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アイドル王子(自作自演)と、深窓の姫君(余計なコブ付き)の、【偽装結婚】?!  作者: 工藤 でん
第七章 再会して、再考して、再燃する

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ラヴィリアがエドワードの状況を分析する

第七章、開幕です。

六章がとっても酷いところで終わってるけど、もうすぐエディくんはラヴィちゃんと会えるから!

エドワードがナプルの町で気を失った時点より、少し遡る。



――エドワード軍が国営軍と戦闘中、という情報をラヴィリアが手にしてから、しばらく経っていた。



ラヴィリアは正確な情報を求めて、ヴィヴィン商会にもサクタにも、様々な所へ使者を出してもらったが、帰ってくる内容はまちまちだった。結果としては、オーサ公爵領内ナプルの町で、エドワードが国営軍らしきものと戦っているらしい、というどこまでも曖昧なことだけが分かった。


マフマクン伯爵の反乱疑惑を調査しに行ったエドワードが、なぜ戦いに巻き込まれているのか。しかもマフマクン伯爵領ではなくオーサ公爵領内で戦闘中とはどういうことか。その事情はさっぱり分かっていなかった。

さらに王都に駐屯している国営軍は、部隊の一つとして動いた形跡がないという。それがなぜ国営軍とエドワードが戦っているという噂が流れるのか、そちらも不明であった。



イライラしながら情報を待つラヴィリアに、サクタが来客を伴って面会に訪れた。サクタが連れてきたのはサクタ自身の父、スファルト王国西部区域を治める、領主のランドレイク伯爵だった。


重要な件があると踏んで、ラヴィリアは人払いをした。

部屋にはラヴィリア、サクタとランドレイク伯爵の三人である。

白髪の混じった癖のある黒髪を一つに束ねたランドレイク伯爵は、ラヴィリアに向けて慇懃に礼をした。


「ランドレイク伯、ですね」

「お初にお目にかかります。

ラヴィリア姫においては、ご機嫌うるわしゅう……」

「面倒な挨拶は省きなさい。わたくし、機嫌はずっと悪いのです。うるわしゅう、なわけないのです。

なぜかは分かりますわよね?」

「……噂に聞くより直接的なお方ですね。あのカルロスが気に入るわけだ」

「カルロスを知ってますの?」

「もちろん。良い事から悪い事まで、正直に話し合える仲ですよ」

「なるほど。

ランドレイク伯も、ほどよく腹黒いということがわかりました」

「おや、そう見えますか。ちゃんとカルロスくらいの真っ黒な腹黒さは、自覚しておりますが」


実に楽しそうにランドレイク伯爵は笑った。

スファルト王国では古参の大貴族だと聞いている。どの派閥にも属していないが、発言力はとても強いと。

それもそのはずだ。スファルト王国の沿岸部は、半分以上はランドレイク伯爵の領地である。海上輸送を伴う取引は半分以上ランドレイク伯爵が握っている、と言っても過言ではない。


国内でも有数の権力者であるはずだが、ずいぶんさばけた性格の人物であった。



「ラヴィリア姫に、どこよりも正確な情報をお届けしようと、馳せ参じました」

「正確な情報?」

「王都からの情報は真偽が定かではないでしょう。オーサ公爵が情報を操作しているようですから」

「……だから曖昧な内容が多いのですね」

「こちらは間違いなく正確です。

マフマクン伯爵とカルロスからの書簡です」


ほぼ同時に届きました、とランドレイク伯爵は書簡を二通取り出した。

カルロスからラヴィリアへも書簡は届くが、地理的に見てもランドレイク伯爵の元へ届く方が早い。

さらに王都の情報操作をかんがみて、すぐにラヴィリアの元へ駆けつけてくれたのだろう。まさか伯爵本人が届けてくれるとは思いもしなかったが。



「内容を伺ってもよろしいですか」

「もちろん、そのために参りました。

――エドワード王子はマフマクン伯爵の反乱疑惑のためにマフマクン領へ派遣されました。しかしマフマクン伯爵に反乱の意図はありません。オーサ公爵領の治安の悪化により、マフマクン領へ難民が殺到したため、警備に当たっていたとのこと」

「……そういうことなのね。続けて」

「はい。

オーサ領からの難民を防ぐため、オーサ領の治安維持を、マフマクン伯爵が正式にエドワード王子に依頼しました。エドワード王子はオーサ公爵領で圧政を敷いていたミケントン領主代理を更迭し、軟禁しました。ミケントン領主代理は軟禁から逃れ、味方の高官と兵士を引き連れてナプルの町に籠城します」

「ここで、ナプルの町につながるのね」

「そうですね。

エドワード王子はナプルを包囲しますが、ミケントン軍はナプルの町に火をつけ撤退。一般人しかいないナプルの町の消火にエドワード軍が奔走している間に、国営軍が到着。今はエドワード王子軍が、ナプルの町で籠城する形になっているものと思われます」


