或る蟲の酒場にて。
視点:蟲の酒場店主 ゴディ
初めまして…でございやすかねぇ?私の名前はゴディ。兵団黒金百足の1匹でゴディと申しやす。以後お見知りおきを。
私はとある虫使い、リリーフィア様に使える虫でございやす。リリーフィア様は大変寛大な御方で、矮小なれど数が多い私達の為に家を一軒用意してくれた大変懐の深い御方でございやす。それだけに留まらず、リリーフィア様は街に住む他の虫達にもこの場を解放しており、日夜沢山の方々が此所においでになりやす。場所を解放するだけでなく、水や食糧も時々では有りますが過分に配当してくださり、それを使用して人間が通う酒場と呼ばれる飲食所を開かせてもらっておりやす。主曰く、こうした場所は情報を集めるのに最適なのだとか…。私達虫はちっぽけで非力な者が多い種族でございやす。故に何処へでも入りこめ、誰にも気づかれる事の無い隠密性に秀でた者が大変多い。そこに目をつけ、このような場所を作り出すとは…。
流石は主、私には考えもつかない策でございやす。
「ニコさ~ん!は~や~く~~!」
「少々お待ちくださ~い。」
先程まで談話していたニコさんがお客虫に呼ばれ、席を立ち去って行きやす。
ニコさんは私もその名を列ねるリリーフィア様の群に所属する1匹で、この酒場で食糧調達及びウェイターをしてくれている少々変わったホーンスパイダーの青年虫でございやす。仕事は速い・的確・丁寧の3拍子が揃っているだけでなく、とても謙虚で真面目で、……少々酒癖が悪い事を除けばとても好ましい青年虫でございやす。本虫は否定されておりやすが、戦闘でもその才を発揮しているらしく、今日もあの恐ろしいデスサイズという大蟷螂をお一虫で御討伐なされたとか…。
イヤイヤ、まさかそんな訳は無い。…と、他の虫であればそう思ってしまいやすが、ニコさんなら簡単にヤってしまう。その小さな体で、何倍もあるであろう強敵をアッサリ倒してしまうそのお姿が簡単に想像出来てしまうのでございやす。リリーフィア様に仕える虫は全て屈強で胆も太い奴等ばかりでございやすが、ニコさんは別格。ニコさんは体が小さいというハンデをモノともせず、魔法が使えるとはいえRank C程度のモンスターでありやすが、その実力たるやRank Bの方にも劣らない…いや、Rank Aの領域に喰らい付くモノがございやす。私もニコさんよりRankが高い、そして群の中でも上位にいる魔物なのでございやすが……とてもとても敵う気がしないのが現状。
…故に、最近新たに同士となったタタタランという若造があの方を敵視するのも無理がないのやもしれやせんねぇ…。
「―――でぇ、今日もソフィちゃんは可愛くて~…。」
「もう。…ニコさんってば、その話聞いたよ~!」
「えっ?そうでしたっけ?」
おやおや…。どうやら行った先で話が盛り上がっているようでございやすねぇ。
ソフィ様と云うのはニコさんのご息女のお名前で、今年で3歳になるそれはそれは可愛らしい女の子でございやす。ニコさんがこのアイノンの街に来たのも、そもそもはソフィを追いかけて来られたのだとか…。ちなみにソフィ様は人間でございやす。
ニコさんの変わっている所。それは“人間の父親をなさっている”事でございやす。何故そのような事をなさっているのか、私には理解が出来ないモノでございやす。ソフィ様の他にも、普段居候させて頂いている孤児院の子供達も大層可愛がられているとか…。ニコさん曰く、「可愛いは正義」…なのだそうでやすが…。いやはや、私には本当に理解出来ない世界でございやす。
そんなニコさんなのでございやすが、このお方…私の主とかなり特殊な関係なお方なのでございやす。
実はここだけの話…ニコさんは我々、リリーフィア様にお仕えする群に属していらっしゃるのですが、リリーフィア様と主従の契約をお結びになっていないのでございやす。曰く、ニコさんの前の主たるジークフリードという小僧がまだ契約を破棄していないだからとか…。
こんなに強く、賢く、お優しいニコさんを捨てただけでなく契約すらまともに破棄していないとは…。全くもって、呆れた餓鬼にございやす。
まぁそんなわけで、ニコさんはリリーフィア様と何らかの取引をなされ、その一環で私の店を手伝って下さっているのでございやす。
「……おい、聴いたか?例のやつ?」
「ああ…。又ヤられたらしいな…。例の誘拐だろ?」
おやおや?どうやら情報収集の時間のようですね。私は話し合う2匹のもとに寄り、そっと耳を傾けます。
「ああ…。今回もまた、赤毛の赤ん坊が拐われたらしいぜ…。」
