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Schwarz Drache ~黒き竜の少女と果て無き旅の果てに~  作者: 戦艦ちくわぶ
Ⅰ La ragazza nera(黒き竜の乙女)
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la griffe du diable(悪魔の爪)

「ああまずいなこれはまずい」

 事態に対応するのに気を取られたあまり、ここが村の中だということをすっかり失念していたことに後悔するエマーヘルだったが、時すでに遅し、彼女の姿は衆目の前にさらされてしまっている。なんということだろうか、折角エリアを隠匿しようと村長と話をつけこっそり忍び込んだというのに、僅か一瞬にして無に帰するとは。

 キニエイテンテス村の住人にはこれは衝撃的かつ受け入れ難い出来事であった。村人たちにとっては今目の前で転がっているのが生まれて初めて見る闇竜族であるというだけでなく、見たこともない異常な変身を生じさせているのだ。それだけでも彼らを恐れさせるには十分であった。

「……」

「…………」

 ひそひそ話が、村人たちの間で盛んに交わされる。皆一様に汚らしいものを見るような目で彼女に時折目を向けては、隣人たちと何かを話している。内容が良くないであろうことは明白である。二人は兎に角彼女を村人たちの目から隠そうと試みるが、やがて村人たちの中から声が上がる。

「おい!そいつは闇竜族じゃねえのか!!!」

 若い男の声だ。男は殺意のこもった眼をぎらつかせながら三人に詰め寄る。赤い紋章、炎竜族だ。男は一度エリアを一瞥すると、今度はエマーヘルに掴みかかる。身長差は二十センチ近くあるものの、彼の威圧感をものともせずに噛みついてきた。

「闇竜族は裏切り者で殺さなきゃいけねえ!!あ?なんでそれがここにいるんだ!!!しかもこんなに育ってんじゃねえかあ!!」

 そう、ただでさえ闇竜族を見ることがない上に、生まれたらすぐに殺される。このように成長した闇竜族など本当に稀な存在であり、全くもって信じられない事件なのだ。

「待て、事情がある。予知によって彼女は必要とされている」 

 極めて冷静に対応しようとするが、燃え上がった炎竜族の男はそう簡単には鎮火しない。更に五人ほどのドラクラットが歩み寄る。完全に殺す気満々のようだ。これは流石に危険だと感じたのか、ライマとエマーヘルはエリアを守るように彼らを牽制する。

「いいか!これは予知によるものだ。予知によって闇竜族が我らドラクラットの再興の鍵となるということが伝えられた!!我々は祈祷師である!それにこの村での滞在はビオネンデ村長が認めたことである!!それでも彼女を殺すということなら一族への叛逆としてお前たちを殺さねばならん!」

 二人のドラクラット、いや竜は戦う気があるということを見せつける。彼の言葉に男たちは腰を引いてしまう。祈祷師はドラクラットでも非常に大切にされており、彼らの言うことにはちょっとした権力者よりも余程の力がある。それは祈祷師は誰でもなれるというわけではなく、ごく一部の適性を持つ選ばれしものだけである。

 そしてその上予知の存在と一族への叛逆を唱えられれば、今度は追放されるのはこちらである。追放で済めばいい方だが。

「いいか、お前たちがそのような感情に囚われるのも仕方あるまい、だが今は抑えろ。いいな……」

 エマーヘルは顎でライマにエリアを連れて行くように指示すると、村人たちに離れるように促す。

「これより数日の間この村に滞在する。その間、決して彼女に近寄るな。危害を加えれば我々が許さないだけでなく、闇竜族の呪いを受け、この村は滅ぶだろう……」

 最後のははったりだ。実際に闇竜族が呪いを持っているかどうかなんて彼は知らない。だがこの場ではそのはったりがうまく効いたようだ。闇竜族に呪われては敵わんとばかりに村人たちはすぐさま散っていった。怒れる男たちも不満気ではあったもののじょじょに去っていく。

「クソ、先が思いやられると……」

 歯ぎしりを鳴らすと、ライマの方へと走る。彼女は屋敷の裏手に彼女をおろして彼女の怒りを鎮めようとしていた。

「大丈夫か」

 彼が角を曲がって駆け寄ると、ライマはエリアの服の前をはだけさせ胸を露出させており、彼女の透き通る白の肌に両手の人差し指を、模様を描くように右往左往なぞっていた。同時に彼女の口は絶えず小さく言葉を紡ぎつづけている。

「…………………」

 はっきりとは聞こえない、しかしそれは彼もなんとなく察していた。恐らくこれは彼女なりの怒りを鎮めるまじないだろう。祈祷師はいくつものまじないや占い、薬の配合を知っている。それは村や部族ごとに異なっているため全ての祈祷師が共通して知っているというわけではない。彼女のこれも、彼女が習ってきた鎮静のまじないなのだろう。

「…………ふう……ゲントゥラス……」

 最後に締めの言葉を述べると、ライマはおもむろに目を開いた。ひざ元で横たわっている少女にもう異常変身の兆候は見られない。無事にまじないが効いたようだ。

「よくやった、よく……」

 エマーヘルも胸を撫でおろす。ライマがエリアの服を正すと、二人で彼女を物置まで運んだ。今二人の腕の中で安らかな寝顔を見せている少女の表情は、あとどれだけ曇らなければならないのだろうか。運命は、過酷である。

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