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Schwarz Drache ~黒き竜の少女と果て無き旅の果てに~  作者: 戦艦ちくわぶ
Ⅰ La ragazza nera(黒き竜の乙女)
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pala asteikot (一片の鱗)

「何」

 シュバステン空軍中将ゲイツは、上がってきた報告に目を疑った。つい先刻我が軍の偵察機が何者かによって撃墜され搭乗員の生死は不明という内容は些か疑問を抱かずにはいられなかったのだ。まず第一に、現在少なくとも欧州には空軍力を持った国はシュバステン以外には存在が確認されておらず、航空機を撃墜できるはずがないということ。第二に、何者かという不明瞭な報告あった。偵察機が敵の姿も確認できずに撃墜されたというのなら、それは搭乗員の怠慢であり撃墜されても同情などできない。それが偶然にも対空砲の第一射の直撃を受けて報告する暇さえなかったというのならわかる。だが、内容を見る限りしばらく戦闘を行ったことは確かで、その戦闘も空戦というのだから敵航空機の、せめて大きさ、色、シンボル、単発あるいは多発か、といったことくらいいくらか報告はできるはずだ。にも関わらず、「何者か」という記述に不満なゲイツ中将は、報告書をめくっていく。

 すると、彼はある文中の小さな語句に目を止めざるを得なかった。

「ドラゴン」

 報告書によると、偵察機の搭乗員は敵の姿をお伽話の挿絵にあるような空想上の怪物の名と、見た目を報告してきたのだという。それを受けた基地の方では、きっと恐怖で混乱したか、夜のせいで見間違えでもしたのだろうと考え「何者か」という記述に変更したのだった。普通は彼の判断はおかしくはないだろう。だがこの混乱している時代と、何よりドラゴンに並々ならぬ執着を持ったゲイツの組み合わせは、この搭乗員の報告のほうを優先する形となった。

 さらに彼は十枚の写真があることに気づく。そういえば、新型のマアリファトウン偵察機にはカメラが取り付けられたとか聞いていたが。

 もしやと思いその写真を机に広げてみる。写真は夜間ということもありまともに映ってはおらず、その上激しい機動でも行っていたのか、ブレにブレてろくな写真は無かった。だが、その中でもわずかに一枚だけ、望んでいたものの姿を映しているものがあった。

 全身とまではいかないものの、腹部、尾、前足とぶれているが下に向かってしなる翼が、小さな紙きれの中に収められていた。

「ああ、これだよ、これこそ!!」

 興奮し、声を荒げて立ち上がる。こんな失敗の写真でも、彼にとっては実に貴重で、彼が胸から下げているいくつもの勲章の内の一つに匹敵するほどに思えていた。いかなるドラゴンにまつわる文献にも実際にその姿をはっきりと捉えた写真も、挿絵もなかった。皆想像で描かれたものだ。今この手にあるのはそんな今までどんな研究者も手に入れることのできなかった本物のドラゴンの写真だ。彼はこれを撮った搭乗員にベルヘーセム一等勲章(※1)を与えてやりたいとまで思っていたほどだった。

 すぐさま彼は受話器を取ると連絡を取った。

「そうだ、私だ。撃墜されたE111の撃墜された周辺での生存者捜索の人員を増員しろ、必ず生存者を見つけ出せ。それと回収班に可能な限り全ての機体の部品を回収させて八番倉庫に運ぶように。可及的速やかに、だ」

 受話器を置くと、彼は老眼鏡を外し背もたれに深く体を預けた。その疲れた様子とは反対に、彼の顔は実に生き生きとしており、目は歳に対してとても輝いていた。彼はつい先日の遭遇を思い出していた。あの男は自らをドラクラットと呼び、竜が実際にこの世界に生息していることを教えてくれた。結局その男はすぐに同じドラクラットと思わしきラテン訛りの少女と共に基地から姿をくらましてしまったが。あの男あるいは少女は去り際に基地の者に真の姿を見せていった。その姿を見逃してしまったのは非常に残念極まりないが、焦るまいとはやる心を落ち着かせようと努めていた。

「もうすぐ会えるからな……会って見せるというのがシュバステンの男の意地というもの……」

 彼の眼は、少年のそれのように。

 基地からは追加の偵察機が飛び立ち、回収部隊のトラックが、ディーゼルエンジンをやかましくならして地面を鳴らしていく。彼らは何故そんなに急いで全て回収したがる司令の気持ちというものが理解できなかった。確かに撃墜されて死者も出ているとなれば報復や敵の調査も必要だが、それにしてもこの出動命令には司令の執念というものが影に見え隠れしているのを感じて止まなかった。

 一人の軍人の好奇心が、潜みし部族に迫っていることを、どれだけ知っているのだろうか。

※1 ベルヘーセム一等勲章:シュバステンで最も価値のある勲章。その栄誉は実に大きく、その勲章一つあれば、軍の教本に名と写真が乗り、英雄として本国の記念館に胸像が置かれるほどで、シュバステン軍人には夢のまた夢のような勲章。ベルヘーセムの由来は、シュバステンを築いた宗主にして初代王ベルヘーセム一世による。

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