魔都・ティベリア領へ③
「一旦、マツカゼに戻るぞ」
「そうしよう。トゥルムも休んだ方が良い」
動き出すマツカゼに揺られながら、オイフェが魔法で怪我の治療を。
トゥルムの【流氷】により、街道は静けさを取り戻していた。
「はやく王城に行かないと…」
「大丈夫よ。トゥルムはしっかり寝てなさい」
はやるアーサーを座らせて、オイフェはティベリアの地図を広げた。
「どれだけ私たちがゆっくりでも、テスカトリポカが先着する事はないわ」
現在地にピンをさし、目的地であるティベリアの王城へ旗を。
その距離…残り150キロ程。
「……まず、私の能力。神器・千里眼を賜ってるの」
およそ、3千里までを見通す事が可能だと言う。
「テスカトリポカは3千里内に、居なかったわ。そして、その場合…」
指は更に南下していき、シャンバラとの国境沿いの平原へ黒いピンをドスンと刺す。
「十中八九、テスカトリポカはここ。私たちが侵入した事はわかっているでしょうけど、あの男が急ぐなんて事はしないわ」
「……俺もそう思う。テスカトリポカは石橋を叩きまくっても渡らん男だ。単身で帰還はまぁまずない。国内の軍をまとめて帰って来るだろう」
王城までは1000キロ程の道のり。
悠々と凱旋するテスカトリポカ軍は、道すがら更に兵を召集しながら、黒いウネリとなってやってくるだろう。
「兵は普通の人々。守護者についてなど来れない。急ぎはするが人の移動に合わせる……って事?」
アーサーの問いに頷くオイフェ。
「私たちは、その余裕を逆手にとるのよ」
「………なるほど。だからあの“狼煙”が入っていたのか」
「そう。“持っている”のね?ヘラなら、持たせてくれると思ったわ」
「……?」
ヘラクレスがアイテムボックスから取り出した…真紫の木炭。
「これは、【逆神の狼煙】と呼ばれるものだ。一部の守護者のみが保有するものでな」
過去に2度、焚かれた。
そう言ってヘラクレスの脳裏に父親の姿が過った。
「これを焚くというのは、つまり。アナザーへの密告だ」
「………24時間以内に【訂正の狼煙】を上げなければ、テスカトリポカはアナザーによりその能力を失い、ただの人へと降格されるわ」
つまり、テスカトリポカはのんびり帰宅している場合ではなくなる。
軍勢を残し、彼は全速力で城へと帰還するだろう。
「……つまり、テスカトリポカの本隊が到着するまでに…」
「テスカトリポカを邪神として討伐する。私たちが生き残る為の作戦は、これしかないわ」
「絶対に、、倒してみせる」
馬車はスムーズに走る。
「……トゥルム、大丈夫か?」
「ええ」
奥のベッドで横になるトゥルムは、、青白い顔をしていた。
「魔法、ズレてるんだろ?」
「半分戻ったのですから、当たり前ですよね……」
だって、本来は貴方の魔力なんだから……。
そう言って再び深い眠りへ。
「…トゥルムの事を聞いても?あのこ、元は狼亜人なんでしょう?だとしたら、魔力の桁が可笑しいわ。いくら、アルビノ種だとしても」
本来、狼亜人は物理特化型の亜人だ。
自分を強化するような魔力はあっても、魔術師になる程の魔力は“種族として”備わっていない。
アルビノ種は魔力が本来の10倍近く高いのは有名な話ではあるが、それを踏まえても…。
「イズモでは有名な狼亜人の一族の子供だった、、のは調べてわかったんだったな」
「はい。魔力は高い一族みたいですが…」
「……呪いが関係あるの?」
マーリンの呪いは、アーサーの【守護者の力を封印する】という呪いで、アーサーが亜人になるようなものではないらしい。
「………テスカトリポカが、何の呪いをかけたのかわかりませんが…」
最初は、、姿が入れ替わっただけだと思っていた。
それにしては、、お互いの見た目は変わりすぎたが……気にしないようにした。
「トゥルムの魔力は、俺の魔力量と同じだと気がついて……」
そして、アーサーの魔力は本来のトゥルムの魔力量へ。
完全に体が入れ替わっていると気付いた。
「マーリンとアマテラス曰く、2つの呪いのせいで…呪いが複雑になったんじゃないかって」
「……アーサー、魔力タイプだったのか…」
「呪いが解けてから徐々に半分が俺に戻り出してる」
そんな状態で上位の更に上の魔法を使えばどうなるか…。
「魔力が足りない時、どうなるかご存知ですか?」
「そう、あの坊や。“寿命の前借り”をしたのね」
1日に作られる魔力量は決まっている。
足りない分を補うための、禁術が“寿命の前借り”だ。
「これは、提案なんだけど…」
アーサーの重たい口がゆっくりと開く。
そのまま、寝込んでいるトゥルムの部屋へ視線が流れ…
「………トゥルムを、、最終決戦のメンバーからはずしたい」
きっと、トゥルムは最終決戦でも迷う事もなく、同じ事をするだろう。
そして、戦いが終わるまで寿命を減らし続ける。
「俺は……トゥルムを……」
━━その命が尽きようとも━━
「唯一の家族を…失いたくない…」
アーサーのその声は、、少しだけ震えていた。
コロナで体調不良によりストック分のみ掲載
12日くらいから再開予定




