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Schwarz Drache ~黒き竜の少女と果て無き旅の果てに~  作者: 戦艦ちくわぶ
Ⅰ La ragazza nera(黒き竜の乙女)
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Detestable Day(終わらせたい日々)

 二人は慎重に進む、エリアが目撃したライマが消えていった方向へと。

 恐らくライマも先ほどの牢に閉じ込められていたであろうが、何故彼女は牢から連れ出されそちらのほうに移動させられたのだろうかと考えを巡らせるが、おおよそのエリアの検討としてはもう彼女を売りに出そうとしているのではないか、と正解を引き当てていた。

 もし自分の考えが当たっているとしたならば、もっと急ぐ必要が出てきた。やがて二人は男たちが扉の前に立っている廊下のすぐ曲がり角まで来た。顔をそっと一瞬だけ覗かせると、曲がった先の突きあたりらへんにある扉の前には三人の武装した男たちが仁王立ちで待ち構えており、そう簡単には通してはくれそうになかった。

 一旦引っ込んだエリアは、ドレスにどう切り抜けるのかを聞くと彼は首を横に振ってこう答えた。

「正面突破はしない」

「え?」

 まさかの返答に拍子抜けした彼女は間抜けな声を上げて彼の顔を見上げる。どうして正面からいかないのだろうか、彼の力ならばあんな人間の男たちの二人や四人、簡単に捻りつぶせるだろう。不服そうなエリアは抗議の眼差しを送るがそんなことはお構いなしと彼は廊下を引き返して適当な部屋の中に入ったのでエリアもしぶしぶ続いて部屋に入る。 

「何してんの」

 部屋に入ると彼は天井辺りをごそごそとまさぐっているのだが、一体何をしているのだろうか。その答えはすぐにわかる。

「ん」

 何かが外れるような音がしたと思うと、部屋の天井が一部外れており彼は積み重ねられた荷物を踏んで上がっていくとそのまま天井の裏へと消えてしまった。

「来い」

 こもった声が暗い穴から聞こえてくるのでエリアはためらいがちに天井のふちに手をかけると突然暗闇から腕が二本伸びてきて彼女の細い手首をつかむと猛烈な力で彼女を持ち上げ穴へと引きずり込んだのだ。思わず叫び声を上げそうになった彼女の口を、左手を掴んでいた手が離れ代わりにそちらを抑え悲鳴を押し殺させた。

「んんっ!」

 暗闇の中必死に目を凝らすと目の前で自分の口を塞いでいるのはドレスであると判明し、ひとまず安心したエリアは高鳴る鼓動を抑えるために深く深呼吸を繰り返した。念のため説明しておくと、特別な意味で心臓が高鳴ったわけではない。

 肺に充満するかび臭い空気にエリアは鼻を塞いで口呼吸をしながら、しゃがんで移動するドレスの後をはいつくばって追っていく。

(天井が崩れなければいいが……)

 今のドレスの心配事はただそれだけであった。体重のあるドレスであるため、人一倍天井を踏み抜く危険性があり、もし突然誰かの前で天井から落下すれば折角のライマ救出計画もおじゃんとなりかねない。ドレスはあらかじめ進む場所とその周辺を手で何度か押して自分が上に乗ることに耐えうると思われる場所を選んで進んでいった。

 そんな彼の背中を徐々に慣れてきた目で見つめながらエリアは思う、進む方向はわかっているのだろうかと。自分も正確にはわかっているわけではないため口には出さないが、不安になる。しかし、彼は多少の手探りはあるようだが一定の方角には進んでいるようであるためちゃんと行くべき場所がわかっているのだろう。

 距離にしてたったの十メートルにも満たない長さではあったがドレスはある場所で止まると顔を天井の板に近づけ数秒待ったかと思うと、隙間に指を突っ込んで板をそっと剥がして部屋の中を見回し安全が掻く淫されると足から音もなく下へと降り立った。

