裁きの槍
伝書魔法でルンビニへと伝言を出すこと小一時間。
「……子供ばかり捕まえられてる」
「しかも、、貴重な種が多い」
亜人の子供を解放し、ルンビニからの兵が到着した。
「一件落着か?」
回復したヘラクレスも合流したが、ネメアの表情は険しいままだ。
もちろん、アーサーは意味がわからず少しだけ困惑している。
「んん?どうした?」
「……いえ」
「しっかし、この数。こりゃクー・フーリンの逆鱗に触れるな…」
奥の部屋には…、100近い子供と、お金が山のように積み上がっていた…。
転移魔法にて一気にアーサー達はルンビニの王の間へ。
お手柄だったな、そう労いの言葉のあとだった。
「アーサー、君はどう裁く?」
アーサーに問う、クー・フーリンの手には深紅の槍が。
その槍を見た瞬間、アーサーの背筋に何故か寒気が走った…。
「……アーサー。君の意見が聞きたいだけだ、そう身構えるな」
捕らえた賊は例外なく、、その場に平伏した形で並ばされていた。
「……罪を認め、反省し、二度と行わないと約束するなら…」
「命まで取る必要はない…か?」
ピタリと首筋に当てられた槍が、その動きを止めた。
「はい」
そう答えたアーサーの言葉に、、賊のリーダーは堪えきれず笑いだした。
「命まで取る必要はない??」
それにつられるように、他のメンバーもクスクスと笑う。
「……亜人が、人様の命をどうしようって??そう思わないか?なぁ?」
その一言に、アーサー達は閉口した。
奴隷の亜人が人を裁くことは出来ない。
理不尽だと感じることもないほど、常識的な事のだ。
「(そうか、だから、あの時……)」
ネメアが言った言葉が、フラッシュバックする。
「そもそも、一体俺たちはなんの罪をおかした?」
ああ、盗人猛々しいとはこの事をいうのだろう。
アーサーの胸にモヤモヤとした感情が沸き上がる。
「亜人を捕まえ必要なところへ売る、なんの罪だ?」
「みーんなやってる事だろ!そして、この国もだろ!!」
この国も…??
その言葉の意味がわからないまま、会話は矢継ぎ早に進んでいく。
「そうさ、亜人の売買が何の法律に違反してるってんだ!」
「罰金払って無罪放免が関の山だ、残念だったな」
それでも、クー・フーリンの表情は微塵も揺らがない。
「……だそうだ。アーサー。それでもまだ、先ほどと同じ事を言うか?」
アーサーも、密猟団も、、未だにクー・フーリンの意図をわかってはいない。
「もし、、俺が彼らの命をとると言ったら……?」
まるで、アーサーにそう言って欲しいかのような問いかけに、、アーサーが応える。
「もとから、生きて外に出す予定はないからな。問題ない」
ふっとヘラクレスが笑い声を漏らした。“だろうな”と。
「ルンビニは亜人の国だが、守護者は違うという事を忘れているようだ」
何故、聞いたのだろうという疑問と。
しかし、だとすれば……
彼等の命は風前の灯であるという事と。
アーサーの答えが、彼等の生死をわけるのでは、という事と。
「ルンビニのクー・フーリン。噂を知らないわけではあるまい?」
“血も涙もない、残酷な守護者”
その肩書きは……密猟団の減らず口を奪うには十分だった。
「貴様らが犯した罪?守護者の財産の強奪だ」
その一言で事態を察したのか、、「二度と致しません」「出来心だった」「貧しくて仕方なく」「脅されて」などの言葉がつらつらと並びはじめる…。
「さて、アーサー。もう一度聞く」
その温度のない声色に、密猟団がビクッと体を震わせる。
もう、誰も言葉を発していない。
「アーサー・ペンドラゴン。ムー大陸の守護者よ」
それは、また、アーサーも同じだった。
「ルンビニの財産を長年盗み続けたこの大罪人どもを、いかに処すべきだと思う」
ごくっと喉が音をならす。
