D rakrutt(竜人族)
説明を終えたライマは一息つくと、欠けたティーポットから茶を注ぎ、一息で飲み干した。時間の経過した茶はぬるく、やすやすと喉を滑り降り彼女の口内に香りを残した。そこに間をおいてエリアが痛い点を突く言葉を放った。
「それはつまり、今まで忌避してきた私のような、えっと闇竜?だったけ。を自分たちの再興のためだけに利用しようってこと?」
その彼女の冷たく的を得た指摘に二人は気まずい表情を浮かべた。
「そう思われるのも当然ですよね。申し訳なく思います」
「で、終わったら殺すんじゃないの?英雄に祭り上げて」
「そんなわけ……!」
思わず声を荒げたエマーヘルの言葉を遮ってエリアが追撃した。
「保証はないでしょ。でもま、私の出自の一部でも教えてくれた恩は返す」
後味の悪い余韻が流れた。どの言葉を選べばこの黒き少女は機嫌を損ねずにいてくれるのだろうか。二人はいつの間にか想定していた以上に少女に気を使い始めていることに気が付かなかった。
その詰まった空気を破ったのはエマーヘルであった。
「ともかくだ」エマーヘルが口を開く。
「まずお前の力を知りたい。外へ」
短く告げると、立ち上がり建物の外へと出て行った。エリアは得た情報を憶えている限りで整理しながら、ライマの後に続いた。
竜と人、伝説上の生物と人間の間にそのような知られざる確執があったことを、果たしてどれほどの人間が知っているというのだろう。ひと握り、いや一つまみどころか、砂糖壺に軽く小指をつけた程度かもしれない。そもそも今までの話がよくできた作り話という線もある、寧ろそう信じるのが妥当だ。しかし嘘をついているようにも思えない。確かに二人の目は落ち着いた普通の人間のそれでは無かった、どこか焦っているような、それでいて疑いを抱いているような。それが自分に向けられているのだろうと気付くことは、難くは無かった。ムゥロは比較的安定していたとはいえ、荒廃した世界で十七年も生きていれば自然とそうなる。
「どうして外に?」
「それは単純なことです。頑丈な物質で作られた小さな空間の中で巨大な竜に変身しようものなら、体は壁や天井に押し付けられてつぶれてしまいます。ですから屋外での変身が鉄則なのです」
「そんなに大きくなるものなの?」
「ええ」
建物からざっと二百メートル程離れたところで彼は脚を止め、彼女に向き直り言った。
「我々が見たいのはただ一つ、君が竜に変身できるかだ。大抵、変われ、と言われたら竜になることだと思ってもらえればいい。これに固有の言葉や、詠唱などは無い。ドラクラット皆が持つ普遍的な能力だ」
「普遍的な能力なら、どうしてその力を見る必要があるの」
率直に抱いた疑問を彼に投げかけた。すると彼は複数回頷くと、指を立てて解説し始めた。
「通常、我々は四歳ごろから変身の訓練を始める。そして上手く飛行できるまでに大体一年そこらだ」
そこに、そんなに早くから、とエリアが口をはさんだ。
「ああ、これには訳がある。これから話すことが、君にそれを見せてもらう所以でもある。変身は我々だけが持つことを許された特別な力だ。それは先程述べたようにドラクラットなら皆が平等に持つ力でもある。だが、その力を己が物とするためには、幼少の頃、身心がまだ発展途上で、構築時期にある時期にする必要があるんだ。もし、時期を逃せばほとんどの場合で変身能力を持たぬまま過ごす羽目となる」
ここでエリアにも話が読めてきた。もしそのドラクラットとかいう種族に自分が属していたとしたら、なるほど一七年も人間に育てられてきた自分が変身できる可能性は限りなく低いわけだ。
「飲み込めましたね」
エリアは縦に首を振った。
「確かお前さん、変身を知らないといったな」
「うん」
改めて二人の祈祷師は落胆の色を見せると、彼女に詰め寄った。体の大きな二人に詰め寄られ、反射的にたじろぐエリア。そんなことはお構いなしとエマーヘルは彼女の肩を痛いぐらいに掴んで迫った。
「いいか、まだ諦める時間じゃない。やらねばジュラジュだ」
ジュラジュって何さという彼女の質問を無視して、彼女をそのまま強引に地べたに座らせた。
「いいか、まず初めての変身に必要なのは強い衝動だ。怒りでも憎しみでも、はたまた喜びでも構わない。とにかく鍵となる強い一撃が必要なんだ」
「強い……一撃……」
「ええ」
エリアは手をぎゅっと握りしめ、目を瞑り記憶の海へと飛び込んだ。そこにあったのは、あの苦痛であった。飛行機、炎、爆発、瓦礫。全てが直前のように蘇り、精神を蝕んできた。思い出したくない記憶なのに、何故出会ったばかりの他人の頼みを聞いてまで思い起こさねばならないのか。憎しみが彼女の中で増幅していた。




