表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Schwarz Drache ~黒き竜の少女と果て無き旅の果てに~  作者: 戦艦ちくわぶ
Ⅰ La ragazza nera(黒き竜の乙女)
82/373

Avoir un oeil de lynx(鋭き眼)

 エリアをライマのように捕まえようとした小男は、屈強な男に壁との間に挟まれ、顔を隠す巻き布の奥から鋭い瞳に睨みつけれ、蛇に睨まれた蛙のような状態となっていた。ドレスが男の手首を握りしめたまま壁に押し付けており、特にその手首を握る力の強いことと言ったらこの上なく引っ張ってみても一センチすらビクともしない有様で、彼にもドレスがちょっとその気になれば自分の骨ばった手首など軽く粉砕されてしまうであろうことは容易に想像でき、彼は細やかな抵抗を諦めていた。

 彼はどうにか安全にこの場を切り抜けられる方法を頭の中に巡らせてはいたのだが、この身体能力の異常な男に凄まれていてはどれだけ早く走ろうとも、どれだけ分厚い壁の裏側に潜もうとも逃げられるようには到底思えず、だらだらと冷や汗を全身から滝のように噴き出している。

 エリアは色の異なる二つの瞳で目の前の自分よりも背丈の低い異国の男を鋭く睨みつけ、出来るだけ聞き取りやすい英語ですごむ。

「さあ、答えて。最近髪の緑色の、顔に模様のある女を捕まえなかった?答えないとこの男があんたの手を引き抜くからね!」

 常人なら人間の腕を引き抜くことなどできるはずもないが、この男ならできかねない。

 彼は焦っていた。おそらく、というかほぼ確実にこの少女が尋ねているのはつい今朝がた捕まえた変な白人の女のことだろう。せっかく捕まえた上物をみすみす返すわけにはいかないし、仕事のことを喋るわけにもいかない。かといって情報を渡さねば確実にここで自分の人生は終わるのだ。

 言葉がわからないていを通せば切り抜けられる可能性があったかもしれない、しかしそれは既にエリアと会話をしてしまっていたために使うことが出来なくなっていた。

「あーえっとお、お嬢さん?緑の髪の人だって?そんな人間がいるわけが……」

 常識的に考えれば彼の言うとおりであるが、そんな屁理屈は彼らには通じない。常識でもなければ、人間ですらない彼らには。へらへらとへつらう男に早くも苛立ったエリアは、彼の腹にエリアは手加減をして拳を打ち込んだ。手加減でもしなければ、少女の力でも人間の腹を貫くかもしれない。

「おげえっ!!」

 見た目に似合わぬ強烈なパンチに、男は胃液と涎を口から零しながら崩れ落ちるがドレスが手を固定してしまっているため地面にへたりこむことは叶わずにぶら下がるような体勢となる。痛む手首と腹をおして彼はよろめく足に力を込めへたりこまずにはすんでいた。

「話せっていってるでしょ?私でこれだよ?手加減は当然。じゃ、こっちの男がやったらどうなると思う?本気だよ?」

 いつになく悪役のような脅迫で男を追い詰める彼女の顔は、顔を隠すものを取っ払ってしまえばきっと自分でも驚くほどの下衆の面構えであったであろう。以前の彼女であればきっとこんなこと決してしなかってであろうが、あの日を境に、そう、あの日初めて変身したときから体と意識が力に訴えているのだ。自分の感じている以上の憎しみが、体の奥から沸き起こってしようのないほどに、それはまるで、はるか昔古来よりずっと自分が抱いてきたかのように。

「話してよ、教えてよ。ライマをどこにやったの!ねえ!」

 彼女の怒鳴り声は、表通りの喧噪にかき消され表には届かない。未だ呻いている男に痺れを切らしたのか、彼女は目をひくつかせるとドレスに持ち上げるように指示した。

「ん」

 ドレスは頷くと男の手を更に高く持ち上げると足の届かないようにすると、男は殆ど手首だけで全体重を支える形となってしまい、関節が引き延ばされる痛みに悲鳴を上げた。そこいエリアが畳みかけるように脅しをかける。

「さあ!早く吐かないと次は私が足を引っ張って引きちぎるから!!それとも右手を引っ張ってあげよっか?ねえ!!」

 彼女の言っていることは脅しではないと判断した男は、話すから降ろしてくれと懇願すると、ついでに一発顔をはたかれたあとようやく地に足をつかせることが出来た。ただし投げるように雑に。

