表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
43/64

42th 電話と予測

次の日、放課後。生徒会室に方鐘たちは集まった。

一通り昨日の成果を確認する。


「…じゃあ、目立った成果は無いという訳ですか」


「けどなぁ。さすがに厳しいと思うぜ。学園連合が探し回って見つからないのを俺たちで見つける、なんて。しかも本当の目的はその先の真犯人だぜ?」


残念そうな方鐘の声に片銀が反論する。


「なら、今日は各自思うがまま動いてみて。何か見つかるかもしれない」


目的がない、と同義の方鐘の言葉に全員が渋々ながら頷く。確かに、手づまりなのも事実なのだ。その中で黒川副会長が話しかけてきた。


「方鐘。お前はどうする?いざという時連絡が取れなくては話にならない」


「僕はちょっと調べてみたいことがあるので…しばらくはここにいます」


「わかった。あまり派手に動くなよ?」


「わかってます」


そう言って方鐘は生徒会室のパソコンを立ち上げた。誰もいなくなった部屋にキーボードを叩く音だけが響く。


(よし、これで…)


画面に浮かんだウインドウには、遅刻記録の文字。


(失踪当日の生徒、教職員の状況は…と?)


学校内で事件を起こした以上、遅刻や早退など何らかの変わった行動…隠蔽工作をしているはずだ。そう睨んでみたのだが…


「ハズレか?」


「そうみたい。遅刻や早退なんてこの学園なら日常茶飯事だからなぁ…ん?」


「どした?」


「いや、ちょっと気になることが…」


遅刻、早退者を時間帯別に分けてみる。


「片銀、確か先生が消えた時刻って…」


「…覚えてねぇよ。ライバルに聞け。風紀委員だろ」


「正確には生徒会からの協力者なんだけどね…ありがと」


おうよ、と若干投げやりに答える片銀に苦笑しながら携帯電話を取り出す。


(考えてみると、同年の女の子に電話をかけるのは初めてかな?)


