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ある部長の宣言。

元居た世界で起こっていた事。


本日3話更新の1話目。

~視点:後藤~


カッカッカッ


「後藤様!この先は「邪魔じゃ若造!!」グハッ!?」


 長く続く廊下を歩き、時折出てくる若造達を蹴散らしながら俺は目的の部屋に向かう。

 ここは寅丸財閥の本家。医療・福祉からSP・警備まで、癒す事と護る事において他の追随を赦さぬ事で知られる世界的財閥。寅丸家の総本山だ。


カッ


 目的の部屋にたどり着く。

 なんでアッシが“大財閥の本家こんなとこに居るのか?”ってぇ?

 そんなん、決まってらぁ…。そらぁ、


ドガァッ


「……来たか。随分教養が無いようだな?」

「生憎、阿呆に敬意を払うなって、叩き込まれたもんでねぇ。」


 蹴破った扉の先、部屋の中でふんぞり返るこの老害(オイボレ)、寅丸財閥会長にして寅丸家家長、寅丸(とらまる) 武信(たけのぶ)に文句を言いに来たからだ。


「さぁ、説明してもらいましょうかねぇ…。」


 アッシは手に握りしめた1枚の紙を老害の前に叩きつける。怒りに任せ、ぐちゃぐちゃになった紙。その紙にはこう書いてあった。


―――――――――


『本日をもち、寅丸総合病院 患者 “平和島(へいわじま) 笑音(みおん)”の捜査を打ち切りとする。』


―――――――――


 ソレはアッシの若い友人。通称ニコと呼ばれた男を、数ヵ月前、突如行方不明(・・・・)になった男の探索を止める旨が書かれていた…。


◆◆◆


 アッシと奴が出逢ったのは今より10ヵ月前の秋の日。寅丸財閥恒例行事の1つ。“第358回御家混合無差別武術大会”で、腹に風穴を開けられ、傘下の1つである寅丸総合病院に入院した初日の事だった。

 ……えっ?『それ以前に“御家混合無差別武術大会”ってなんだ?』って?あぁ、実はこの“寅丸財閥”、表上は警備や医療系を主な生業とする企業なんだが、本当は違う。

 元々、大本である寅丸家は古来より“武”を重んじてきた旧家だ。なんでも、昔から名の在る“侍”やら“軍人”やら…とにかく“武人”を多く輩出してきた名家で、裏側じゃあ知らねぇ奴はモグリ以外の何者でもねぇ。とまで云われるくらい有名な家だ。そんな御家のせいか、この家の人間は血の気の多い奴が多い。“戦い”に餓えている。そんな家の奴等の闘争心が護衛やらで納まると思うかぁ?


 そう。寅丸財閥の本当(・・)の生業。ソレは傭兵業。戦争屋だ。


 寅丸家は古くからある家柄だ。桃山時代から在ると云われている。

 なんでも起源である創始者様は鬼だったとか鬼神だったとか…。とにかく戦う事が三度の飯よりだーい好き♡な御人だったらしい。

 その血は脈々と受け継がれ、産まれてくる子供・孫・子孫…現代に到るまで、寅丸家の血筋は揃いも揃って戦好きだ。戦って戦って戦って、そんなある日、ある一人の御先祖様が呟いた。


『そうだ。思いっきり戦えるよう、組織化しよう。』


 と。

 先程も言った通り、寅丸家は戦う事が大好きな家だ。当然戦ってばっかだと、厄介事が増え、怪我や傷も絶えなくなる。戦うが大好きな人種だったので、力が奮えるのであればに特に問題は無い。が、“戦う”というのは、何も武力だけではない。知力財力権力等々…戦い方というのは千差万別在るのである。その御先祖様は“武力”を使った戦いだけがやりたかった。だから考えた。


『他にそういう戦い方が得意な奴等を集め、武力以外の戦いを押し付けてしまえばいい。』


 と。時は戦国。発言者である御先祖様は、一国の殿だった…。

 こうして、寅丸家が集めた(中には拉t…外からスカウトした者もいたらしい。)様々な分野の達人変人超人及びついでに集められた治療の為の医療関係者達は各々に家名が与えられ、創生期から現代に到るまで寅丸を支えている。


