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第10話 『敗北と提案』

「……私の負けです、兄上」

「お疲れ様。葵、お前がここまで強かったなんて驚きだよ」


 目と鼻の先にある蒼き剣を見ながら、私は大きく息を吐くと共に負けを認めた。

 兄上は杖から伸びていた練気刃ソウルブレードを解除し、にっこりと笑って褒めてくれた。

 喜んでいいはずなのに、私はそれを聞いて下を向いてしまう。

 お世辞ではない事は分かっている。それでも、ここまで差があると嫌味に聞こえてしまう。

 そう感じてしまう辺り、私という人間の浅ましさかもしれない。反対に、それだけ兄上の事を意識しているという事でもあるわ。


「あの、本気で戦ってくださってありがとうございました。今の私の立ち位置を知る事ができました」


 私は兄上に頭を下げる。髪からぱっと汗が飛んで地面に落ちる。

 気が付けば、肌にべっとりと黒ローブの制服が張り付いていて気持ち悪い。戦っている時はあまり感じなかったけれど、激しく動いていたものね。

 ――本当に兄上は強い。


「葵のためになったなら良かった。俺としても良い戦いだったよ。特に氷塊を抜けた後は驚いたな。あそこで決めるつもりだったかたさ」

「あの時は無我夢中で……兄上に一矢報いるつもりでした」


 兄上の満足した顔に内心ほっと安堵する。

 この戦いは私が一方的にお願いした戦いだ。

 だから、退屈させずに済んで何よりだと思う。


「そうかな? 狙ってたと思ったんだけどなー。まるで俺がそこに来るのが分かっていたかのように」


 兄上のその言葉にどきりとする。胸の高鳴りという意味ではなく、私の素性に感づかれたかもしれないという恐怖から。

 バレても構わないとは思っているものの、まだ早いとも思う。

 少なくとも兄上が私を恋人候補として見てくれるまでは、隠しておきたい。


「いえ、とんでもありません。ただただ負けないようにするのが精一杯で、必死に食らいついた結果だと思います。青い剣を出されてからは、その努力も無意味なものだったと思っています」

「うーん、そんなに謙遜する事はないと思うぞ。ただ、言わせてもらえば……体が葵の感覚についていけてなかったように感じたかな。一度じゃなくて、何度も感じたから間違いないと思う。変な話、葵の感覚だけが成長していて、体はまだそこに追い付いていない感じ。葵の要求に体が反応出来てないんだよな。特に俺が“蒼龍剣”を使い始めてからはそれが顕著に現れたな。俺の速さが上がったせいもあるんだろうけどな」