…ふむ。どうやら最近巷で話題の赤子誘拐事件の事のようですね。
このアイノンの街を含め、最近この北の大地一帯でとある誘拐事件が起こっているのでございやす。その事件にはある特徴があり、拐われるのは全て女児の赤ん坊で赤毛と云う点と、誰も誘拐犯の姿を見ていないと云う点でございやす。いや、誰も見れない…と言った方が正しそうでございやすね…。
と、言うのも。
犯行は時間帯全てがバラバラ。発生もこのアイノンから更に北の先のグルテフの街や逆に南のコトゥラという街の同時2ヶ所で起こったケースもあれば、皆が注目する名付けの儀式の真っ只中で起こった事があるのでございやす。
しかし…。誰も犯人の姿を見ていない。誰も犯人の姿を見ていないのでございやす。
先程言ったとおり、誘拐は人の視線が集まる中心で起こったモノもございました。…けれど一瞬、誰も彼もが本当に一瞬目を離したその隙に…誘拐されてしまった事もあったそうなのでございやす。なんでもその時は…何処からともなく強い寒風が吹き荒れ、それでその場にいた全員が目を離してしまったのだとか……。同一犯、若しくは模倣犯がいるのではないか?等、色々言われているのでやすが、いずれの件も未だに全てが不明。犯人の目的も、拐われた赤ん坊達も誰も帰って来ていない。…私の主のリリーフィア様も今は赤子を抱える身。それ故に、この事件の事を熱心に捜査しているのでございやすが、どうしてか情報が集まりやせん。犯人の狡猾さに、ただただ頭を痛ますばかりにございやす…。
全くもって、物騒な世の中でございやすねぇ…。
そこでふと…思い出しやした。
たしか…ニコさんのご息女も赤毛であった筈。いずれ犯行も対象は赤ん坊だとはいえ、まだ幼いソフィ様も狙われるやも知れやせん。…これはお伝えした方がよろしいでやすね。
聞き耳を立てた話からは特に目立った情報はありやせんでした。私は元いた場所に戻り、食糧の確認をしやす。
「ゴディさ~ん。これ、淹れられますか~?」
接客から帰ってきたニコさんが持ってきたのは…茶葉でございやすねぇ?ニコさんに手伝ってもらえば淹れられない事も無いでございやすが…どうしたんです?これ?
「さっき、リアさんがいらっしゃいまして…。1度飲んでみたい!!って言って渡されました。」
リア…ああ、アリアリアでございやすか。あの挑戦者、とうとう飲み物まで手を出し始めたのでございやすね。
あ、アリアリアとは私の同僚で主の身近の警護を任されているジャイアントアントの小娘でございやす。筋肉と大きい図体の男…ようはガタイのいい男が好きと公言する小娘で、なんでもソフィ様のお気に入りだとか…。よくニコさんからお話(愚痴)をお聞きになりやす。
そんな彼女はガタイのいい男と(たぶん)同じくらい食べるのが大好きな小娘で、よく人間の食べ物を持ってここに来るのでやすが…、とうとう飲み物まで…。
とりあえずリリーフィア様の見様見真似でカップを用意し、その中にも茶葉を入れ、ニコさんに温めてもらったお湯をその中に注ぎます。いやはや…やはりニコさんは優秀ですねぇ…。普通《炎魔法》でお湯にするなんて出来ない筈なのに…。それ以前に、普通は《炎魔法》なんて虫系のモンスターは覚えられないのに…。
「はい。淹れましたよ~。」
「お~♪待ってたっす♪」
淹れた茶(何やら黒い茶の色でした。)を持って、ニコさんがアリアリアの元に戻りやす。お二虫は何だかんだ言いつつも大変仲がよろしいようで、見ていて大変微笑ましくかんじやす。
「ししょーーーくッス♪ごくん!!…………ブベゲェッ!?に、にが…。苦いッス!?」
「Boah!?」
…おやおや。どうやらお口に合わなかったようで…。吹き出した茶を盛大にニコさんが被ってしまいましたね…。え…と、布布…と。
私は拭く為の布を用意しながら、この平穏が続くように…と心の中で願いやした。
こうして…夜はゆっくりと更けていきやした。…余談でやすが、ニコさんは酒だけじゃなく茶でも酔う事が判明し、その後ニコさんに飲ませてはいけない(若しくは浴びせてはいけない)物リストにお茶が追加されたのは言うまででもありやせん…。
何やら黒い雲が…。
蜘蛛はカフェインでも酔ったような状態になります。リアの持ってきた茶はカフェインたっぷりだったようです。
それと…最近不定期な更新になってしまい、すみません!!たぶんしばらくこんな感じで更新になっていきます。どうか、温かい目でお許しください…。本当にすみませんでした!!
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