 で、話を戻すが“御家混合無差別武術大会”とは、寅丸家を含めた11の家が集まり、その内の10家、寅丸家を筆頭に“卯ノ(うのかわ)家”“竜森(たつもり)家”“蛇木(みき)家”“馬場(ばば)家”“猿田(さるた)家”“酉見(とりみ)家”“犬崎(けんざき)家”“猪賀(しが)家”“子安(こやす)家”。“羊谷(ひつじたに)家”を除くの各々の家の代表が武を奮う、まあ簡単に言えば武器OKの無差別トーナメントだ。過去に死人は出てないが、一生寝たきりになる輩が毎年出るくらいにはデンジャラスでアウトなイカれた大会だ。

 ……えっ?『なんで羊谷家は出ないのか?』『“丑”いたら十二支じゃねぇか。』って?あー、羊谷は色々例外なんだよ…。丑に関してもいるにはいるんだが…、まぁ“寅丸”にとって“丑”はちょっと特別で色々特殊なんだよ。

 アッシは子安家(ネットワーク等の情報の警備を任された家だ。他に馬場が要人の護衛(つまりSP)、犬崎が一般むけの警備を任されている。)の代表で出てものの見事に惨敗し、腹に風穴を開けられた。


 まあそんな訳で、アッシは竜森(たつもり)(医学を任された家)が管理する病院に容れられた訳だ。腹の穴(こんなの)寅丸じゃあ別に珍しくも無い・重傷に含まれない程度の怪我だっつうのに、竜森家(アイツら)が煩いのなんの…。まぁ、前置きが長くなっちまったな。そんなこんなでアッシは入院した。


「イテテテ…。」


 脇の腹を押さえ、静まりかえる長い廊下を歩く。……ったく。これだから病院は嫌いなんだよ…。この静か過ぎる空間が、薬品とアルコールに充ちたなんとも言えねぇ他を拒絶する清潔過ぎる空間が、アッシは昔から大っ嫌いなんでさぁ…。……おー…いてぇ…。


 重い足取りで用意された病室に向かう。アッシは寅丸の関係者なんで始めは身の世話のため一人看護師を付けるっつー話も在ったんだが、正直どこぞの知れねぇ(わけ)ぇねぇちゃんにアレコレされんのはどーも落ち着かねぇんで、我儘言って一人にさせてもらった。『だが』とか『しかし』なんたら言われたが、『寅丸の関係者がこんな怪我で倒れると思うかぁ?』って言ったら、『全身拘束され剣や槍で針鼠にされても普通に生きるな。』って真顔で担当医に言われた。それで我儘が通るとは…。寅丸ェェ…。


「で、と。此処か。」


 そんな事を考えていたら、いつの間にか病室に着いていた。


ガラッ。


 アッシが扉を開け、中に入ろうとするとそこには――――









「かべ?」


 何故か青緑色の、布が掛けられた壁が有った。


「Boah?」

「えっ?」


 上の方から低い声が聴こえ、アッシは顔を上げる。

 そして驚いた。


「なっ!?」


 そこには、180㎝あるアッシを遥かに上回る、生気の無い青白い肌と無機質に光る紫色の眼の強面の大男がいた。


(!?コイツ、気配が無い!?刺客か!?)


 当時のアッシは混乱しやした。

 なんせ、相手の大男には気配が無さ過ぎた。寅丸は昔から厄介事に全身を突っ込んできた家だ。当然、恨みを持つ輩なんざぁ5万…いや、10万以上はいる。アッシ個人も相当恨まれてる。今までの人生で暗殺されかけた事なんざ、もう数えるのが面倒なくらいだ。なもんで、アッシはこの大男を刺客だと思ったんでさぁ…。


「ふんっ!!」

「Boa……カハッ!?」

ガンッ


 アッシは素早く男の胸ぐらを掴み足払い。簡単にバランスを崩した男の首を締め上げ、落とす。

 想像より遥かに軽い感触。……さしずめ、暗殺専門っつーとこか?この重量だと。それにしちゃ~痩せすぎな気もするが、アッシを殺そうとした男だ。関係ねぇ話だ。


ギリギリギリギリ…


 首に圧をかける。この大男、服で分からなかったがとんでもなく細い。あれだ。毛で膨れた犬みてぃな感じだ。

 軟弱な事に、こんくらいの事で男は気を失っていた。どんな育てられ方をしたんだ?こんな簡単に気を失っちゃーとても暗殺s「なにやっちぇる!?こにょごーかんまー!!」へ?


