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Schwarz Drache ~黒き竜の少女と果て無き旅の果てに~  作者: 戦艦ちくわぶ
Ⅰ La ragazza nera(黒き竜の乙女)
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Kasangkapan ng Buhay(暮らすために)

「我々にしばらくの間部屋を用意してはいただけないだろうか」

 エマーヘルはグロージエナたちにそう頼み込んだ。するとあからさま嫌そうな目を向けると、グロージエナが横の二人にどこかないかを尋ねた。ヴァリオンが一つだけある、と答えモゴモゴと口走ると彼女は頷いてヴァリオンに案内させた。

「助かる」

「ありがとうございます」

 礼を述べエリア達は彼の後に続いて村長の家を出る。彼らが外に出ると、外から様子を窺おうと図っていた村人他たちが蜘蛛の子を散らすように逃げていくのを見て、エリアは少し笑ってしまった。なんだか自分がとてつもない怪物になったような気分だ。それはある意味で間違っていないのだが。

「ここだ」

 と、ヴァリオンが足を止め示したのは、少しぼろいがまあ家の体はなしている小さな丸太小屋であった。彼女は試しに壁に手を当て押してみたが、しっかりと建っており崩れるような気配は今のところ見られない。どうせまた馬小屋みたいなところにでも連れて来られるのだろうと思っていたので、れっきとした家を用意してもらえたことに、彼女は喜びを覚えていた。この男はいい奴なのかもしれない。

「十日前まで住んでいた夫婦のものだ」

「今は?」

 とライマが尋ねると、彼は短く

「別の村へ越した」

とだけ答えた。

「感謝する」

 礼を述べ戸を開けると、中は物置のような状態になっており恐らく家主のいなくなったこの家を村人たちが物置として再利用しているのだろう。また物置か、と前のことを思い出す。

「少し片づけようか」

 エマーヘルの提案に二人は賛成し、荷物を外に運び出して並べて置いた。あとでまたここを出るときに戻しておこうと思っているからだった。よろしくない歓迎をされたが、それは始めから承知の上であるので問題ない。あとは危害を加えられさえしなければ、こちらもきちんと礼節をもって去るだけだ。いつかきっと、彼らの闇竜族に対する考えが変わると信じて。

 エリアは片付けている時、ふと変な棒を見つけ手に取った。自分の背丈ほどある棒は先の方に放射状に木の枝が広げて結び付けてありなんらかの意味を為す道具のように思われる。ほうきかと思ったが、それにしては隙間が大きすぎる。だとしたらこれは一体なんだろうか。彼女が日本育ちなら木でできた竹ぼうきという考えもあったかもしれないが、いずれにせよ間違いである。

「これ何?」

 エリアは二人に尋ねた。するとエマーヘルは首を傾げ彼も不思議そうに眉間に皺を寄せて悩んでいた。だとしたらライマはどうかと見ると、彼女もわからなさそうな表情ではあったが、何かが引っかかっているようで、十秒ほどのちに何かを思いついたようで彼女は口を開いて自分の推測を述べた。

「カリュターンかもしれないです」

「カリュターン?」

 聞いたことのない言葉だ、これもローカルな竜語なのだろう。エマーヘルもその名を聞いても未だピンと来ていないようで、ライマはエリアから棒を受け取ると広がった枝の付いていないほうを持って天井に当たるか当たらないかの高さに掲げた。

「ケルテナを落とす道具ですよ。ケルテナっていうのはとても硬い殻をしていて中に美味しい実が入っているんです。木に生っているのでこれで叩いて落とすんですよ。食べるのは中身なので落としても大丈夫なんです」

「へえー」

「しらんなあ」

 エマーヘルが住んでいるところにはそのケルテナというものは生えていないらしい。エリアももしかすると知っているものかもしれないが、いかんせん見ないことにはわからなかった。

