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Schwarz Drache ~黒き竜の少女と果て無き旅の果てに~  作者: 戦艦ちくわぶ
Ⅰ La ragazza nera(黒き竜の乙女)
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пустыня(荒野を行く)

「私はこれを使うけど二人は?」

 荷物をまとめたエリアは、ダンゴムシのハンドルに手をかけて尋ねた。

「そうだな、お前が飛べればいっしょに行けるが……まあ我々は飛んでいく。行先は常に上から伝えるからお前は指示に従って方向を変えてくれ」

 上、つまり空から竜となってテレパシーで伝えるということ。彼女は空を見上げた。自分も空を飛んでみたい、飛んでそして、復讐を果たしたいのだ。家族の命を奪った飛行機たちに。飛行機を飛ばしてきた者達に。

「一番近い村だとキニエイテンテスでしょうか」

 キニエイテンテス、聞いたことのない単語。村の名だろうか、何語系かすらわからない。

「そうだ。あそこは確か炎竜族が主体だったな。少なくとも十年ほど前までトリーリィがいたはずだが今もいればいいが……」

 トリーリィが男の名か女の名かすらわからない。もし自分が、自分が生まれた頃から彼らの一員として育っていれば分かったのかもしれないのだろうかと思うと、疎外感を感じて止まなかった。

「では行きましょうか、エリア。あちらにまっすぐ走ってください」

 そうライマが指さしたのは東の方角。

(東か)

 東だとロシアの方になる。つまり故郷からは遠ざかることになる。

「わかった」

 シートにまたがり、キーを回す。まだあまり聞きなれない軽快なエンジン音が枯れた黒海の畔に響く。他にあるのは荒野を悲しく撫でる遠いスラブの風の音。闇竜族の少女は東を目指す。

 彼女が発信して二分ほどたったところでまずエマーヘルが変身し空へと舞い上がる。上空二千メートル以上、層積雲を時折貫きながら招雷竜は飛ぶ。そして更に五分ほど経過してからライマも飛翔した。その理由は彼女が飛竜種ということにある。他の竜に比べ高速で飛行することになるため二人を追い抜いてしまいかねないのだ。それでも長距離の移動ではいずれ抜いてしまうため、何度も調整のために円を描くなどして待たねばいけない。

 荒野を駆け抜ける異形の乗り物、モノバイク・PillBug。巨大な一輪のタイヤは時速八十kmで回転し続け、ハンドルを握る少女を目的地まで運ぶ。

(エリア、その先に人間の村がある。迂回しよう。右にずらせ)

 エマーヘルの声が頭の中に届いた。便利なテレパシーだが相手がどこから声を発しているのかはわからない。先ほどは実際に顔や姿を会わせながら交わしていたため思わなかったが、相手の姿が見えない今、どことなく居心地の悪さを覚えていた。 おまけに人間状態だと一方通行と来た。彼女は言われた通りに車体を傾けて進路を曲げた。

(あいたたた)

 それなりにサスペンションが振動を緩和してくれてはいるが、それでもなお吸収しきれない振動がお尻を痛める。

「喉」

 喉が渇いていることに気づく。エリアは慎重に片手を話して肩掛けカバンから水筒を取り出し、器用に親指だけで蓋を開け恐る恐る呷る。振動でガチガチと歯にぶつけて痛みを感じつつも、喉を潤せたことに喜びを感じ、水筒をしまう。水は節約すれば今日の分くらいはあるが出来るだけ確保しておきたい。

 彼女は気づく。こうして外の世界に出ると水や食料の維持や確保を考えて行動しなければならないのだ。そこまで豊かではなかったにしろ、ムゥロは川もため池もあって水に不便することはなかった。雨もよく降る気候であった。食糧も問題なかった。しかし今は違う。食糧は少しの水とパン、それに奪った時から鞄に入っていた缶に入った豆の缶詰らしきものが二つ。これではあまりに心許なかった。

「おーい、今日中に着きそう?」

 試しに空に向かって叫んでみたが、思った通り返事はない。流石にあれほど高いと聞こえないみたいだ。

 空を見上げると、雲の切れ間に一頭の竜が見えた。その後ろからグングン追い上げてきているのが恐らくライマだろう。巨大な翼膜を持ったそれは、やがて前方の竜を追い越すと、エリアも追い越し離れていった。それからしばらく走っていると再びライマの姿が見えた。彼女は高空で輪を描いて飛んでいた。ああやって待っていたのだろう。時折進路の修正を指示されつつ、同じような光景を見ているうちにやがて再び日が沈み始めた。

(今日はここまでにしよう)

 エマーヘルがそう言ったため、三人は林の中に潜り一夜を明かすこととした。

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