「それでも…、、彼等が悔い改めるなら…」
「青いな、アーサー。……一人一人、隣へ連れてこい」
クー・フーリンはアーサーを連れ隣の部屋へ。
密猟団が個別に連れていかれ、机には黄金の秤、その前の椅子へ座らされる。
「よくみていると良い」
その秤を目にした密猟団は顔色を更に変える事になる。
「今から質問する。全て、イエスと答えろ」
“仲間はいるか”
“心から反省している”
“二度と密猟はしない”
“ルンビニに二度と入らない”
“今までの保証金を払う気はあるのか”
金色に輝く秤は……、イエスと答える度にカタンと机に音を立てた。
「……これは、アナザーが地上にもたらした神器の一つでな。嘘を見抜く秤だ。さて、仲間以外は全て嘘だそうだ」
「裁きを受けて、、変わるとかは……ない、かな…」
アーサーのその言葉に、一縷の望みをかけたかのように、「変わると約束します!」と、アーサーに訴えはじめる。
調子が良いことを言うな、と、普段ならば耳も貸さなかっただろう。
「やはり、子供だな」
ふっと笑ったクー・フーリン。
機嫌が良くて助かったなと言うと、ルンビニ兵を呼ぶ。
「手柄はお主だ、この国ではお主の顔を立てよう。エリシオンの犯罪裁判所へ送りつけろ。準備が出来しだい、すぐにだ」
ほっと息を吐く密猟団へと視線を流す。
「アーサー・ペンドラゴンと約束を交わすならば、今回は我が領土では裁かない」
ドン!と槍が彼等の目の前に突き刺さり、密猟団はアーサーと“二度と犯罪は犯さない”と口約束をした。
「……約束は守る事だ。忘れるな、“次はない”」
引っ立てられて馬車へと押し込まれると、魔法で動く護送車は走り出す。
マツカゼ程ではないが、それでもあっという間に見えなくなった。
「今日はもう遅い、今日はお手柄だったぞ、アーサー。よくやった。今後については明日話そう」
ふっと笑ったクー・フーリンに連れられて、王広間へ。
夕食を一緒に取り、客室へと案内される後ろ姿を確認すると、そのまま自室のバルコニーへと歩き出す。
「……ヘラクレスはゲイボルグに気付いていたようだが、まぁ良い」
国境の門が開閉するのが微かに聞こえた。
もう、こうなればルンビニの法は届かない。
今頃ほっと一息ついた事だろう。
「あの守護者がガキで助かった」
「口約束なんて、あまっちょろいにも程があるぜ」
「笑いを堪えたかいがあった」
「はぁ。次はもっとバレないよう、うまくやらないとな」
「砦の金は、もうないか……」
「なぁに、金はまた…奴隷を捕まえて売りゃ稼げる」
「エリシオンの犯罪裁判所?亜人の罪なんて無いにも等しいのにな!」
「罰金もあるかも怪しいぞ?」
「しっかし、クー・フーリンが血も涙もない?」
「あんな甘ちゃんに任せるとは…。噂も、あてにならないな!」
水晶から聞こえる声に、「……最後までクズで助かった」と本音が漏れる。
そして……、すっと槍を構えるクー・フーリン
「悔い改めれば、命までは失わなかっただろうに」
彼等はアーサーとの約束を守れなかった
いや、守る気など最初からなかったのだろう
「子供との約束すら守れん大人など、この世に必要か?」
いや、不要だ
馬車までの距離は12時間
「アーサー」
例え、彼に知られて失望されようとも…
「私は約束を守ったぞ」
━━裁け、ゲイボルグ━━
その言葉と共に右手の槍がその手から投げ出され…
遥か国境よりもやや遠くで……
微かな、しかし、地響きのような爆発音が鳴った
「生き残りはいないわ」
しばらくして…。
バルコニーに大きな影と、愛槍のゲイボルグが置かれる。
「これを、使うまでもなかったと思うけど?」
深紅の槍は、再びクー・フーリンの手におさまった。
「…冥土の土産話は必要だろう?」
バルコニーから吹く風は相変わらず冷たかった。




