to sky(空へ!)
眉間に皺を寄せ、黙ってしまった彼女を、二人は注意深く覗き込んでいた。どうやら何かしらあったらしいと、一縷の希望を見出した二人は、目を合わせ、無言で頷いた。エマーヘルが後押ししようと肩を軽く揺すり語り掛ける。
「お前のその見つけた感情を焚き付けろ。本当のお前を、お前の中にいるお前を」
力んでいるエリアの額に、脂汗が滲み始め、苦悩していることが見て取れた。それほどまでに忌々しい記憶なのか。
「ううう………ううああ……」
ぷっつりと憎しみ途切れ、代わりに彼女の意識は現実へと帰っていた。ゆっくりと瞼を開くと、期待に満ちた表情でこちらを覗き込む二人の顔が見え、どう答えたものかと戸惑いつつ、やがて苦し紛れに笑ってみた。
「…………」
「………………あ、ははは……」
察した二人は、あからさま落胆し身を引いた。
エマーヘルはボリボリと頭を掻くと、次の手段に移行することとした。
「あの、ごめん」
謝るエリアを制し、慰める。
「何、これで一発で出来るようになることの方がおかしいんだ。元々期待しちゃいなかったさ」
少々とげのある言い方に不満を感じながらも、彼女は不服を申し立てずに素直に頷いておいた。今はスムーズに従っておいた方が建設的であろうと判断したためだ。
彼としては次の手段はあまり使いたくは無かったのだが、この際やるしかない。少しでも早く彼女の能力を見出さねばならないのだ。
「少々荒療治になるが、次の手だ。いいな」
「え、荒療治って?」
彼女の問いには答えず、今度はライマが二人から距離を取り始めた。お次は何が始まるのかと胸を膨らませ眺めていると、彼女は二〇メートル程離れたところで足を止め反転し、こちらを向いた。
「見ておけ、これが変身だ」
エリアは彼を一瞥すると、再びライマに向き直り生唾を飲み込んだ。これで本当に竜に変身したのなら信じてやろう、そう腹を括った。そして彼女の目の前で、到底信じられないことが起こった。
スッとライマの体から緑色の光が発せられるや否や、彼女の体が瞬く間に姿かたちを変え、次の瞬間には彼女のいた場所に巨大な生物が鎮座していた。
「ああ……」
信じられない、あまりの衝撃に言葉が詰まる。現れたのは、体中に苔や蔦を這わせた、まさに木竜の名に恥じぬ姿をした竜であった。人間の時のような女性らしい線の細さは見られず、しなやかながらも草木の重厚さ、神々しさを兼ね備えたその姿に彼女はただただ感銘を受けるばかりであった。
「どうだ、え?」
何故か得意そうなエマーヘルを他所に、ゆっくりと竜化したライマに近づくエリア。近づくにつれ、何とも言えぬ暖かさを肌に感じどこか懐かしさを覚えたエリアは、そっとライマの肌(表皮というべきか)に触れた。滑らかな鱗は、磨き上げられたオークのテーブルのような肌触りで、所々生した苔や蔦は、がっちりと噛みついており、そう易々と剥がれ落ちそうには無かった。視線を動かしていくと、今までとは異なった、いうなれば金属の質感を持った箇所があることに気付いた。見渡してみると、それは体中に広がっており、それにもまた模様が刻まれていることにも気付いた。
「鎧?」そう呟くと、ライマはゆっくりと頷いた。ライマはエリアに脳波で語り掛ける。
(これは私が身に着けている服が、竜に変身する際それに呼応し、強固な金属製の鎧となるのです)
「あ、頭の中に声が!」
これがテレパシーと言う奴なのだろうか。彼女は顔を上げ、緑色の竜の目を見て、再度表皮に目を下ろすと、今度はエマーヘルに向き直り、尋ねた。
「わ、私もこうなれる?」
興奮に声が少なからず上ずるが、そんなことお構いなしに次々と質問を浴びせた。
「どれくらい飛べるの?この服はどうやったら手に入るの?痛覚は有るの?それからそれから……」
(ちょ、ちょっと、そんなに一気に言われても、答えられませんよ)
困ったライマは首を傾げる。非礼を詫びると、エリアは改めて一つずつ尋ねていった。だがそれをエマーヘルは制してしまうと、ライマの方を見て予め示し合せていたかのように頷いた。
「な、何をおお!?」
突如彼女の体はとてつもない速度で上空に飛び上がった。その原因はライマが翼の中間あたりについた小さな前足でエリアの襟を掴み、その強靭な後ろ足で百フィートも飛び上がっていたのだ。上昇が止まったかと思うと、ライマは彼女を勢いよく上に放り上げた。