「ただこちらにケルテナが生えているかはわかりませんねえ。まあ、同じように木の実を落とす道具だとおもいますよ」

「ああーなるほど」

 そう言われてよく分かった。ムゥロだと知っている範囲ではリモーネの畑が壁内にあってそれの収穫の手伝いをしたことがある。リモーネは傷をつけるとあまり良くなく、それに皮もリモンチェッロなどに使うので手で丁寧にもいで籠に入れて収穫をしていた。もしかすると外の世界で大人たちがやっていたのかもしれないが、今となっては知る由も無い。ただ、ケルテナが何かは実物を見ればわかる可能性はあった。

「さ、片づけを再開しようか」

「はーい」

 重たい荷物も、ドラクラットの力をもってすれば一瞬で終わる。女でも大の男と同等あるいはそれ以上の力を出せるのだから、ドラクラットの力というものはつくづく素晴らしい。おかげで男たちと同じ量の荷物を持たされたりしていたが。

「布団が欲しいな」 

 ベッド代わりの板などを置きはしたが流石にこの上に寝たくはない。それは他の二人も同じだったようで、エマーヘルは寝具を借りてくるといって小屋を後にした。ライマは念のための護衛としてエリアとともに残っている。

「しっかし……狭いなあ」

 エリアは小屋の中を見回してため息をつく。元々から小さいこの家は、三人分の寝床と荷物を置くだけでこれ以上ないくらいに狭くなる。特に荷物が邪魔で仕方がない。これはドラクラットの多くがやりがちな旅の失敗である。

 ドラクラットは竜状態で荷物を運ぶことを前提として荷造りをするため、人間の状態になると本人の何倍もの体積の荷物となってしまう。ドラクラットはだいたい野宿をするため狭さということに悩まされることもない。しかしこのような小屋に止まるとそうはいかなかった。おかげで荷物は片付けたもの以上に積み上がり、台所の半分まで占拠してしまっており、台所に立つのはライマだけになりそうだ。

「これ以上壁に積むとあそこが崩れるかもしれませんねえ」

と、ライマは壁の一角を指す。屋根と壁の境目当たり、その周りは何故か壁に穴が開いており、その大きさは小さな子供なら抜け出せそうなくらいには大きかった。エリアはそれが気になって仕方がないので、外に出て手ごろながらくたを拾ってきて器用に隙間を埋めるように詰め込んだ。どうにか木に生らない程度には壁が埋まったので、エリアは満足げに頷くとほぼ同じころにエマーヘルが三枚の布を片手に戻ってきた。

「借りてきた。これを敷けばいくらかマシになるだろう」

 彼の持ってきた大きな布は、二、三か所穴が空いてはいたが何もないよりはマシである。季節も夏であるから、寒さを気にする必要もない。

「さてと」

 とりあえずのところは片づけを済ませた三人は、村内を見て回ることにした。エリアには実際にこれからこの村でのドラクラットの暮らしについてを学んでもらう。村や部族ごとに文化や慣習は異なるものの幸い言葉だけは大体一緒だ。いくらかの訛りは見られるが大方通じるようにできているのが先祖の偉大な仕事である。

 小屋を出た三人を未だに白い眼で見つめる者たちはいたが、多くの村人はほぼいつもの生活に戻っているようだ。彼らは手始めに一番近くにある小屋を訪れた。

「こんにちは」

 小屋を覗き込むと、歳の異なる女性三名が穀物の脱穀をしていた。彼女らはこちらを見るやすぐに顔を背けて穀物をじっと見降ろしていた。

「これは?」

 エマーヘルたちもこちらの地方の生活を始めてみるので、今脱穀している穀物について手前にいる中年女性に尋ねる。女性は十秒ほど黙っていたが、やがて小さな声でビカルと答えた。それがこの穀物の名前のようだ。

「これはどうやって食べているのですか」

 ライマが尋ねると、再びしばらく黙ったままのあと茹でて塩や干し魚と食べると答えた。エリアも続いて尋ねようとしたが、気持ちのいい答えが返ってこないことが容易に予想できたので開きかけた口をつぐんでしまった。

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