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俺が極悪になったワケ 1話  作者: 引越亭暁
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2nd encounter 地獄の釜の入口

2nd encounter 地獄の釜の入口


痛い、主に背中が。

返り討ちにあった時見事な一本背負いをキメられて強かに背中を打ったうえにコンクリートの床に直に寝ていれば無理もないか。と思いながら体を起こす。

いつの間にか眠ってしまっていたらしい。

相変わらず眼前には薄闇が広がっていて、相変わらず時間はわからない。


そこで俺はやっと気づく。

ー生きている。


思わず松明しか明かりのない薄暗い中で両手をじっと見つめ、柄にもなく自分の体を抱きしめてしまった。

眠っているあいだに、殺されていたかもしれなかったと思うと今更ながらに震える。

と、同時に自分が意外と図太かったことを知り乾いた笑いが漏れる。

「そんな状況で、寝てたのか俺・・・・・・」


しかし、まだ身の安全が保証された訳では無い。

その身は未だ牢獄の中にあり、生殺与奪の権利は見知らぬヤクザに握られているのだから。


さて、残りの命をどう使うべきか・・・・・・

次に来た人間に命乞いをするか、決死の脱獄劇を演じてみるか・・・・・・

考えあぐねていると、鍵の開く音がした。

眠る前に聞いたのと同じく、外側の扉が開いた音だ。

どうやら前回とは別人らしい。コツ、コツという硬い靴の音が遠くからやってくるのがわかる。

・・・・・・あの目障りなガキじゃないのか。命乞いが通じる相手だとありがたいんだけどな。

そんなことを考えながら足音の方を睨みつける。


「・・・組長から2、3聞きたいことがあるので連れてこいとの命令です。出てください。」


牢の前に来るなり淡々と言い放ったのはー・・・・・・

あろうことか自分が不本意にも投獄されるに至った原因そのものだった。

つまり、暗殺を命じられたターゲット。

ヤクザの幹部その人だったのだ。


ここで殺せば仕事は成功では?という内なる声がする。

・・・・・・いや、無理だろう。と俺は即時にその考えを否定した。

奇襲でも敵わなかった相手に正面から挑んで勝てる自信はない。何より丸腰で勝てる根拠がない。

何しろ背後からナイフで切りつけようとしたのを失敗し、見事な一本背負いを持って気絶させられたのだから。

無言で牢の鍵を開けようとする男の顔を恨めしげに睨みつける。

赤い髪に切れ長の目。

仕立てのいいスーツの上からでもわかるよく締まった筋肉。

ひと目でわかる。こいつはいわゆるデキる男って奴だろう。

そんな視線を全く意に介することなく男は易々と鍵を開け、錆び付いた牢の扉を外側へと開く。

「さ、鍵は開きましたよ。私に着いて来てください。」

「・・・・・・殺されるのか、俺は。」

たまらず聞くと男は眉を顰めてため息をつく。

「人の話を聞いていなかったのですか?聞きたいことがあると言ったでしょう。」

恐る恐る牢を出る。1歩、2歩・・・・・・

「手錠、とかしないのかよ?」

「逃げられるとお思いですか。また一本背負いをされたいのならどうぞ、ご自由に。」

男の顔に表情というものはおよそ存在しなかった。笑顔も、哀れみも、侮蔑もなくー

ただ、剣のように鋭い目が俺を見据えている。

・・・・・・これは、あらゆる点で敵わない。直感でわかる。大人しくついて行った方がまだ生存確率が高いかもしれない。

まだ、生きて帰れるかは分からないが最悪命乞いでも何でもしてみようじゃないか。もしかしたら助かるかもしれないし。

そこまで考えて、俺は両手を頭の上に掲げる。いわゆる降伏のポーズである。

「・・・・・・理解が早くて助かります。あまり暴れられてはこちらも手間取りますので。」

では、と促され俺は男の後ろを歩く。

どうやらこの牢は地下にあったらしい。階段を昇るうち、徐々に光が差す。

そうしてー

俺は久々に日光を浴びることになったのである。

俺はあまりの眩しさに思わずギュッと目を瞑った。

薄暗い地下に閉じ込められていたせいで、まだ目が光を受け付けないのだ。

何度か瞬きをして光に慣れると、少しずつ周りが見えてきた。

「・・・・・・すっげぇ。」

思わず声が漏れる。

そこはどうやら、屋敷の中らしかった。

綺麗に磨かれた板張りの長い廊下と、高級そうな襖が目に入る。生まれてから一度も見たことのないような立派な内装にただ面食らう。

辺りに人の気配はなく、静謐な空気が耳を刺す。

「こちらへ。」

歩き始めた男に一拍遅れて慌てて歩き出す。が、先程のようにコツ、コツという足音は聞こえない。

・・・・・・あれ、こいつさっき靴履いてなかったか?

