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あなたの剣になりたい  作者: 四季
2.高台の家と、母との再会
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episode.37 もう止めて下さい

 いきなりの発言に、リゴールは困惑しているような顔をした。


 彼は、ベッドに横たわったまま、私に視線を向けている。その視線を放つ青い瞳には、戸惑いの色が濃く浮かんでいる。


 そして、それは彼だけではなかった。

 私の隣でナイフを拭きつつ話を聞いていたデスタンも、リゴールと同じように、困惑の色を浮かべている。


「え……あの、エアリ……?」


 一分にも満たない沈黙の後、リゴールが口を開く。


「エアリのお母様の家とは……どういう意味なのでしょうか」

「ごめんなさい。事情を説明するわ」

「は、はい」


 リゴールとデスタン、両者から凝視され、背筋に緊張が走る。だが、何事もきちんと説明をしなければ何も始まらない。そう思うから、私は、話すことにした。


「あの後、話をしていて分かったのだけれど、私の母はホワイトスター出身だったみたいで」

「そ、そうなのですか!?」


 リゴールは食いついてくる。


「えぇ。リゴールのことを知っていたのも、母がホワイトスター出身だったからだわ」

「確かに……あの方はわたくしを見てすぐに気がついたようでしたね」


 嘘だ、と言われたらどうしようと、不安もあった。けれど、リゴールは私の発言を否定したりせず聞いてくれたから、私は少し安堵することができた。


「そんな話をしながら、母が暮らしている家へ行ったの。思っていたより立派な屋敷だったわ」

「ということは……ご両親がそれぞれ屋敷を? もしかして、エアリは、結構高い身分のお嬢様で……?」

「まさか。それはないわ」


 貧しい暮らしをしていたということはないが、特別豊かな暮らしをしていたわけでもない。

 家は森の奥の狭い村。食事はあっさり。友人はあまりいない。そんな、ぱっとしない暮らしをしてきた。


「でね、その屋敷がホワイトスター風だって、母が言うのよ」

「それは……ホワイトスター風の建築ということですか?」

「どちらかというと、外観みたい。それと、白い石畳があるところも気に入っているみたいだったわ」


 すると、リゴールが目をぱっと開いた。


「白い石畳!」


 リゴールの青い双眸に光が宿る。

 また、彼の表情が急に明るくなった。


「白い石畳のことをご存知とは! エアリのお母様がホワイトスターの関係者だというのは、真実なのですね!」


 そんなに意味のあるものなのか、白い石畳。


「疑っていたの?」

「あ……い、いえっ! そういうことでは! ありませっ……んぅ!?」


 首を左右に振りながら、慌てて上半身を持ち上げようとしたリゴールは、突如苦痛に顔を歪める。


「リゴール!?」

「す、すみません……急に動きすぎました……」


 そう言って、リゴールは再び横になる。


「しっかりして下さい、王子」


 デスタンは冷めた声で挟んでくる。


「は、はい……」

「情けないですよ」

「すみません、デスタン……」


 デスタンは妙に厳しい言い方をする。

 なぜだろう。

 あんなに、リゴールを大切に思っているようだったのに。


「だからね、もし良かったら、リゴールも屋敷に来てくれない?」

「あ、いえ……そんな。もうお世話になるわけには……」

「皆で一緒に過ごすというのも、楽しいと思うわよ?」

「は、はい。それはその通りですが……」


 リゴールは嫌なのだろうか?

 そんな風に考えていると。


「何のつもりです」


 デスタンがそう発した。


「王子を手に入れようという算段なら、許しはしません」

「なっ……そんなわけないじゃない!」

「暮らせる家はここにあります。わざわざ移動する意味など、ありはしないでしょう」


 こちらを睨みながら、冷ややかな声を発するデスタン。


「環境が変われば、王子に負担をかけることになります。追い出されてしまったならともかく、意味もないのに移動する必要が、どこにあると言うのですか」


 ……既に反対されている。


 デスタンがこの状態では、もし仮にリゴールが移動に賛成してくれたとしても、すんなりと移動することはできないだろう。


 本当に説得すべきは、リゴールよりデスタンなのかもしれない。


「ホワイトスターのことに理解がある人がいる家の方が良いかなって思ったのよ」

「理解など必要ありません。協力してくれるなら、それだけで十分です」

「それに、この家がブラックスターにバレた可能性が高いなら、移動した方が……」

「そんなことを言って、貴女は王子を連れていきたいだけではないのですか?」


 ……う。


 ま、まぁ、それもあるけど。


 だが、リゴールを連れていきたいからという理由だけで、こんな提案をしているわけではない。


 ——けれど、そこは、デスタンには伝わっていないようで。


「王子はおもちゃではないのですよ!」


 鋭く言われてしまった。


「な、何よ、いきなり……」

「王子がいつも貴女の言いなりになると思っているなら、それは大間違いです!」


 声を荒らげるデスタンを余所に、ベッドで横になっているリゴールを一瞥する。リゴールは、焦りと不安が混ざったような表情で、私たちを見つめていた。


「都合よく利用しようとしないで下さい!」

「利用? 何よそれ。そんな言い方はないでしょ!?」

「貴女の自己中心的な発言によって、王子はいつも迷惑を被っているのです!」


 ——その時。


「もう止めて下さい、デスタン」


 リゴールがデスタンの片手を掴んで言った。


「そんなに言わなくて良いですから」


 制止されたことが意外だったのか、デスタンは戸惑ったような顔をしている。


「しかし王子、この女は……」

「この女ではありません! エアリです!」

「すみません。……ですが、彼女は、王子の善良な心に付け込むようなことばかり」


 デスタンは謝罪しつつも意見を述べる。しかしリゴールは、首をゆっくりと左右に動かすだけで、デスタンの意見に賛同はしない。


「エアリのことを悪く言うのは止めて下さい」

「……なぜですか、王子」

「彼女は信頼するに値する人物です」


 納得できない、というような顔つきをしている、デスタン。しかし、今回はリゴールも譲らない。


「意見を述べるのは自由です。が、意味もなく攻撃的な言葉を発するのは、わたくしが許しません」

「……はい」

「エアリは優しい人。それは、きっといつか、貴方にも分かるはずです」


 リゴールがそう言ったのを最後に、デスタンは唇を結んだ。

 それを確認してから、リゴールは私の方へと視線を移す。


「デスタンが色々すみません」

「え? あ。気にしないで」

「お誘いありがとうございます。その……エアリに誘っていただけて、嬉しいです」


 リゴールは、はにかむ。


「ただ、すぐには決められないので……少し待っていただけませんか?」


 デスタンにはこれでもかというほど反対されてしまったが、リゴールは嫌がってはいないようだ。


「分かった。待つわ」

「ありがとうございます……!」

「お礼なんていいのよ。こっちこそ、急に言って悪かったわね」


 この感じなら、もしかしたら、上手くいくかもしれない。まだはっきりとした返答は貰えていないから、確定ではないけれど。でも、エトーリアの屋敷へ移動するという道も消え去ってはいないと、そう考えて問題ないはずだ。

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