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あなたの剣になりたい  作者: 四季
15.エピローグ
206/206

epilogue

 早いもので、あれからもう一カ月が過ぎた。

 王を倒して以来、リゴールを狙った襲撃は一度もなく、退屈なほどに穏やかな時が流れている。


「長い間世話になった。感謝する」

「ふはは! 何だかんだで長く居座ってしまったな!」


 今日、ウェスタとグラネイトは屋敷を発つ。

 一度ブラックスターへ帰るのだという。

 私はリゴールやデスタンと共にそれを見送るため、屋敷の門の外側に立っている。


 晴れ渡った空は皆の心中のように澄んでいて、青一色。

 降り注ぐ日差しは、私たちを祝福してくれているかのようだ。


「どうか、お気をつけて」


 もうじき旅立とうという二人に、リゴールは控えめな調子で声をかけた。


 彼にとっては、二人は敵だ。何度も自身の命を狙って襲ってきた人物でもあって、それゆえ、今は仲間でも完全に信頼はできないと思う部分もあるだろう。


 それでも、二人を見送るリゴールの瞳に迷いはなかった。


「ふはは! 心の広い王子、百二十点!」

「……あ、ありがとうございます」


 グラネイトがリゴールに妙なことを言っている隙に、ウェスタはデスタンの前へと歩いていく。何か言いたげな顔をしながら少し黙る。そしてやがて、デスタンにそっと腕を絡めた。


「兄さん……必ずまた会いに来るから」


 デスタンはウェスタを拒まない。

 片手をそっと彼女の頭の上に当て、短く返す。


「そうだな。また会おう」


 リゴールに仕えることを選んだ兄と、そんな兄を探し続けていた妹。ずっと一緒に過ごせた方が幸せなのではないか、と、考えてしまう部分はあって。


 でも、それはきっと違うのだろう。


 それは私一人の感覚に過ぎないのだ、恐らく。


 二人はいつだって繋がっている。肉体が傍になくとも、心の深いところで繋がっていられるから、不安ではないのかもしれない。

 私には兄弟姉妹がいないから、その感覚はよく分からないけれど。


「ではこれで」

「ふはは! グラネイト様、完全復活の時!!」

「……うるさい」

「いきなり怒るなよォッ!?」


 温かな日差しの中、去っていく二人を見送る。

 しばらく共に過ごした人たちの背中を見るのは寂しい。でも、仲良く二つ並んだ背を目にしたら、ホッとする部分もあった。


「行ってしまいましたね」


 二人が去ってから、リゴールが残念そうに呟く。


「王子が残念に思われることはないはずです」

「デスタン?」

「あの二人は王子の命を狙っていた者たちですから」

「それはそうですが……それでも寂しいですよ。一緒にいる間は、よく顔を見かけましたから」


 そんな風に心を述べるリゴールの心情が理解できなかったのか、デスタンは軽く首を傾げる。


「そういうものでしょうか……」

「わたくしにとっては、そういうものなのです」

「そうでしたか」


 こうして私たちは屋敷内へと戻った。

 しんみりしていた私を迎えてくれたのはエトーリア。


「お別れは済んだの? エアリ」


 エトーリアは、その整った顔に穢れのない純粋な笑みを浮かべながら、尋ねてくる。


「えぇ」

「何だか寂しそうな顔をしてるわね」

「そりゃそうよ。ずっと一緒の家で暮らしていたんだもの」



 その日の晩。

 私は自室にリゴールを招いた。


「失礼しますね」

「どうぞどうぞ、遠慮なく」


 彼を自室へ招いたことに理由なんてない。

 ただ、すべてが終わったこの時に、彼と二人で話をしたかったというだけのことだ。


「それでエアリ、わたくしに何かご用で?」

「いいえ」

「違ったのですか?」


 リゴールはきょとんとした顔をする。


「そう……用事なんてないの。ただ少し会いたくなっただけ」


 おかしなことを言う、と思われてしまわないか、私としても不安はあった。

 でもそれは杞憂に過ぎず。

 リゴールはちっとも悪く取っていないようで、笑顔で返してくれる。


「そうだったのですね」


 彼は真っ直ぐな目をしている。

 どこまでも、穢れのない。


「ねぇ」


 私は天井を見上げながら口を開く。


「リゴールは……これからも私といてくれるのよね?」


 重いと思われそう、という不安は振り払い、確認の問いを発した。


「はい。そのつもりですが」

「嫌になったら言って良いのよ」

「そうですね。けど……わたくしは嫌にはならないと思います」


 リゴールはそう断言する。


 人間誰しも、相手を嫌いになることはあるものだ。訳なんてなくても、感情が変わることはある。

 それでも、彼は断言できるというのか。


 私には無理だ。


「……随分はっきり言うのね」

「問題ですか?」

「いえ。ただ、少し信じられなかっただけよ。私は、そんなに真っ直ぐ断言できる人間ではないから」


 若干嫌みのようだが、これは、嫌みを込めた言葉ではない。

 彼の真っ直ぐさを羨ましくは思うけれど。


「でも嬉しいわ。貴方にそう言ってもらえて」

「光栄です」

「それは違うわ。光栄、って言うべきなのは、私の方」


 王子に傍にいてもらえるのだから、物語みたいな話だ。


 ……正しくは『元・王子』だが。


「わたくしはそうは思いませんが……」

「私はそう思うってだけ」

「では、お互い、ということですね」


 リゴールの青い双眸を見つめる時、不思議なものが込み上げてくる。


 それは、よく分からないもの。

 でも決して悪いものではないし、不快なものでもない。


 ただ、名称が分からないだけで。


「じゃあ、改めて。これからもよろしくね」

「参りましょう。共に」


 ー終ー

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