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Schwarz Drache ~黒き竜の少女と果て無き旅の果てに~  作者: 戦艦ちくわぶ
Ⅰ La ragazza nera(黒き竜の乙女)
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Blitzkrieg(雷を撃つ嵐)

 ドラゴンとなったエマーヘルに取りつかれ今にも崩壊しかけているという状況下になっても十一番機は果敢に戦っていた。上部機銃が目前に迫る頭部目がけて機銃を撃つが、ギリギリで頭を逸らされて躱される。すぐに追従して撃ったのだが、こちらに向けた額にこの至近距離でしこたま命中弾を出したにも関わらず、弾は全て頭を覆う鎧に弾かれてしまい、機銃手は何やら叫びながら銃座から飛び降りると、直後に機銃ごと銃座は頭に押しつぶされた。

 そして、尾部がちぎれ飛ぶ直前辺りから十一番機から乗員が次々と脱出、それを見たエマーヘルは機から離れると、身を翻してまた別の機に狙いを定めて飛んでいった。やがて、十一番機は全員が脱出したのを見送ったように胴体が崩壊し、空中をバラバラに回転しながら地上へと落ちていった。

「各機、集中砲火だ!爆弾投下中止、防御に専念しろ!」

 一番機からの指示の元、一旦爆弾投下は取りやめられ全機が広がりながら機銃での弾幕を張り始めた。それに呼応するように離れていた戦闘機部隊も斜め上空から捻りこみをかけつつ巧みな操縦技術を用いて攻撃をかけた。戦闘機隊も爆撃機隊を襲っている怪物に眼を疑ったがそこはプロの軍人である、すぐさま後方からならば死角となり攻撃を仕掛けられるはずだと察した部隊長の指示により攻撃を仕掛けたのだが、彼らは竜の視認範囲をなめていた。草食動物の視界範囲のような広大な視野角を持つ竜には、ちょっと首を傾ければ後方の様子など手に取るようにわかるというもの。エマーヘルは飛行中に翼を畳むと錐揉み回転をしながら戦闘機隊の体当たりまがいの肉薄した機銃掃射を躱し、それと同時に体から広範囲に放電を行った。

「わあああ!!!」

 高圧電流が半径百メートル近くにわたって放射され、それをもろに浴びた戦闘機隊の殆どと爆撃機の一機が機体から煙を引きつつ墜落していく。しきりに他の機が落ち行く機との交信を図るがまったくの返答はない。それもそのはず、エマーヘルが放った電流は機体内にまで浸透し機体のシステムを破壊しつくし、更には内部の乗員の殆どを殺傷していたからだ。辛うじて意識のあるものも、碌に体を動かすことすらままならず、機内で乗機の墜落に身を任せるほかなかった。

「化け物め……」

 一撃で九機の戦闘機と一機の爆撃機を失った爆撃機隊の隊長は体をわなわなと震わせていた。こうなってはもはや自分たちだけで対処するのは難しいだろう。とにかく今は遁走するほかない、幸運にも何故か先ほどのドラゴンは爆撃機隊から離れ始めておりこれなら逃げ延びることも可能かもしれない。そう考え、残りの爆弾を投下していない機に爆弾を捨てるよう指示すると、南西へと進路を取った。バシュターンを完全に焼き払うことはできなかったものの、それでもそれなりの損害は出したはずである。その証拠に下を見下ろすとバシュターンのあった場所の三分の一が炎に包まれているようだ。そうして現空域から離れ始めた彼らに、一本の無線が届く。

「はい、こちらヴァルキュリヤ隊一番機。現在作戦を中止し南西へと飛行中」

 誰だろうか、いや当然相手は決まっているのだが無線口に出たのは思いもよらぬ人物であった。

〈こちらハワード・ゲイツ中将だ〉

「えっ、はっ、中将閣下で!」

 まさか部隊のトップが無線を送ってくるとは思いもよらなかった隊長は、直接会っているわけでもないのに席の上で姿勢を正して襟元に手をやった。

〈早速だが諸君らはドラゴンと遭遇したようだね〉

「ハイ、そうです。突然現れたかと思うとあっという間に九機のストームヴァイパーと五機のクレインが撃墜されました」

〈なるほど、で、そのドラゴンとやらはどこに〉

 心なしか、通信機の向こうの彼の声はどこかまるで少年のような好奇心を帯びたかの如き調子であるようにも聞こえる。そんなにもあのドラゴンに興味があるのだろうか。そう言えば、中将の部屋にはドラゴンにまつわる書物や芸術品といったものがいくつも置かれていると噂を耳にした記憶があった。

