First encounter ある男の失敗
First encounter ある男の失敗
端的に言おう、俺は請け負った仕事に失敗した。
どうやらその後気絶させられたらしく、目を覚ますと見知らぬ牢に放り込まれていた。
地下牢、だろうか・・・・・・陽の光は射さず、今が昼なのか夜なのかすらわからない。湿った空気が肌にまとわりつき、ジワリと体に嫌な汗が伝うのがわかる。
途方に暮れて目を閉じるとバイト三昧の不良学生でおまけに孤児という、お世辞にも真っ当な青少年とは言えない俺に『いい仕事がある、相応のリスクはあるが成功した時の報酬はしっかり用意しよう。どうか請け負ってくれないか?』などと手を差し伸べてくれた柔和かつ賢そうな男の顔が脳裏に浮かぶ。確かあれは先月の・・・・・・後半あたりの雨の日の話だったような気がする。
気がする、というのは今日の日付すらもが曖昧だからだ。
毎日が学校とバイト先と孤児院《天使の庭園》の往復で、カレンダーやニュースを見る間もなく日々を過ごす俺にとっては日付も曜日もさして重要なことではなかったからだ。
週休0日、ブラック企業も真っ青の労働条件である。
ほぼ日替わりで色々なバイトを掛け持ちしているのでどのバイト先がブラックだなどとは言えないのだが・・・・・・
あぁ、そういえば今日のバイト行けないな、休みますって連絡しないと・・・・・・とズボンのポケットをまさぐった矢先にはた、と思い出す。
携帯が無い。
持っていたはずなんだ、「ここ」に乗り込んでくるまで。ポケットに入れていたはずの黒いスマートフォン。今は見る影もなくポケットは意気消沈したように萎んでしまっている。
・・・・・・没収されたのか?もしくは落としたか?
不意に連絡手段を奪われ、それまでギリギリ見ないようにしていた不安と焦燥感が体に重くのしかかる。
どうしよう、どうしよう・・・・・・俺はいつここから出られる?時間も昼夜の概念もないこんな所でいつまで過ごせばいい?
大体「殺せ」と言われていたアイツがあんなに強いだなんて思ってもみなかったし聞かされてもいなかった!
そうだ・・・・・・あの、牢の外で燃え盛る松明みたいな赤い髪をしたー・・・・・・
ガチャリ
唐突に牢の外側の、少し遠くから何かが開く音がした。少し間をおいて軋んだ扉が重そうに開く音がする。
殺される、と本能的に感じた。
なぜなら、俺が請け負った仕事は極道の幹部抹殺だったから。
失敗は即、死に繋がるーと映画か何かで聴いたセリフが聞こえた気がした。
あぁ、死の足音と影が近づいてくる・・・・・・
恐怖から思わず目を強く瞑る。主よ、どうか我を救いたまえ・・・・・・!
「君かぁ、茜ちゃんに奇襲かけたっていう威勢のいい鉄砲玉は!」
・・・・・・死というのはこんなに呑気な声で語りかけてくるもんなのか?
呆気に取られて思わず目を開けると好奇心を湛えた蜂蜜色と視線が交わった。
牢を覗き込んでいたのは、どうやら見知らぬ少年らしい。年の頃は十歳くらいだろうか、孤児院にもいたな、こんな年頃の子ども・・・・・・しかしどうしてこんな所に?
驚いて声を詰まらせていると蜂蜜色の目の少年はお構い無しにまくし立て始めた。
「急に事務所に飛び込んできて組で一番の武闘派茜ちゃんにタイマンで勝負挑んであわよくば殺しちゃおうだなんてバカ、ものすご〜〜〜く久しぶりに見たよ!奇襲なら上手くいくと思った?やっぱり人間って浅慮だな〜!天野組ってばそんなに人手不足だったわけ?こんな子どもまで鉄砲玉として使うなんてね〜。」
・・・・・・待て、コイツ今俺を子ども扱いしたのか?どう見ても俺の方が年上なのに?
「待てコラお前の方がどう見ても子どもだろ!」
思わず思ったことをそのまま口にしてしまい、しまった!と口に手を当てる。
思ったことをすぐ口にしてしまうのは俺の悪癖だ。それで何度孤児院のシスターや周りの大人に雷を落とされたかわからない。
そっと少年の方を見るとその蜂蜜色の目は・・・・・・笑っていた。
「いいねぇいいねぇ!威勢のいいのは好きだよ!」
何やら年上の余裕を感じる笑い方だ。なんだか癪に障る。気に入らない!
むしゃくしゃしていた俺は思わず牢の鉄柵を思いっきり蹴った。
ガァン!と鈍い音が地下に響く。
「生意気言ってねーでここ開けろ・・・・・・」
精一杯睨みつけ、ドスの効いた声を出したつもりだったが、少年は相変わらずニコニコと笑顔を崩す様子はない。
「その前に知ってること洗いざらい吐いてもらわないとね。」
少年はそう言うやいなや蜂蜜色の目をグッと見開いた。一瞬瞳が金色に光る・・・・・・ぞわりと背筋が粟立つ。本能が見てはいけないと告げているのに、目が、逸らせない。
「そうだなぁ・・・まず、名前は?」
「鉄馬・・・祝田鉄馬・・・」
「年齢は?」
「十七歳・・・」
「・・・・・・誰にこの仕事を依頼された?」
「天野組の・・・・・・瓜江って奴に誘われて・・・・・・」
「いつ、どこで?」
「先月の終わりくらいに、孤児院・・・・・・天使の庭園で・・・・・・」
「なるほどね・・・・・・大体わかったよ。ご協力どーも。」
そう言うと少年はゆっくりと瞬きをした。瞳の色は、いつの間にか元の蜂蜜色に戻っていた。
なんだ、今のは?口が勝手に動かされた・・・・・・?頭では喋ってはいけないと思って、焦っていたのに口が言う事を聞かなかったような、味わったことのない不気味な感覚だった。
「君の処遇は今の情報を報告した上で組長が決定する。それまで怯えて待ってるといいよ。」
目を覚ましてから何一つ理解出来ることなどなかったが、これだけはハッキリと理解出来た。
この少年、相当性格が悪い!
鼻歌を歌いながら外へ向かって歩いていく小さな背中を睨みつけ無意識に俺は叫んでいた。
「覚えてろよ糞ガキィ!!後でぶっ飛ばしてやるからな!!」
一瞬の間の後、少し遠くから「生きて牢から出られたらね〜。」と弾んだ声がした。
怒りのぶつけどころがわからなかったのでとりあえず思い切り鉄柵を殴っておいた・・・・・・痛い、当然か。
ガチャリ
冷静さを取り戻したところで何かの閉まる音。施錠されたのだなぁ、とぼんやり思う。
俺の命はもう長くはないのだろう、と悟った途端に体から力が抜けた。
思わず座り込むと反撃された時に殴られた頬が急に痛みだし、尻をコンクリートの冷たさが襲う。
思えば、ロクでもねぇ人生だったなぁ。親に捨てられ、同級生からは距離を置かれ、周りの大人に腫れ物を触るような扱いをされ・・・・・・。
気付けばシルバーに髪を染め、不良のレッテルを貼られるようになっていた。
昔のことを思い出す内、いつの間にか俺は体を横たえ、眠りに落ちようとしていたー・・・・・・。
これを読んでいるということは本編を最後まで読んでくださったということでしょうきっとそうでしょう。
ありがとうございます。あなたはなんていい人なんだ!
2話も読んでいただけると嬉しいです。
それではまたお会いしましょう。