ドスドスドスッ

「グハッ!?」


 幼い子供の声がしたかと思ったら腹に鋭い痛み。アッシは男を離し、その場に踞る。腹を見ると、3本の棒手裏剣が刺さっていた…。


「みおんしゃん!!みおんしゃん!!しっかりしちぇ!?だれかー!!かーんごーししゃーーーん!!」


 大声で叫ぶ幼女…って、コンガキ!?“竜森の天才児”じゃねぇか!?

 アッシを攻撃した幼女、改め竜森(たつもり) (そら)(当時3歳)は寅丸では有名なガキだ。僅か2歳で竜森の専売特許である飛び具の免許皆伝を修得し、その戦闘能力は寅丸本家の武術指南役に一目を置かれていると聴く。……そして、アッシに風穴を開けた竜森(たつもり) 宗一郎(そういちろう)が激愛してる事でも有名だ…。何故そんな娘がここに…?


「みおんしゃん、しっかりしちぇ…。おいっ!!きしゃま、“こやちゅけ”のにんちぇんだろ!なぜこんにゃことをしちゃ!!このひちょは、“いっぱんのかんじゃ”しゃんだじょ!!」


 舌ったらずの言葉で娘がアッシを睨みつけた。え…とぉ、“こやちゅけ”は“子安家”の事か?それに“いっぱんのかんじゃ”が“一般の患者”……はぁ?一般の患者?つまり…一般人?この死神みてぇな面の男が?はぁ?


 幼女の声が響き渡る中、こうしてアッシと平和島(へいわじま) 笑音(みおん)君(後に“若”と呼ぶ男。)は出会った。余談だが、アッシの病室にいたのはただ単に昼寝で寝惚けてて、手洗い行った帰りに部屋を間違えたからだったらしい…。(若の病室はアッシの隣だった。)


◆◆◆


 あんときゃあ駆けつけてきた看護師さん達と飛んできた竜森 宗一郎にこっぴどく怒られた。なんせ、アッシがヤりそうになった笑音という青年(当時16歳。それを聞いて驚きやした。見た感じ、よくて20後半にしか見えやせんっしたから。)は病院じゃあトップレベルの要注意患者で、竜森も蛇木(薬学を任せれてる家)も羊谷(リハビリやカウンセリングなどの癒しを任せれてる家)が揃いも揃って匙を投げたい気持ちを抑えてる、三家ですら原因不明の病に侵された、いつ死んでもおかしくない要監視必要患者だったからだ。

 そりゃあもう怒られた。竜森を始め、あの温厚で寅丸の掲げる“武”を真っ向から否定する羊谷家(出ない理由がそれ。祖先が外から拉…じゃなかった。スカウトされてきた家。)が縄持って折檻始めそうになるくらい怒られた。復活し、アッシの無礼を許してくれた若がいなかったどうなっていたことやら…。以来、アッシはその懐の深さを認め、彼を“若”と呼んでいる。


 そんな彼が消えたのは今より数ヵ月前の春の事。初めて会ったあの日、アッシはお嬢(竜森 宙の事でやす。)の攻撃で治療ついでに検査したところ大腸癌が見つかりやした。幸いにも早期でやしたんで大事に至らず、無事手術も成功。何回かにわたる風穴とその他の傷の縫合・抜糸の理由ずけに丁度いいってんで、“大腸癌の摘出手術”という名の抜糸を受け、何回目かになる“手術成功おめでとうパーティー”をした日でやした。(なんせ傷の経緯が経緯でしたやんたんので…。一般向けの説明に丁度よかったんでやんす…。)

 本当は飲み食い出来るんでやしたが、純粋にアッシの手術成功を祝ってくれる若達が嬉しくて…。ついつい本当の事は言えなかったんでやんす…。元マジシャンの月見里(やまなし)の旦那の手品に一ノ瀬のばあ様の瞬間花製作。そして院内随一と名高い歌声の持ち主(本人無自覚)である若の歌等々…。いやはや、人生それなりにゃ~生きてきたんでやんすが、まさか病院で、しかも一般の人間からこんな素晴らしい御祝いをされるとは…人生、分からないもんでやんすねぇ…。


 そして、解散となり、アッシと若達がお互いの部屋に戻った時、事が起きやした…。


ガタッ!!ガタガタガタドシャッ!!

