41th 行方不明とハプニング
「よし、ビンゴ…」
月島は水越とともに巨大なパソコンの前にいた。
月島家謹製のスパコン『月詠』のコンソールを叩き、人物検索を開始する。
「どう?」
「微妙だな…」
その検索結果、目の前に滝のようにあふれ出す名簿に辟易しながらさらに条件付けし、結果を絞っていく。
方鐘が月島に依頼したのは、『該当者リストの作成』だった。水越にも同じ内容のメールが。
「該当者42人か…」
「多い…ねぇタカヒロ、この中で学校の関係者は?」
「ちょっと待て、絞ってみる…13人か」
所属は、との水越の質問に月島は13のウインドウを開く。個人情報が詳細に書き込まれているそれを、一つ一つ検分する。
「うちの学校の関係者だと…!?」
そこには、予想外の名前が現われていた。
「山良先生?」
昨日と同じファミレス、同じ席で方鐘はすっ頓狂な声を上げた。対面に座る高垣が不審そうな目を向ける。
「あの警備員で行方不明な山良先生?」
『そうそれ。ちょっと前に行方不明になってたあの人。あの人のスピンオフが『歪』って書いてあった』
「具体的な効果は?」
電話越しに月島に質問をする。
『対象の意識をそらす、程度らしいがな。確かにこれが『大罪』を受けたら昨日のお前の推理通りになりそうだが…』
いかんせん行方不明じゃなぁ、と月島は締めた。
「わかった。なら別の方向からアプローチしてみよう。月島、もう一人のほうに手を付けてみてくれる?」
『他人を外部から操れる共犯者か…りょーかい』
「よろしく」
『といっても、多分結構数が居るぜ?うちの学園だけでも通綱先輩とかいるし』
「部長は『自分が生きていると認識していないもの』だけしか操れないでしょ。外しておいてね」
『へいへい。っても今プレヴェイルがやってるけどな。…なぁ、どうして俺たちを組ませたんだ?機械関係なら遠見先輩のほうが適任だと思うんだが』
「月島しかその名簿は見られないでしょうが…それに、忘れたの?二人一組で行動するように、って言われたばっかりじゃないか。僕だって知り合いを危険な目に遭わせるのはごめんだからね。…月島も水越もそっちのほうが嬉しいでしょう?」
『知り合い、ってのが引っ掛かるが…まぁいい、その心遣いに免じて許すさ。そんじゃな』
「うん、また」
電話を切る。厄介なことになってきたなぁ、と方鐘は呟いた。
「は?行方不明者さがし?!」
自宅の布団の上で、中村は思わず起き上がって叫んだ。
『はい。月島に調べてもらって、あの人しか当てはまらなくて…遠見先輩の家はこの辺りの総鎮守だと聞いてます。なら、アナログな繋がりを辿るなら適任だと判断したんです。…間違ってますか?』
「いやなるほど、間違ってないな。わかった。地道に聞き込んでみる」
心の中で中村はこの後輩に舌を巻く。確かに、その判断は最善と言っていい。
『詳細は追ってメールします。遠見先輩にも送りますから、なるべく二人一組で行動してください。では、お願いします』
手早く返事を返して、中村は薄手の上着を羽織る。
直後、方鐘からのメールが届く。
『山良望を探してください。デジタルな方は黒川副会長に一任してあります。くれぐれも単独行動はしないようにお願いします』
用件のみでも構わないのにわざわざ注意まで書き込むあたり、人の良さが伺える。
中村は苦笑しながら、メールを読む間についた遠見の部屋を確認する。
和室はぴったりと閉まっていたが、中に識がいる気配はあった。
「識、入るぜ…」
「えっ!?ちょ、ちょっと待っ…」
遠見が慌てて止めるが既に遅し。障子は開いてしまっていた。そして中村の視界に飛び込んできたのは、なんと着替え中の遠見。袴は足元に降ろされ巫女服の胸元は今まさに脱ごうとしていたのかほとんど全開で下着姿だった。
「………」
「………」
確かに幼い頃、いっしょにお風呂に入ったこともあるし酔っ払ってその豊満で柔らかい部分を押しつけられたこともある。いくら女性恐怖症とはいえそこは健全な男子、想像してしまったこともある。
だが、実際に目の前にするとそれは想像を遥かに越えていた。
というか黒ってなんだ黒って。確かに抜けるように白い彼女の肌には素晴らしいコントラストだが青少年の目にはこれ以上の猛毒はない。
「すっ、すまん!」
すぱーん、と中村は障子を全力で閉める。だが、見られてしまった彼女の叫び声は閉め出せなかった。
その声を聞き付けた自分と遠見の両親にこってりと絞られたのは、また別の話。
「兄さん。気付かれたみたいよ?」
「そうかい?だけどこっちもあと一人でいいみたいだし…」
ベッドの上の兄妹は言葉を交わす。ただ違うのは、場所が変わっている、ということだ。
リノリウムとコンクリートで出来た部屋から、空の見える屋上へと。夕方のオレンジ色の光が世界を染め上げていく。
もちろん、異様な機械はそのままである。ひっきりなしに計器類を動かし、操作盤を光らせている。
ただ、一つだけ劇的な変化があった。
試験管の中、それまで濁っていた緑青色の液体の中に、無数のコードが繋がれた黒い塊が視認できるようになっていた。
それは時折もがくようにしてガラスを震わせる。
兄妹はそれを見て微笑んだ。
「確かに、もうすぐみたいね」
「うん。必要な子宮はあと一つ…『あの方』に教えてもらった通りだ。何一つ狂いはない」
「ふふっ…もうすぐなのね…」
「そうだよ…愛しい愛しい、私たちの愛の結晶…」
「「『大罪の子』の誕生まで、あと四日」」
二人は囁くように呟くと、慈しむような笑顔を浮かべた。
終局へのカウントダウンが、始まった。