「はあ、はあ……いてえ……なんて奴らだクソ」

 自分では頭の中でそう愚痴ったつもりだったがどうやら口に出してしまっていたらしい。悪態をついたことをエリアは聞きとがめると、倒れている男の太ももを踏みつけながらにらみを利かせた。

「ああ!?」

「な、なんでもない話す!話すからあ!」

 またもや悲鳴を上げる男に流石にドレスはエリアを止めると、彼女は彼の方を振り返ってようやく男を痛めつけることを止めた。

「やりすぎだろう、お前はそんな奴だったのか?」

 その彼の発言に、彼女は苛立ちながらも理解していることを伝えた。

「わかってる、わかってるよ。自分でもなんか変だもん、ここしばらく」

「そうか……」

 どうもエリアには何らかの変革か異常が起きているらしい。それが旅の疲れによるものなのか、ドラクラットでありながらもドラクラットとしての生育を受けることが出来なかったことによる弊害なのか。それはわからないが、彼女自身にも不可解に思う何かが彼女の中で起きているようだ。

(大事ないといいが)

「さて、じゃあ話してね」

 エリアは気を取り直して男の尋問を再開した。未だ地面にうずくまっている男は涙を滲ませながらボソボソと口にし始める。

「俺たちは……ここに来た若い女を捕まえて金持ちや首長なんかに売りさばいてる……あいつらは女がすきだからな。たまに男を所望する奴もいるから、そういう時はそいつの望みの奴を連れてってるがよ。まあそれはいいさ……」

 たったこれだけでもエリアには怒りの闇が心に渦巻いていた。女を何だと思っているのか、こいつらは。これが人間のやることだというのならば、人間なんて信じられないというのが本音だ。それでも、彼女は湧き上がる怒りを鎮めて話をつづけさせた。

「そ、それで今朝、女を見つけた。表の市場でな。そいつにサファイアを見せるとそいつ、すぐ寄ってきやがった、馬鹿な女だヒヒッ」

 恐らくライマのことを言っているであろうことを直感で理解したエリアは、男の目の前に脚を力いっぱい振り下ろして地面を踏みつけた。大きな音が、乱立する建物の壁に乱反射して響く。

「ヒイッ!!」

 失言だったことに気づいた男は、おびえた顔で縮こまる。

「続けて」

「えっあっ」

「続けて!!」

 少女の見下ろす氷のような面に、彼は思わず言い淀むが、もう一度怒鳴りつけられるように迫られ男は口早に語る。

「わ、わかった!わかったから……それっ、それでっ俺はその女をそこに転がってる二人とで捕まえると檻に連れてった」

「檻?」

「女を捕まえておく場所だ、今もそこにいるはずだ……多分」

 ライマの命があることに安心したエリアは、ほっと胸を撫でおろすとその場所を言うように問いただす。

「そこはどこ?」

「そ、そこは……」

 男が口に出そうとしたところで、エリアの目の前を何かが横切った。目の前数ミリを一瞬で。すぐに壁にい目をやると、そこには一本の長い棒が土壁に突き刺さっており、突き出しているほうの端を見てそれが矢であることに気づいた。

「すまん」

 と、ドレス。どういうことかと見上げると、なんと彼は片方の手で別の矢を一本掴んでいたのだ。それがエリアの頭のすぐ後ろにあることに気づくとどうやら彼は飛来してきた矢を途中で掴んで止めたらしい。何という動体視力と反射神経であろうか

「一本しか気づかなかった」

「い、いやありがと……」

 一本でもわかっただけで化け物だがこの際どうでもいい。問題は男の方であった。二人が矢に気を取られている隙に、男はその場から姿を消してしまっており、男は動けないふりをしていたようだ。

「こっ……のっ!!!」

 怒りに任せエリアは壁を拳でぶち抜くと、ドレスに促されてその場を後にする。それと同時に、数十メートル向こうで二人の人影がその場から立ち去るのが見えた。二人で狙っていたようだ。

 折角の手掛かりを逃してしまったのが痛いが、重要な情報は得られた。そう彼女を励まそうと思ったドレスだったが、彼女の様子がおかしいことに気づき口を止めた。

「……セルケンの言った通りだ………リガーンレウのことは信用ならないと、だからビリューは死んだんだ」

「な、何を……」

 セルケンもビリューも欧州に暮らすドラクラットに名付けられることのある名であった、しかし、それを何故彼女が知っているのか。そもそも、今の話し方はどう考えても彼女が発したようには思えなかった。では、今はなしたのは一体誰だというのか……

 ドレスは胸騒ぎを覚えつつ、エリアを連れて街中に躍り出た。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