記憶がないので不確定だが。そう思いながら方鐘はちょっとした緊張と共にボタンを押した。


ピリリ、ピリリ、と飾り気のない電子音の後、繋がった。


『もしもし?高垣ですけど』


「あ、こんにちは。方鐘だけど、今は大丈夫?」


『ええ、平気だけど…どうかした?』


「ちょっと聞きたいことがあってね。山良先生が失踪した時の事だけど、アレは何時頃?」


『ええと、確か…昼休みくらいのはずよ?昼ご飯の後に警備員詰め所に入っていくのを見てた生徒がいたわ。それが最後かしら』


「そっか…ありがと」


『何かあったの?相談くらいなら乗るけど』


「いや、大丈夫。ごめん、手間とらせて。いずれ埋め合わせるから」


『いやいや、この程度で埋め合わせって大袈裟な』


「だって一週間後の僕の安否がかかってる出来事だし、十分大事だよ。本当に助かった」


『うーん、そこまで大きくなるのね…じゃあさ、私のお願い、聞いてくれる?』


「いいよ?またちょっと『抜く』?」


『うっ!そ、それも魅力的だけど…今回は、パス』


「じゃあ、何?またチョークスリーパー?」


『何をどうしたらそんな結論になるの!?』


「あはは、素が出た」


『いじるのも大概にしなさいっ!…もう、用件だけ言うわ。もう一回ご飯おごってくれない?』


「…それだけ?それくらいならいくらでもいいけど…じゃあせめて、何かリクエストは?」


『いいの?それなら…カレー?』


「なんで疑問形なのさ…いいよ、わかった。しかしまたスタンダードというか子供っぽいというか」


『何よ!?文句ある?』


「ありません。っていうかまたご両親はお出かけなの?」


『うん…まぁ…』


「…わかった。これ以上聞かないよ。七時過ぎに僕の家に来て。道はわかるよね?」


『もちろん!』


「了解。それじゃあ」


『またね』


電話を切って、方鐘は深く息を吐いた。すると、やっと終わったか、とばかりに片銀が話しかけてくる。


「またタカリかよ。寂しい奴だなオイ」


「タカリって…間違ってはないだろうけどさ」


「どうする?先に帰ってカレー作るか?」


「いや、先に調べものだけ終わらせよう」


と、パソコンを操作する。そして、ある部分で手が止まった。


「…どした?何か見つけた?」


「…ううん、何でもない。さ、帰ろう」


履歴を消し、パソコンの電源を落とす。


つっても、勝手について行くっての。


ガラスの呻きを背中に、方鐘は生徒会室を出た。




「あとは煮込むだけ…と」


方鐘の家、台所。現在六時。方鐘は一通りカレーを完成させると、ふと空いた時間に風呂でも沸かすか、と思い付く。


「片銀、ちょっと鍋見てて」


「この位置から見えるかアホっ!」


「あ、やっぱり?」


「わかってんなら聞くなよ!」


「はいはい、怒らない怒らない」


「テメーは古き良き時代のオカンか!」


と、結構ギリギリな会話を『大罪』と交わしつつ蛇口を捻ってリビングに戻る。


「…やれやれ。こんな呑気でいいのかね?」


「じゃあちょっとくらい推理に頭使えよ。次にどこで誰が殺される、とかさ」


「いや、それはわかってる」


実にあっさりと言う方鐘に片銀がショックでフリーズする。


「は、ハァ!?」


数秒で立ち返った片銀が絶叫した。方鐘はといえば、うるさいなとでもいいたげに耳をふさいでいる。


「説明しろ説明!ってかなんでわかるんだよ!?」


方鐘はしょうがない、と呟いてから話しだした。


「事件の被害者の共通項で見たらすぐわかるでしょうが」


「いや、わからん…説明してくれ」


「要するに『対比実験』みたいなものだよ。一回目と二回目は『能力の有無』。

三回目と四回目は『年齢』。

僕のやらかした五回目とまだ起きてない六回目は多分『能力の強弱』じゃないかな?

だから次に被害者になるのは上位の天司型。ついでに言うと場所と時間帯も同じだから学園内、しかも昼頃ってわけ。わかった?」


「…お前、バケモノだな…確かに納得いくわ」


一、二件目はトイレの中、夕方。

三、四件目は公園、夜半。

確かに、統一されている。


「片銀に言われたくはない、かな。原因も片銀だし」


「は?なんで俺が?自慢じゃないが俺相当アタマ悪いぜ?」


「本当に自慢じゃないし!前に、戦い方の記憶を引っ張り出したでしょ?アレと似たようなことをやったの」


すると、納得したと言いたげに片銀が手を打つ。


「なるほど、古今東西の探偵だの刑事だの事件簿だのを頭の中で参考にすればそうそうわからんことは無いわな。なるほど」


納得頂けて、と返し、方鐘はカレー鍋を覗きにキッチンへ立った。

そこに、ちょうど良く来客を告げるチャイムが鳴る。


開いてます、と告げると宅配便です、と返る。


カレーに気をつけつつ、玄関に出て荷物を受け取る。いつの間にか、外には雨が降っていた。そして、受け取ったその箱は適度に固く、長方形で、


まるでビデオテープのようだった。


「…開けるな。すぐ隠せ!」


それに思い至った瞬間、片銀がかつてなく緊張した声で叫んだ。


「どうして?!」


「ライバルに見つかってみろ!アイツのことだ、絶対独断で動きだして自滅する!」


そして、言った。


「アイツが、六件目になるかもしれないんだぞ!」


頭をぶん殴られたような気がした。それは、最悪の可能性だった。


予想としてはあった。考えるべき可能性でもあった。確かに彼女は天司型、そして校内五位という相当『強いスピンオフ』の持ち主なのだ。思考外に置くことがおかしいはず。けれど、まるで忌避するかのように頭から追い出していた。


「あ、ああ…」


茫然とする。まさか、と方鐘は思う。雨音がより強くなったような気がした。


ここまで彼女の優先順位が上がっている、という事実に戦慄する。


(くっ…!)


心の中で強く歯を噛む。そういうことをしてはならないという自戒を込めて。


「わかったら早くしろよ。時間ないぜ」


「…了解」


自分の部屋の適当な棚の裏側に差し入れる。

と、またチャイムが鳴った。


「来たな。…オイ、カレー焦げてないだろうな?」


「へ?うわっ!」


「あと、風呂は?」


「うわわわっ!」


焦げてませんでした。


溢れてませんでした。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