試練
「お前さんが神山煌か。」
今日も昨日と同じ海辺、というか人の来ない海岸で訓練を行う。日曜日の朝九時に海岸で一〇分ほど待つと、先輩がやってきた。
土の能力者、三ケ田一正先輩。体育会系の体つき、雰囲気は永瀬からチャラさを抜き、威圧をさらに足した感じだ。
先輩が腕を空に伸ばして伸びをする。
「じゃあ始めるぜ。・・・・・・これ。使うならつけな。」
先輩が下の砂から何かを作り出し、渡してくる。
「一正特製グローブとヘルメットだ」
それを着けてみる。普通のグローブ、ヘルメットよりもごわごわしている。何もつけないよりはましか。
先輩と向き合う。
先輩の横の砂がさらさらと盛り上がる。その後、表面が黒くなり始めた。砂というより、土だ。昨日の稲木のように、人型の土を作れるようだ。
その人型の土がぺちゃりと潰れ、消える。
失敗したのか?
「始まってるぜ。」
足元が揺れた。
下だ。
下から来る。
すぐに後ろに飛ぼうとするが、足場が不安定で飛べない。
「うっ」
足を砂に掴まれた。俺の周りの砂だけが脈を打っている。
そのまま下に引きずり込まれる。
足元。両足に引きつける力を発動させる。
砂を固めて引きずり込まれないように抗う。
足首まで埋もれた右足を地上に出し。少し固まった足場を踏みぬく。
どうにか飛ぶことが出来た。
そのまま少し後ろに倒れこむ。
すぐに立とうとする。
視界にこちらに向かってくる岩をとらえる。大きさはヘルメット程度だ。
複数の岩がこちらに一直線ではなく、それぞれが平行で向かってくる。
考えずに手を突き出し、能力を発動する。
こちらに敢えて向かわせて、直前で横に避ける。
が、岩が方向を変えてこちらに向かう。ばちゃっと体に当たる。当たると土だが、当たる瞬間は固く固まっている岩だ。
「焦ったな。放たれた土でも俺は動かせる。」
直前だと下からの砂に足を掴まれると考えたのだが……それは考えていなかった。
立ち上がり、様子をうかがう。
下にも注意を向けなければ。
どう出てくる?
そう身構えていると、
「受け身でどうすんだよ。」
先輩が頭を掻きながら声をかけてきた。
「覚悟が足んねぇ。」
言葉を探すように、捻り出すようにつづけた。
「失敗しろ。」
失敗してもいいのか?
「ただし、気を緩めんなよ? 失敗っつーのはよ。恐れずに全力で足掻いて、絶対に成功してやるぞって挑んだが、そんでも足りなくて、まだ足りなくて……」
「それでもやってやるって思うことだと思うのよ。失敗は成功の母っつーけどよ、『失敗』ははじめっから『失敗』ってわけじゃない。失敗ってのは、成功してようやく『失敗』ってなるわけ。それまではただの『本気』ってだけなのさ。」
うまくいえねぇやと最後につぶやいた。
けどまあ大体言いたいことは分かった気がする。
グローブとヘルメットを脱ぎ捨てる。
「ん? ・・・・・・ちょいと休むか?」
「いえ、大丈夫です。・・・・・・着けずに行きます。」
「うし! ・・・・・・いい目だぜ。その身に『未来の失敗』を刻みな。」
先ほどと同じように岩が、いや土が放たれる。
守るだけではだめだ。避けるだけではだめだ。相手を攻撃しなければ。考えろ。
攻撃を考えろ。
さっきのように土を引き寄せる。
今度は避けるだけではなく、能力を発動したまま、土を操る。
見えない力という糸を引きながら、ハンマー投げのようにその場で回転する。
それを先輩に向けて投げ放つ。
が、足場が砂だということと、ハンマー投げをしたことがないせいか、その土はあらぬ方向
へと飛んで行った。
がしっと、砂を踏み込み、体勢を整える。
このまま攻めてやる。
能力で固めた足場を踏んでいく。
2、3歩走り出して感じる。もっと、もっと早く、近くに行かなければならないと。
「うおおおおおおおおおおおおお!」
周りの景色がぶれたと思いきや、先輩がすぐ目の前にいた。現れた。
先輩の顔には驚きの表情。
それを見ると、自信が出てくる。
拳を突き出す。腕が重い。
バシッと音がする。
拳が宙に浮いた砂で止められた。
目の前が一瞬暗くなった。ドンと先輩とぶつかり、その場に倒れこんだのか。
上を見ると、先輩が俺をのぞき込んでいる。
「うん。いい感じじゃないか。」
先輩が手を差し伸べる。
「今日はこれで終了。んじゃあな。」
先輩に手を引かれながら立ち上がると、そう言って先輩は帰っていった。
ジャリと嫌な音が口に響く。
口の中の砂が気持ち悪い。早くうがいをしたいなとあたりを見回すと気がつく。
ここは先輩と俺のほぼ中間にあたる位置だ。
いつの間に。
俺のいた方向を見ると、そこには波を打った砂、ぐちゃぐちゃになった足場、数歩の足跡しかない。
飛んだのか? 俺が。
俺の能力は引きつける能力じゃない。
引き合う能力だ。
ああ、あとそうだ。俺は土を複数操作することが出来た。
重力。
頭にふっと浮かんだ。
なんだろうこの感じは。「ああ納得」って感じ。腑に落ちる。全て説明がいくか考えてないのに、そうとしか考えられない。根拠はないが、だってそうとしか考えられない。
ピースが当てはまったような快感。
この感動は。いったい何なんだろう。
俺の勘が告げる。
そうだ。重力だ。




