水
冷たい。
髪をつたって落ちた雫が首筋をゆっくりとなぞる。
暑い。
汗をかいてきた。
よほど焦ってきたのだろう。なにせ、一大事だ。
三ケ田先輩が負傷した。まあハサミがおなかに刺さったぐらいで死ぬ人ではない。
しかし、マークしていた藤原朧に接触した瞬間の出来事だ。
藤原朧には何かある。きっと能力の使い手である創造主だ。
さっきから会長に電話をしてもつながらない。
なので、まずは生徒会室に向かおうと走ってきたのだった。
北校舎四階に着くと、ようやく気がついた。凄い熱気に包まれている。
異常だ。
発生源は、おそらく生徒会室。
会長が『炎』の能力を使ったのか。思考を巡らせる。
まさか敵が会長のところに?
焦りを感じながら、足を速める。
生徒会室の中が見えた。
戸が開いている。
そして、入り口に誰か立っている。廊下を挟んだ向かいの窓の外を向いている。
「あなたは・・・・・・。」
「こんにちは。稲木美穂さん。」
立っていたのは豊崎優希。煌と小野の幼馴染。
顔をこちらに向けず、ゆっくりと挨拶をする彼女。
この異常な暑さの中、彼女はそんなこと気にしていない。
生徒会室の中の状態がだんだんと目に入る。そこには会長の氷漬けの姿があった。
「会長・・・・・・!」
とっさに生徒会に入ろうとする私を豊崎が手を広げて停止させる。
「だーめ。」
女の子の甘い声。こちらを向いて、にっこりと豊崎が微笑む。
彼女の顔が、いや、目に映るすべてのものが歪んだ。
視界がぼやけた。
気がつくと手をついて四つん這いになっていた。
頭がくらくらする。
汗が出なくなっている。
目の前にある足をたどって豊崎の顔に目を向けた。
「豊崎・・・・・・も、能力を・・・・・・?」
「ふっふーん。さーて、私の能力はなんでしょうねー。」
お気楽な、能天気な声。
『水』の能力を発動させる。
水が空中に出来るが、すぐに消えてしまう。
蒸発させられてしまう。
この熱が・・・・・・。
水が浮かび、消え、浮かび、消え、浮かび、消え。
このままでは・・・・・・。
意識が遠のく最中、体ががくんと崩れた。
そして重力のままに――――――。
「冨上。」
普段の眠そうな、しかしこのようにしんどそうにしていることはない稲木の様子を確認する。うっすらと瞼を開けた稲木に、笑顔で返す。
稲木がゆっくりと口を動かした。
「炎の・・・・・・能力を、うばって・・・・・・。」
かすかに聞こえた声を受け取り、彼女にうなずく。
「稲木を頼む。」
『重力』の能力で優希の下から引き寄せた稲木美穂を冨上の背中に乗せる。
「先輩。気をつけて。」
そう声をかけてから冨上は懸命に駆けだす。
優希に目を向ける。
生徒会室入り口に立ったままである。両手を使ってスカートをガードしていた。
「優希・・・・・・。いや、『悪魔』か。」
黒い翼が生えていない彼女が不敵に笑う。
その表情は、あの天然ボケの優希が見せたこともない魅惑の笑み。
全てをさらけ出して、この女性に一生ついていきたいという気持ちにさせる雰囲気にのまれそうになる。
これが悪魔なのだろうか。
異常なほどの熱気。
ここでは一切冷気を感じないがちらりとしか見えない生徒会室は銀色だ。
先ほどの稲木の言葉を思い出す。
『炎』能力。それは寺島生徒会長の能力だ。そして稲木は『水』の能力者。
優希の会長から奪った『炎』の能力で稲木の『水』が負けた。
真っ向勝負なら『水』が有利だと思うが、優希が能力者だと知ってなかったから不意を突かれた可能性がある。
『氷』と『炎』。二つの能力を使うことが出来る。
ってことは、だ。
『能力を奪う』能力・・・・・・か?