……どうしてこうなった。

と思うほどにエドワードは転々と動いている。

そして国営軍が派遣されている、という謎が残る。


「王都では国営軍は、一つの隊も動いていないのですよね」

「そう聞いています。そこは私も調査してみたのですが。

新人の予備軍がごっそりといないようなのです」

「もしかして、国営軍の、まだ見習い中の兵士、ですか?」

「そうです。動いたのはこの見習い兵士ではないかと」

「見習い兵士たちなのに、なぜ国営軍であると噂が流れたのです?」

「軍が進撃してくる際、その軍の所属を知るには何を確認すると思いますか?」


ラヴィリアはランドレイク伯爵を見返した。軍の所属、その軍隊がどこから来たのか一目で分かるのは――


「……旗、ですか」

「正解です。スファルト王国の国旗を掲げたのではないかと」

「戦において国旗の私的な使用など、認められるはずないです!」

「そうです。ですから、国の中枢にいる方の許可を得たのではないかと、私は疑っているのですが」


ラヴィリアはスファルト王国の中心人物を思い浮かべた。絶対的な権力を持つ、オーサ公爵に肩入れしそうな人物……

思い出したくもない、生真面目な顔の男を思い出した。


「……オーサ公爵に、国旗の使用の許可を与えそうな高位の人物。一人いますわね」

「私も一人しか思い浮かばなかった。他にはいませんでしょう。

――サミュエル王太子殿下です」


ラヴィリアは瞑目した。だいたい繋がった。

この戦いは、オーサ公爵がしかけ、それに乗ったサミュエルが引き起こした……大規模な兄弟喧嘩だ。

エドワードは一つも望んでいなかったにも関わらず、誰かの欲望と保身に巻き込まれて起こった、酷い喧嘩。王位継承への焦りとか、国民からの人気とか、義弟への嫉妬とか、そういう負の感情を膨らませたあげくの戦いだ。

それに巻き込まれた、今戦っている兵士たちが哀れだ。



こんなの、早く終わって欲しい。

早くエディに会いたい。



ラヴィリアは心の底からそう思った。やりたくも無い戦いに、エドワードは今も巻き込まれている。


それにしても、どうしてランドレイク伯爵は、これを伝えるためにわざわざ本人が来てくれたのだろう。

ラヴィリアが不審そうに尋ねると、ランドレイク伯爵は意味ありげに口角を上げた。


「そんなもの、貴方様にお会い出来るチャンスを窺っていたからですよ」

「わたくしに?」

「アクセサリー工場の経緯は、報告を受けております。時給制を導入するなど、面白い手腕の持ち主でいらっしゃる」

「……褒められているのかしら」

「もちろんです。さらに、エドワード王子の婚約者様であられる。お近付きになりたい理由しかありません」

「エディも関係してるのですか?」

「愛称でお呼びになっているのですか。仲のよろしいことですね」


ランドレイク伯爵はにこりと微笑んだ。


「エドワード王子とはノース港の工事で、長らく仕事を共にさせていただきました」

「ああ。ノース港は、ランドレイク領内の港ですものね」

「左様です。あの方の手腕もまた、ラヴィリア姫に負けずに面白いものをお持ちで」


ラヴィリアはエドワードが二回、海に投げ込まれた話を思い出した。あの件を手腕と呼ぶのかどうかはわからないが。


「ノース港で、エドワード王子を悪く言う領民はいません。それどころか、腕を貸したくてウズウズしている輩が多くて」

「そうなんですか」

「そうですよ。王子になにかトラブルでもあれば、周りが止めても無理やり参加して、手と口を出したくなる。そういう血気盛んな奴が我が領には大勢います。

私もそのうちの一人でしてね」


ランドレイク伯爵はふと真顔でラヴィリアに向き合った。真顔はとてもサクタに似ていた。


「今、国の中央は腐りかけている。国王陛下の手腕で持ちこたえているが、一部の腐敗は地方にまで臭ってきている」

「……」

「私はエドワード王子に期待しているのですよ。

国が何を言おうが、私はエドワード王子に味方します。彼はこれから重要な行動を起こすと、確信しています。私は彼の力になりたい」

「ランドレイク伯爵……」

「そのことを、ラヴィリア姫にも知っておいていただきたかったのです」



ラヴィリアは目を見張ってランドレイク伯爵を見つめた。

思いもよらない言葉に、呆然とした。ずっと願っていて、叶わないものかと思っていた。



味方がいたのだ。

ちゃんとエドワードを見てくれている、力強い味方がいた。

エドワードは孤立無援なのかと思っていた。わかってくれる人は、ほんのひと握りなんだと。



貧乏で自分を切り売りして、生活費稼いでいるエドワードに。

ハズレくじしか引かせてもらえない任務で、何度も死にかけていたエドワードに。

生き延びるために自分を殺して、心まで壊れかけたエドワードに。


こんなに頼りになる味方が、ここにいた。



嬉しい。とても、嬉しい。



「貴方の、心よりの言葉、嬉しく思います」



ラヴィリアはランドレイク伯爵に微笑んだ。高貴で品のある微笑みは、いつもより優しげにラヴィリアを彩った。感謝の気持ちはどうやって届ければいいのだろう。

本当は握手して抱きついて、ありがとうって伝えたい。

それでも、ラヴィリアは王族で。エドワード王子の婚約者として、振る舞わなければいけなかった。

だからこそ、精一杯微笑んだ。



ランドレイク伯爵はラヴィリアの微笑みを受け、その言葉を聞いて。

なるほど、これが噂の高貴な微笑みかと納得した。報告書以上のラヴィリアの態度と様子だった。エドワード王子の心を射抜いたのは、この気品と微笑みか。これは確かに、他には得がたい希少なものだ。



その気品と微笑みに撃ち抜かれたサクタが、ヨロヨロとラヴィリアの前に転がり出た。


「ラヴィリア様、しゅき。

本当に好き。愛しているとはこのことです。

今度こそ身分など問答無用で取っ払って結婚前提で真剣なお付き合いを」


すぱーん、とランドレイク伯爵は自分の息子の頭をシバいた。愚息の心も射抜いていたことを忘れていた。


お前が太刀打ちできるはずがないだろうと思うと共に、息子の本気で伝えたい言葉である事も理解する。


それもまた、辛い恋路に足を突っ込んだものだと、サクタを哀れに思った。

有力貴族、ゲットだぜ!

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