる。

 私もその可能性は考えていた。わざわざこの五人で呼び出されるのだ。

 さらに言えば、私はこの『半神隠し』の事を全く知らない。そもそも、人が一日でも消えるという事がおかしいと感じるもの。


 それはつまり――この世界がすでに私が知っている世界とは別の道を歩もうとしているという事。

 当然の事だ。私は前回の世界と同じように振舞っていないのだから。

 そうすれば、必然的に結果は変わってくる。


「いや、疑っている訳じゃないんだ。ただ、ね…………その『半神隠し』の被害者の大半が君たちに告白した男子生徒なんだ」


 さも、重要そうな事のように吹雪先生は言った。

 しかし、それほど驚くような事だろうか? 当然ながら、望海も驚いていない。


「あれ? 意外と反応がないね」


 吹雪先生が拍子抜けしたように目を丸くする。


「あはは、吹雪せんせー、私たち全員合わせると、一年生の男子生徒のほとんどに告白されていますからね。言う程驚きませんよ」

「そうなんだ。すごいのね、君たち」


 朱莉がにこにこしながら私たちが驚かない理由を言うと、吹雪先生が感心したように私たちを見る。

 私としては、吹雪先生も学生時代は相当人気だったのではないかと思う。少し昔の話には興味があるのよね。


「えっと、話を戻すね。大半がそういう理由を持つ生徒だから、君たち五人が何か知っているのかなって思ってね。何か知らないかな?」


 と言われて、私たちは顔を見合わせる。

 しかし、誰一人として有効な情報は持っていなさそう。

 薫流なら何か知ってそうな気がする。ただ、敢えて情報を話さない、という事はあるわね。


「あ……」


 桃花が何かを思い出したように口を開いた。全員の視線が彼女に向く。


「告白する人が減った事ですかね?」

「「「「あー……」」」」


 そう言われると、告白される事が減ってきた時期と『半神隠し』が起きた時期は重なるわね。何度も私たちに告白してきた人の中にも急に来なくなる人も出たかな。

 それに向けられる視線が急激に増えた気もするわね。

 他にあるとすれば、この間朱莉が言っていたように、根拠のない自信に満ちた人が告白してくる事かな。

 一度目は伏し目がちだったのに、次になると全く印象が変わっていたりしたわね。

 それも併せて私は吹雪先生に伝えた。皆も同じような違和感は持っていたようだ。


「なるほど……これはその事と関連性があるかは分からないけど、『半神隠し』に遭った生徒たちは、少し変化が起きているの」

「変化、ですか……具体的には?」

「そうね……まだヒアリング自体、校内戦が近いという事もあって満足にできていないけど、彼らの意識が変わったと言えばいいかな。個人差はあるんだけど、例えば君たちへの興味なくしたりね」


 私たちに対する事だけなのだろうか。

 それなら、私たちが関係していると言えると思う。


「吹雪先生、『半神隠し』に遭ったのは、私たちに告白していない男子生徒もいるのですか?」


 私が考えていた事を薫流が聞いてくれた。

 これはかなり重要な問題だと思う。大半と言っていたから、大丈夫だとは思う。


「ええ、男子だけではなく女子生徒もいるよ。彼女たちも同じく何かしらの変化が起きているの」

「そうですか。正直に言わせてもらいますが、私たちが関係しているとは思えません。『半神隠し』に遭った生徒たちが、私たちに好意を寄せてきた生徒限定であれば、話は変わったかもしれませんが」


 薫流が直球で吹雪先生に言った。でも、私たちとしても疑われるのは嫌だから。


「君の言う通りね。何か参考になればと思ったけど、情報らしい情報は得られなかった。とりあえず、今日はもう帰って大丈夫よ。君たちは立花君の応援に行くでしょ?」

「どうしてそれを?」

「彼のクラスの練気の授業を見ているのは私よ。彼の力はそれなりに分かっているつもり、明日は面白い戦いが見られそう。さて、今日は貴重な時間を使ってもらってありがとう。もし、この話しに進展があれば、また話を聞かせてもらうかもしれないけど」

「はい、大丈夫です。それでは失礼します」


 私たち五人は吹雪先生に礼をして、職員室から退出した。


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