「来い」

 彼がそう呼んだのでエリアも続けてそっと、ドレスの手を借りながら明るい世界へと舞い降りた。

 彼らが降りた場所は今までの建物の内装とは大きく異なったスタイルでそろえられており、天井にも壁にも継ぎはなく、床にはなんと絨毯が敷かれてありさらには部屋の中心には大きな赤いソファが。この町には似つかわしくない整然とした、高級感のある内装なのだが、さらに驚くべきはそのソファの向こうには同じようなテーマをした内装の空間が広がっており、中心には何かステージらしきものが存在感を放っていた。

「なんだろここ」

 どうも似たような造りの小部屋がそのステージをぐるりと半円状に囲うように並んでいるようで、中心の部屋と小部屋とを仕切る薄いカーテン越しに向こう側にそういった部屋の構造が見て取れた。どうやらこの部屋にもライマはいないようなのでそこからまた移動をしようとソファの裏にある扉から出ようとノブに手をかけた時、何やら動きがあることを察知し二人は外に出るのを止めしゃがむと窓の角からそっと中心を覗き込んだ。

「男たちがいる」

 エリアのつぶやき通り、部屋の中に二人の身をこぎれいに繕った二人の男が別のドアから中に入って来て中心に立つと、片方が咳払いをして突然挨拶を始めた。

「えー、皆さま本日は競売会へのご参加誠にありがとうございます。本日の商品は三人、中でも一人は実に珍しい白人をラインナップとさせておりますので、皆さま積極的に落札をいただきたく」

 訛りの少ない聞き取りやすい英語のおかげで、エリアは白人がライマを示すことがわかりドレスに動かないよう小声で囁いた。すると彼も何かに気づいたようで部屋の向こう、上の方を一瞬だけ指さしたので彼女も左目だけ覗かせると、彼の指した方向にボウガンを持ったローブ姿の人間が見えた。更にその反対側にも同じくもう一人。きっとあの二人は昨日自分たちを狙撃した人物であろうことを彼女はすぐに察しよりここでの動きは慎重となった。

 司会の冗長な挨拶の間彼女は彼の言った言葉を考える、先ほどあの男は皆さまといった。ということは隣接する部屋には女を買いに来た男たちが構えているということなのだろうか、その野獣の如き欲望に身をたぎらせて。今までどれだけの乙女たちがその歯牙にかかってきたのだろうと思うとエリアは悔しさに身を震わせる。ここを今日破壊してしまえば、しばらくの間はこのようなことを防ぐことにはつながるはずだ。例え一時的なものでも……

 エリアは決意を固めると口を固く結んで中心を睨みつけた。既に司会の挨拶は終わっており、古ぼけたランプに照らされたほの暗い室内に、遂に女が現れた。まず最初に向こうへと延びる廊下の奥からやって来たのは肌の浅黒い女であった。恐らく現地人かその周辺あたりであろう。女は簡素だがいくらか清潔な衣服を身にまとい、うつむいてゆっくりと歩いて来る。

「この娘はまだ二十になったばかり、南西の出身で遊牧民族の娘を捉えてまいりました―――」

 彼女についての説明が司会の口よりもたらされる。微かに身を震わせているあの女性からは、悲しみと恐怖と、そして絶望ばかりが感じ取れた。見ていられないが、この現実を見つめなければいけない気がしていた。

 周囲の部屋から競い合うように声がいくつも上がり、恐らく四人は少なくとも顧客としてここに訪れているようだ。やがて一人があの女性の主人となる権利を獲得し女性は元来た方へと帰っていった。お次も同じく似たような人種であったが、少しばかり前の女性と比べるとスタイルは崩れている。

 そのため彼女の競り落としは前ほどは積極的ではなかったためかすぐに買い手はつき、三人目となった。つまり本日の目玉であり、最後の商品。そして、それはライマに違いない。

「さて、本日の目玉であります不思議ないでたちをした肌の白い女。少々特徴的な容姿をしてはおりますが美しさについては保証付きです。それでは参りましょう」

 そして、遂に彼女は現れた。トボトボと歩くライマの姿を見たエリアとドレスは息を飲み、口元を抑えたりため息をつく。三日ぶりにあったライマは、僅か三日だというのにやつれ髪には生命力を感じられない。眼には疲労と悲しみが渦巻いていた。それでも、彼女は美しかった。

 そして、競りは始まった。

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