「は、放電を行った後突如高度を下げながら我々から離れていきました、自分の目でもそれを確認しております」

〈放電を……はなれて……ふうん……なるほどなるほど〉

「いかがいたしましょうか」

 撤退か、或いは爆撃の再開か。よもやあのドラゴンを追撃しろとはいうまい。果たしてどちらの命令を下してくるのか、隊長が目を細めて耳を澄ましていると、そのどれでもない答えが彼の言葉で返ってきた。

〈見ていろ〉

「は?」

〈だからその眼でドラゴンを見ているといい。見失うんじゃないぞ……〉

 そこまで言うとゲイツは通信機から離れ、近くにいる誰かと話し始めた。恐らく副官かそこらだろう。彼は何かを傍にいる誰かに伝えると、そのまま無線を切ってしまった。

「中将は何と」

 副機長が隊長の方を振り返りながらそう尋ねてきたが、彼もただ困ったように首を捻るとただ、

「あのドラゴンを追えと、さ」

「交戦を?」

「いーや、見ていろだとよ」

「はあ……」

 命令を聞いた副機長もまた隊長と同じように困った様子であったが、すぐにパイロットに北東へと旋回を命じると十五機のクレイン爆撃機編隊と生き残ったストームヴァイパー戦闘機は竜が緩やかに降下しているのを追っていった。

「何をする気だあの男は……」

 見ていろという不可解な命令だが、そんなことを言うくらいなのだから何かしらの隠し玉を仕込んでいたに違いない、自分たちの知らない何かを。食えない老獪だ、まるでこれでは自分たちが始めからあの怪物に襲われることがわかっていたみたいではないか。ヴァルキュリヤ隊とイーグル隊を囮にしたと。

 先ほどまでとは打って変わってゆるやかに飛んでいるドラゴンはまるで疲れて羽を休めたがっているかのように思えるほど、翼の動きも重たくしなやかではない。すると、あの電撃はそう何度も撃てるものでもない必殺の一撃ということだろうか。

(ん?)

 太陽の光に煌く物体が、それも一つではなく二つ、三ついやそれ以上に見えた。

「何だ?」

 彼は身を乗り出して目を凝らす。それは自分たちよりも高い高度を飛行しているようだが、位置で言うと竜の上あたりといったところか。徐々に爆撃機隊もその煌く何かに近づいていき、突如それらが平行移動から一気に地上へとまっすぐ高速で下がっていき、その特徴的な動きからすぐに彼はそれが何なのかを察して思わず声を上げた。

「急降下!まさかオーバーハリケーンかあ!」

 その、まさかであった。



 電撃を最大出力で放ったエマーヘルは敵の編隊から急速に離脱していくと、疲れた体を休ませたい気持ちにかられつつも何とか翼を伸ばして出来るだけ滑空を使って高度を下げていった。

(あの飛行機も追ってはこないようだな)

 どうやらあの大きな飛行機は動きが機敏ではないらしいということを学んだエマーヘルは、ホッとしながら飛行を続けていたのだが、一度地上に眼を向ければその心は穏やかにはいられない。眼下にあったバシュターンの街は今や炎に包まれ人々は波となって逃げ惑っている。それだけでも痛ましいが、彼の心を最も不安にさせるのはあそこにはまだエリアやライマ達仲間がいるということである。あれだけの範囲が炎に包まれれば、一人や二人怪我を負ってしまっていてもおかしくはない、そんな規模での空襲を受けて街は破壊されていたのだ。とにかく人目にこの体を晒すこととなっても降下して救わねばならない、そう思い翼膜を縮め降下に入った時であった、上空から先ほどとはまた別らしき飛行機の音が迫っている。疲れと心配のためについ気づくのが遅れてしまったが、この音はかなり速くそして近いことがわかる。

 目を上にやったと同時に、上から光が降り注ぎ彼の翼膜を強烈な痛みが切り裂く。あまりにも激しく耐えがたい痛みにエマーヘルは咆哮を上げながら血の尾を引きつつ地面へと吸い込まれていった……

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