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虚飾の舞踏会  作者: 猫柳
第一章  魔王の言い分
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森の少女 4

数日のうちに、ディルはみるみるうちに体力を回復した。

シミオンの治療も功を奏したのだろうが、もともと生命力が高いのだろう。四日も経つと、寝台から起き上がり小屋の中をうろつくようになった。


手持ち無沙汰に薪割りでもしようか、などと言い出し始めたディルに、それならば、とシミオンが話題を振った。


「どうせ暇なら、エセルのお使いに付いていってくれませんか?」

「使い?」


シミオンの蓄えている魔術書から顔を上げ、ディルは不思議そうに首をかしげた。


「えぇ。定期的に買い出しを兼ねて、いろいろと用事を頼みつけているんですよ。もし良ければ、一緒に行ってきてはどうですか?」


そのまま帰ってこなくてもいいんですけど。という言葉は、流石に飲み込んだ。

しばらく俯いていたディルは、やがて決心したように「ついていく」と言った。


「そうですか。それじゃあ、エセルに伝えてきます。その間に準備を整えていてください」

「あぁ」


こっくりと頷いたディルだったが、そこにひょっこりと顔を出したエセルが、話を聞くなりしかめ面をした。


「……ダメです。怪我が悪化したらどうするんですか」

「シミオン殿の治療によりもうほとんど治っている」

「割と、遠いんですよ?時間もかかりますよ?」

「分かってる分かってる」


こりゃダメだ、と判断したエセルは、早々に白旗を上げた。意気揚々と支度を始めるディルを横目に、「彼が倒れたら向こうで治療してから帰ってきます」とため息混じりにシミオンに伝える。


シミオンはしばらく二人の様子を椅子の上から眺めていたが、やがてゆっくりと口を開いた。


「……エセル」

「はい、何ですか?」


振り返ったエセルは、シミオンの唇が小さく声にならない言葉を紡ぐのを見た。それが何を意味するかわからなかったが、続いてちゃんとした声が紡がれる。


「もし、貴方が迷うことがあれば、貴方は貴方の運命を取りなさい。エセル、貴方は森の奥で暮らすために生きているのではないのですから」

「……?分かりました。それじゃあ、行ってきますね」


リオー、と愛馬の名前を呼びながら、二人が木戸をくぐって出て行く。その背中が見えなくなったのを確認して、シミオンは小さくため息をついた。


(本能というものですか。対の絆が引き寄せた出会いなら、彼女はもう帰ってこないでしょうね)


彼女は彼の拾った者たちの中で、最もまともな常識を持つ者だった。それ故に、少々寂しくもある。


不意に、コンコン、と小さい音が響いた。


シミオンが窓辺に視線をやると、一匹の鷹が窓枠に止まり、ふん、と胸をそらしていた。


「おや、ボルノ。久しいですね」


シミオンが声をかけると、ボルノと呼ばれた鷹は一声鳴いた。それから、頭を低くして背中を見せる。

ボルノの背中には、銀色の筒が括りつけられていた。シミオンはその筒の中身を取り出し、広げて目を通す。


「……はぁ」


シミオンは眉間に深い皺を刻み、手紙の内容を反芻しながら椅子に腰掛けた。その瞳に映るのは、無力さに対する苛立ち。

複雑そうなシミオンの姿を眺めていたボルノは、やがて主人の元へと大きな羽を広げ、バサリという音と共に旅立った。



『 敬愛なる師 シミオン・モリス殿


あなたの元を飛び出して早五年。あなたは僕のことを忘れているかもしれない。

もしくは、風の噂で聞いているかもしれませんね。あなたの後任として、王宮魔術師となったことを。

さて、俗世の話題に疎いあなたですが、現在の王国の状況をどこまで把握しておられるでしょうか。勇者レナ・エンドウ率いる革命軍が、王宮を占領していることはご存知で?

単刀直入に申し上げます。『隠者』の称号を受け継いだあなたに、また王国のいざこざに関われとは言いません。しかし、もし黒髪赤眼の男(それだけ言えば誰であるか、この王国の人間ならば分かるでしょう)を見つけた場合、僕に連絡を頂きたい。そして、できる限りの手助けをして頂きたい。

僕は訳あって現在彼を探しに行くだけの体力を持ち合わせていません。回復にはしばらくの時間がかかりそうです。

それと、できればレナにも一度、会って頂きたい。あなたに頼まれて一時様子を見ていましたが、最後に会った時には既に最悪の状況と言えました。

その二点について、よろしくお願いします。


                            不肖一番弟子  ルート・アベリー


追伸:また四人目の弟子を取ったそうですね。そろそろ弟子と名付けた雑用係を拾うのはやめてはいかがですか?体を動かさないと老化が進む一方だそうですよ。

                                         』

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