ein nachtstraum(夜の夢)
闇竜族の少女は眠る。つい先ほどまで果て無き憎しみに囚われていたにもかかわらず、現在はそれまでの苦悶の表情が嘘だったかのように安らかに深い眠りについている。やがて数刻の後彼女は目覚めた。顔を照らす薄暗い月明りによって現在が夜であることを知る。
欠伸を一つ、エリアは頭に残る違和感と、体中に渡る軽いわだかまりに首を傾げて思い出す。
「……?」
何故こんな変な感覚があるのか理解できなかった。そう、彼女は昼に倉庫に横たわってからの記憶がない。彼女にとってはほんの少し横たわったつもりであったのについうっかり眠ってしまった、という認識に過ぎず外で起こったことなど知る由も無いのであった。
「……?」
もう一つ欠伸とおまけに背伸びをして、ここがどこかを思い出した。屋内なのでつい家にいるものだとばかり寝起きの頭ではそう思ってしまっていた。
(明日も一日ここにいるのかな)
囚われのお姫様だったらどれだけいいか。随分昼寝をしてしまったためか、嫌に目が冴えてしまって眠れない。仕方がないので体を起こすと、そのまま立ち上がり積み上げた荷物をよじ登り始めた。確かなところを確かめつつ上っていく。上りきると頭が天井についてしまうが、目的はただ上りたかっただけではない。丁度目線の高さに来る通気口であった。外を覗くと当然だが街灯も何もない場所であるため、あたりは暗い。そこまで夜が更け切ったというわけではないらしく、夏場であるため恐らく七時になるかならないかといったところではないだろうか。黒と赤の眼ははっきりと夜の景色を捉えている。
昔から自分は夜目が効くのが特技の一つであった。周りの皆が見えないような暗さでも、自分は明かりのない中で人の何倍も暗闇の中で見ることができた。これも今だからわかるがドラクラットの特徴の一つなのだろう。人間よりも野性的な。
しかしよく見えても通気口からの景色は面白いものではない。見えるのは草の茂った地面と焼きレンガの塀くらいのもので、顔を押し付けても大して視野は変わらなかった。ただ外を見つめながら彼女は虚ろな目で囁く。
「夜が染まるよ……我らの色に……闇竜族のモノに。明日も来る、夜は。だろう?サキュス……」
我に返る、今自分は何か言ったのか、わからない。意識もなくただ一瞬の記憶がないのだ。数秒前のことを忘れられるわけもない。ならば今自分は何を……??
「うううう……怖い…………」
昨晩のことを思い出す。そう、自分はライマの前でどうやら男の口調になっていたらしい。そのことは思い出そうとしても全くわからない。どうやら今さっき自分は昨晩と同じ状況に陥っていたようだ。未知のものというのは実に恐ろしい、しかもそれが自分に起きているのだから恐怖もひとしおである。
「あーやめやめ!」
恐ろしいことを考えるのはやめようと頭を切り替える。考えれば考えるほど謎は深まりもやもやとするだけだ、そう割り切るとエリアは小さな音を立て飛び降りた。舞い上がる程の埃はない。
そうだ、確かライマが服を作ってくれると言っていたはずだ。
「なんだっけ、スカートだったかパンツだったかって言ってたような……」
下半身の方はどうするかと聞かれて確かパンツスタイルでと答えたような記憶がある。ゆったりめ、と答えたような気もしないでもない。しかしパンツでと答えたがスカートでもよかったかもしれないと今になって後悔しだす。もしかしてもう作り始めてしまっているのだろうか、いや流石に着いたばかりでそれはないだろう、しかし数日しか滞在しないとのことなのでもう準備にかかっているかもしれない。
新しい服を着れるというだけで胸が高鳴ってしまっている。如何に荒廃した世界、人間とは違い種族と言えど、彼女は少女である。浮かれてしまうのも当然のことだ。それに今身に着けているのはサイズの合わない男物の軍服で、それをほぼ直に肌に纏っているため着心地は良くない。それに少し臭う。そこで彼女はハッとする。そうだ、ここ二、三日水浴びすらまともにしていないではないか。一つ言っておくとムゥロにいた時だからと言って毎日お風呂に入れていたわけではない。それでもまだ向こうでは皆そんな感じだった。しかし新しい服を着るのなら、折角だから綺麗な体で身に着けたいと思うのが乙女というもの、どうにかして濡らした布で体を拭くくらい出来ないものかと考えたが、改めて自分の置かれている状況を思い出し、落胆する。
「ダメもとで頼んでみるかなあ……」
もし明日ライマかエマーヘルが来たら頼んでみよう。水浴びは出来ないまでも拭くくらいはさせてもらえるはずだ。いや、流石にそれくらいはさせてもらえる……はずである、そう、はず。
「ワンピースみたいのは………ちょっと旅には向かないかなあ」
と、ワンピース姿でダンゴムシに跨る自分を想像して少し笑ってしまった。いくら何でも乗りにくいし、確実に風でめくれてみっともないことになるのは必至だ。
「そうだ、下着!!」
下着だ、今自分は下着など何一つ身に着けてはいない。下着も見繕ってもらわなければいけないことに気づいた。
(今気づいてよかったあ……)
一大事であった。
外国語でサブタイトル付けるの難しいですね
習ったことないから
毎回あってるのかな、と




