悪夢
「それで? どんな夢を見たの?」
ふっと肩の力を抜いたようすの小野が問う。ただの悪い夢かと呆れられたのだろう。
「あ・・・・・・えっと・・・・・・。あまり言いたくないのだけれど……。」
人が傷つく夢を言うのはあまり進まない。不謹慎だと感じる。また、言ってしまえば現実になるような、正夢になってしまうような予感がする。
言い淀む俺に対して、小野が切り出す。
「さっき藤原朧と言ったわね。藤原朧が出てきたの?」
「藤原朧に俺は殺された。胸にハサミを・・・・・・。」
はっとして、胸を見る。所々血がついている。シャツを胸から浮かして胸をみた。胸に傷跡はない。
「俺だけではない。三ケ田先輩も刺された。ただ、刺したのは白山夕衣だ。」
「三ケ田先輩・・・・・・?」
小野が目を丸くする。
「刺される瞬間にはいなかったから確証はないが・・・・・・、いや、三ケ田先輩を刺したハサミで俺も刺されたんだ。奴の仲間かもしれない。」
「それはいつの夢? 明日のことなの?」
小野が難しい顔をしながら、くい気味に尋ねる。
「明日のことだ。」
「明日、三ケ田先輩は藤原朧に接触する予定よ。」
「放課後にか?」
「ええ。・・・・・・生徒会室に向かいましょうか。」
小野が視線でここでは話せないと伝えてくる。
生徒会室には寺島先輩、三ケ田先輩、永瀬浩成、稲木美穂、そして小野真緒が来たことによって、『エレメント』全員がそろっていた。
「あはは、なんだよその顔。」
永瀬が俺の顔を見るや否や笑いだす。
小野にすっと手鏡を渡される。手鏡には見たこともない怪物が映っている。腫れ上がった顔が自分の顔なのが信じられない。
「マオが監視をしていてよかった。」
稲木がほっとした表情で声をかけてくれる。また、『水』の能力で顔に冷たい水を当ててくれる。
・・・・・・監視ってなんだ?
ちらりと小野を見る。
「笑いすぎ。」
けらけらと笑い続けていた永瀬に小野がはたく。・・・・・・バチッって、静電気のような音がしたんだけど。
「能力に頼るなとは言わねぇけどよ。素手の喧嘩ぐれぇ勝てる力はつけておけよ。」
三ケ田先輩に叱られる。
「あの後、君が保健室で寝ているとき、佐野鷹之は階段から落ちた。事故か事件かは分からない。」
寺島先輩が話す。
「君と佐野が24HRで騒いでいるのを何人かに見られた。そうだね?」
「ええ。そうよ。」
小野が答える。
「止めないっつーのは、意外だったな。」
「・・・・・・。止めていればこんなことにはならなかったかもね。」
永瀬の言葉に小野が目をふせる。
「別に責めてねーよ。感心してんだよ。」
そう言って永瀬が顎に手を当ててそっぽを向く。
「能力者の戦いとはいえ、能力が使えないんなら男の喧嘩だ。手を出さなかったのは・・・・・・まぁ佐野とも中学からの仲なんだろうし、いろいろあったんだろう。気にすんな。」
三ケ田先輩も小野に声をかける。
「それでも・・・・・・白山さんには・・・・・・。」
小野のクラスメイトの白山夕衣さんを気にしている言葉に寺島先輩の言葉が入る。
「目撃者がいる以上、明日には先生たちから話を聞きだされるだろう。小野がずっと目撃していたわけだし、突き落とした犯人にはならない。分かっているとは思うが、能力のことは話すんじゃねーぞ?」
こくんと頷く。
「じゃあ帰って休みな。小野、君が送ってやれ。」
寺島先輩が生徒会室を出ていくよう促す。
「あ、いえ、ここに来たのは気になることがあって・・・・・・。」
皆の表情とかを見ても、ドッキリだとは、俺を騙しているとは思えない。
もう一度夢のことを考えてみる。いや、思い出す。
はっきりと思い出せる。保健室で目を覚ました俺は隣にいてくれた小野と一緒に帰ったんだ。あれが予知夢だとすれば、この段階で既に違っている。