男の足元に目を落とすと、いつの間にか靴は消えていた。男は今、紺色の靴下だけを履いている。靴を脱ぐような様子はなかった・・・・・・はずだ。

俺が目を慣らしているあいだに脱いだのか、と後ろを振り返る。地下牢へと続く扉の前に、靴は無かった。

手品師か何かだろうか、この男。

直接聞いてみようかと思ったが緊張感からか言葉が喉に張り付いて上手く口が開かない。


そうしている内、男が金の襖の前で止まり、片膝を付いた。

「組長、件の鉄砲玉をお連れしました。」

「・・・・・・入れ。」

一拍の沈黙の後、腹に響くような低音の声が響く。

いるのか、この向こうに組長が・・・・・・!

声だけで人を屈服させてしまうような凄みを感じる。素人の俺でもわかる。

男がスッ、と音もなく襖を引く。

「どうぞ、お入りください。」

淀みなく腕を引かれ、思わずたたらを踏んだ。

ヤクザの組長なんてお目にかかるのは無論人生初めてで、殺されるかもしれなくて、そんな状況で緊張するなという方が土台無理だろう。

半ば強引に室内に引き入れられてしまった以上は仕方が無いので覚悟を決めて顔を上げた。

瞬間、上座に座る大柄な男と目が合う。

その額にはー


「・・・・・・ツノ?」

あまりに衝撃的過ぎて思わず呟いてしまった。


2本の黒々とした立派な角が、額には生えていた。

よくよく見ると組長らしき男の隣に座るやたらセクシーなお姉さんの頭にも同じく立派な螺旋形の角が鎮座している。


「茜、ご苦労だったな・・・・・・さて、ボウズ、とりあえずここ座れ。」

「ファッ!?はい!!!」

混乱しているなか突然声をかけられたので変な声が出てしまった。この状況なら仕方が無いと思う。

とりあえず指し示された立派な座布団に座り、恐る恐る組長らしき男と対峙する。

正直言って怖いとしか思えない。角は特殊メイクだろうか。ハロウィンはまだ先なのに。


落ち着こうと深呼吸をすると、他にも何人か周りに座っているのに今更ながらに気がついた。

牢に来た目障りなガキもいる。廊下の向こうでは全く人の気配がしなかったのに、と思いながらチラリと見やる。やっぱり極道は皆そういう技に長けてるのかなぁ。


気を取り直して組長らしき男に再び向き合う。

「き、聞きたいこととは・・・・・・なんでしょう、か・・・・・・」

上手く口が回らないがなんとか言葉は出た。

顔は見られない。あまりに恐ろしくて、視線が上げられない。

「お前・・・・・・天使の箱庭育ちってぇのは本当か?」


「・・・・・・へ?」

何を聞かれるか戦々恐々としていたのに、投げかけられたのはあまりに想像と違う言葉でー

思わず間抜けな声が出た。

「祝田ちゃん、嘘はつかない方がいいよ〜。命が惜しかったらね♡」

あの目障りなガキがニッコリと笑いかける。

アイツ、いつか絶対ぶん殴る・・・・・・!

「本当なんだな?」

「え、あっ、はい・・・・・・そうです。生まれた時から、天使の箱庭育ちで・・・・・・。」

「そうか・・・・・・。凛怨、これで裏は取れたな。」

あのガキ、凛怨ってーのか。よし、覚えたぞ。

「しかし孤児を鉄砲玉に使うとは・・・・・・やはり人手不足の噂は本当だったみたいですね。」

茜、と呼ばれた男は思案顔で頬を撫でた。アイツにもいつか復讐してやる。

「人間使うなんて、人手不足もよっぽど酷いのよぉ〜、きっと。ま、私は人間なんていくら死のうと興味無いんだけどぉ〜。」

セクシーお姉さんは人間嫌いなのか・・・・・・?そもそも本当に人間なのかも疑わしいほど整った顔はしているが。

「まぁ、そう言ってやるな。こいつも生きるために必死だったんだろう。天使に唆されただけで、元々敵意があったようでは無さそうだ。」


天使、という聞きなれないワードが耳に引っかかる。

天使、天の使い。実在するような口振りで話は進んでいく。

天使とは・・・・・・神話の中の架空の存在ではなかったのか?