「なるほど……単純に遅いと思っていただけですが、そういう事だったのですね」


 差し障りのないように相槌を打ちながら、そこまで気が付かれている事に驚く。

 流石は兄上と言った所でしょうか。兄上の言う通り、私は思うように体を動かせていなかった。

 それは、前回の世界での記憶――今の私よりも明らかに実力がある私の戦いの記憶、それを(もと)にして私は今の自分を変えようとしている。


 だから、どうしても感覚と体に齟齬が生まれてしまうのだ。それには早い段階で気が付いていた。

 そのため、この二週間の間に感覚の擦り合わせをずっと行ってきた。

 それなりに満足できるという段階になった事もあり、兄上に挑んだつもりだったが……結果は言うまでもなくね。


 本当に高い壁だと思う。

 でも、この人の側にいたい。この気持ちは本物だ。

 お荷物にはなりたくないから、必死にこの人についていかないと。そのためには一刻も早く、自身の状況を改善しなければ。


 私が考え込んでいると、ぽん、と頭に大きな手が乗せられ、少し強めに撫でられる。

 汗でベタついている髪を撫でられるのは、少し恥ずかしい。


「あまり考えすぎるなよ。一年生で今の状態なんだ。しっかりと鍛練を積み重ねれば大丈夫さ」

「……はい」


 汗の事を気にせずに頭を撫でられて、気持ちがふわふわする。

 私の小さな手とは違って、大きくて少し硬さもあるそれは、私に大きな安らぎを与えてくれる。

 もし、誰もいなければこのまま身を委ねてしまいそうなぐらいに。


 でも、今は私一人ではなく朱莉たち四人もこの場にいて、この光景を見ているのだ。

 だから、私はできる限り平静を装う。正直、顔はにやけているだろう。

 もっと撫でて欲しい……そう思うけれど、これ以上はダメ。本当にとろけてしまいそうだから。


「あ、兄上、もう大丈夫です。ありがとうございます」

「あ、悪い。葵の青髪が柔らかくて撫で心地が良くてさ。ついずっと撫でたくなったんだよね」

「――ッ!」


 何でもない事のように飛び出した言葉は、私の心を容赦なく貫いた。

 兄上は素でこういう事を言うから、たちが悪い。もちろん、嫌という訳ではないけれど。

 髪を褒められるのはとても嬉しい。いつも兄上が不快に思わないように手入れは念入りにしているから。

兄上に褒められた事で、まだ高揚している体に追加される熱。それは心臓が血液を送るように体全身へと届いていく。


「あはは! 葵ちゃん、顔真っ赤だね」

「そうっすねー、りんごみたいっす」

「でも、お兄様に頭を撫でられるとそうなるのも分かるなー」

「葵もそういう顔をする事もあるのね」

「もう! 四人ともうるさいわね!」


 照れ隠しで四人に対して大声を上げる。恥ずかしい所を見られてしまった。

 でも、仕方がないと思う。兄上の頭撫で撫での前に私は無力だもの。

 

「素直じゃないんだから、葵ちゃんは。はい、タオル」

「ありがとう、朱莉」

「どういたしましてー。葵ちゃん、シャワー浴びてくれば?」

「え……でも、着替えを持ってきていないわ」


 兄上と合流してからそのままここに来たから、着替えは持ってきていなかった。

 でも、体がかなりベタついているので、すぐにシャワーは浴びたい。


「私の着替えを貸してあげるよー」

「そう? ならお言葉に甘えようかしら。兄上、すみませんがシャワーを浴びてきますね」

「うん、行ってきて大丈夫だぞ」

「はい、では失礼します」



***



 シャワーを浴び終えて、すっきりした。汗をかいた後のシャワーは気持ちが良い。

 トレーニングスペースに備え付けてあるシャワー室から出てくると、そこには兄上しかいなかった。


「兄上? 帰ってくださってもよろしかったのに。それと他の皆は?」

「……あ、ああ」


 兄上が私を見て少し顔を逸らす。ほんのりと顔が赤いのは気のせいかな。


「兄上?」

「あ、あいつらなら、先に食堂で席を取っててくれているよ。だから、俺もシャワーを浴びようと思ってな。着替えは取ってきたしさ」

「そうなのですね。では、私も待っています」

「悪いな。じゃあ、浴びてくるよ」


 兄上は着替えを持ってシャワー室に入った。

 部屋に戻ったなら寮の方で入ってくれば良かったと思う。でも、こういう所も兄上らしい。

 ただ、少しさっきの視線が気になった。私のどこに反応したのだろう。

 

 ……考えても仕方ないわね。

 さて、今日は完敗だったわ。もっと事象系練気を使いこなせるようにしなければならない。

 校内戦で優勝を目指すなら最優先事項よね。

 皆に負けないためにもさらに鍛練をしなければならない。


 そうなると、放課後の鍛練だけでは限界がある。

 校内戦が近付けば、皆と手の内を見せないように別々に鍛練する事も出てくるだろう。

 それはお互いが全力で戦うため。

 本気の戦いは私たちを成長させるもの。


 となると……難しいわね。感覚と体の擦り合わせは一人でやっていたけれど、今回の戦いを考えても限界があると思うわ。

 とにかく戦う相手が欲しいわ。とにかく私と同格以上の人。

 そうなると限られてくるわね。これは自惚れではなく事実として。


 さて、どうしようかしら……


「何か悩み事か?」

「兄上? 早かったですね」


 振り向くと、少し湿った黒髪にさっぱりとした表情の兄上が立っていた。


「まあ、男のシャワーなんてすぐに終わるもんさ。で、何悩んでたんだ?」

「今日指摘をいただいた事です。自身の感覚と体を合わせるには、一人では難しいと思っていましたので」

「ああーなるほどな。なあ、葵。少し提案があるんだけど……」


 兄上が珍しく口籠り、私を直視せずにちらちらと見てくる。

 その視線がいやらしく感じてしまうのは自意識過剰かな。先程の視線の事もあってさらに気になってしまった。

 尋ねたい気分ではあるけれど、先に兄上の提案を聞いてみる事にしよう。


「……提案ですか?」

「ああ、俺と二人きりでさ――」

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