2
初日はお昼過ぎに終わった。
クラスメイトたちも荷物をまとめて、教室を出て行く。
悠真はまだ数人の女子と話していた。
「優奈、帰ろう」
教室を出ようとしたら、優奈が止まった。
「じゃあ悠真君! また明日ね!」
悠真が振り向いた。
「ああ待って、俺も帰る。じゃあまた明日な」
悠真は女の子たちにウインクした。
ときめきの眼差しで見送っている。
優奈は校舎を出るまで笑いを堪えていた。
「悠真君のウインクにときめく女の子、久しぶりに見た気がする」
「小中はほぼ顔見知りだから、俺のウインクはもう通じなくなってたからな」
凪が目を細めた。
「いずれ高校でも、通じなくなるって」
「なんだよ。さっきの女の子たちは、俺のウインクが効いたから、こうしてお前と一緒に、いて!」
凪の一撃がおみまいされた。
優奈はクスクス笑っている。
「あなたたちって、ほんと昔から変わらないね」
「私たちの友情もずーっと変わらないよ」
悠真は左右を見ている。
「そういや、美咲と里奈はどうしたんだ?」
凪がスマホを取り出した。
「先に終わったから、帰るって。私たちも帰ろう」
新前橋駅のホームには、初日を終えた近郊の高校生がいた。
アナウンスが入った。
電車がホームに入る。
電車が揺れ、優奈が窓の外を眺めながら言った。
「ねえ、凪は部活決めた?」
「うーん、正直迷ってる」
「私もそう。国立大学目指すなら1年生のうちから、じっくり対策したいし。悠真君みたいに、運動も勉強もできれば、部活もやりたいけど」
「そうか?」
悠真は背を向けた。
「そんなできた人間じゃないよ」
凪は息をはいた。
「優奈はすごいな。入学の初日から、もう先をみているなんて」
優奈は手を振った。
「そんなつもりじゃないの。ちょっとテンション高くなってただけ」
最寄りの駅に着いた。
改札を通り、優奈と別れる。
夕暮れが近づいていた。
凪がぼそっと言った。
「…悠にも、悩みってあるんだね」
悠真は吹き出した。
「何言ってんだよ。俺に悩みなんてあるわけないだろう」
凪は悠真の目をじーっと見た。
悠真は鼻で笑った。
「あんまり見つめてると、勘違いされるぞ」
「優奈の会話、はぐらかしたでしょ?」
「ああ、その話か」
悠真は歩調を早めた。
凪は小走りをする。
「だって悠の学力なら、県で一番の高校に余裕で行けたでしょ? どうして…」
悠真はガクッとうなだれた。
「あそこ、男子校だぞ。俺は女の子にモテたいんだ!」
「呆れた、そんな理由だったの!?」
「それ以外に何がある。可愛い制服の女の子が歩いている高校に行きたかったんだ!」
「——心配して損した」
「なんだ? 俺のこと心配してくれてたのか?」
「さっきまでね!」
凪の一撃が炸裂した。
——進路か。考えてもいなかったな——
夕食中でも、凪は忘れられなかった。
母が心配げに凪を見る。
「どうしたの凪?」
「なんでもない。帰り道、優奈と進路の話になったの思い出したの」
「優奈ちゃんは昔からしっかりしている子だからね。で、どこを目指しているの?」
「国立大学だって」
母は驚いていた。
「だから部活どうしようか悩んでいるんだってさ」
父が話に入ってきた。
「悠真君も国立を目指すのか?」
「悠は…」
——そういえば、結局教えてくれなかったな——
凪は思い出して、イライラした。
「可愛い制服を着た女の子にモテたくて、黎明にしたんだって」
父は笑った。
「彼は頭の良い子だ。きっとどこでもやっていけるよ」
ふん、と凪は鼻を鳴らした。
「ごちそうさま」
凪はキッチンに食器を置いた。
入浴を済ませて、髪を乾かす。
2階の自室へ行って、ベッドに飛び込んだ。
部屋の明かりを常夜灯にする。
気持ちがいくぶんか落ち着いた。
——悠のあんな態度は珍しい——
——知られたくないことがあったんだ——
「一緒にいるのが当たり前だったけど、知らないこともあるんだな」
凪は小声でつぶやいた。
「私の知らない悠がいる」
——当然よね。別々の人間なんだから——
凪のまぶたはゆっくり、落ちていった。