「ん?今の音…まさか!?」


 部屋に戻り、ベッドで寛ごうとした正にその時でやんした。隣から何かが暴れたような音。角部屋アッシの隣人は若だけでさぁ。若に何かあったのかと思い、慌てて隣の個室に向かう。


「若!?一体どうしたんで…さぁ…?若?」


 アッシが扉を開け、中に入った時、そこにあったのはグシャグシャになったリネンと、そのまま抜けたような、脱ぎ散らかされた若の病院着(・・・)だけでやした…。


◆◆◆


 あの日から、若の姿を見た奴は誰もいやしねぇ…。若はとても病弱な御方だ。一人で行動できる範囲なんざぁたかが知れてる。なにより、あんな短時間で現役警備員アッシすら気づかれないように移動なんて…出来るわけがねえ。絶対途中で力尽きてるはずだ。となると考えられる可能性は―――誘拐だ。


 だが、それ以前の問題が発生した。

 この寅丸総合病院、なにせ大本が大本なだけあって有りとあらゆる監視機器、監視カメラは勿論の事熱感知器サーモから音声認証やら声帯認証等々の器材が至る所に設置されている。その中に、若の反応が1つもありやせんでした。生きてる上で、体温を消す事なんざ出来やせん。また、アッシらの病棟は特別で、必ず色彩認証をしないと開かないようになっていやす。それにも若の出入履歴がありやせんでした。


 ―――神隠し。

 現代社会では考えられないソレ。若は、まるで霧のように儚く、何の痕跡も残さず、消えちまった…。


◆◆◆


「どうしたも何も、そのままの意味だ。」

「何故!!」


 興味無さげにアッシを見つめる老い耄れ。アッシは信じらなかった。寅丸が“諦める”ということは“逃げる”ということ。つまり“負け”を認めた事だ。確かに若の手がかりは発見されていない。だが、だからといって、何故こんな簡単に捜査を止める!!“寅丸”の名に、傷がついてもいいのか!?


「黙れい!!貴様もこれを見よ!!」

バサバサッ


 そう言って家長が投げつけたのは、何冊かの報告書。パラパラ捲った報告書には、ここ数十年間で行方不明になった少年少女達の名前とその時の現場の状況……!?これは!?


「似ているじゃろ?今回の件にな…。」


 溜め息と共に老い耄れが溢した言葉。

 報告書の内容は、全て若が居なくなった時と合致していた!!被害者は全員10代後半。現場も人が溢れ、一人気づかれず居なくなるなんて不可能な場所ばかりだった!!


「儂らもな、もう十数年前からこの件を捜査している。じゃが、手がかりのての字も見つからん…。お手上げなんじゃよ…。」

「だからって、諦める理由にゃあなりやせん!!」


 抗議をするも、老い耄れの目には諦めしか感じられない…そんな目だった。だが、若を…あの人を諦めるなんざぁアッシには出来ない!!


「……だったら。だったらアッシが一人で若を見つけやす!!」

「後藤!?」


 アッシはそう宣言し、族長の部屋を出た。

 なんでガキ一人にこんな熱くなってるかなんて、自分でも分からない。ただもし、言えるとしたら、アッシは若の“人”に惚れちまったんだ。

 あの無垢で何も知らなくて警戒心が人の何倍も強くて、穏やかで傲慢で必要ならば自分すら何の戸惑いもなく駒にする暴君のような若の気質。一緒に居た時間は誰よりも短いけれど、長年により培われた“人”を見る目にゃ自信がある。アッシの自慢の目は、あの人に固定されちまった。


(待っててください若!!必ず見つけ出しやす!!)


 もと来た道を、来た時より早く歩く。必ず若を見つけ出し、連れ去った連中にこの手で裁きを喰らわしてやる!!“子安”の血筋は執念深いんですぜ!!

 実はとんでもない所に入院していたニコ。


 宙が手裏剣持っていた理由は後藤と同じく自己防衛の為と、治療を嫌がって逃げる|寅丸本家の人間(バ  カ)を捕まえる為。むしろ、竜森が武術を使う大半の理由がソレ。生半可な実力じゃ戦闘民族を捕らえられないんですよ…。


 そして、閑話なのに一番長くなった件……。少しネタバレになりますが、“寅丸”は今後のキーパーソンになるとは言え、話が長くなりすぎた…。


誤字・脱字を見つけましたらご報告ください。

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