天使が実在するならば、ではコイツらは何なんだ?人間、では無いのか??


グルグルと考えを巡らせていると、組長にふいに肩を叩かれて思わず飛び上がる。ついに年貢の納め時だろうか。


「お前な、今まで起きたことすっぱり忘れてもう帰れや。」

「へ?」

帰れ、とそういったのか、今?

生きて?ここを出られる?

死なずに、済むのか?

「っはい・・・・・・!ありがとうございます!ありがとうございます!」

両目からはいつしか涙が溢れていた。情けない話、帰れと言われて恐怖で張っていた心に亀裂が入ったのだ。帰れる、帰れるんだ!


「ただし」

魂を鷲掴みにされるような冷たく、低い声。

「このことを誰かに口外した場合、命はないと思えよ。せっかく拾った命だ、無駄に散らしたくないだろ?」


肝が冷える、というのはまさにこの事だろう。

恐怖のあまり無言で頷くことしか出来なかった。


「良し。冥!玄関まで送っていけ!」

「えぇ〜?なんで私がわざわざ人間なんかの見送りに行かなきゃいけないんですかぁ・・・・・・まぁ龍魔様直々のお願いなら断れませんけどぉ・・・・・・。」

どうやら冥、と呼ばれたセクシーお姉さんが渋々ながらもお見送りをしてくれるらしい。僥倖だ。

「ハァ・・・・・・ほら、行くぞ人間。モタモタすんな!」

脇腹を蹴りあげられそうになり、慌てて立ち上がる。セクシーお姉さんでも極道は極道。優しくはないらしい。残念だ・・・・・・。

「・・・・・・ボウズ、元気でな。」

組長に優しく声をかけられ、思わず振り返る。こんな声も出せたのか。

「・・・・・・はい、失礼します。」

人は見かけによらない、のかもしれないな。と思いながら部屋を出る。我慢していた恐怖が、ため息になって口から溢れ出た。


そこからどれだけ歩いただろうか。広い屋敷の玄関に辿り着くまで、体感で10分はかかったのではないだろうか、と思うくらい長々と歩かされた。ちなみに道中、立派な角について聞こうと話しかけたが冥さんは目も合わせてくれなかった。誠に残念だ。


「オラ、靴と携帯返すからとっとと出てけ。」

無作法に履きなれたスニーカーと携帯を押し付けられて、これで日常が戻ってくるのだ、と小さく安心する。

「目障りだから2度と来るなよ。」

石畳の玄関につま先を打ち付けていると、そう背後から冷たく声をかけられる。最後まで徹頭徹尾素晴らしい塩対応だ。別の意味で泣きたくなる。

「えと・・・・・・では、お邪魔しました。」

ペコリと冥さんに一礼して背を向ける。

そのまま玄関から外に出ると、門へ続く道が2m程延びている。そこは他ならない敗北の地。茜、と呼ばれた長身の男に背負投げをキメられた場所だった。

悔しかったけど、忘れよう。でなければきっと命はない。

深呼吸して怒りと悔しさを沈めてから門を跨ぐ。

さぁ、何もかも忘れて日常に戻ろう。バイト先に連絡して謝罪してー・・・・・・


パスン、パスン


「・・・・・・え?」

瞬間、肩に激痛が走る。

呼吸が乱れ、思わず後ろ向きに倒れ込んだ。


なんとか無事な方の肩を使い体を起こそうとすると見覚えのある顔と視線が合う。

それは俺に仕事をくれた、瓜江だった。


「すまないね、祝田君。ウチでは仕事に失敗した人間は生かしておけないのがルールなんだ。」


やっぱり、ここが年貢の納め時か。

2話も読んで頂けたんですか!!!

あなたが神ですか!!!


祝田ちゃん、死にかけてますが生き残るのか、はたまた死んでしまうのか、人間やめてしまうのか・・・

3話、お楽しみに。

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