だが、六月八日の授業をはっきりと思い出せるし、なんか生々しい。
おかしなところが、違和感がなかった。そんな気がする。
だが、このところ、俺は非日常を体験している。
能力。
重力という異能力を使っている。
何が日常で何が非日常か。何が異質なものなのか分からなくなっている。
「なんだ?」
永瀬が問いかける。
「夢を見たそうよ。ただの夢ではないと思う。起きた時の動揺が本当におかしかったわ。」
「どんなだよ?」
「明日の夢。明日、三ケ田先輩が藤原朧の仲間の女子生徒に刺され、煌が藤原朧本人に刺されるという内容よ。」
小野が淡々と話し出す。本当にただの夢ではないと信じてくれているらしい。
「小野。・・・・・・いや、みんな。誰か煌君に明日藤原朧に三ケ田先輩が接触をはかることを教えたか?」
寺島先輩がみんなを見渡す。誰も名乗り上げない。
「昨日報告したように、藤原朧が自殺しようとしていた所に煌はいたぜ。」
永瀬が話す。
「おなかすいた。」
元気のない稲木の言葉に小野がカバンから高校の近くで売っているパンを渡す。時計を見るともう夜の七時だ。
「藤原朧に関する他の情報は?」
三ケ田先輩がたずねる。
「悪魔じゃないかと冨上から聞いて、あとは小野と豊崎と話したぐらい。」
思い出しながら答える。
「その人に関することでは意味はないと思います。夢の解析は曖昧ですから。・・・・・・あとはもう、信じるかどうかかと。」
「ならもう話しちまえば?」
永瀬がめんどくさそうに促す。
「藤原朧のことを話すつもりだったが・・・・・・。よし。疲れたところ申し訳ないが、頼む。」
寺島先輩から頼まれ、俺は話し出す。
悪夢のような明日の出来事を。
保健室で目を覚ましたところから話す。そして今の状況との違いも。
いつもと変わらない登校、明日の授業のことも覚えていることを話し、放課後の騒動のところを話そうというところで、
「・・・・・・おなかすいた。」
と稲木がもう一度言う。
「じゃあパンを買って来い。まだ開いてるだろ。」
三ケ田先輩が促す。特に怒っている様子はない。生徒会では日常的なことなのか、信じてもらえてないのだろうか。
「一応、俺もついていくわ。」
と、わーいと嬉しそうな稲木に永瀬がついていく。
「気にせず続けてくれ。」
寺島先輩が苦笑いをしながら勧める。
「それで・・・・・・放課後。ガラスが割れた音が聞こえたと思うと、三ケ田先輩が生徒を・・・・・・おそらく藤原朧ですね。追っているのを教室内で見てから外に出ると、窓ガラスが割れて、ガラスと野球ボール、土が散乱していて、すぐに先輩が向かった曲がり角のあたりから悲鳴が聞こえました。小野と一緒に向かうと、血だらけの三ケ田先輩が倒れて・・・・・・先輩はお腹にハサミが刺さっていました。周りには藤原朧、刺した女子生徒の白山夕衣、あと数人。白山夕衣はうちのクラスメイトです。先輩が勢いよく曲がったところでぶつかって、白山夕衣が持っていたハサミが刺さってしまったと聞きました。」
「野球ボール・・・・・・出会い頭・・・・・・。」
三ケ田先輩が自分の死に方を聞いて、微妙な顔をする。
「三ケ田は私たちの中では不意打ちには強いほうだが・・・・・・。」
どうだと寺島先輩が三ケ田に尋ねる。
「土がガラスと共に散乱していると聞くに、回収していなかったのかもしれないな・・・・・・。しかし、野球ボール一つにそんなに土は使わないと思うが・・・・・・。あとガラスか。」
「その土というのは?」
「いつもスポーツバックに入れている。」
俺の問いに三ケ田先輩が答える。
そのスポーツバックは三ケ田先輩が倒れた時に近くにあった。
「そのあとは?」
「救急車が運んで行った後に、冨上から『悪魔の正体は豊崎先輩。生徒会が危ない。』と。」




